バビロンの街の民となった5万人の観客
「Mrs. GREEN APPLE DOME TOUR 2025 “BABEL no TOH”」はミセスが5都市で全12公演を行い、約55万人を動員したドームツアー。彼らは愛知・バンテリンドーム ナゴヤ、北海道・大和ハウス プレミストドーム、福岡・みずほPayPayドーム福岡、大阪・京セラドーム大阪で2DAYSずつ公演を行ったあと、東京ドームで4日間にわたってライブを繰り広げた。
ミセスのライブにはいくつかの“ライン”があるが、今回のドームツアーは、聖書や神話などをモチーフにした“ストーリーライン”の最新作。規格外のセットや演出のもと、1つのコンセプトに沿って繰り広げられるストーリーラインの公演は、まるで巨大なアトラクションのようである。2019年開催の「ARENA TOUR “EDEN no SONO”」に始まり、2023年開催の「ARENA TOUR 2023 “NOAH no HAKOBUNE”」「DOME LIVE 2023 “Atlantis”」を経て、次なる作品として生み出されたのがバベルの塔を巡る壮大な物語を描いた「DOME TOUR 2025 “BABEL no TOH”」。バベルの塔といえば、旧約聖書の「創世記」11章に登場する建造物だ。人々は天まで届くほどの高い塔を建てるべくレンガを積み重ね、神の領域へと手を伸ばそうとする。
ドームに足を踏み入れると、そこに広がるのは古代メソポタミア文明の中心として栄えたバビロンの街。エリアは騎士、占い師、賢者、鍛冶屋、牧師など22種類の職業で区切られており、開演前からキャストが扮する騎士や踊り子といったさまざまな職業の民たちがバビロンの街と化した客席やステージを行き交い、のどかな日常生活を送っている。5万人のオーディエンスはバビロンの民として、これから始まる壮大な物語の中に入り込む。
民たちが築き上げるバベルの塔
とある晴れた日、バビロンでは盛大な祝祭が行われていた。大歓声に包まれながら、さまざまな職業の民たちが集う庭園に君臨したのは、王族のようなきらびやかな衣装を身にまとった大森元貴(Vo, G)、若井滉斗(G)、藤澤涼架(Key)の3人。華やかなホーンの音色が街に鳴り響き、「Love me, Love you」の演奏が始まると、金テープが勢いよく発射されて祝祭を彩る。陽気なサウンドに満たされた庭園で、民たちはにぎやかに歌い踊って祝祭を繰り広げていた。「CHEERS」では民たちが飲み物を手にして、庭園のあらゆるところで乾杯。ドームに盛大なコールが沸き起こり、活気に満ちたバビロンの街の光景が広がった。「アンラブレス」でもバビロンの民は踊って飛び跳ねてのお祭り騒ぎ。開放的な空気は「Feeling」でさらに強まっていき、色とりどりの風船がバビロンの街を飛び交う。バンドが紡ぐ芳醇なアンサンブルに乗って、人々はミセスを中心に輪になって踊り明かした。
祝祭を終えたバビロンの民たちは斧などの道具を手にし、力を合わせてなんらかの作業をし始める。先ほどの祝祭ムードから一転、そんな人々を背景に大森がギターを手にして歌い上げたのは、人間という生き物の本質に向き合うシリアスなロックナンバー「パブリック」。そして暗闇に赤い照明とライトスティックの光が浮かぶ景色の中で「おもちゃの兵隊」の演奏が始まると、住民たちは一斉にそろって踊り出す。大サビで舞台が照らされて明るくなると、そこには人々が築き上げてきた、20mほどの高さにおよぶ巨大な塔が出現した。その塔をバックに、炎が吹き上がる舞台でパワフルにプレイされたのは「WanteD! WanteD!」。民たちは革命の狼煙を上げるように拳を振り上げ、バビロンの住民となったオーディエンスも力強いシンガロングを響かせる。「ライラック」では塔に紫の花びらが投影され、ライトスティックの光で街に美しい花畑が広がった。
言語が乱され、混沌とした世界
会場が暗転したのち、幻想的な響きを持つ歌声がどこからともなく聞こえてくる。その声に民たちが夢うつつで浸っていると、白いシャツに黒のベストという姿になった大森が「Soranji」をそっと言葉を紡ぐように歌い始めた。すると白いドレスを身にまとった者たちが姿を現し、大森の周りを囲むように優美に舞う。白いスモークがたゆたうステージで、人々に語りかけるように歌う大森の姿は神々しさを漂わせていた。緑が生い茂る景色の中で届けられたのは「フロリジナル」。2人ずつのカップルになった人々がペアダンスを繰り広げ、たおやかな歌声がそっと紡がれる「ゼンマイ」ではカップルたちが愛おしそうに寄り添い合った。さらに大森はステンドグラスに彩られた神秘的な世界で、「君を知らない」を感傷的に歌い上げる。「Soup」では雪降るバビロンの夜の街をランタンを持った民たちが行き交った。
