演劇が持つ“知恵”を若い世代に伝える、「SPAC秋→春のシーズン 2019-2020」

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SPAC秋→春のシーズン 2019-2020」の製作発表会が本日9月4日に東京都内にて行われた。発表会には美術家のカミイケタクヤ、演出家でテアトル・ガラシ芸術監督のユディ・タジュディン、パフォーマー・ダンサー・振付家の川口隆夫、振付家・ダンサーのヴェヌーリ・ペレラ、サウンドアーティスト・作曲家の森永泰弘、俳優・演出家の渡辺敬彦、俳優の阿部一徳布施安寿香、そしてSPAC芸術総監督の宮城聰が登壇した。

「SPAC秋→春のシーズン 2019-2020」の製作発表会の登壇者。

「SPAC秋→春のシーズン 2019-2020」の製作発表会の登壇者。

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なお「SPAC秋→春のシーズン 2019-2020」には、北村想作で宮城演出の「寿歌」、ヘンリック・イプセン原作でユディ・タジュディン演出の「ペール・ギュントたち ~わくらばの夢~」、ベルトルト・ブレヒト原案で渡辺敬彦構成・演出・台本の「RITA&RICO(リタとリコ) ~『セチュアンの善人』より~」、オリヴィエ・ピィ作で宮城演出の「グリム童話 ~少女と悪魔と風車小屋~」、遠藤周作作で今井朋彦演出の「メナム河の日本人」の5作品がラインナップされている。

宮城聰

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宮城はまず、「古典とされている戯曲や演劇作品には、かつて危機に直面したとき、どうやってそれを乗り越え格闘してきたか、その痕跡が色濃く刻まれています」と話したうえで、「ここ5年くらい、軍事力で覇権を握ろうとする原始的な社会に逆戻りしてしまい、残念なことに再び“暴力”が社会にとって重要なテーマになってしまいました。私たちはこれから暴力といかに闘い、向き合うのか。演劇には、そのヒントが蓄積されています。秋から春のシーズンでは、演劇が持つ“知恵”というものを若い世代に伝えていきたい」と思いを述べた。

カミイケタクヤ

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続いて「寿歌」の舞台美術を手がけるカミイケが挨拶。カミイケは舞台美術のコンセプトについて、「敷き詰められたカラフルなシートの上にたくさんのゴミがあるのですが、これらのゴミはすべてプラスチックやゴムなどの素材でできています。荒廃し、土に還らないものが残ってしまった劇中の世界観を表しました」と説明する。さらに「再演版のテーマは“未来の廃墟”です。これは宮城さんからの提案なのですが、100年、200年先の登場人物たちが、まるで劇中劇のように『寿歌』という戯曲を演じている、というイメージです」と構想を語った。

ユディ・タジュディン

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インドネシアの芸術家集団、テアトル・ガラシを率いるタジュディンは、インドネシア、日本、ベトナム、スリランカのアーティストと共同で制作する今作「ペール・ギュントたち ~わくらばの夢~」について、「本作のテーマは“恐れ”と“不安”です。社会というものがますますつながり、複雑化していく現代において、私たちが感じる恐れや不安が何なのか、イプセンの『ペール・ギュント』を通して考えていきます」と話す。またタジュディンは、インドネシアのフローレス島で滞在制作した経験から今作のインスピレーションを得たと話し、「フローレス島は、インドネシアのほかの地域に比べ、植民地支配の影響を強く受けています。つまり、文化と人が強制的に出会わされる、つなぎ合わされるという歴史があった。それと同じようなことが今、世界中のあらゆる場所で起こっていて、それがきっかけで新たな不安や恐怖が生み出されているのではないかと感じたのです」と続けた。

ヴェヌーリ・ペレラ(中央)

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川口隆夫(中央)

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「ペール・ギュントたち」に共同制作として携わるペレラは「タジュディンが提示した“恐れ”と“不安”というテーマには、私個人としても、スリランカの社会政治的な状況を考えても重要なものだと思い、参加を決めました」と話し、同じく共同制作の川口は「濁流の中にいるような気持ちで、いまだにこれから何が起こるのかわかりませんが(笑)、なんとか泳ぎきっていきたいです」と意気込みを述べた。

渡辺敬彦

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「RITA&RICO(リタとリコ) ~『セチュアンの善人』より~」の演出を担当する渡辺は、『セチュアンの善人』について、登場人物のシェン・テとシュイ・タが共産主義と資本主義の対比として描かれていると分析。そのうえで「私はこの2人を、利他的な人間と利己的な人間の対比として上演しようと思っています。というわけで、利他主義のリタと、利己主義のリコから、リタとリコです(笑)。自分のために何をするべきなのか、また未来の自分のために何をするべきなのか、“リタ”と“リコ”に思いを巡らせながら作品を作っています」と説明した。

宮城聰

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宮城は、シーズンプログラムに8年ぶりの登場となる「グリム童話 ~少女と悪魔と風車小屋~」を手がける。宮城は現在の演劇界の状況を「力が世界を支配するような、暴力の時代に戻ってしまった」と指摘し、「この作品は、舞台上の俳優が客席にいる観客よりも弱い、という演劇が作れないだろうか、という試みで作られたものです。俳優は、声の大きさや身体性などなんらかの理由で観客より“強い”という先入観を持たれていることが多い。でも、舞台上の俳優たちが観客より弱かったら、かえって観客の心に言葉が染み込むのではないだろうか。そんな思いで、この“弱い演劇”は生まれました。そして今回、もう一度“弱い演劇”の可能性を感じてみたく、上演することにしたんです」と作品に込めた思いを明かした。

