信頼とは何か?「スイートホーム ビターホーム」中山優馬・秋元才加・藤井清美インタビュー、佐藤アツヒロらのコメントも

松竹創業130周年「スイートホーム ビターホーム」が12月6日に大阪松竹座で幕を開ける。「スイートホーム ビターホーム」は、2019年上演「ブラック or ホワイト? あなたの上司、訴えます!」、2022年上演「行先不明」に続く、藤井清美作・演出による“お仕事コメディ”シリーズの第3弾。“信頼とは何か”をテーマにした「スイートホーム ビターホーム」では、住宅展示場のモデルハウスを舞台にした物語が展開する。

ステージナタリーでは、主人公・努力ぬりき良介役を演じる中山優馬、良介のかつての恋人・佐久間亜紀子役を演じる秋元才加、作・演出を手がける藤井にインタビュー。また特集の後半には、出演者の藤野涼子、井上拓哉、舞羽美海、瀬戸カトリーヌ、駿河太郎、佐藤アツヒロのコメントを掲載している。

取材・文 / 興野汐里撮影(P1) / 藤記美帆

中山優馬・秋元才加・藤井清美 座談会

家庭内の出来事も描く“お仕事コメディ”第3弾

──「スイートホーム ビターホーム」は、2019年上演「ブラック or ホワイト? あなたの上司、訴えます!」、2022年上演「行先不明」に続く、“お仕事コメディ”シリーズの第3弾です。「スイートホーム ビターホーム」の舞台を住宅展示場のモデルハウスにするというアイデアは、どのようにして生まれたのでしょうか?

藤井清美 第1弾「ブラック or ホワイト? あなたの上司、訴えます!」の舞台はリフォーム会社、第2弾「行先不明」の舞台は旅行会社でした。“お仕事コメディ”ということもあり、第1・2弾では仕事場での描写ばかりで、家庭内の出来事を描いた場面がなかったんです。今回は過去作と雰囲気を変えたいという思いがあり、せっかく家庭内の描写を入れるなら、舞台はモデルハウスにしよう、と決めて執筆を始めました。

藤井清美

藤井清美

──中山さんは、“心が帰る家”をコンセプトに掲げるハウスメーカー・松波キラリホームの営業担当・努力良介役、秋元さんはモデルハウスの内覧に訪れた良介のかつての恋人・佐久間亜紀子役を演じます。先日、顔合わせと脚本の読み合わせが行われたとのことですが(編集注:取材は10月末に行われた)、「スイートホーム ビターホーム」の脚本を読んだ印象を教えてください。

中山優馬 「スイートホーム ビターホーム」には、理想と現実の狭間で葛藤しながらも、ひたむきに仕事や家族と向き合う良介をはじめ、現代の世の中において生きづらさを感じながら生活している人々が登場します。脚本を読んで、ある種のバランス感覚を持っていないと、世の中を渡り歩くことはできないんだという事実を突きつけられましたね。コメディというと軽く聞こえてしまうかもしれないけれど、「スイートホーム ビターホーム」は笑えて面白いコメディというより、人間の存在の興味深さ、人間が持つ滑稽さのようなものが描かれているタイプのコメディなのではないかと思います。

中山優馬

中山優馬

秋元才加 私たちは芸能界という特殊な世界でお仕事をさせていただいていますが、本作のテーマである「信頼とは何か」という問いは、職業関係なく、どんな方にも通じる題材なのではないでしょうか。また、個性豊かな登場人物たちが「私の気持ちを代弁してくれた!」「私も明日からまた仕事をがんばってみよう」と背中を押してくれるような作品だと感じます。

俳優の特徴をキャラクターに落とし込む、藤井の執筆スタイル

──中山さんと秋元さんは現時点で、ご自身が演じる役どころをどのようなキャラクターとして捉えていますか?

中山 良介の「二つのこと同時にやるの苦手なんですよ!」というセリフが表すように、彼は不器用な人。でもすごく真面目で、プライドを持ってハウスメーカーの営業という仕事をしています。良介は、“家を売る=幸せを売る”という立場でありつつ、過去に直面した苦い経験に捉われていたり、妻が家出をして家庭内の問題が降りかかってきたりと、大変なことを抱えながら仕事に励んでいるなと……。僕自身は未婚ですが、家庭を持つ友人たちの悩みを聞くと、「この作品で描かれていることって、すごくリアルなんだな」と感じました。

「スイートホーム ビターホーム」稽古より、努力良介役の中山優馬。

「スイートホーム ビターホーム」稽古より、努力良介役の中山優馬。

藤井 中山さんは良い意味でとても器用な俳優さんでいらっしゃると思うんですが、もしかすると信念を曲げることが苦手なタイプなんじゃないかな?とお見受けしていて。表層的には異なるかもしれないけれど、中山さんと良介は本質的に似ているところがあると思うんです。

