「そのとき、何を思い、何をしましたか?」第1回の寄稿者。

そのとき、何を思い、何をしましたか? 第1回 [バックナンバー]

劇作家、演出家、俳優、ダンサー、プロデューサーたちが語る

──長い眠りについた劇場、そして舞台人たちの思い

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タニノクロウ(劇作家・演出家 / 庭劇団ペニノ)

タニノクロウ

タニノクロウ

ペニノもこれまで公演の中止が続き、今夏から続く国内外の公演が難しくなりました。私はこの状況になってまず、今までお世話になって来たお客さまたちにメールを送りました。ペニノはメルマガをやっていないので、急に私からメールが届いて、驚かせたかもしれませんが、これまでの感謝と、また作品をお見せしたいという思いをただ伝えました。 庭劇団ペニノには超ハードコアなファンがいます。2000年に創設して20年間、脇目も振らずマニアックなことだけをやってこられたのはそんな方たちがいてくれたからです。そしてこれからは、今まで定期的に行っていた「俳優向けの説明会」をオンラインで続けていくことを考えています。これまでも私は演劇の本質、俳優の本質とその可能性を伝えてきました。それはこのCOVID-19が変革させる新しい社会の中でこそ、重要な捉え方だと思っています。定期的に行う予定ですのでお気軽にご参加ください。俳優じゃなくても、誰でも大歓迎です!

中川晃教(シンガーソングライター・俳優)

中川晃教

中川晃教

2月24日にミュージカル「フランケンシュタイン」大阪公演千秋楽を幸いにもどうにか迎えることができ、マスクをして、新幹線に乗り、感染しないように気を付けて移動しました。マネージャーからは、「あなたの代わりはいないのだから、自覚を持ち、予防を万全にし、行動するように」と言われ、はっとしたのを覚えています。
この先の舞台やコンサートに向けて万が一、自分が感染してしまったら大変なことになるという自覚を強く持ちました。予防を徹底しながら、コンサートのリハーサルと、ミュージカル「チェーザレ 破壊の創造者」稽古などを開始。
コンサート中止を知ったのは本番の2日前。
すぐにTwitterのライブ配信機能で、何かできないかと準備を始めました。
ピアノとiPhoneさえあれば、ファンの皆さんやお客様に、歌を届けられる。そう思って、愕然としているよりも、心の軸をしっかりと持って、先を見つめていこうと思いました。
主催者、並びにスタッフ、ホールの方々、ミュージシャン、そしてお客様、それぞれの立場で、地道にできることを積み重ねていくしかない。
緊急事態宣言が続く中、劇場封鎖に伴い全公演中止が続くこの今。僕は、あらゆるものと調和していきながら、強い信念で、「感動」を届けていくことは何かを模索しながら、今一番にできることを実践していきます。

野村萬斎(狂言師)

野村萬斎

野村萬斎

3月20日、25日に、主宰の「狂言ござる乃座」公演で、長男の裕基に「奈須與市語(なすのよいちのかたり)」初演の舞台を勤めさせる予定でした。狂言の修業における重要な演目の1つで、ほぼ相伝し終え、本番に向けての仕上げに入るという時期に、感染症が拡大し、公演開催自体について悩むこととなりました。

都内最大の国立能楽堂でも集客数は600人。3月中は対策を取りながら開催された能会もあり、裕基のモチベーションが高まっている今この時に、予定通り、狂言師としてステップアップする経験をさせたいという思いが強くありました。ギリギリまで開催する方策を考えましたが、結局3月12日に延期を決断しました。

1つには春の選抜高校野球が中止になったのが大きかったです。裕基と同じような若者に我慢をさせないといけない状況にハッとしました。また、気合の乗った晴れの舞台を、周囲に疑心暗鬼しながらではなく、集中して楽しんでいただくために、時期を改めたほうが良いという結論に至りました。

4月、さらに事態は悪化し、ますます多くの方が困難に見舞われ、我慢を強いられています。こんなときだからこそ、狂言師が常日頃感じている“笑い”のエネルギーを自ら獲得することを皆さんに提案したいと思い、「うちで笑おう 狂言の笑い」と題した動画をTwitterで発信しました。今、できることは何か。その積み重ねで能・狂言も650年つながってきたと思います。今後もできることを考えながら発信を続けてまいります。

野村萬斎@狂言ござる乃座 - YouTube

平原慎太郎(ダンサー・振付家 / OrganWorks)

平原慎太郎(Photo by Eiji Takahashi)

平原慎太郎(Photo by Eiji Takahashi)

