そのとき、何を思い、何をしましたか? 第3回 [バックナンバー]
少しずつ前へと進む、劇作家、演出家、俳優、舞台スタッフたち
──長い眠りについた劇場、そして舞台人たちの思い
2020年4月29日 19:00 26
新型コロナウイルスの感染が広がり、政府が緊急事態宣言を発令してから3週間。街では人の往来が減り、日常の風景が変わった。舞台を取り巻く環境も2月中旬から目まぐるしく変化し、今では静かに再開のときを待っている。しかし、水面下では舞台を未来へとつなげるために奮闘している人々が多くいることも忘れてはならない。
ステージナタリーでは、ここに至るまでにさまざまな決断を下した舞台人たちの思いを数回にわたり届けている。第1回(参照:そのとき、何を思い、何をしましたか? 第1回 | 劇作家、演出家、俳優、ダンサー、プロデューサーたちが語る)は劇作家から演出家、俳優、プロデューサーまで17名の声を紹介。第2回(参照:そのとき、何を思い、何をしましたか? 第2回 | 客席から舞台の明日を支える)ではクラウドファンディングやドネーションを介して活動資金を捻出しつつ、観客との新たな結びつきを模索し始めている団体に焦点を当て、今、観客として舞台を支えられる方法を考えた。そして第3回では再び、舞台人たちの声を集める。
今回、「そのとき、何を思い、何をしましたか?」の問いに答えてくれたのは、全国の劇作家、演出家、俳優、舞台美術・衣装スタッフなどの26名。彼らはそれぞれに事情が異なる中で、無観客上演を実施し舞台への思いを強くしたり、悔しい経験から生まれる感情とその変化にしっかりと向き合ったり、周囲とのつながりを濃くしたり、さまざまな思いを抱えている。その言葉からは、出口の見えない状況に立ち止まりながらも、少しずつ、前へと進んでいこうとする姿が見えた。
構成
【舞台人たちが思いをつづる】
劇作家から舞台スタッフまで、26名の舞台人たちが、それぞれの思いを語る。
池田亮(脚本家・演出家・美術家 / ゆうめい)
2月下旬、他劇団の公演が中止・延期の決断をしたという知らせが日々途絶えなく届いており、今まで以上に「今すべきなのか」が強く問われる稽古場となっていました。
劇場側とも日々協議を重ね、新型コロナウイルスの情報を収集し衛生管理を徹底するという方針を固め、2月28日に「上演を実施する方向で進めている」ことを発表しました。
3月中旬まで過去3作品を再演する公演を実施しましたが、その中で上演予定だった「あか」の中止を決めました。
理由の詳細は今も話すことはできないのですが、新型コロナウイルスがもたらした周囲の現状が強く関係し「今すべきなのか」と強く問われる出来事が劇場でもあったためです。「あか」を再び上演する際にすべてをお伝えできる、する所存です。公演場所はいまだ確定できませんが、中止となった公演をどうしても上演したく存じます。
4月はゆうめいの俳優・田中祐希の自宅から配信企画を実施しましたが、その後も「今すべきなのか」、では「何をどうすべきか」、が家の中でも続いています。
ゆうめい | ホームページ
池田亮 (@yyyry_ikeda) | Twitter
市原佐都子(劇作家・演出家・小説家 / Q)
4月から3カ月間ミュンヘンに滞在し現地の劇場へ新作戯曲を書き下ろす仕事があったが、その仕事はとりあえず日本にいたまま遠隔で進めることになった。自分のことでも他人のことでも、楽しみにしていたことが予定通り行われないのは悲しい。近頃は、3年前に執筆した「妖精の問題」という作品をZoomで上演するための作業をしている。この作品は相模原障害者施設殺傷事件を受けて創作した。自分の中にある優生思想をみつめ、できるだけ偽善的でない方法であらゆる人間の生を肯定しようと試みた。3部構成になっている。3部「マングルト」では菌を用いてその存在を認めることで人間の生を肯定する。菌は一見すると人間の身体に悪い働きをすることもあるが、それは重要な警告でもある。菌は見えないけれどあらゆる場所に存在し、あらゆる人間にすみついて、同じように作用する。菌とウイルスは違うが、この点においてはウイルスも同じだろう。この部に限らず、3年前の言葉たちが今の状況下ではまた違う角度から私に刺さってくる。当然ながらZoomで劇場公演のような効果を持った上演はできない。私は今すぐ気の利いたことはできない。大事な友達が言った。「それでいいんだよ。いつか新作の役に立つよ」と。この時期に感じている感情の揺れ動きをいつか未来の私が何かに昇華すると信じている。