メンバーや民たちが去り、暗闇に包まれたステージに現れたのは仮面を着けた黒ずくめの者たち。生気を感じさせない不気味なその集団は不穏なBGMをバックに一斉に踊り、カツカツと何者かが階段を登る音も聞こえてくる。これは何かの前触れだろうか……場内にひりついた緊張感が走る。見る者が息をのんで構えていると、次の瞬間、塔の中段に赤いマントを羽織った大森が姿を現した。魔王のような風貌をした大森は禍々しい雰囲気を放ち、両手を広げて「絶世生物」を歌うと、巨大な塔が前へと動き出す。バビロンの民たちは天まで届く高い塔を作り上げるべく、レンガを積んで建設を続けていた。
その後、使いの鳥が鳴きながら飛んでいく。スクリーンに使いの鳥の目がカッと開く映像が映し出された瞬間、逆鱗の雷鎚が落とされ、激しいツービートのドラミングから「Ke-Mo Sah-Bee」がスタートする。大森の目の奥に見えるのは激しい怒り。スクリーンに映し出される歌詞が文字化けのようにさまざまな言語に分かれていく。天に向かって手を伸ばそうとした傲慢な人々が意思疎通を図れないよう、もともとは1つだった言語が今まさに乱されているのだ。お互いの言葉が通じずに混乱する民たちの姿が見られる中、「ア・プリオリ」で世界はさらに混沌へ。赤い稲妻が激しい閃光のように暗闇を走り、塔にヒビが入っていく。そして「ア・プリオリ」の最後にとどめのような大きな雷が落ち、大森がすさまじい威圧感を放ちながら「Loneliness」を歌い始めると、塔は青い炎で焼き尽くされていく。傷を負った民たちは腕を押さえ、足を引きずりながら煙が上がる塔を去り、散り散りになっていった。
バビロンの街に広がった愛情と希望
人々が力を合わせて築き上げてきた塔は破壊されてしまった。誰もいなくなった物寂しいボロボロの塔に、白シャツに黒ベストの姿で大森が登場。優しい鍵盤の音色に乗せて「ダーリン」を慈しむように紡いでいく。すると一度は傷付いた民たちが1人、また1人と塔に戻って踊り始める。言語は奪われてしまったかもしれない。それでも人々は歌を通して再び心をひとつにしていき、バビロンの街に希望に満ちた盛大な合唱を響かせた。
青空の下で民たちが自由に踊って飛び跳ねた「コロンブス」を経て、大森は「ちゃんと無事ですか、バベル! ついてきていますか、バベル! 素晴らしい景色です。本当にありがとう。すごいよ。めちゃくちゃエネルギーをもらっています」と会場を見渡す。藤澤は「ここまでツアー駆け抜けてきましたね。デビュー10周年にこうやってドームツアーを回って、もちろん大きな会場にみんなが集まってくれてることもうれしいんだけど、ライブしてるときにみんなの顔がめちゃくちゃ見えるんですよ。心から楽曲を受け取ってくれてるんだな、楽しんでくれてるんだなとグッと感じる瞬間です。めちゃくちゃうれしいです! ありがとうございます!」と声を弾ませた。
12月31日をもって“フェーズ2”を完結し、1月1日より“フェーズ3”を開幕させるミセス。大森にフェーズ3に向けての抱負を尋ねられた藤澤は「たくさんのみんなに出会えて、楽曲を聴いていただいて、幸せなフェーズ2だった。だから、そんなみんなにフェーズ3ではもっともっとミセスのこと、メンバーそれぞれのことをより深く知ってもらって楽しんでもらって、『こんなところがさらに好きだな』ということを増やしてもらえるようになったらいいなと思います」と展望を語る。若井は「みんなの顔、本当によく見えるんだ! 奥のほうもバッチリ見えてるからさ。いっぱい僕たちにパワーを届けてくれるのが本当にうれしくて。今回の『BABEL no TOH』もそうだけど、フェーズ2でたくさんライブをしてきて。やっぱり皆さんがいるから僕たちはこうしていろんな活動ができているし、届ける場所があるから、次はどんな楽しいことをみんなとできるかなって考えてワクワクできる。本当に皆さん、いつもありがとうございます」と感謝の思いを述べた。
「東京ドームって果てしなく広くてとんでもない所なのは間違いないんですけど、ただ、皆さんとの心の距離が近いからでしょうか、いい意味でそんなに大きく感じないな!」と目を輝かせた大森。彼は「塔は建てられなかったんだろうね、きっと。バベルの塔がどうこうじゃなくて、僕は今回このツアーを回るにあたって表現したいことがあって。きっと塔を建てられなかったりとか、大事にしていたものが壊れたりとか、期待していたことが無駄になったりとか、そんなことの繰り返しなんだろうなって思っています、生活というのは」と話す。そして大森は「情けなくなることがあったり、基本的に人というものは愚かであるっていう。自分のことを惨めだな、情けないなって思うことが僕だってあるわけです。シャワーを浴びながら、『今日の俺、違ったな』って思うことがたくさんある」と明かし、「曲を書くうえですごく大切にしていることは……人というものは基本的にネガティブな生き物だと思っています。なので、どうせならポジティブになれる音楽を届けようと、せっかくなら楽しいことをしたいと思って、フェーズ2は走ってるわけですね。曲を書いてるわけです。どうせなら楽しいと思える日々を自分でちゃんと作っていきたい、大切にしたいと思ってる中で、今日めちゃくちゃ楽しかったです。どうもありがとう」と笑顔を見せた。
