音羽-otoha-が1stフルアルバム「LAST PLANET」をリリースした。
アルバムにはアニメ「黒執事 - 寄宿学校編 -」のオープニングテーマ「狂信者のパレード -The Parade of Battlers」、「Dr.STONE SCIENCE FUTURE」第2クールのエンディングテーマ「no man's world」といったアニメタイアップ曲を含む全12曲を収録。今の音羽-otoha-の思いを赤裸々に詰め込んだ、彼女にとって人生初のフルアルバムとなっている。さらに本作に付属するブックレットには全編自筆の40ページにおよぶマンガが掲載されており、楽曲の背景にあるストーリーを絵で感じることもできる。
音楽ナタリーでは音羽-otoha-にインタビューを行い、アルバムの根源にある彼女の思いに迫った。
取材・文 / 蜂須賀ちなみ撮影 / Kyutai Shim
今絶対に歌うべきだった「イルシオン」
──アルバムのお話の前に、今年10月に配信リリースされた楽曲「イルシオン」について聞かせてください。2019年に活動休止したバンド・FERN PLANETのカバーですが、レコーディングにはFERN PLANETのベースの山口メイ子さんも参加されたそうですね。
ありがたいことに、いろいろなことが奇跡的に重なって。このタイミングで、山口とレコーディングできました。
──なぜカバーしようと思ったんですか?
今回、フルアルバムを出そうという話と同時に出てきた案ではあって。初のフルアルバムということで、自分のすべてが詰まった作品になるんじゃないかと思ったんですよ。そのうえで、「これが今の自分です」と語るにはまだ1つ足りないものがあるなと。アルバムには収録しないけど、大事な布石として、今絶対に歌うべきだと思いました。
──リリース後、どのようなことを感じましたか?
やってきたことは間違っていなかったな、と。活動歴も長いので、嘘をつかずに物事を続けていくことの正しさや難しさをずっと感じていたけど、自分の信じたことを崩さずにやってきたんだとひとつ証明できて、救われた感じがしました。
──音羽-otoha-さんには、フェーズが変わるタイミングが今まで何度かありましたよね。バンドをやったり、グループに所属したり、ソロのクリエイターになったり。
そうですね。大きな節目で名前とか活動スタイルが変わったけど、それ以外にも小さなフェーズの変化が自分の中で何回もありました。
──変化すること、生まれ変わることを望むのはなぜだと思いますか?
明確な理由はわからないですけど、自分のことを一生好きになれないというか。“今の自分”に納得していない感じがずっとあるんですよね。“理想の自分”が常に目の前にいて、そいつとの距離を極力なくそうとしているのに、なかなか近付けないような……そういうもどかしさがあって。そいつがすごく憎たらしく思えるときもあれば、うらやましいときもある。そんな不思議な存在がいるんです。
──今のところ、理想像と実際の自分が一致したことはないんですか?
ないですね。自分の価値観も、なりたい姿も日に日に変わっていくものなので。だけどそれは悪いことじゃなくて。追いつけないもどかしさも全部作品に落とし込んでいけているし、どんどん新しい自分になっていくことは、進化しているということでもあると思います。重い言い方になってしまいますが……人生をあきらめてしまう人もいるわけじゃないですか。私は曲を書いたり歌ったりする人間だから、「命一つでも生まれ変われる」ということを体現したくて。変化していく自分のリアルな姿を見せることで、聴く人を肯定したい……いや、逆だな。自分自身を肯定してあげたいという気持ちを持っているんだと思います。
「伝える側の人間になった」自覚
──アルバムの収録曲「狂信者のパレード -The Parade of Battlers」には、「今も何処かで帰れないあの日を悼んでる」という歌詞がありますよね。過去を切り離しているような表現だと感じますが。
そうですね、確かに。
──だけど今回の「イルシオン」カバーは、音羽-otoha-さん自身の手で、過去と現在をつなげる行為だと感じました。何か心境の変化があったのでしょうか?
