ゆっきゅんの音楽履歴書。

アーティストの音楽履歴書 第59回 [バックナンバー]

ゆっきゅんのルーツをたどる

「あの頃の自分として今の私を見てる」今も昔も変わらぬ“歌姫愛”、女性J-POPヘビーリスナーの歴史

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アーティストの音楽遍歴を紐解くことで、音楽を探求することの面白さや、アーティストの新たな魅力を浮き彫りにするこの企画。今回は電影と少年CQやソロプロジェクト・DIVA Projectとしての活動を展開しながら、歌詞提供や執筆など幅広く活動するゆっきゅんの音楽遍歴に迫った。

取材・/ つやちゃん

幼稚園で一輪車を漕ぎながらayuを歌ってた

今週はPerfumeのコールドスリープ(活動休止)前最後のライブを観て衝撃を受けて(※取材は9月下旬に実施)、その翌日とかにアイリーンとスルギ(Red Velvet)の来日公演を観てまた衝撃を受けて……衝撃を受け続けて時間感覚がわからなくなってます。アイリーンって本当にすごくて……。今週はもう、Perfumeの話で終わればいいのにって思ってたんですけどね。

私の音楽履歴書は、5歳の頃に出会ったayu(浜崎あゆみ)で始まってます。7つ上の全然ギャルじゃない姉がayuのファンで、夜にテレビをつけると歌番組に出てたし、両親のカーステレオからも流れてたし。あと宇多田ヒカルとELT(Every Little Thing)も流れてました。幼稚園で一輪車を漕ぎながらayuの「NEVER EVER」を歌っていた思い出。姉と私2人ともファンクラブの会員で、先週も一緒に大阪へライブを観に行ってきたんです。子供のときは本当にずっとayuを歌ってた。幼稚園でも公園でもずっと歌ってる子供っているじゃないですか。私、その1人でした(笑)。当時、ayuはCMにもたくさん出てて。ayuファンだから、姉はオーディオプレーヤーはもちろんパナソニックの「D-snap」を使ってたし、デジカメも「LUMIX」を使わないといけなかったんですよ。

すでにJ-POP歌姫に夢中の頃。

すでにJ-POP歌姫に夢中の頃。 [拡大]

J-POPが叩き込まれたヒットチャート番組

初めて買ったCDは、モーニング娘。の「ここにいるぜぇ!」か、あやや(松浦亜弥)の「100回のKISS」のどちらか。諸説あります(笑)。クリスマスは毎年CDをもらえる祭りだと思ってて、「プッチベスト」っていうハロプロが毎年出すコンピレーションベストアルバムをもらったりしてました。そうやって小さい頃から音楽好きで、7歳のときにピアノを始めたんです。家にたまたま姉の弾いてたピアノがあって、大きい道を挟んで向こうにピアノの先生がいて。友達のお母さんね。そこに姉も通っていて、たしか兄も行ってましたね。習い始めたわけだけど、練習をレッスンの日までしないもんだからうまくはならなかったんですよ。今、楽譜への苦手意識はないくらいの状態にはなってるし、デモが来てキーの確認をするためにキーボードを弾くくらいはできているから、そういう部分には役立ってるかな。それよりも、ピアノの先生の娘がマンガ好きで、教室の本棚にいっぱい少女マンガが置いてあったんです。それで毎週、何冊か借りてました。矢沢あいの「ご近所物語」「Paradise Kiss」、椎名軽穂の「CRAZY FOR YOU」とか。どちらかというと、ピアノよりそっちに真剣に取り組みました(笑)。

「立派なDIVAになれますように」

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土日に、スペースシャワーTVで歌詞付きのヒットチャート番組を観始めたのも同じく7歳の頃。100位までのチャートだから、そこで流行のJ-POPを叩き込まれたと思います。YouTubeがまだない時代で、ミュージックビデオをフルで観る機会ってほとんどなかったから、貴重な番組でした。Tommy february6の「je t'aime ★ je t'aime」のMVを観て、なんてかわいいんだ!と思ったのを覚えています。

je t'aime ★ je t'aime

YUKIのデビュー曲「the end of shite」のMVが、人生で初めて観たセクシーな映像だったという記憶もある。なぜか実家にはテレビが何台もあって、チャンネル争いがなかったので、岡山のケーブルテレビ「オニビジョン」が観れる2階のテレビでチャートを100位から1位までずっと見ていましたね。