大森が「いつの日か今日の体験が、出来事が、誰かの言葉が、この空気感がどこかにつながって、みんなががんばろうとか楽しもうとか、些細なことでいいから、今日という日が『BABEL no TOH』が人生のどこかにつながっているといいなと思います。改めて、出会ってくれてどうもありがとうございます」と真摯に伝え、「フェーズとかいろんな話はありますけど、特にそんなに変わらないです。たくさんテレビにも出ていますし、スーパーどでかタイアップが決まるとうれしいですけど、皆さんへの感謝の伝え方、返し方というのは決してたくさん露出することではなく、ちゃんと我々がいいと思えるものを真摯に音楽としてちゃんと作って、しっかり曲を1曲1曲届けることだと思っています。なので、フェーズ3もどうぞよろしくお願いします!」と呼びかけると、会場はこれからのミセスへの期待がこもった大きな拍手に包まれた。そして「ANTENNA」でライブはラストスパートへ。「あなたの情けないところも弱いところもとりあえず1回、一旦、俺が愛してやる!」と大森は言い切り、あふれんばかりの愛と勇気をオーディエンスに送った。「GOOD DAY」では大森が民たちを引き連れて行進。青空の下で紙吹雪がキラキラと舞い、バビロンの街はハッピーなムードで満たされていく。「Magic」ではライトスティックが生み出す光の粒が街中に広がり、高揚感に満ちた掛け声とシンガロングも響き渡った。
白い光の向こう側へ
会場が暗闇に包まれると、いよいよ「DOME TOUR 2025 “BABEL no TOH”」はエンディングへ。静寂が広がる中、藤澤が繊細なタッチで透き通った美しい音色を紡ぐ。すると一筋のスポットライトの光に照らされた大森が「天国」をそっと歌い始めた。彼は白いスモークが漂う花道に立ち、ゆらめきながらも1歩1歩、足を前に踏み出す。花道の先端にたどり着いた大森は、切実さに満ちたむき出しの歌声を響かせ、ステージに膝をついた。メインステージではバビロンの人々が次々と白い光の中へと消えていく。その人々に続いて若井、そして藤澤もその光の中へと歩いていった。白い光を背にした花道の先端で、大森は目を閉じて自らの胸を何度も手で叩いたあと、何かに気付いたかのように後ろを振り返る。そして彼は客席に背を向けてゆっくりと歩を進め、右手を振って白い光の向こう側へと旅立っていった。
その後、スクリーンに映し出されたのは、美しい花々が広がる楽園のような世界の映像と、「TO BE CONTINUED TO “ELYSIUM”」というメッセージ。「ELYSIUM(エリュシオン)」は神々に愛された英雄たちの魂が暮らすとされている、ギリシャ神話に登場する死後の楽園だ。ストーリーラインの続編となる「ELYSIUM」でどのような物語が描かれるのか、楽しみにしておこう。
セットリスト
Mrs. GREEN APPLE「Mrs. GREEN APPLE DOME TOUR 2025 “BABEL no TOH”」12月20日 東京ドーム
01. Love me, Love you
02. CHEERS
03. アンラブレス
04. Feeling
05. パブリック
06. おもちゃの兵隊
07. WanteD! WanteD!
08. ライラック
09. Soranji
10. フロリジナル
11. ゼンマイ
12. 君を知らない
13. Soup
14. 絶世生物
15. Ke-Mo Sah-Bee
16. ア・プリオリ
17. Loneliness
18. ダーリン
19. コロンブス
20. ANTENNA
21. GOOD DAY
22. Magic
23. 天国
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#BABELnoTOH
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「ミセスがたくさんの人に寄り添えているのは当たり前のことではないと思う
いろんなもの、重たいものを背負ってるかもしれない、ミセスがほんのちょっとの彩りになればいいな。負けずにいたい
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