2026年1月22日に東京・新宿LOFTで開催される、春ねむりと大森靖子のツーマンライブ。これは長年大森のファンであることを公言してきた春ねむりが、デビュー10年の節目に覚悟を決めて自らオファーした念願のステージだ。
音楽ナタリーではこのライブを前に、2人の対談をセッティングした。いざ対談が始まると、憧れの存在を前にした春の緊張感と、彼女のまっすぐなリスペクトを受け止める大森の言葉が交錯。そこから見えてきたのは、互いへの深いリスペクトと、表現者としての矜持だった。当日のステージ上で繰り広げられるであろう熱いパフォーマンスを予感させる、濃密なトークをお見逃しなく。
取材・文 / 宗像明将撮影 / 汐留シユ
公演情報
春ねむり presents「生存の技法」春ねむり×大森靖子
2026年1月22日(木)東京都 新宿LOFT
<出演者>
春ねむり / 大森靖子
「ポスト大森靖子」たちが大森さんの真似してるのが許せなかったんです
──お二人が会うのは7年ぶりだそうですね。
春ねむり たぶん2018年の「BAYCAMP」以来ですね。そのときは、大森さんの特典会に並んだんですよ。「特典会やってる、行ってきます!」みたいな感じで。その前にもご挨拶はしたことはあって、勝手にライブを観に行ってたんです。
大森靖子 何回かサインで名前を書いたことがありますね、「春ねむりちゃんへ」って。
──楽屋に行ってもいいのに、なんでそんなに春さんは大森さんに対して奥ゆかしいんですか?
春 いや、そういうのはしないもんっていう(笑)。
大森 「しないもん」、ウケる。わかります。めっちゃわかる(笑)。
──2016年の「BAYCAMP」で初めて会ったとき、春さんは「出番後わたしの女神大森靖子さんと写真を撮っていただきました 泣きました」とツイートしていましたね。マネージャーさんによると号泣したとか。
春 そうですね。ちょっと大人になったんで、会って即、号泣しないぐらいには成長してます。でもこのあと、帰りの車の中で泣くかもしれません(笑)。
大森 めっちゃ好きでいてくださるのに、「好きじゃないよ」っていうスタンスの方が多いので、まっすぐ「好きです」って言われることって意外にないんですよ。「大森靖子チルドレン」って思われないようにしたいのもわかるし、私も銀杏BOYZを聴いてると言わずにメジャーデビューしたのでわかるんですけど、「同じにされたくない」とまで言われると、「ごめんね」って気持ちになる(笑)。だから、すごくありがたい存在です。
春 自分は弾き語りやバンドじゃないんで、「好きです」って言っても、「お前はこっちじゃない」みたいな感じだから(笑)、言いやすさはあるのかもしれないです。
大森 「好きなんだね」で終わり(笑)。
──2017年に春さんのライブを観た人が「大森靖子以降の女の子」と書いたブログがあって、春さんがそれを引用して「大森靖子さんとツーマンするまでぜったい音楽諦めない生き延びる」とツイートしていましたね。
春 大森さんが作ったカルチャーを受け取って、自分が何をするかがすごく大事だと考えてたので、「ポスト大森靖子」と見なされうる人たちが、大森さんのめっちゃ真似みたいなことをしてるのが、自分は本当に許せなかったんです(笑)。
大森 どのアーティストもありますよ(笑)。
──春さんが初めて大森さんの曲を聴いたのはいつ頃でしょうか?
春 高校生のときです。もう「PINK」(2012年発売アルバム「PINK」収録曲)で「この人、何?」ってなって。
大森 古参やん!(笑)
春 「なんもわかっとらんのに歌っとんの馬鹿やないって言われました」って、すごく反語的な言葉の使い方だなと思って、「これを日本語の現代口語でできる人がいるんだ、カッコいい」って感じでした。大学生になって、いっぱい音楽を聴くようになって、「このリズムの弾き語りヤバいな」って二重に食らうみたいな。
大森 うれしい! 本格的に食らってくれてる(笑)。
──2020年に僕が大森さんにインタビューしたとき、反語のような日本語表現はもう伝わらないんじゃないかと言っていましたよね。
大森 ありましたね。
春 そのインタビューを読んでいて……(頭を両手でかきむしりながら)時代……。
大森 現場レベルでやれば伝わるんですけど、ちゃんと観てない人には伝わらないので、こっちが媒体によって変えていくしかないですよね。
春 インターネットでは絶対に伝わらないと思います。
道重さゆみ、大森靖子、春ねむり
──ライブの現場だと伝わるわけですよね。今回の対バンはどういう経緯で決まったんですか?
春 お誘いして(笑)。自分が最初のCD(2016年発売ミニアルバム「さよなら、ユースフォビア」)を出して来年で10年なので。私は大森さんが生んだフォロワーの中で一番、大森靖子的でないなって思ってるし、今だったらわりと対等に……って言うとおこがましいんですけど、対等にぶつけられるぐらいには自分がライブをできるようになったかなと思って。
大森 奥ゆかしい(笑)。
春 ただ好きだからやってる、っていうものを見せても意味がないというか(笑)。「覚悟が決まったから対バンしたんだな」って感じてもらえるライブを自分がしないといけないなと思いました。
──春さんがさっき言った「一番、大森靖子的でない」というのは、どんなところでしょうか?
春 大森さんは大切な信念を「かわいい」を軸に表現されてると思うんですけど、私は「かわいい」から「カッコいい」を受け取って、気高く生きることや凛々しくいることを選んでるなって思ってるんです。「かわいい」のフォームに行ってないところが、「大森靖子さんの影響を受けて、なんでお前はそっちへ?」みたいなところだと思うんですけど(笑)、私の中ではすごく整合性が取れてます。
大森 何か続けていくには、やっぱり男気みたいなものがないとできない。甘えで「かわいい」をやっている人って、絶対に消えていくんですよね。一方で「自分のかわいいはこうだから、こう作らなきゃ」を突き詰めている人って、創造している人だから、まったく逆のタイプで。私がずっと応援してきた道重さゆみさんはその姿勢を完遂した感じがするので、道重さんにも「ずっとカッコいいなあ」って思ってました。「私が一番かわいい」って言うことが受け入れられなかった時代からずっと言い続けて、今「自分はかわいい、イェイ!」って言うのが当たり前の時代になったけど、道重さんの貫いた「かわいい」は絶対に違ったな、って。どこかにちょっとした男気を感じ取ってたんですよね。「ロックだなー」と思って好きだったんで、そこが伝わって連鎖しているのかなって思います。
──それが春さんにちゃんと伝わっているわけですね。
大森 道重さゆみ、大森靖子、春ねむり。
春 恐れ多いです(笑)。
──春さんの初期作品には大森さんの影響を感じることもありますが、今はまさに独自の道を行って、それでも大森さんを前にすると、こんなに恐縮するのが意外です。
春 恐縮しないしゃべり方がちょっとよくわからないですね(笑)。
大森 ダイレクトにライブをずっと観てくれて、まっすぐにはい上がって、自分で活動している偉い人っていう認識です(笑)。
──春さんのマネージャーさんによると、大森さんの生誕祭に花を贈ったこともあるそうですね。
春 恐れ多いので、最初は「贈らなくていいです」って言ったんです。花に「春ねむり」って名前が並ぶのがもう恐れ多い……わかりますか?(笑)
大森 花が多いほうがうれしいですけどね(笑)。
春 「見て!」みたいな感じになったら、ちょっと恥ずいですよね。存在を認知されるのが恥ずい。
大森 私は「うれしい」しかない(笑)。
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ハロプロを源流とした「休符は鳴らすもの」という考え方