「自分のことを100%好きになれない」というのはずっと変わってないんですけど……1つ変わったのは、過去の自分を殺すのではなく「ちゃんと愛していきたいな」と思えるようになったこと。明確なきっかけがあったわけではなく、徐々に変わっていったんですけど、たぶん、「伝える側の人間になった」という自覚が生まれたからだと思います。いつも曲を聴いてくださっている方からお手紙をいただいたり、直接声を聞いたときに「自分が歌うことは確実に誰かに届いていて、その人の何かをほんの少しでも変えているんだ」と自覚して。そこから、自分の考え方も変わっていきました。
──「伝える側の人間になった」という自覚が生まれたことで、書けるようになった曲もあるのでは? 例えば、「あのミュージシャンのせいで」とか。
これ、だいぶ歌うのに覚悟がいる曲なんですよ。自分にとっての“あのミュージシャン”という存在ももちろんいるんですけど、そのうえで、あなたにとっての“あのミュージシャン”になるんだと歌っているわけで。書きながら「これ、本当に出すんだよな」「みんなの目を見て歌うんだよね?」と思ってました。
──だけど歌おうと決めた。
はい。腹をくくりました。いい怖さがあります、現在進行形で。
「歌を書かないと生きていけない」って気付いた
──「LAST PLANET」、素敵なアルバムになりましたね。タイトルに込めた思いもお伺いしたいです。
「LAST」は「最後の」という意味もあれば、「続く」という意味もあって。終着点であり、続いていく……今までの自分の音楽人生すべてが地続きになっていることを示したいという思いで、このタイトルを付けました。
──音羽-otoha-さんにとって、人生で初めてのフルアルバムです。完成後の今の心境や、制作にあたって考えたことを聞かせてください。
とにかくうれしいです。このインタビューで話している時点ではまだリリースされていないので、もう明日にでも流出させたいくらい(笑)。私が出した言葉や音は、誰かの心や自分自身の中にちゃんと蓄積されていくものだと思っていて。だからこそ冒頭でも言った通り、「これが今の自分です」と示すような、未来に残すタイムカプセルみたいな作品にできたらと思いました。「今、自分はどういう人間なのか」という問いと向き合うことから始めたんですよ。その答えは人に聞いてもわからないし、自分でもわからない。「今、自分の歌を聴いてくれている人たちは、どんなふうに受け取ってくれているのか」「私はどんな人に歌っていきたいのか」ということも含めて、迷路をさまようようにすごく考えました。
──その「自分と向き合った」結果が、サウンドにも表れていますよね。
そうですね。インディーズ初期に比べると、バンドサウンドの曲が多くて。いろいろと冒険してきたけど、自分の本質を思い出して原点に戻ってきました。その感覚は「あのミュージシャンのせいで」や「engine」、「地球最後の一日」あたりに顕著に出ているなと。思春期に影響を受けたミュージシャンの音楽を聴きながら作った曲も多かったです。そのへんはあまり隠していないから、私のことをよく知っている人は「あのバンドっぽいな」と気付くかもしれない(笑)。だけど冒険を経て新しく得たものや発見もあったので、いろいろなものの融合になっていて。聴く人にとってちょっと新鮮に感じる要素もあるはずです。
──歌詞もとても素直だなと感じました。1曲目「地球最後の一日」の「こんな強い歌を歌うのは 自分が弱いから」という歌い出しから、音羽-otoha-さんの人間性がダイレクトに反映されていますよね。
自分すぎてめちゃくちゃ恥ずかしい(笑)。アルバムの1曲目でもありますし、このアルバム、そして今の自分を代表する曲を作ろうと思って。最終的にどう着地させるかを決めずに書き始めたんですよ。最初に「たとえば今日世界が終わるなら 行き先はどうしよう」というフレーズがありますけど、そこから先は本当に「どうしよう?」と悩みながら書いていて。自分自身に問いかけて、悩んで、答えに行き着くまでの様子が、全部歌詞に反映されているんです。
──「行き先はどうしよう?」の答えとして「明日の歌を書こう」というラストの歌詞が出てきたとき、どう思いましたか?
びっくりしました。このフレーズもあまり意識せずに書いたんですけど、最近「歌を書かないと生きていけない」ってはたと気付いたんですよ。たぶんずっとそう思っていたんでしょうけど。このフレーズが出てきたということは、やっぱりそうなんだなと。
次のページ »
「その傷はいつかあなたの武器になるから」と伝えたい