YUKI「the end of shite」

そうやって、小学生の頃は好きな曲がどんどん増えていく状態。その時点ですでに、女性ソロ歌手が好きというのは決まってましたね。

小6秋に聴いた「ポリリズム」の衝撃

あと、小学校の高学年くらいになったら“歌詞画”にハマった! 歌詞画職人というのがブログやファンサイト、掲示板にいたんですよね。私は木村カエラも好きで聴いてたんですけど、カエラのファンは「Zipper」や「KERA」といった雑誌の読者が多くて、何か自分で物を作りたい人たちがたくさんいたんだと思うんです。だからなのか、カエラファンには創造的な歌詞画が多かった気がします。ayu、aiko倖田來未椎名林檎の歌詞画ってそれぞれ傾向が違うんですよね。中にはちょっと有名なカリスマ職人もいて「誰々の新作歌詞画が出たぞ!」みたいな文化ができてました。職人のブログとかリアルもよく見てたなあ。ちなみに、ゆっきゅんの歌詞画も作ってもらったことがあるんです。どうですか?

ゆっきゅん「DIVA ME」の歌詞画(desingned by AOIci)。

ゆっきゅん「DIVA ME」の歌詞画(desingned by AOIci)。 [拡大]

その後、衝撃的な出会いがありました。小6の秋に聴いた「ポリリズム」。それ以前にもPerfumeは曲を出していましたが、岡山の小学生に届いたのはやっぱり「ポリリズム」からでした。「GAME」が中学入学前の春に出て、Perfume以外の中田ヤスタカのプロデュース作品にもどんどんハマっていって、MEGとかCOLTEMONIKHAとかいろんなアーティストを聴きました。特にCAPSULEの「MORE! MORE! MORE!」は好きで、中学の生活ノートの裏表紙にこしじまとしこさんのイラストを描いてましたね。Perfumeフォロワーに分類されるような、Aira Mitsukiとか、Saori@destinyとかも好んで聴いてました。いつ何時も、授業中であろうとどうしてもPerfumeのアルバム「GAME」を聴くことがやめられなくて、イヤホンを袖から出して聴いてたり。でも、ヤンキーからはイキりだと思われたみたいで、iPod nanoを盗まれました……。私からしてみたら「GAME」が好きすぎてやってただけなんですけど。

GAME

当時はYouTubeでMVが観られるようになった頃で、東京事変「キラーチューン」のMVを観て「娯楽」を買ったり、相対性理論「LOVEずっきゅん」のMVを観て「シフォン主義」を買ったり。いつも行ってたのは、岡山市のイトーヨーカドーの中にあった新星堂。CDショップに行くのって、めちゃくちゃ楽しかったですよね。なんかその頃から、J-POPの歌詞と歌声を聴く本気度が変わった気がします。お風呂でビブラートを練習したり、椎名林檎みたいに歌いたくて巻き舌を練習したりしてました。

東京事変 - キラーチューン

相対性理論「LOVEずっきゅん」/ Soutaiseiriron - "LOVE Zukkyun"

亀井絵里ちゃんのパートで世界が変わった

中学に入ったら、吹奏楽を始めました。でも、音楽をやってるというよりは部活としてやってた感じ。チューバをやってました。吹奏楽部に入ったのも姉の影響なんですよ。姉は映画「スウィングガールズ」(2004年公開)世代なのもあって、サックスをやってたんです。姉が出る定期演奏会も幼い頃に観に行ってました。高校に入ってからも、吹奏楽部でしたね。高校には管弦楽部もあって、そっちに出演することもありました。この頃になると、iTunesに曲を取り込むときに、Lyrics masterというフリーソフトを使って歌詞も入れてたんです。歌詞を見ながら音楽を聴きたかったので。こうやって話してると、昔からやっぱり音楽と歌詞がめちゃくちゃ好きですね。毎週、5枚1000円とかでCDをレンタルしてました。

14歳のとき、モーニング娘。に「泣いちゃうかも」でハマったんです。亀井絵里ちゃんの「会話の中で何度もタイミング見てたけど」っていうパートが美しすぎて、世界が変わった。そこからはモーニング娘。もそうだし、ハロプロもより一層好きになりました。加藤ミリヤをはじめとした“会いたい系着うたR&Bシンガー”が山ほどいて、そういったシンガーは普通に大好きで聴くじゃないですか。YU-AとかTiaraとか。歌姫DIVA系は昔からずっと好きなので。でもハロプロをきっかけに、つんく♂さんのことも好きになりました。

