
猫と音楽家の二重唱 第4回 [バックナンバー]
ポルカドットスティングレイ雫の幸福度&生涯年収を100倍上げる黒猫ビビ
「猫は人間より崇高な宇宙のような存在だから、解明し尽くせるようなものではない」
2025年5月29日 14:22 9
鳴き声もたっぷり「ねこのうた」制作秘話
雫が関わった猫絡みのプロジェクトといえば、やはり
南波志帆「ねこのうた」ミュージックビデオ
「ビビの鳴き声は使いやすいんですよ。キンともしてないし、ガサッともしてない。まめともけとも声のキャラクターが違うので、三者三様ですごく使いやすかったです。ピッチをいじって歌ってるような声にするにはビビの鳴き声が適しているので、イントロではビビの声を使ってます。中間のギターパート(宇宙パート)では、まめともけの声を配置してみました。かわいい曲になりましたね」
そのように雫は楽曲制作においてたびたび猫の鳴き声を使っているわけだが、サンプリングソースに適した猫の鳴き声とはどのようなものなのだろうか。
「ギャ!っていう感じの声のネコちゃんもけっこういるじゃないですか。あまりギャンとした声だと、ピッチをいじって楽器みたいな使い方をするとき、ピッチの部分よりもギャ!のほうがキャラクターとして前に出てきちゃうんですよ。なので、あまり声のキャラクターは強すぎないほうが扱いやすいですね。あと、駄々をこねているときや怒っているときの声も、ポイントで飛び道具的な使い方をするんだったらいいと思いますね。ただ、ビビはそういう声も出さないし、クラッキングもしないんです。シャーッて言うこともまったくなくて、おそらく出し方を知らないんだと思います。常にご機嫌なので、そういう声を出す気持ちにならないのかもしれない」
好きすぎて曲にできない
ところで、これほどまでにビビのことを愛しているにもかかわらず、ポルカドットスティングレイには猫をモチーフとした曲がほとんどない。それはなぜなのだろうか?
「ビビのことが好きすぎて曲にできないんですよね。曲を作る以上は4分とかに収めなきゃいけないし、歌詞を書こうと思ったら韻を踏んだり、語呂をよくするために意味を捨てなければならないこともあって。私はビビのことに関してそれができないんですよ。ビビの声を入れるにしても、ビビの声をよく聞いてほしいという気持ちを優先してしまって、音楽性を捨てちゃうんじゃないかと」
これまで多くのインタビューで発言しているように、雫は作詞作曲をする際、自身の心情や内面を描写するのではなく、マーケティングを踏まえた曲作りを心がけている。「リスナーが望むものを書く」というそのスタンスは、ゲーム会社で働いていた時期に育まれたものでもあるわけだが、その感覚をソングライティングのプロセスにおいて導入しているところにも雫のオリジナリティがある。次の発言はそうした雫の美学とも通じるものだろう。
「プロの仕事から逸脱したものを作りたくないという仕事上のポリシーもあるんですよね。ビビのことをテーマにすると、そこから逸脱してしまうんですよ。客観的になれないし、仕事じゃなくなっちゃう。例えば、普段曲作りをしていると『普通のお客さんが聞いたとき、この展開長っ!てなるやろ?』みたいなことを考えるんですね。でも、もしもビビの歌詞を書き始めたら、『いや、ここは絶対に32小節いるの! ここは絶対この音量出すの!』みたいな感じになって、みんなが困惑する未来しか見えない(笑)」
つまり、雫にとってビビの存在は音楽や仕事よりも上位にあるものなのである。
「そうそう。私の人生の中でビビが一番優先度が高くて。音楽なんかよりも高いんですよね、普通に。自分の命よりも高いので。ね?」
「ウワァーン」
「自分が基本どんな飯を食おうが大丈夫なんですけど、ビビだけにはマジでいいメシを食わせてます。私より高いもん食ってるんですね。ねー、一生それがいいよね?」
「ウワァーン」
また、雫にとってビビの存在は仕事をするうえでのモチベーションにもなっているという。「生きるうえでのモチベーション」と言い換えてもいいかもしれない。
「守るものがあるのは大きいですよね。20歳になったタイミングでビビとの生活を始めて、自分の全責任でこいつを一生健康かつ幸せにしなきゃいけないんだ、命を懸けて守っていかなきゃいけないんだと思うようになりました。動物を飼うというのはそういうことだと思うんですよ。私、適当な仕事とか責任感のない仕事をしたくないんです。100%の仕事をして、マックスのお金を稼ぐぞ!という気持ちでやってるんです。私の魂みたいなこの気持ちは、たぶんビビがいなかったら芽生えていなかったと思います。ビビがいなかったら、こんなに気合いの入った仕事をできてなかった。生涯年収を100倍上げてくれているので、生涯に作用していると思います」
雫がインタビューに答えている間も、ビビは雫に話しかけ、時たま自由奔放に部屋の中を歩き回ったかと思うと、突然立ち止まってどこか一点を見つめている。雫も「猫って、ふと今何考えてるんだろう?っていう瞬間があるじゃないですか。それも魅力だなと思ってて」と話し、こう続ける。
「ビビのことはだいたいわかっているつもりなんだけど、猫とは人間より崇高な宇宙のような存在だから、解明し尽くせるようなものではないと思うんですよね。だから、ビビのことを3分とか4分の曲に収められるはずがないんですよ。宇宙の話を3分にまとめるなんて無理じゃないですか。今でも広がってるのに!」
「ウワァーンウワァーン」
ビビはふたたび雫の考察にそう同意するのだった。
雫が猫と一緒に聴きたい5曲
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選曲コメント
「猫とアレルギー」に関しては普通に曲調が好きだから入れちゃったんですけど、「MY SUGAR CAT」からは中島美嘉さんの猫好きさが伝わってきますね。猫好きが書いた歌詞っていう感じがします。そんな中島さんの「MY SUGAR CAT」に対し、猫を飼ってないヤバTのこやま(たくや)くんが書いた「ネコ飼いたい」は解像度の低い感じがしていいんですよね(笑)。猫を飼っていようが、これから飼いたいと思っていようが、猫好きなことはみんな一緒。みんな猫が好きなんだなというプレイリストです。
プロフィール
雫(シズク)
福岡出身の4人組バンド・ポルカドットスティングレイのギターボーカル。2015年に活動を開始し、2017年に1stフルアルバム「全知全能」でメジャーデビューする。ゲームクリエイターとしての顔も持ち、2018年には愛猫のビビをモチーフとしたブラウザゲーム「半泣き黒猫疾走絵巻 ビビばしり」を発表。毎週金曜日にNACK5にてレギュラーラジオ番組「ポルカ雫の刈り上げラボ」が放送中。
- 大石始
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地域と風土と音楽をテーマとする文筆家。主な著書・編著書に「異界にふれる」「南洋のソングライン」「盆踊りの戦後史」「奥東京人に会いに行く」「ニッポンのマツリズム」「大韓ロック探訪記」「GLOCAL BEATS」など。NHK-FM「エイジアン・ミュージック・ニュー・ヴァイブズ」出演中。2匹の保護猫と東京都下で生活中。
バックナンバー
雫 @HZshizuku
【ビビと受けたインタビュー記事公開】
https://t.co/aYAspzu5Wc
おはビビ🐈⬛
ビビと一緒にインタビューを受けました。ビビもめっちゃ喋ってます。
記者の方やナタリーの方も猫好きで、大変ハッピーな記事に仕上げてくれたので、猫好きの方ぜひ読んでネ