SPYAIRのギタリストでありメインコンポーザーを務めるUZが、初のソロアルバム「STATE OF RHYMES」をリリースした。
2019年にソロプロジェクト「STATE OF RHYMES」をスタートさせたUZは、2023年に初のシングル「Take My Wish」をリリース。以降も複数のソロ曲を発表し、今回念願だったというフルアルバムを完成させた。「STATE OF RHYMES」は作詞作曲だけでなくボーカル、レコーディング、ミックスもすべてUZが1人で手がけた意欲作。収録曲各曲の多彩な音楽性と細やかなアレンジの数々に、UZがこれまで培ってきたスキルの高さと音楽に対する深い愛情が反映されている。
本作のリリースを記念し、音楽ナタリーではUZにインタビュー。ソロ活動を始めた理由やバンド活動との相違点、「STATE OF RHYMES」の制作過程や各曲へのこだわりを語ってもらった。
取材・文 / 森朋之
ソロ活動の起点は「もっと自由に音楽を楽しみたい」という好奇心
──1stソロアルバム「STATE OF RHYMES」、いち音楽ファンとして、たっぷり楽しませていただきました。
うれしいです。ありがとうございます。
──ロックバンドのギタリストのソロアルバムと言えば、ギターがメインだったり、インストだったりという定番がありますが、「STATE OF RHYMES」はそうではなくて。作詞、作曲、トラックメイク、歌やラップを含めて、UZさんのルーツや音楽的素養がしっかり表現された作品だなと。
そう言ってもらえると何よりです。2019年にソロプロジェクト「STATE OF RHYMES」を立ち上げて、初めてシングルを出したのが2023年。もちろんSPYAIRというバンドを軸にしつつ、ソロも自分の中で大事にしてたんですよね。そこから試行錯誤しながらもいろんな曲を作ってきて。アルバムとして形にできたのは今回が初めてだし、集大成的な感じもありますね。
──そもそも2019年にソロプロジェクトを立ち上げたのはどうしてだったんですか?
セルフイメージとしてもオフィシャルなイメージとしても、SPYAIRはしっかり形ができあがっていると思うんですよ。そこから外れたことをやるのは難しかったし、だったらソロがいいのかなと。ブラックミュージックだったり、クラブで流れているようなダンスミュージックだったり、そういう音楽も個人的にはすごく好きなんです。でもバンドは生ドラム、生ベースだし、そういう音楽はなかなかやれない。ずっとバンドに命をかけてきたけど、少しずつ余裕も出てきて、ほかのこともやってみたいという気持ちになって。もっと自由に音楽を楽しみたいという好奇心ですね。
──なるほど。ブラックミュージックの入り口はなんだったんですか?
最初はヒップホップですね。地元の仲のいい友達がDJをやってたので、バンドをやる傍ら、そいつが出てるクラブに遊びに行くこともあって「こういう音楽もカッコいいな」と。その頃は今みたいにシーンがクロスオーバーしてなくて、ライブハウスとクラブはまったく別モノだったけど、そっちはそっちでキラキラして見えたんですよね。名古屋はヒップホップの文化がアツくて、それこそSEAMOさんとかHOME MADE 家族とか、メジャーで売れてる人たちもいました。どっぷりヒップホップにのめり込んで聴いてたら、今度はロックバンドのアツさ、素直さがカッコいいなと思えたり。それが自分の中で両軸になっていました。
──ロックとは違うルーツをもとにしているのが、ソロプロジェクトなんですね。
基本的にはそうですね。ソロプロジェクトを立ち上げたあと、SNSとかでソロ曲をアップしてたんですけど、最初の頃は「そんな引き出しがあったんですね」という反応が多くて。その後もときどき公開してたので、それを聴いてくれてる人たちはもう慣れていると思います(笑)。
──そうやってソロとしての作風を模索していた?