ぜひ完成したらZoom「妖精の問題」に参加していただきたい。
Q | 市原佐都子の劇団/ICHIHARA Satoko's theater company
Q(キュー)/ 市原佐都子 (@QQQ_9) | Twitter
井上芳雄(俳優)
「桜の園」は2月半ばから稽古が始まりました。
3月に入り、周りの状況はどんどん変化していましたが、僕たちは変わらず稽古に集中していたように思います。ただ、もしこれがお客様の前でやれなかったら……という思いが、ふとよぎったりはしていましたが。
それでも稽古場を終え、劇場入り。
20年前の初舞台から何度となく経験してきたことですが、こんなにも劇場に入れたことがうれしいと感じたことはありません。
衣装もカツラも、照明もセットも音響も、客席のシートや通路までも、こんなにまでいとしく感じたことはなかったです。
検温し消毒をし、マスクをしながらの場当たりを終え、一旦休みに入ったところで緊急事態宣言が出て、公演の中止が決まりました。
解散式もお別れのあいさつもできず、そのあとにできたキャストのグループLINEで連絡を取り合っています。
今でも、場当たりの最後に客席から見た「桜の園」のラストシーンが忘れられません。
生きることの真実を垣間見たような瞬間でした。
今は、とにかく命を守ることが第一です。
そのうえで、僕たちにできることは何なのか、どうやったらみんなで劇場に戻ることができるのか。
あれからずっと考え続けています。
井上芳雄オフィシャルサイト
井上芳雄 | グランアーツ【Grand-Arts】
上田大樹(アートディレクター・映像作家)
3月の段階では、おそらく中止となるのだと薄々感じつつも、
粛々といくつかの作品のために動いていて(宝塚歌劇宙組「FLYING SAPA-フライング サパ-」、「スーパー歌舞伎II(セカンド)『新版 オグリ』」の仕込み中でした)、
上演されないかもしれない作品の準備をするのは、おそらく多くの人がそうであったように、思った以上に心がすり減る状況で、
でも、現場の空気には未来につながる種のようなものを感じたのもまた事実です。
生き延びていくための問題(これはもちろんとても大事なことです)とはまた別に、
しばらく続くこの状況と共に何を作り、
再開したときに、どう新しいものを作り出していけるのか、
映像を仕事としている自分ですら、
何でもオンラインやバーチャルでできるとは思えないながらも、
いろんなアクションを起こされている方たちのことを心から尊敬しつつ、
今はまだ迷いながら、保育園と小学校の休校に伴って、1日の大半を子供たちと過ごす日々です。
&fiction
上田大樹 (@Taiki_U) | Twitter
鵜山仁(演出家 / 文学座)
3月から6月にかけて、文化座の「炎の人」が2ステージを残して中止。舞台芸術学院の卒業公演が授業見学扱いに規模縮小。こまつ座の「雪やこんこん」、文化座の「命どぅ宝」の沖縄公演、新劇交流プロジェクト「美しきものの伝説」、この3本がいずれも中止。創る側の我々が公演の中止を自ら決定しなければいけない、これはもう大変なストレスですが、決断しないわけにはいきませんでした。スタッフ、キャストにとっては文字通り死活問題です。ただ、これまで何千年間か、演劇は数限りない困難を乗り越えてきたわけで……。
僕が今気になるのは、実はそのことだけではなく、改めて演劇はウイルスに似ていると。つまりライブの感染力というか、振る舞いというか、感染してなんぼ、増殖してなんぼという危険な特性を、演劇とウイルスは共有しているのだなと。
アントナン・アルトーの「演劇とペスト」ではないが、「演劇とウイルス」の行く末を、この際じっくり見極めたいと思います。
文学座
鵜山仁 (@hitoshiuyama) | Twitter
桐生麻耶(俳優 / OSK日本歌劇団)
「春のおどり」の中止、延期と聞いたとき、漠然とした不安はありましたが、同時に、決して投げやりなわけではなく……なるようにしかならない、待つしかないと思いました。何かを、そして誰かを守るためにたくさんの方が動いてくださり決断をしてくださったわけですから。大阪での公演は延期という光もあります。何ができるわけでもないですが、公演するはずだった期間中だけは、ブログは更新しようとそのとき決めました。
