いきものがかりとの出会い
──
すでに評価されていたグループだったので、あとからそこにプロデューサーとして関わるのは難しい部分もあったんだけど、ちょうど
──本間さんもいきものがかりも“マスに向けたポップな音楽”を得意としている印象があります。
うん、彼らは目標値をかなり高く置いていた。「CDを100万枚売るにはどうすればいいか」「チャートで1位を取るには」「全国ツアーを満員にするには」──ツアー中に地方の食事会でそんな話をよくしていて、思っていた以上に「もっと高みを目指している人たち」なんだと気付いて。いきものがかりとの仕事では、そのために必要な作業を一緒に考えることが多かったな。
天童よしみ&鈴木雅之のプロデュース
──最近では
天童さんは実は僕の小中学校の先輩なんだ(笑)。同じ学校に通っていて、子供の頃から「近所に天童よしみがいる」ってみんな知っていた。だから僕が50代になってからご一緒できるようになったのは、本当にご縁だなと思った。ただ、初めてお会いしたときに「僕、演歌はできません」と正直に伝えたんだ。そしたら天童さんのほうから「演歌をやりたいわけじゃない。一緒にセッションする感覚でやりたい」と言ってくださって。そこから、いろんな作家を招いたコーディネート型の作品作りが始まったよ。
──アルバムは松尾潔さん、水野良樹さん、一青窈さんといった豪華な作家陣が集結して、非常にバラエティ豊かな内容でしたね。
キャリアのある大先輩に新しいことを提案するのは、その方とお客さんとの長年の関係性もあって戸惑うこともあると思うけど、天童さんとは信頼関係があったからこそ挑戦できた。ただ、天童さんのファンが必ずしもそれを望んでいるとは限らなくて、やっぱり「演歌を聴きたい」という人も多い。だから翌年リリースの「星見酒」では、もう少し歌謡曲寄りにトライして。その方向性が評価されて、「第65回 日本レコード大賞」で編曲賞をいただけたよ。
──テレビアニメ「かぐや様は告らせたい?~天才たちの恋愛頭脳戦~」の主題歌「DADDY ! DADDY ! DO ! feat. 鈴木愛理」で
その前からアレンジでは関わっていたけど、マーチン(鈴木雅之)さんは69歳とは思えないほどバイタリティにあふれていて、新しいことにどんどん挑戦される方なんだ。しかも声がまったく衰えていない。これまでのデュエットは実のお姉さん(鈴木聖美)とだけだったけど、「若いアーティストとやってみよう」という話になり、僕が「鈴木愛理さんがいいですよ。歌も対応力も抜群です」とオススメして。マーチンさんは「知らない子だけど大丈夫?」と言いながらも、「じゃあやってみよう」とすぐ受け入れてくださった。その結果、“アニソン界の大型新人”として「アニサマ」(「Animelo Summer Live」)にも出演することになったわけ(笑)。誰もが知る名曲をたくさん持っている方が、新しいフィールドに飛び込むのは、本当に勇気のある素晴らしい挑戦だったと思う。
──いくつになっても新しいことに挑戦するって尊敬するなあ。
だよね。マーチンさんは僕のアレンジをすごく面白がってくれて。R&Bやドゥーワップに精通された方なので、当時のサウンドエッセンスを曲に少し織り交ぜると「これあれでしょ?」「いいね!」とすぐ反応してくださる。音楽の会話が成立するというか、それをお互いに楽しむ関係性。「次はどんなことをやろうか?」って、いつもワクワクしながら話しているよ。新しい曲ができたときに「このサウンドならどのエンジニアがいいと思う?」と相談してくれるし、そうやって“定番のチーム”の外にも柔軟に出ていける度量の大きさがあるんだよね。
──だからこそ本間さんがプロデューサーとして関わる意味があるとも言えますね。
本当にそう思う。尊重してもらえて、とてもうれしいよ。
プロデューサーに必要な資質
──本間さんが考える、プロデューサーに必要な資質はなんでしょう?
まず「話術」だね。音楽の知識より前に、“人とちゃんと話せること”。そして“人の心がわかること”。アーティストの気持ちを理解して、信頼を得て、そこから音楽的な引き出しを提案していく。その入口を作れなければ、どれだけ技術があってもダメ。今は同じ部屋にいてもLINEで会話するような時代じゃない? それはやっぱりよろしくない(笑)。飲みニケーションのような、古きよきコミュニケーションの中から生まれる“人間関係の温度”って、やっぱりあると思うんだよね。プロデューサーのスタイル自体はどんどん変わっていくけれど、“どう人と関わるか”という部分はいつの時代も変わらないと思う。
──本間さんが「この人をプロデュースしてみたい」と思うアーティストには、どういう特徴がありますか?
やっぱりちゃんと会話ができるかが一番大きい。まずは直接話して、その人の人間性を感じたいね。
──あのー……もし僕が本間さんにプロデュースしてもらいたいと思ったら、どんなことが必要になりますか?
うまくなくてもいい。とにかく自分の思いを一生懸命伝えられることが大事。自分のやりたいこと、自分の弱点、何が好きで何が嫌いか。上手に話せなくてもいいから、「こんな自分ですけどどうですか?」って、真正面から差し出せるかどうか。それができれば、プレゼンとしては合格です。そういう人とだったら、僕も全力で向き合いたいと思うよ。
──わかりました! 僕もいつか本間さんにプロデュースしていただけるようがんばります。今日は貴重なお話ありがとうございました!
プロフィール
本間昭光
1964年生まれ。作曲家・キーボーディスト・プロデューサー。これまでにポルノグラフィティへの楽曲提供やトータルプロデュース、いきものがかりのサウンドプロデュースほか、さまざまなアーティストを手がけ数々のヒット曲を生み出す。近年は音楽番組へのゲスト出演、ミュージカルの音楽監督やアニメの劇伴を手がけるなど幅広く活動している。2023年に「日本レコード大賞」にて編曲賞を受賞。2025年5月、第1回「MUSIC AWARDS JAPAN 2025」のPremiere Ceremonyにおいて自身が率いるスペシャルバンドで出演。同年9月、東京・東京ガーデンシアターにて自身の還暦を祝う「Akimitsu Homma 60th anniversary concert "RESONANCE"」を2日間にわたって開催し、鈴木雅之や槇原敬之、木村カエラ、亀梨和也などトップアーティストが多数集結、大成功を収めた。
本間昭光 Akimitsu Homma オフィシャルウェブサイト
本間昭光 Akimitsu Homma (@akimitsuhomma) / X
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MVNace 🌊RIVER @melvinace88
@natalie_mu 本間昭光さんのような音楽プロデューサーは、アーティストの楽曲制作やアルバム制作の全体を統括する役割を担います。具体的には、作曲や編曲の方向性を決めたり、レコーディングの進行管理、サウンドの調整、演奏者やエンジニアとのやり取り、時には歌詞やメロディのアドバイスも行います。ポルノグラ