オーバード・ホールに青白く光る地球、タニノクロウが描く“Meditation”の時間

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タニノクロウ×オール富山 2nd Stage」の関連企画、「Meditation -The day before daylight-」が昨日6月20日に富山のオーバード・ホールにて上演された。ステージナタリーではその模様をレポートする。

「Meditation -The day before daylight-」より。(撮影:六渡達郎)

「Meditation -The day before daylight-」より。(撮影:六渡達郎)

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「Meditation -The day before daylight-」より。(撮影:六渡達郎)

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「Meditation -The day before daylight-」より。(撮影:柳原写真事務所)

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「Meditation」は、庭劇団ペニノのタニノクロウとオーバード・ホールが、“人と劇場と世界の間にある時間”をテーマに掲げて取り組んだ、1回限りの公演。公募で集められた30名の観客は、劇場の入り口で検温と手指の消毒を求められ、銀色に輝くミラーシールド付きの白いヘルメットを受け取って、椅子やソファが点在する広いロビーで静かに開演を待った。

定刻になるとタニノが「始めたいと思います」と挨拶し、「これから瞑想のようなことをやってみたいと思います」と話す。続けて「劇場の方、集まってください」と声をかけると、劇場の案内係、警備員、作業着を着たスタッフらが前へ。タニノはその場で彼らに「場内が暗いので、観客を1人ずつスポットライトが当たっている客席へ案内してほしいんです」と説明し、さらに案内が終わったスタッフは、客席ではなく舞台上のスポットライトの当たった場所にいてほしいと話した。

「Meditation -The day before daylight-」より。(撮影:柳原写真事務所)

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「Meditation -The day before daylight-」より。(撮影:柳原写真事務所)

「Meditation -The day before daylight-」より。(撮影:柳原写真事務所)[拡大]

オーバード・ホールは客席数約2200の大劇場だ。ヘルメットを装着して劇場の中に入ると、広い空間にはノイズ音が轟き、暗闇の中にポツリポツリとライトが当たった席が見える。その“光の点”は舞台上にもあって、そこには観客と同じ白いヘルメットを被った劇場スタッフが15名、上を見上げたり、床に腰を下ろしたり、身体を揺らしたりとそれぞれに佇んでいた。

観客とスタッフは皆、そのまましばらく、ヘルメット越しにゴゴゴーっという音と光を浴び続けた。舞台にも客席にも何か特別な変化があるわけではないが、聴こえる音の微妙な重なり、照明のちょっとした変化も敏感に感じるようになり、何かをぼんやりと待っているような、それでいて何も待っていないような、不思議な時間が流れる。やがて客席と舞台上の光の点が1つずつ消えていき、音もなくなって、一切の暗闇が訪れた。

「Meditation -The day before daylight-」より。(撮影:柳原写真事務所)

「Meditation -The day before daylight-」より。(撮影:柳原写真事務所)[拡大]

「Meditation -The day before daylight-」より。(撮影:柳原写真事務所)

「Meditation -The day before daylight-」より。(撮影:柳原写真事務所)[拡大]

無音の暗闇で、自分の呼吸だけを感じる時間が続く。そこへ「美しき青きドナウ」の旋律が聴こえ始め、舞台に仄かな光が当たり、むくむくと動き出す“何か”が見えた。それは曲の高まりと共にやがて丸みを帯びてきて、照明の加減で渦を描いたり、波模様になったりしながらどんどん大きくなり、いつの間にか舞台の中央にはぽっかりと、地球が浮かび上がった。青白く光りながらゆらゆらと揺れるその様子を、観客と舞台上のスタッフがただじっと見つめる。やがて曲が終了し、舞台の隅に座っていたタニノがヘルメットを取って、終演を告げた。

「Meditation -The day before daylight-」より。タニノクロウ。(撮影:六渡達郎)

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タニノクロウ(撮影:柳原写真事務所)

タニノクロウ(撮影:柳原写真事務所)[拡大]

終演後は舞台に上がってもよいと言われたので、多くの観客は“地球”を間近で見つめ、舞台上で照明を浴び、オーバード・ホールの特徴である“三面半舞台”の大きさ、奥行きの深さを実感した。なお本公演の模様は、オーバード・ホールの公式YouTubeチャンネルで、客席正面からの映像と舞台からの映像を観ることができる。

終演後、タニノに作品に対する思いをインタビューした。タニノは新型コロナウイルスによって劇場が閉じている間、これまでについて思いを巡らせたと言い、「演劇をやってきた20年間、本当に劇場の方にお世話になりっぱなしだったな、その方たちに、そして劇場自体にも今、感謝を伝えたい、そのくらいはできるだろうと思ったんです」と話す。さらに「例えば管理室やボイラー室の方たち、彼らも含めて劇場が成り立っている。彼らも舞台芸術の一部であると改めて感じてもらいたかった」と思いを語った。

本作は、2017年に「ふじのくに→せかい演劇祭」で披露された「MOON」をベースにしており、タニノが描いたアイデアをもとに、オーバード・ホールのスタッフがリモートで、試行錯誤しながら具現化した。「『Meditation』と『MOON』は、コンセプト的には似ていて、“個々人が1回、完全に孤立する”という状況を作りたかった。そうやって閉じられたところから、人々が新たにつながっていくということをやりたかったんです」とタニノは話す。また今回の公演を経て「やっぱり劇場って面白いと思いました」と笑顔で実感を述べ、12月にオーバード・ホールで上演予定の「笑顔の砦 ‘20 帰郷」について、「そもそもこの状況で市民劇をやれるかはわかりませんが、今市民の方たちと創作するということは、ただの“試み”ではなく、かなりチャレンジングなことになるだろうと思います」と意気込みを見せた。

※「ふじのくに→せかい演劇祭2020」の「→」は、各方向への相互矢印が正式表記。

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「Meditation -The day before daylight-」

2020年6月20日(土)
富山県 オーバード・ホール

作・演出:タニノクロウ

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acoico(あこいこ) @acoico

【公演レポート】オーバード・ホールに青白く光る地球、タニノクロウが描く“Meditation”の時間(コメントあり) https://t.co/BVf91PoTzO

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