長渕剛

東京ウブストーリー 第6回 [バックナンバー]

鹿児島出身・長渕剛の上京物語

「生魂を入れろ!」の精神でこれまで踏ん張ってきた

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東京サンキュー、だけどふざけんな

──長渕さんは桜島でライブを行うだけではなく、テレビ番組で母校の生徒たちと交流をするなど、鹿児島の方々と触れ合う機会が多くありました。「鹿児島に生まれてよかった」と実感するのはどんなときですか?

鹿児島の人々の変わらない姿を見たときですね。鹿児島弁で“気合いを入れろ”を指す「生魂(いっだましい)を入れろ」という言葉があるんだけど、みんな何かに負けそうになったときは「生魂を入れろ!」「気張れ!」って活を入れるんです。これは両親だけじゃなく学校の先生にも言われてきた、鹿児島の人をよく示している言葉だと思う。こういう気合いは東京の人にはなくて、ギャップを感じたことでもあります。

──ほかに鹿児島の人と東京の人とで異なる部分はどんなところがあるんでしょうか。

東京だと詭弁で取り繕うことができるけど、鹿児島の人には全然通用しないよね。それから東京はどんなことでもお金が介在してきて、自分で何かを作り、価値を生み出さないといけない。かと言って仲間同士で結束するわけじゃないから、孤独な旅のようでした。その時々で仲間を求め、社会の風圧にも耐えなきゃいけないから、ずっと孤独です。そうしたとき、頭の中には鹿児島の原風景が浮かんで、ずっと変わらないものが生き続けているんですよ。それが僕の場合“生魂を入れる“ことだった。

──それが長渕さんのルーツとなる考え方に。

ええ。自分自身のプライドを取り戻すものは、やはり故郷にあるんです。上京してから帰郷する方はよくいるけど、その人たちは地元で何かを思い出そうとしているのかもしれない。だからどんなに「ダサい町だ」と言われても、ふるさとがあると精神的に強くいられますね。

──逆に東京に来てよかったことはありますか?

残念ながらないな(笑)。あっ、妻と出会ったことかな。東京に住んでいてわかったのは、3年周期で関わる人も価値観もガラッと変わること。時代の変化に従わざるを得ないから、自分では納得できなくても我慢しなればいけなかった。だけどそうしているうち、本来の自分らしさが失われていくんですよ。もしも歌という表現がなければ、僕はとっくに人間として終わっていたと思う。だけど極限まで自分らしさが削られるから、変わらないことはかえって明確になりました。歌の表現は東京が磨き上げてくれたから、「東京サンキュー、だけどふざけんなこの野郎!」という気持ちです。

「東京はすごく冷酷な街だと思う」と語る長渕。

「東京はすごく冷酷な街だと思う」と語る長渕。

故郷を離れて上京した決意は忘れないでほしい

──まもなく4月に入り、進学や就職で上京する人たちも増えてきます。そんな人たちに向けたアドバイスをぜひいただきたいです。

故郷を離れるときに感じた愛着、そして野望を生涯貫いてほしいです。ものすごく難しいことだけど、東京に出てくると、想像以上にたくさんのことを犠牲にしなきゃいけない。だからこそ、故郷を離れて上京した決意を忘れないでほしいね。それから東京は妬み、嫉みの街と言っても過言ではないから、酷評は自分にとって評価と捉えて生きてほしい。逆に言うと、油断するとすぐ足元をすくわれるから、褒められて調子に乗っちゃいけない。今はSNS文化だからこそ、なおさら強く言いたいですね。

──その一方、酷評に耐えきれなくなってしまう人も出てきそうですが、長渕さんはどのように乗り越えてきたのでしょうか?

携帯電話を叩き壊してきたよ(笑)。極端だけど、自分の中で爆発しそうな衝動が生まれることは大事で。人間ってそんなに我慢できるものではないし、耐えられない思いは必要以上に抑え込んじゃいけないんです。だけど絶対に人を傷付けてはいけないから、それだったら物に当たればいい。「困ったな、また買わなきゃ」ってなるけどね(笑)。

──今の長渕さんが上京直後のご自身に会えたら、どんな言葉をかけますか?

「がんばってきたなお前!」と言いたいですね。あの頃は「オールナイトニッポン」のMCを担当していたんだけど、自分のトークに自信がなくて。第2部を担当していた頃は明け方5時に終わって、新代田のアパートに帰ったあと、すぐに2時間分の放送を聴き直して研究していました。コンサートのあともみんなが打ち上げに行く中、ホテルに戻ってライブやテレビ出演時の映像を観直していたし。大勢の前で話したり、歌えたりするチャンスはそうそうなくて、二度とない機会でどれだけの思いが込められるか見極めなきゃいけないんです。「何千万もの人間を相手にしているんだぞ」「ライブでは地方の小ホールも満杯にできないんだろ」と常に問いかけていた自分に、よくやったなって声をかけたい。もちろんまだがんばっているけどね。今悩んでいることとか、昔の俺に「どう思うよ?」って聞いてみたいよ。

上京して1年の思いを語る23歳当時の長渕剛。

上京して1年の思いを語る23歳当時の長渕剛。

上京して1年の思いを語る23歳当時の長渕剛。

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長渕剛

1956年生まれ、鹿児島出身のシンガーソングライター。1978年にシングル「巡恋歌」で本格デビューを果たし、1980年にシングル「順子」が初のチャート1位を獲得。以後「乾杯」「とんぼ」「しあわせになろうよ」などのヒット曲を次々と発表し、1980年代前半からは俳優としての活動も開始した。2004年8月には桜島の荒地を開拓して作った野外会場でオールナイトライブを敢行し、7万5000人を動員。さらに2015年8月には静岡・ふもとっぱらにて10万人を動員する野外オールナイトライブ「長渕剛 10万人オールナイト・ライヴ2015 in 富士山麓」を実施し、成功を収めた。最新作は2024年5月リリースのアルバム「BLOOD」。2025年4月からは全国ホールツアー「HOPE」をスタートする。

長渕剛 TSUYOSHI NAGABUCHI | OFFICIAL WEBSITE
長渕剛(@tsuyoshi_nagabuchi) | Instagram

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