Sir Vanityが12月24日に2ndアルバム「cinéma」をリリースした。
Sir Vanityは声優の梅原裕一郎(G, Vo)と中島ヨシキ(G, Vo)、作曲家の桑原聖(B)、クリエイティブディレクターの渡辺大聖(VJ, Creative Director)からなるバンドプロジェクト。作品のほとんどは桑原が作曲を担当し、残る3人が作詞を手がけている。彼らにとって3年半ぶりのフルアルバムとなる「cinéma」は、8月に神奈川・KT Zepp Yokohamaで行われた3rdライブ「TO」の最後に披露された「MUSIC」を含め、計11曲が収められている。
音楽ナタリーでは「cinéma」の発売を記念して梅原と桑原の2人にインタビュー。アルバムの制作秘話はもちろん、3月に控える斉藤壮馬との2DAYSツーマンライブへの意気込み、来年の活動のビジョンなどを語ってもらった。
取材・文 / 小松香里
趣味の延長で始まったSir Vanity
──Sir Vanityは2019年7月に以前から面識があった4人がサバ料理専門店で会食したことをきっかけに結成されたそうですね。その会は桑原さんが呼びかけたそうですが、具体的にどんなバンド像を目指していたのでしょうか?
桑原聖(B) 目標みたいなものは特になかったですね。我々はそれぞれ別分野の仕事をしていますが、基本的にはどこからかお仕事をいただく立場であって、自分たちから好きなように発信していく場がないんです。だから趣味の活動という意味も込めて「バンドをやろう」って話からスタートしたと思います。
梅原裕一郎(G, Vo) 当時、桑原さんは「あまり大人を介さない活動ができたらいいね」と話していたので、仕事というよりはやりたいことを部活のようにやれたら面白いなと思いました。
──梅原さんはSir Vanityの多くの楽曲で作詞を担当していますが、歌詞を書いたことはあったんですか?
梅原 なかったですね。最初はオリジナル曲を作る予定もなくて、「とりあえずバンドをやってみよう」という話からギターを買いに行きました。で、桑原さんが2曲分のデモを作ってくれて、歌詞はボーカルである僕と(中島)ヨシキがそれぞれ書けばいいんじゃないかという話になって。
桑原 最初に作った「Vanity」という曲は梅ちゃんの作詞だし、バンド名のSir Vanityも梅ちゃんが名付け親なんですよ。「Vanity」の歌詞が上がってきたときに、「自分たちがやりたいカッコいいことってこういうことなのかな」と思えたのを覚えてますね。
梅原裕一郎の作家性
──梅原さんは2ndアルバム「cinéma」で複数曲の作詞を担当しています。
桑原 今回は4曲だから一番多いんじゃない?
梅原 デモが上がった段階で歌詞を書きたいと思った人が「俺書きます」と立候補することが多いんですが、僕から希望を出すことはないんですよ。だから桑原さんから「この曲は梅が書いて」と言われた曲や、ほかのメンバーに割り振られていない曲を担当していたら結果的に4曲になりました(笑)。
──桑原さんはメンバーそれぞれの作詞家としてのタイプを把握している?
桑原 ある程度はつかめてはいるんですが、まだまだわからない部分もたくさんありますね。僕が簡単にテーマを決めてそこからストーリーを膨らませる場合は、どんなジャンルにでも対応できるヨシキに書いてもらうのがいいかな。テーマが明確な場合は(渡辺)大聖が向いていて、彼が今回のアルバムのコンセプトを決めたので表題曲「cinéma」の歌詞も書いてもらいました。梅ちゃんの歌詞については、自分が想像し得ない面白い読み物という印象があります。
──梅原さんの歌詞は古風な言葉を使う歌詞が特徴的ですよね。
梅原 古風な歌詞ばかり書いていたら普通の言葉で書けなくなってきたんです(笑)。僕は何かとっかかりがあるほうが書きやすいですね。
──今作だと「御免あそばせ」と「とっぴんぱらりのぷう」がまさに古風な言葉を使った歌詞になっています。まず、「御免あそばせ」は桑原さんのデモを聴いてどんな印象を持ちましたか?