3月6日~8日で「HOMO」という公演を行いました。
奇しくも「絶滅する人類の三日間」を踊りで表現するもので、作品構想に1年半を費やしたものだったので奇妙な落胆がありながら、これは公演を止めてはいけないという愚かながらも個人的な意欲が起こり、すでにチケット購入したお客様の意思とカンパニーの意思を尊重させました。
創作・稽古が進むに連れて状況が刻々と変化し、公演企画者としての立場でも緊張感が日に日に増し、お客様への対応を配慮しながら公演を準備しました。
上演した公演の内容はこういうものでした。
簡略化、記号化を進めた人類は感性が著しく低下し、逆にそれに特化した新人類に個体数を譲ることになる。
新人類は人類に対して生きるヒントの共有を図るが人類はそれを拒否。
しかし、最後の1人が目の高さより高い位置にかかった虹に改めて気が付き視野が広がり、新人類の声に耳を傾けるというものでした。
今はコロナウイルス終息後の世界でどういった表現を行うか。
その準備を行う日々です。

細川展裕(劇団☆新感線 エグゼクティブプロデューサー)

細川展裕

細川展裕

2月26日。その日、日本のライブエンターテインメントは死にました。
「スポーツ、文化イベント等については、大規模な感染リスクがあることを勘案し、今後2週間は、中止、延期又は規模縮小等の対応を要請することといたします。」(安倍晋三)
演劇は、興行という社会的形態をもって完結する芸術表現です。その興行が、失われました。私は「令和の2.26事件」と呼んでいます。私たちは上演中の公演、全68ステージの内48ステージを失いました。一体いつまでそれは失われてしまうのか。あるはずだった出会い、感動、創造。果てしない閉塞感です。
いつになるかまだまだ不透明ですが、また興行に向き合えるそのとき「情熱」と「信頼」を私達が失っていないことを希望します。

前田司郎(作家・劇作家 / 五反田団)

前田司郎

前田司郎

24年間演劇をやってきて、初めて公演を中止した。特に感慨はない。こういうこともあるだろうって感じだ。中止を決めてから2週間近く経ったが、遊びに行けないこと、友達に会えないこと、収入がまったくなくなったこと以外には、不思議なほど、喪失感がない。あんなに準備して、楽しみにしていた演劇の公演を中止したのに。
考えるに僕は、今も次の公演の準備をしてるし、次の小説を書いてるし、もし公演が行われていたとしても、やっぱり次の公演の準備をし、小説を書いていたからだろう。でも役者のことは心配だ。僕は1人でも書けるが、役者は1人では演じられない、客が必要だから。
コロナはマジでやばいけど、これがひと段落したら、少しだけ世界が良くなりそうな気もする。そのために払った犠牲のことを考えると楽観的なことばかりも言ってられないけど。世界が良い方向に向かいますように。

五反田団『愛に関するいくつかの断片』
前田司郎 (@maeda1977) | Twitter

麿赤兒(舞踏家・俳優 / 大駱駝艦)

麿赤兒

麿赤兒

当初は、よその国、対岸の火事だろうと、高をくくっていたら、見る間に我が壺中天公演・松田篤史振付・演出「まだら」の公演中止を決定せざるを得なくなった。大駱駝艦のいくつかの公演も然りだ。
何やら不気味な様相を予感してはいたが……。
自然発生的なものか、あるいは不埒なバイオマニアによるテロか、それともウイルス研究者によるちょっとした手違いかなどなど、想像を巡らせたりしたが、そんなもろもろも直ちに吹っ飛び、右往左往だ。
原因はどうあれ、この事実はまさに世界を「劇」以上の劇的世界に変えてしまった。
今、私は人類の極小と極大の断面をのぞき見ているのだ。
死にまつわるさまざま、「死の舞踏」などを思いながら、手洗いとうがいをし、マスクで世界の片隅を歩んでいる。

矢内原美邦(振付家・劇作演出家 / ニブロール)

矢内原美邦

矢内原美邦

公演が2つほど中止になり悔しい!というより、しょうがない……という気持ちのほうが強かったです。海外のアーティスト支援と比べた投稿をSNSなどでよく見ますが、私たちはいつも自分たちの公演をすること、チケットを買ってもらうことに追われすぎていたかもしれない。という気付きがありました。海外で盛んに行われている、アーティスト自身が自主的に活動する「アーティストラン」を運営する友達に、この状況でどんな活動をしているのかと電話で聞きました。すると、オンラインのワークショップ、作品アーカイブのWeb一般公開、一人朗読、ソーシャルディスタンスを保った老人介護施設の中庭でのボランティア公演、オンラインミーティング、メッセージリレーなどの社会活動を行っているとのことでした。こういうとき時だからこそ、じっくりと考え、日常的に社会に存在できるような舞台芸術活動を、日本でも前向きに始めてみようと思っています。アーティストや舞台関係者が社会にできることは多くあるように改めて感じています。

(以上、五十音順)

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舞台が受けた影響は…

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