うん、それはすごくありますね。音楽性もそうだし、あとはやっぱり歌ですね。DTMはずっとやってきたんだけど、歌うのはほぼ初めてだったし、自分で歌う以上はそこにしっかり向き合わないとダメだなと。最初は自分で歌わなくてもいいのかなと思ってたんです、実は。アヴィーチーみたいに、トラックを作ってシンガーの方に歌ってもらうというやり方も考えてはみたけど、やっぱり自分で歌詞を書いて、自分で歌うほうがしっかり表現できるなと。ただ、試行錯誤の時期はかなり長かったですね。今もそうですけど。
──ボーカリストとしてのスタイルも探っていたと。
スタイルというとカッコいいですけど、歌唱のスキルですね。ムズいっす、歌は(笑)。
──ムズいですか。
めちゃくちゃムズいです。ただ、自分で実際に歌ってみると「結局、歌がすべてなんだな」と思って。SPYAIRでは曲を作ってギターを弾いているので「このギターソロを聴いてくれよ」みたいな気持ちもあるんですよ。でもソロとして歌ってみたら、どんなにトラックがカッコよくても、歌やラップがダメだと曲としての強度が低くなる。それがすごく身に沁みたし、だからこそ、自分で詞を書いて歌うべきだなと。
──自分で歌わないと、自分の作品にならない。
そうですね。もちろんベクトルの置き方は人によって違うでしょうけど、1人でちゃんとソロ作品を作りたくて。だから歌に向き合うしかないと。声の出し方1つで表現がまったく変わってくるので……歌って、「その人がもともと持ってるもの」みたいなイメージがあるじゃないですか。でもギターとかと一緒で、ちょっとずつ積み重ねていけば──本当にミリ単位でですけど──成長できると思うんですよね。
自分にしか書けない言葉を歌詞にしたい
──アルバム「STATE OF RHYMES」には2023年に発表された「Take My Wish」、今年リリースされた「Fly Higher」「Soloist」が収められています。そのほかの収録曲を作った時期はバラバラなんですか?
いや、去年からアイデアを溜め始めて、今年にかけて作った曲が多いですね。曲作り、トラックメイク、歌もレコーディングも全部自分でやって。ミックスも自分でやったので、もうそれぞれの曲に対するフレッシュさはないですね(笑)。
──ミックスも自分でしたんですか?
はい、大変でした(笑)。やれているかどうかわからないですけど、やるしかないなと。とにかく時間がかかるんですよ。判断するのは自分だけから、延々と向き合い続けて。締め切りにも遅れちゃって、マスタリングも1回延期してもらったり。でもやってよかったと思ってますけどね。
──では、収録曲について聞かせてください。1曲目はアルバムのタイトル曲「State Of Rhymes」。プロジェクト名でもありますし、ソロアーティストとしての指針となる楽曲ということでしょうか?
まずアルバムのタイトルに関しては、2019年の時点で決めていました。曲自体はそんなに前からあったわけではないんですけど、ヒリッとした空気感で始まるアルバムにしたくて、この曲がいいかなと。アーティストとしての指針というわけではないけど、そう受け止められてもいい曲ではありますね。
──「幕を開けたAnother starting line」という歌詞も、アルバムの始まりにふさわしいですよね。ちなみに「State Of Rhymes」というフレーズにこだわっているのはなぜですか?
うーん……この言葉を付けたのもずいぶん前なんで、どうしてこうなったのか定かじゃなくて(笑)。ただ、Rhyme(ライム / 韻)という言葉ってロックではあまり使わないじゃないですか。ブラックミュージック、ヒップホップでは当たり前に使われる言葉だし、そういう意味では「ソロプロジェクトでは、こういう表現をしていく」と示しているのかなと。アルバムのタイトルはこれしかないなと思ってました。
──もちろん歌詞の内容も重要。
はい。歌詞はそのときの自分の状態や哲学を表せるものだし、そこは個人的なものでいいと思ってるんです。多くの人の共感を狙ったり、誰にでも届きやすい言葉というより、せっかくのソロプロジェクトなので、自分にしか書けない言葉、自分自身が感じた思いをちゃんと曲にしたくて。そもそもヒップホップって、自分語りの世界じゃないですか。「俺はこれだけ金持ってるぜ」だとか(笑)、そういう文化の中で発展してきた音楽だし、リスペクトがあって。そこはしっかり表現できたのかなと思ってます。
──SPYAIRの歌詞はMOMIKENさんが担っているので、UZさんが詞を書くこと自体が新鮮です。
そうかもしれないですね。歌詞に対してもスタンスが変わってきていて。最初は「全部英語でもいいかな」くらいの感じだったんですよ。ラップはともかく、メロディの部分は日本語でメッセージを乗せるより、音の響きや聴き心地のほうが大事だよなと思ってたけど、書けば書くほど楽しくなってきて。今はしっかり日本語の歌詞を書きたいなと思ってますね。
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ソロをきっかけに変化したギターに対する考え方