モーニング娘。 「泣いちゃうかも」

当時はアルバムレビューブログの文化があって、私は音楽レビューも好きでブログをたくさん読んでました。そういうブログの人たちは、安室ちゃんの作品を作ってるT.KURAやMICHICO、Nao'ymtが、山田優黒木メイサの作品にも参加してるぞ?みたいなことを見逃さないんです。そういうクリエイター起点の探し方や聴き方もしていました。高校時代はちょうど“アイドル戦国時代”に突入した頃で、アイドルは自分でどんどん掘って聴いていけたけど、それ以外のアーティストはブログを通して知ることも多かったです。面白いブログがたくさんあったんですよ。そのブロガーたちが今Xをやってて、個人的にずっとブログを読んでた人が私の曲を聴いてくださってびっくり、みたいなこともありました。

今も昔も「やりたいことをやってみんなを楽しませる」

私は基本的に女性シンガーが好きなんだけど、木村カエラの歌詞画職人がベボベ(Base Ball Bear)好きで、そういうきっかけで男性が歌う曲を聴くこともありました。あと、岡山ですっごくかわいいカバンを作ってる人がいて、その人がエレカシ(エレファントカシマシ)好きで私も聴いたり。好きな人や気になった人が聴いてるものを聴くっていうつながりで、音楽の幅が広がってきた人生です。音楽番組を観まくってたし、藤井隆さんも好きだし、男性アーティストの曲も普通にたくさん知ってはいるんですけどね。この前カラオケで湘南乃風の「純恋歌」を入れたら、最後のメロディまで完璧に歌えて自分でもびっくりしました。「桜並木照らすおぼろ月」のところとか、「えっ、ここも歌えるんだ!」みたいな(笑)。“パスタの出落ち”で終わらないという。

こうやって話してると、私の音楽の趣味ってずっと変わらないし、やってることも変わらないですね。高校生のときも自分はアイドルが好きだって思ってたし、そもそもDIVAはずっと好きすぎてわざわざアイデンティティとして言うまでもないし、みたいな。あとなんか真面目だったんでアイドル戦国時代に「昔のアイドルも聴かなければ」と思って、松田聖子山口百恵中森明菜とかをベストから聴いていったこともあった。そのとき一番好きだったのは工藤静香でした。中島みゆきが書いている歌詞が好きで。

でんぱ組.incを1人6役で披露した高3の文化祭。

でんぱ組.incを1人6役で披露した高3の文化祭。 [拡大]

高校を卒業して、大学進学を機に上京するんです。岡山にいたときは、私はライブハウスって行ったことがなかったんですよ。ロックにあまり興味がなかったからかな。それで、上京してついにメジャーデビュー直前の大森靖子のライブに行くわけです。って言っても、これもライブハウスじゃなくて秋葉原のディアステージだったんですけど。大森さんが1日店長をするというので、足を運びましたね。そしてライブを観た瞬間に、自分にとって「ayuの次の人」がやっと現れた……!って強く思った。やっと私の目の前に来た孤独の歌姫。大森さんが歌詞で書いていることをわかりたいと思って、今は読めないブログも全部読んで、どんどんハマっていきました。自分自身の感情を音と言葉と歌声で細かく教えていただいた。

大学時代は、渋谷の宮益坂の歌広場に通う日々。学校帰りだけじゃなくて、空きコマにも行ってました(笑)。昼だと安いしね。でも、なぜかayuと大森靖子と、その後好きになるglobeは、大好きすぎてあまり歌わなかったな。カラオケで歌っても本人のほうがいいし、なんか違うなあという気持ちになるからあまり歌わなかった。その人たちはちょっと別枠でした。カラオケの話でいうと、高校のときも行ってはいたんだけど、それはまだ日常ではなくイベントごとだったんですよ。日時を決めて、友達と遊びに行くような。私が歌いたいのは℃-uteの「都会っ子 純情」とでんぱ組.incの曲だけど、一緒に行く人はその曲を知らないから、踊りを練習してパフォーマンス付きで披露してました。それだったら、知らない人たちも楽しめるだろうって。自分がやりたいことをやってみんなを楽しませるという点で、今とやってることは一緒ですね。

DIVA Projectで広がった幅

その後、21歳のときにミスiDに出て、電影と少年CQがメンバー募集をしていたので応募しました。その前からライブなどの活動はしてたんですけど、やれることをやるって感じで、「自分って何なんだ?」っていうか、自分がどこかに所属していないということへの不安があった気がします。だから、何かのメンバーになるというのは、そんなことで安心する自分が恥ずかしく思いつつ、安心感がありました。それまでも、大学で友達と意気投合して「アイドルやらない? やろうやろう~!」ってことはあったんだけど、やる気があるのは自分だけだったりして。それで、「いけないいけない、自分は1人でがんばるんだ」って思ってたからこそ、電影と少年CQをやることになってルアンちゃんに出会えたのはうれしかったんです。