毎日身体は動かしています。部屋でできることは限られますが筋トレ! 振りの確認! あとはウォーキングも。春はまた必ず来ますので、そのときに待っていてくださったお客様に最高の舞台をお届けできるように、たくさんの準備期間をいただいたと思います。たくさんの方々に支えられて、舞台は成立するのだと、痛感しました。どこかで当たり前だと思っていた日常は、実は大切な日々なのだということも痛感しました。その気持ちを次からの舞台に生かせるように。踏ん張ります。
皆さま、どうかお身体にはお気を付けてお過ごしくださいませ。
OSK日本歌劇団
桐生麻耶 | OSK日本歌劇団
相馬千秋(アートプロデューサー / 芸術公社)
シアターコモンズ'20の開幕前夜、政府から大規模イベントの自粛要請が出た。私は実行委員長でもあったので、最終的な責任はすべて自分が取るという覚悟のもと、ワークショップやトークはすべてオンラインに変更、上演作品は関係者との協議のもと続行することにした。幸いクレームやバッシングは一切なし。「大規模ではない」イベントの規模感と「自分が意思決定の主体」であれるインディペンデントの強みを感じた。が、それすらも今や奇跡に思える。
そもそも身体的な「濃厚接触」と「移動」が大前提の舞台芸術は今、瀕死の状態だ。まずは延命と蘇生のための応急措置(補償)が絶対必要。生還後に向けては、ウイルスとの共生を前提とした、新たな集客・上演の方法を発明しなければならない。その作業は逆説的に、私たちが信じていた舞台芸術というものの本質を浮かび上がらせるはずだ。かつてアルトーがペストをもって演劇の本質を語ったように──。危機の時代の演劇は、危機と共に変異し、生まれ変われるはずだ。そう信じて、私は今日も部屋にこもって企画を考えている。
シアターコモンズ'20
特定非営利活動法人 芸術公社 | Arts Commons Tokyo
相馬千秋 (@somachiaki) | Twitter
多田淳之介(演出家 / 東京デスロック)
2月29日、3月1日に神奈川県青少年センター スタジオHIKARIで上演予定だった小田原の寄宿生活塾はじめ塾の子供たちとの作品が中止になり、劇場と相談して保護者や関係者のみにゲネプロを観劇してもらいました。作品は子供たちが考えた授業を観客が受ける体験型作品だったので、身内とはいえ子供たちも初めての観客を前に多くの発見をしてくれてとても良い上演でした。表向きには中止でしたが各所スケジュールを調整して6月に上演する予定だったのですが、その後の緊急事態宣言を受け県知事も8月末までの県の施設の閉鎖と事業の中止を宣言し、6月の上演も中止となりました。子供たちとこの状況でどうやったら上演できるか、全員防護服を着るとか、オンラインでの上演、配信だとしたら何ができるか、稽古もオンラインでどうやるか、ちょうど学校でのオンライン授業も始まりwithコロナのコミュニケーションを子供たちと考える良いタイミングだったのですが、非常に残念です。
Tokyo Deathlock
JunnosukeTada@JPN (@TDLTJ) | Twitter
玉田真也(劇作家・演出家・俳優 / 玉田企画)
いつ中止の判断をすることになるかわからないな、と思いながら稽古していた。毎日のように世の中の状況が変わるので、その日は決行するという判断をしても、その翌日にはその判断を翻さなければいけないかもしれない。毎日、情報をできる限り収集して、判断の材料にした。行ったことないけど戦場にいるような気持ちだった。
結果としては上演をまっとうすることができた。3月後半の上演で、あと数日でも日程がずれていれば上演を諦めるしかなかっただろう。今の状況を考えれば奇跡的だと思う。
今はあのときとは比べものにならないほど状況が悪化している。まだ1カ月しか経っていないなんてうそのようだ。世界はものすごいペースで変わるらしい。
変わってしまうことはもう仕方がない。この中でやれることを探していくしかないと思う。演劇をやりながら培ってきた、ものを作る技術や想像力は、いろんな状況で応用できるはずだ。振り返らずにやるしかない。
玉田企画
玉田企画 (@tamadakikaku) | Twitter
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山西惇 @8024atc
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