地点とボリショイ・ドラマ劇場との関係は、2015年に来日した同劇場芸術監督アンドレイ・マグーチーが、地点の「ミステリヤ・ブッフ」と「桜の園」を観劇したことから始まった。その後、16年には地点が同劇場で「かもめ」を上演、18年には演出家養成のためのマスタークラス講師として三浦がボリショイ・ドラマ劇場に招聘されるなど親交が続いていた。そしてこのたび、同劇場の2019/2020年シーズンに、同劇場のレパートリーとして三浦が「罪と罰」を立ち上げる。
上演作品の選定については劇場からの提案だったと三浦は言い、「初めて聞いたときは驚きました。『やられた』と思って(笑)。マグーチーさんは監督に就任してから2倍以上に観客を増やすという大成功を収めている方。日本人の三浦基に、(ロシアの名作である)「罪と罰」をやらせれば、失敗しても話題になるわけです(笑)。またロシアの人たちが子供の頃から慣れ親しんでいる作品に、もう1回息を吹き込んでほしいという考えもあったのかもしれません」と述べる。「罪と罰」については、「高校時代に一生懸命読んだ記憶がありますが、ラスコーリニコフの独白でほとんど物語が運んでいくので、これを演劇化するのはなかなか難しいと思います。宗教的なテーマも重要だと思うので、それを真正面からどう扱えるかを考えているところです」と構想を語った。
来年2020年6月上演予定の本作について三浦は、「上演するのは、非常に巨大なザ・プロセニアムというような劇場。そういう空間をどう扱うかも楽しみにしているところです」と意気込みを示す。作品の立ち上げにあたっては、まず地点の俳優と準備を行うと言い、「来年の2月から3月に横浜と京都で(地点版「罪と罰」を)上演する運びとなっています。それをそのままボリショイ・ドラマ劇場に移行するとは思いませんが、原形になるようなテキストと世界観を作りたいと思っています」と語った。具体的なクリエーションについては、「来月6月にサンクトペテルブルクに行ってキャスティングオーディションをしてきます。80名くらい俳優を抱えている劇場で、層が厚い俳優が多いと思いますので、いろいろなことを実験してみたい」と期待を寄せ、「ロシア人の身体感覚は(日本人と)全然違う。あらゆるスタイルに慣れているとは言え、基本はストレートプレイのリアリズムなので、まずそれを打ちこわさないと。ただいろいろなルーツを持った人たちがいるので、そこはあまり日本では得られない感覚なのかなと思うので楽しみですね」と続けた。
さらに今月5月には、神奈川・KAAT神奈川芸術劇場との共同制作である新作「シベリアへ!シベリアへ!シベリアへ!の上演が控える。KAAT神奈川芸術劇場の館長・眞野純は「三浦さんがロシアで『罪と罰』を上演する依頼を受けたということから始まって、私たちも彼と共にロシア漬けになろうと。『シベリアへ~』に連続して『三人姉妹』を上演し、地点での『罪と罰』を京都・京都芸術劇場さんと共同で支えることになりました。『罪と罰』成功のためにも『シベリアへ~』が良い成果を出せるように祈っております」と挨拶する。
三浦は「シベリアへ~」の創作状況について「追い込まれています(笑)」と苦笑しつつ、「チェーホフがシベリアを横断してサハリン島まで旅した、その紀行文『シベリアの旅』に短編や手紙などをコラージュして作品を立ち上げます。初日まであと1週間ありますので、もう少し粘って面白い作品にしたい」と意欲を見せた。
さらに三浦は「ボリショイ・ドラマ劇場から演出のオファーがあったことは本当に光栄です。ただこれまでやってきたこととこれからやっていくことはつながっていくと思っていて。今、この時期にこういう大きな仕事が控えていることは、演出家として幸福なこと。それを多くの観客の皆さんにも共有していきたい。まずは今月、KAATにいらしてください」と語り、会見を締めくくった。
※初出時、本文に誤りがありました。訂正してお詫びいたします。
三浦基演出 ボリショイ・ドラマ劇場「罪と罰」
2020年6月
ロシア ボリショイ・ドラマ劇場
地点「罪と罰」
2020年2月29日(土)・3月1日(日)
神奈川県 神奈川県立青少年センター
2020年3月20日(金・祝)~22日(日)
京都府 京都芸術劇場 春秋座
原作:フョードル・ドストエフスキー
翻訳:江川卓
演出:
出演:安部聡子、石田大、小河原康二、窪田史恵、小林洋平、田中祐気 ほか
KAAT×地点 共同制作第9弾「シベリアへ!シベリアへ!シベリアへ!」
2019年5月27日(月)~6月2日(日)、7月13日(土)~16日(火)
神奈川県 KAAT神奈川芸術劇場 中スタジオ
テキスト:アントン・チェーホフ
演出:三浦基
出演:安部聡子、石田大、小河原康二、窪田史恵、小林洋平、田中祐気
地点「三人姉妹」
2019年7月4日(木)~11日(木)
神奈川県 KAAT神奈川芸術劇場 中スタジオ
2019年8月22日(木)~25日(日)
京都府 京都芸術センター 講堂
作:アントン・チェーホフ
翻訳:神西清
演出:三浦基
出演:安部聡子、石田大、伊東沙保、小河原康二、岸本昌也、窪田史恵、黒澤あすか、小林洋平、田中祐気
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リンク
- 地点 CHITEN
- 地点 (@chiten_kyoto) | Twitter
- 『シベリアへ!シベリアへ!シベリアへ!』|KAAT 神奈川芸術劇場
- 2019.7.4-11『三人姉妹』(KAAT神奈川芸術劇場)|公演予定|地点 CHITEN
- 2019.8.22-25『三人姉妹』(京都芸術センター)|公演予定|地点 CHITEN
- 『罪と罰』 – 京都芸術劇場 春秋座 studio21
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三浦基がロシアでドストエフスキー「罪と罰」に挑戦、「演出家として幸福なこと」 - ステージナタリー https://t.co/BSDzynOvXu