阿部一徳

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布施安寿香

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「メナム河の日本人」に出演する阿部は、今年の6月から7月にかけて行われた“第1期”の稽古を振り返り、「ほとんどやり切ったという状態で、稽古日が2・3日残ったのですが、今井さんはそこから基本的な会話に立ち返った稽古を始められて。それがすごく新鮮でしたね」と話す。同じく本作の出演者で、高校時代から遠藤周作のファンだと言う布施は、「ともすると戯曲への思いが昂ぶってしまうところを、今井さんはしっかり基礎から導いてくださいます(笑)。稽古場では、俳優としてしっかり見てもらえている安心感がありますね。年明けの稽古も楽しみにしています」と気合十分な様子を見せた。

「SPAC秋→春のシーズン 2019-2020」の製作発表会の登壇者。

「SPAC秋→春のシーズン 2019-2020」の製作発表会の登壇者。[拡大]

会見の後半には、9月25日から10月6日までアメリカ・ニューヨークのパーク・アベニュー・アーモリーで上演される、「アンティゴネ」の取材会が行われた。本作が、日本文化を海外に向けて発信する取組み「Japan 2019」の公式企画として上演されることについて、宮城は「選んでいただけて光栄」と笑みを浮かべつつ、「会場となるパーク・アベニュー・アーモリーは、南北戦争の直後、戦争で名を馳せた勇猛な師団の功績を讃えて、練兵所として作られた場所だと、会場の下見のときに知りました。まさに力の支配を象徴するような空間。そんな、自分たちの『アンティゴネ』と真っ向から対立するような場所でこの作品を上演することになるとは」と感慨を述べる。さらに「本作は、死んでしまえばみんな仏様で、生きている間こそが夢、という鎌倉仏教の世界観がベースになっています。敵も味方も、力も権力も、夢の中のほんの影に過ぎない。ニューヨークで本作を上演することで、あらゆる対立の根源である、どちらが正しいか、どちらが間違っているかという考え方の軸そのものを溶かしていければ」と決意を新たにした。なお「アンティゴネ」は、「東京2020大会」の公式文化プログラムである「東京2020 NIPPONフェスティバル」の共催プログラムとして、2020年5月2日から5日まで静岡・駿府城公園 紅葉山庭園前広場特設会場でも上演される。

公演のチケットは、「寿歌」「ペール・ギュントたち ~わくらばの夢~」「RITA&RICO(リタとリコ)~『セチュアンの善人』より~」の一般販売が9月28日10:00、「グリム童話~少女と悪魔と風車小屋~」「メナム河の日本人」の一般販売が11月23日10:00に開始する。

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SPAC秋→春のシーズン 2019-2020

2019年10月11日(金)~2020年3月11日(水)
静岡県 静岡芸術劇場

#1「寿歌」

2019年10月12日(土)・13日(日)、19日(土)・20日(日)、26日(土)

演出:宮城聰
作:北村想
美術:カミイケタクヤ
出演:奥野晃士、春日井一平、たきいみき

#2「ペール・ギュントたち ~わくらばの夢~」

2019年11月9日(土)・10日(日)、16日(土)・17日(日)

原作:ヘンリック・イプセン
演出:ユディ・タジュディン
共同制作:ウゴラン・プラサド、川口隆夫、ヴェヌーリ・ペレラ、美加理、ムハマッド・ヌル・コマルディン、森永泰弘、グエン・マン・フン
出演:ウゴラン・プラサド、川口隆夫、ヴェヌーリ・ペレラ、美加理、モハマッド・ヌル・コマルディン、森永泰弘、グエン・マン・フン、大内米治、佐藤ゆず、舘野百代、牧山祐大、宮城嶋遥加、若宮羊市

#3「RITA&RICO(リタとリコ) ~『セチュアンの善人』より~」

2019年12月14日(土)・15日(日)、21日(土)・22日(日)

原案:ベルトルト・ブレヒト
構成・演出・台本:渡辺敬彦
出演:泉陽二、大内智美、木内琴子、貴島豪、小長谷勝彦、三島景太、吉植荘一郎、山本実幸

#4「グリム童話 ~少女と悪魔と風車小屋~」

2020年1月18日(土)・19日(日)、25日(土)、2月1日(土)・2日(日)

原作:グリム兄弟
作:オリヴィエ・ピィ
翻訳:西尾祥子、横山義志
演出:宮城聰
出演:池田真紀子、大内米治、貴島豪、鈴木真理子、大道無門優也、武石守正、永井健二、宮城嶋遥加、森山冬子、若宮羊市

#5「メナム河の日本人」

2020年2月15日(土)・16日(日)、23日(日・祝)・24日(月・振休)、29日(土)、3月1日(日)、7日(土)

作:遠藤周作
演出:今井朋彦
出演(五十音順):阿部一徳、大内智美、大高浩一、奥野晃士、加藤幸夫、小長谷勝彦、佐藤ゆず、たきいみき、林大樹、布施安寿香、三島景太、山本実幸、吉植荘一郎、渡辺敬彦

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カミイケ タクヤ @takuya_kamiike

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