電影と少年CQの初ライブにて。

電影と少年CQの初ライブにて。 [拡大]

26歳のときにセルフプロデュースでDIVA Projectを始めるわけですが、前年に修士論文を書きながら、どんなことをやろうかなと考え始めていました。いろんなクリエイターの人とやりとりするようにもなって、もっと自分が考えていることを言語で伝達できないとヤバいなと思ったので、音楽の幅を広げて聴くようになった。それまでは、好きなアーティストの新譜を待ってるだけでよかったんですけど、そのあたりからいろんなものに興味を持つようになりました。ボーカルと歌詞中心の聴き方から、サウンドにも注意を向けるようになりましたね。

岡山にいた頃の自分として今の私を見てる

子供の頃から自分が好きなものがどこにもなくて、どこかにないか必死で探していった結果、少しずつでも日本語の歌の中に見つけることができたし、その過程でJ-POPに詳しくなっていったんだと思います。そうやって考えていくと、好きなものはたくさん見つけられたんだけど、実は本当に自分のための歌だと思えるものは10代の頃には結局なかったのかもしれないとも思います。だから、今はそれを自分でやってるのかな。と同時に、“そういう人”にちゃんとなれているのかという観点で、岡山にいた頃の自分として客観的に今の私を見ている気がします。「あのときこんな人がいてくれたらよかった」という痛切な願いのような気持ちが、どこか今の自分に対してあります。自分が自分のままでここまで来れたのは孤独な魂によって作られた芸術があったからで、私がものを作って人に届けるなら、誰かたった1人がその人のままで生きられるようにするためのものでなければ、意味がないんです。

1行余ったので「35才 プロデュース業を開始か」という未来のことも履歴書に書いておきました(笑)。自分はまだ作詞を始めて数年だけど、J-POPの歌詞にもっとよくなってほしいし、小出祐介(Base Ball Bear)さんにそう命じられているんですよ。「ゆっきゅんはたくさん作詞をして影響を与えて、J-POPの歌詞のクオリティを底上げする存在です。任せました」って。それは激励として大げさに言ってくださっているのはわかっているんですけど、35歳になったときにゆっきゅんがグループを作るとなったら、本気の人がたくさん集まるようにしておかなきゃいけないので、そのために今はもっともっと売れたいです。すでに好きでいてくれてる人はもちろんですけど、もっとたくさんの人にゆっきゅんを広げていかなきゃいけない。それに、男の子が歌える感情のバリエーションが少ないと感じていて、もっといろんな表現があっていいと思うんです。2030年くらいには、ゲームチェンジャーが現れるはずなので期待していてください。

こんな履歴書でいいのかな? 「何歳でギターを始める」みたいなのが全然ないんだけど(笑)。女性J-POPヘビーリスナーとしての歴史性が自分の活動の発端なので、それが伝わったらいいなと思います。

ゆっきゅんを作った10曲

ゆっきゅん

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1995年、岡山県生まれ。サントラ系アヴァンポップユニット・電影と少年CQのメンバーとして活動し、2021年5月よりセルフプロデュースによるソロプロジェクト・DIVA Projectを展開。でんぱ組.incやWEST.への歌詞提供、映画批評やJ-POP歌姫コラムの執筆など、幅広く活躍している。2025年8月に最新EP「OVER THE AURORA」をリリース。11月には本作を携えて東名阪ツアーを行う。なお、電影と少年CQは2025年12月29日をもって“ハッピーエンド”を迎え、ユニットとしての活動に終止符を打つ。

公演情報

OVER THE AURORA TOUR

2025年11月14日(金)愛知県 Sound Space DIVA
2025年11月15日(土)大阪府 LIVESPACE ODYSSEY
2025年11月19日(水)東京都 UNIT

電影と少年CQ ワンマンライブ「HAPPY END」

2025年12月13日(土)大阪府 グランドサロン十三
2025年12月29日(月)東京都 I'M A SHOW

バックナンバー

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ゆっきゅん @guilty_kyun

ナタリーの「アーティストの音楽履歴書」という連載企画でゆっきゅんの音楽ルーツについて詳しく話した記事が公開されました。最後1行空いたので仕方なく未来を書いたらそんな人いなかったと言われました。取材・文はつやちゃんです。読んで広めてください。

https://t.co/ZEfn82WrJE https://t.co/PrxYz8lvWa

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