梅原 デモが上がってきたときに桑原さんから「バズる歌詞にしてほしい」と言われたのは覚えています。仮で「歌舞伎のダンス」というタイトルが付いてたんですけど、「歌舞伎町の“歌舞伎”で日本の伝統芸能じゃないよ」と言われて、逆に「歌舞伎町をまったく意識せずに、古風な歌詞にしてやろう」と思いつつ、強い言葉を使うとキャッチーでバズりやすいのかなと考えながら歌詞を書いていきました。聴いてくれた人が自由に想像してくれたらいいんですが、僕の中でのテーマは切腹。昔から切腹が好きなので、自分の趣味を詰め込んだ歌詞になってます。
桑原 切腹が好きって変わってますよね(笑)。こういうアプローチで来るんだっていう驚きがありましたし、単純にめちゃくちゃ面白い歌詞で。皮肉めいた言葉もちりばめられてるし、期待以上の仕上がりになりました。バズるような曲をリクエストしましたが、Sir VanityはTikTokもやってないし、バズを狙いにいくような活動をまったくやってないんですよね(笑)。でも、お客さんが真似したくなるような曲を作ってみたいなと思ってお願いしてみました。
──バズることは作曲の時点から意識していたんですか?
桑原 そもそもキャッチーな曲は好きなので、これまでのSir Vanityの曲を作る際も意識はしていたんですが、例えばずっと一部分がループしたり、音楽的にバズるようなアプローチはやったことがなかったんで、1回やっておきたいと思いました。それで、ダンス要素が強いアップテンポの曲にして、メロディをリフレインさせつつコール&レスポンスできるような曲にしました。
桑原聖がイメージしたのは映画のようなアルバム
──「とっぴんぱらりのぷう」はミドルテンポの壮大なバラードです。桑原さんはどんなイメージで作曲したんでしょう?
桑原 これまで“どバラード”みたいな曲がなかったので1曲書いてみたかったんです。悲壮感が漂うバラードというよりは、前向きなバラード。アルバムのコンセプトとして、映画を観ているかのように1曲1曲にストーリーがある作りにしたくて、「とっぴんぱらりのぷう」は映画のエンドロールで流れるようなイメージを意識しました。
──今話していただいたことは作詞する前に梅原さんに伝えたんですか?
桑原 バラードだということしか伝えなかったです。仮タイトルが「まだ見ぬ明日へ」だったので前向きな歌詞を想像していたんですが、全然前向きではない歌詞が上がってきました(笑)。
梅原 前向きな歌詞は書けないんです(笑)。
桑原 梅ちゃんの歌詞はだいたい死が漂ってるからね(笑)。
梅原 そうですね(笑)。この曲調でいいこと歌っている風で実はめちゃくちゃ後ろ向きなほうが面白いなと思ったんです。あと、僕は辞世の句が好きなので、「とっぴんぱらりのぷう」ではその部分も表現したかった。自分の中ではめちゃくちゃ前向きに終わりを捉えてはいます。
桑原 職業作家をやっていると、バラードを作ってほしいという発注は多くないんです。タイアップが付いていたら別ですが、バラードは配信で伸びづらいですから。でも、自分たちのバンドの2作目のアルバムに1曲入ってたら聴き応えとしていいんじゃないかなと思いました。僕たちはめちゃめちゃ楽器がうまいバンドではないので、テンポが遅ければ遅いほど、テンポをキープしたり、少し表情を付けるのが難しいんです。「とっぴんぱらりのぷう」も最後までBPMを1上げるか下げるかで悩んだ記憶があります。
普段の作家仕事だと味わえない感覚
梅原 「とっぴんぱらりのぷう」は歌うのが難しかったですね。あえてあまり音に歌詞を当てはめずに無理やりつなげたりしたんですけど、めちゃくちゃ歌いづらくて。
桑原 (笑)。すごいところで音を切るなって思いました。
梅原 そういうアプローチが好きでよくやるんですけど、この曲はそれだと歌いづらいので、ライブで披露するならしっかり練習しなきゃな。
桑原 ヨシキは歌のアプローチがだいたい想像できるんですが、梅ちゃんは歌も歌詞もまったく読めないんですよ(笑)。普段の作家仕事だと味わえない感覚で楽しいです。
──それもバンドの醍醐味ですよね。
桑原 そうですね。最近ヨシキもそういうところが増えてきた気がします。
梅原 僕も今回のアルバムの曲を聴いてそう思いました。
桑原 ヨシキはSir Vanityを組むずっと前から作詞をやっていたので、少しずつ面白い変化があるなって思います。
──どの曲でそう感じましたか?
桑原 「明日ハレるかな」と「MUSIC」は崩してるなと思いました。「明日ハレるかな」は覚えるのに苦戦しましたね。
梅原 これまでのヨシキの曲は基本的に音符1個に対して1音節がはめてあったので歌いやすかったんですが、「明日ハレるかな」は歌詞がシンコペーションしてる感じで、歌詞を見ながら歌ってもスムーズにいかないんです。個人的にはすごく好きな歌詞ですね。歌い慣れればガチっとハマるのかなと。
次のページ »
Sir Vanityで音楽をやる醍醐味