秋元 わかります。ミュージカル「にんじん」(2017年)で共演させていただいたのですが、優馬さんは揺るぎない強い信念を持っている方だと思います。

藤井 私は「こういう登場人物がいたら面白いんじゃないかな?」と考えつつ物語の大枠を決めていくんですけど、ビジュアル撮影に同席してキャストの皆さんとお話ししたり、キャストの方のインタビューを読んだりしながら、「この方がこの役を演じるとしたら……」とキャラクター設定を膨らませる作業をすることがあって。当て書き、というほどでもないのですが、中山さんが良介を演じるとどうなるか、秋元さんが亜紀子を演じるとどうなるか、ということが脚本に反映されている部分もあります。

「スイートホーム ビターホーム」稽古より、藤井清美(左)。

「スイートホーム ビターホーム」稽古より、藤井清美(左)。

秋元 まさに、ビジュアル撮影のとき藤井さんにポロッとお話ししたエピソードがラストシーンに盛り込まれていてびっくりしました。詳しい内容は観てのお楽しみですが! 私が演じる亜紀子は、コロナ禍に会社を起業した社長という役どころで、強い信念は持っているけれど、基本的には自己肯定感が低く、他人からの評価を軸に生きている人。「社長として強くなくてはならない」という理想を持っているのに、なかなか到達することができず、葛藤しています。亜紀子は高級な腕時計を身に着けているのですが、「この腕時計を買うことができたんだから、これからもがんばっていかないと」と自分を奮起させるシーンがたびたび登場します。私自身も亜紀子と似た部分があるので、彼女は心を寄せられるキャラクターだなと感じました。

秋元才加

秋元才加

自分を育ててくれた大阪松竹座に恩返し

──「スイートホーム ビターホーム」の会場となる大阪松竹座が、大阪松竹座ビルの建物諸設備老朽化により閉館することが決定しました。これに伴い、同ビル内の大阪松竹座における興行が2026年5月をもって終了します。中山さんと秋元さんはこれまでも大阪松竹座の舞台に立たれていますが、劇場に関する思い出があれば教えてください。

中山 12歳、13歳の頃から毎年大阪松竹座の公演に出演させていただいて、一番お世話になった劇場であり、“自分を育ててくれた劇場”だと思っています。最初は小さな楽屋から始まり、先輩方が使っていた大きなメイン楽屋を自分用として使わせていただいたときはすごく感動しましたね。思い入れがある劇場なので、さよなら公演に立たせていただけることをうれしく思いますし、「スイートホーム ビターホーム」に精一杯取り組むことで、今までの恩返しができればと思います。

秋元 優馬さんとご一緒したミュージカル「にんじん」以来、約8年ぶりに再び大阪松竹座の舞台に立たせていただけること、しかもそれが大阪松竹座のさよなら公演であること……ご縁を感じずにはいられません。「にんじん」では私が姉役、優馬さんが弟役を務めましたが、「スイートホーム ビターホーム」では元パートナーの役ということで、前回とはまた違った関係性をお見せできたらと思います。

「スイートホーム ビターホーム」稽古より、佐久間亜紀子役の秋元才加。

「スイートホーム ビターホーム」稽古より、佐久間亜紀子役の秋元才加。

──藤井さんは今回が大阪松竹座初登場となります。

藤井 大阪松竹座のような歴史ある劇場で、現代を生きるサラリーマンの方々を軸にした作品を上演するのは珍しいことかもしれないのですが、非常に魅力的なキャストの方々にお集まりいただいたので、あの素敵な空間の中で、登場人物それぞれの人間関係、距離感などの微細な変化を見事に表現してくださることと思います。キャストの皆さんが総力を結集させて、「スイートホーム ビターホーム」という作品をどのように立ち上げるのか、ぜひとも劇場で見届けていただけますと幸いです。

左から藤井清美、中山優馬、秋元才加。

左から藤井清美、中山優馬、秋元才加。

中山 「スイートホーム ビターホーム」は、相手のセーフティゾーンに入るか、入らないか、その1歩を踏み出すかどうかで意味合いが変わる繊細な戯曲だと思うんです。僕たちが戯曲をしっかりと読み込んで表現することができれば、登場人物たちが醸し出すリアルな空気感がお客様にも伝わるはずなので、そこを楽しみにしていただけたらと思います。

秋元 登場人物たちのリアルなやり取りを観て、働くうえで誰もが感じる喜び、誰もが抱える悩みに共感してもらえたらうれしいですよね。かつ、観る方の心が温まるような、そんな舞台にできたらいいなと思います。