Laura day romance「合歓る - bridges」インタビュー|2部にわたる複雑な物語の行方は?

今年2月にリリースされた、Laura day romanceによる2部作アルバムの前編「合歓る - walls」。ローラズの持つ多彩な音楽性やエバーグリーンなポップセンスが光るこの作品は、断片的でありながらも確かなつながりを持つ10曲が主人公2人の関係を浮かび上がらせるというコンセプチュアルな内容も相まって、音楽好きの間で話題となった。

そんな前編のリリースから1年弱。後編「合歓る - bridges」が発表された。2作にまたがった物語を締めくくる完結作。しかしそこに用意されていたのは、わかりやすい大団円ではなく、ようやくつかみかけた「合歓る」の輪郭をぼやけさせてしまうような複雑さに満ちた物語だった。

音楽ナタリーでは、前編リリース時のインタビュー(参照:Laura day romanceはなぜ今、長編アルバムを作るのか?2部作の前編「合歓る - walls」を語る)に続いて、ローラズの3人を取材。タイトル、ジャケット、歌詞、サウンド……あらゆる角度から「合歓る - bridges」という作品の様相を浮き彫りにしていく。

取材・文 / 石井佑来撮影 / 笹原清明

自分たちの挑戦を受け止めてもらえた

──2部作の後編「合歓る - bridges」についてお聞きする前に、まずは前編「合歓る - walls」の反響についてお聞かせください。側から見ていて、これまでのLaura day romanceの作品の中でもかなり高い評価を得ているように思えたのですが、皆さんの実感はいかがですか?

鈴木迅(G) 「合歓る」2部作は、自分たちがどれくらいのスケール感を打ち出せるかというチャレンジでもあったんですけど、それを抵抗なく受け入れてもらえたという実感はありますね。スケール感を大きくすることで逆に安っぽくなったと思われるリスクもあるけど、少なくとも自分の見えている範囲ではそういう声は上がっていなかったので。自分たちの挑戦をスッと受け止めてもらえた印象です。

Laura day romance

Laura day romance

──そのスケール感というのは、2部作という構成以外も含めて?

鈴木 サウンド面も含めてです。例えば2ndアルバム(2022年3月発売の「roman candles|憧憬蝋燭」)はフォーク的な音を軸に、そこにロックの要素を足したりしていて、どこか密室感があったと思うんですよ。新たな世界をそこに広げるというよりは、自分の手のひらに収まるような規模の作品。そこからのステップアップという意味合いも、この「合歓る」にはありました。

──なるほど。井上さんと礒本さんは、反響についてはいかがですか?

井上花月(Vo) 本当に褒めていただくことばっかりで……疑わしいなと思ってます。

──疑わしい、ですか(笑)。

井上 全員が全員褒めてくれるので「本当かな?」と(笑)。それくらいいろんな方に評価していただいて。作品の消費サイクルがすごく早いこの世の中で、わりとがんばってるなと思います。今も聴いてくれている方もたくさんいるし、「繰り返し何度も聴いてしまう」という声が届くのがすごくうれしいです。

礒本雄太(Dr) 僕もいろんな知り合いから感想が送られてきたりはしたんですけど、後編の制作もあったので、反響を感じる余裕がなかったというのが正直なところで。気付いたらすごく評価されていた、という感覚なんですよね。

礒本雄太(Dr)

礒本雄太(Dr)

──前編をリリースした頃にはもう、後編の制作が始まっていたわけですもんね。世間的な評価で言うと、後編次第で前編の評価が変わっていく可能性もあるわけですし。

鈴木 そうなんですよ。例えばSNSで年間ベストがどうこうという話題が上がったときに、「まだ後編が出てないからなあ」と言ってる人がいて。後編次第で「やっぱやめた」となることもあり得るのかと(笑)。

──でも、後編が控えているからこそ「続きが待ち遠しい」という声もたくさん届いたんじゃないでしょうか?

鈴木 それはけっこうありました。さっき井上が言ったように、今はとにかく消費のサイクルが早いので、そこに抗うために2部作にしたというのもあって。後編を1つのアルバムとして出すことで、もう一度前編のことを思い出してもらえるといいなと思ってます。

自己との対話と“客観性”

──「合歓る - bridges」は前編以上にLaura day romanceの“説明しすぎない姿勢”が出ていますよね。お聞きしたいことがいろいろあるのですが、はじめに作品を象徴しているであろう“ガワ”のことについて聞かせてください。まず、前編「合歓る - walls」と対になる「合歓る - bridges」というタイトルは、どのように付けられたのでしょうか?

鈴木 全体のコンセプトが定まってきた頃に、ここからどんな要素を入れるべきか参考にできそうな作品を聴いたりしていて。その中にジョン・レノンの「Walls and Bridges」(邦題:心の壁、愛の橋)という作品があったんですよ。そのタイトルを見て、「これは自分が描きたいテーマに近いかもしれない」と思って。ただ、自分が描きたいテーマ的に「and」ではないなと。「それぞれの持っているカテゴリーが壁になるのか橋になるのか」というニュアンスを出したかったので、前後編それぞれに副題として付けることにしました。

鈴木迅(G)

鈴木迅(G)

──ということは、前編の制作時点で後編が「合歓る - bridges」になることは決まっていたんですね。

鈴木 決まってました。なんなら最初は、前編を「合歓る – walls(or bridges)」にしようと思っていて。ただ、あまりにややこしいということで今の形になりました(笑)。

──前回のインタビューで歌詞における具体性と抽象性についての話をしていて。前編は具体と抽象を行ったり来たりしつつ、聴き手を煙に巻きながら主人公2人の関係性や状況を浮き彫りにしていく筆致が大きな特徴になっていたように思えます。それに比べると、後編は歌詞の抽象度がかなり上がっているのではと。

鈴木 その違いはあるかもしれないですね。前編は過去の思い出をたどるシーンがあったりもしたので、具体的な情景描写もけっこう入れていて。一方で後編は主人公の1人が内省している曲が多いので、景色云々ではなく自己との対話が連続している。

──それは意図的に前編後編でテイストを変えたわけではなく、自然とそうなった?

鈴木 後編では「自分との対話を経て現実に戻っていく」という過程を描きたかったんですよ。それを形にしたら自然とこうなりました。抽象度が上がっているというか、景色がぼんやりしている感じは確かにあると思います。

──その違いも相まって、ひと口に「続編」と言っても単純に地続きなわけではなく、前編後編でレイヤーが異なる印象を受けました。同じ人間についての話ではあるけれど、どこから見るかという視座がまた違うというような。その違いは、前編のジャケットを外側から眺めている、ある種メタ的なアートワークにも表れていると思いますし。

井上 ジャケットは今回も私と友達で考えたんですけど、客観性みたいなものを出したくて。このアルバムでは、2人の関係性のすべてを描いているわけではなく、大きな流れをひとすくいしたうちの1つを描いているイメージがあるんです。なので「自分たちの関係性を振り返ったときに、2人がどう思うか」というのをジャケットでも表現したかった。実際、内省を経て現実へ戻っていく過程が描かれているとのことだったので、自分たちを見つめるこのアートワークはぴったりなものになったのかなと。

井上花月(Vo)

井上花月(Vo)

鈴木 ぴったりだと思いますよ。「自分でこれ以上のものを考えろ」と言われても浮かばないぐらい。

礒本 何も情報を渡されていない自分でも、「客観視する」ということが大事な要素になっているのはわかるので、パッと見てそれが伝わるこのジャケットはすごくいいなと思いますね。