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Jonah どっか
小さな心の世界から生まれた“独歌”がこの世界の“どっか”にいる人へ愛を与える──ささやかで尊い成長の歌
文 / 天野史彬
2025年1月にリリースされたデビュー曲「エコー」から今に至るまで、Jonahが発表してきた楽曲は、常に「ひとり」の人間の心象にフォーカスした作品だったように思える。それが、どこかの空想上の街角で必死に息をする若者を想像させる歌であれ、Jonah自身を想起させるパーソナルな質感の歌であれ。だからこそ、この2025年のクリスマスイブにリリースされた「どっか」という楽曲は、「ひとり」の心に寄り添い続けたJonahの2025年を締めくくるにふさわしい。歌詞を読めばわかるが、「どっか」とは「ここではないどこか」のことであると同時に、「独歌」ということでもある。
前作「私はね。」に引き続き、サウンドプロデュースを務めたのは、Ryo'LEFTY'Miyata。はかなく透明感があり、美しさの中にも生々しさを宿すサウンドは過去最高のスケールの大きさも感じさせる。「薄眼で見る あの日のじゃない海」と歌われる歌詞の世界観に呼応するように、サウンドの中にはかすかに海の波の音のようなものも入り込む。少し進んでは、立ち止まり、二の足を踏み、また進もうとする……そんな心の軌道に並走するような饒舌なドラムも、温かくて、優しい。
冒頭で「こんなに泣いてさ みっともないね」と歌われる、そんなこの曲の主人公はまるで大切なものを失ったばかりのように宙ぶらりんだ。でも、歌が進むにつれて、主人公の心は少しずつ再生していく。「どっか」という言葉は、どこに向かえばいいかわからない所在のなさが生むものではなく、「この世界に確かに存在するはずのどこか」へと言葉のニュアンスを変化させていく。Jonah本人のライナーによれば、この曲は「“あの日” に置き去りにした痛みと向き合いながら、他者への依存から抜け出し、自分の歌を取り戻していく物語」だという。これは「もらうこと」から「分け与えること」へと自身のアイデンティティを変化させていく人間の、ささやかで尊い成長の歌。小さな心の世界から生まれた「独歌」は、この世界の「どっか」にいる誰かに、愛を与えたいと願っている。
Jonah「どっか」Music Video
Jonah(ジョナ)
イギリス人の父と日本人の母を持つシンガーソングライター。2007年、高知県生まれ。eggmanとNTTドコモ・スタジオ&ライブによる、次世代バンドおよびグローバルアーティストの発掘・育成を目的としたオーディションプロジェクト「Catching Wave Audition 2024」に出場後、2025年1月にプロジェクト内で発足されたレーベル・Scrum Wave Musicより第1弾シングル「エコー」を配信リリースした。最新曲は12月にリリースされた第6弾配信シングル「どっか」。
