左からKREVA、KEN THE 390。

ジャパニーズMCバトル:PAST<FUTURE hosted by KEN THE 390 EPISODE.1(前編) [バックナンバー]

「B-BOY PARK」前人未到の3連覇:KREVA

黎明期のMCバトルと「B-BOY PARK」、そして即興

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「B-BOY PARK」は「俺のための大会だな」

KEN THE 390

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KEN そのバトルと近いタイミングで「BBPのMCバトルが始まる」という話が決まったんですね。

KREVA そうだね。BBPのMCバトルの話を聞いたときは、もう「俺のための大会だな」とリアルに思った。周りからの評価としても「KREVAが出るなら勝つでしょ」みたいな雰囲気があったし、FGはクルーとして甘く見られがちな部分もあったから、自分としても負けられないなと。

──FGはいわゆる不良性やハードコアな部分が強くない分、甘く見られがちだったと。

KREVA 「でも、スキルの部分ではそうじゃないから」というのを証明する気持ちもあったし、勝つことを決めていった部分はあるね。

──1999年に行われた「BBP」のMCバトル第1回は、一般応募枠とアーティスト推薦枠の2通りの出場枠があり、KREVAさんは推薦枠での出場でした。同時に、FGの棟梁たる宇多丸さんが司会でもあり、その状況で負けるわけにはいかないというプレッシャーはありましたか?

KREVA いや、負けられないと思ったのは自分の中の気持ちで、周りからのプレッシャーはそんなになかったかな。「負けんなよ!」みたいな声をかけられたこともないし、士郎さんが司会だったことも今言われて思い出したぐらい。楽屋の様子すらほとんど覚えてなくて。ILLMURAと戦ってるんだね。

KEN ILLMURAさんは言葉を詰め込んだ、今のフリースタイルに近いスタイルですよね。

KREVA アンダーグラウンドっぽい感じだったよね。

──そのILLMURA戦で、KREVAさんは“並べ替え”を披露しています。「BLAST」2000年9月号掲載のBBPレポートから引用すると「カッコいいお前の挑戦 / でも俺にとってみればお前は少年 / 少年並び替えるとネンショウ / 俺が勝ち取るぜこの懸賞(と並べられた商品を指す) / イエス DJはKEN-BO / 俺をみて……(その場で走る仕草をして)マジで健康 / イエッサー健康並べ替えるとコウケン / 日本のラップの発展に貢献」とラップされていますね。脚韻を抜き出すと「挑戦」「少年」と踏み、「少年」を「ネンショウ」と並べ替え、そこから「懸賞」「KEN-BO」「健康」とつなぎ、さらに「健康」を「コウケン」に並べ替え、「貢献」と展開します。

KEN あれはすごい発明だと思うんですよね。その当時は「これが即興なのかどうか」「本当に即興なのかどうか」を判断するだけのリテラシーがまだ高まってなかったと思うし、その意味でもオーディエンスや審査員に「即興であることを証明する必要」があったと思うんですよ。だから、その場の状況をラップに織り込むだけじゃなくて、さらにその言葉を並べ替えてラップに組み込むことで、「今ラップしてる内容がトップオブザヘッドであること」を証明できたと思うし、すごく効果的だったんだろうなと。

KREVA でも、そこまで意識的だったというよりは、「並び替えって面白くね?」ぐらいだったと思う。それを茂千代とのフリースタイルでは試したけど、「これが俺の武器だ! BBPでも必ずやろう!」とはまったく思ってなかったし、むしろ急遽やった気がするな。

KEN 並び替えって、めちゃくちゃ難しくないですか? ライミング自体は、現場で初めて踏む韻もあれば、踏んだことがある韻がパッと出てくることもあるし、バリエーションはあると思うんですよ。でも、その場の状況を言葉にして、それを並び替えて、さらに韻を用意するのはかなり難しい気がする。

──そもそも、言葉を並び替えるということ自体、韻とは違う脳の使い方ですよね。

KREVA 確かに。流れを変えたかったんじゃないかな。対戦相手や観客から“韻を読まれる”ことを避けたかったというのもあったかもしれない。

KEN あと、クレさんのラップには、そこに“間”があったと思うんですよ。例えば「お前は〇〇」と言ってから1拍置いて、言葉を並び替えたうえで韻を踏んで、さらに1拍置くみたいな。お客さんに考える間を与えつつ、“フリとオチ”を成立させてたと思う。

KREVA 意識的にそうしてたわけでもないけど、俺がやりたいことがそれだったのかな。みんなを巻き込んで楽しむというかさ。負けたいわけではないし、勝とうとは思ってるけど、その前に“楽しむ”という気持ちが強かった。でも、第1回は本当にあんまり覚えてないんだよな。JAY-Zの替え歌をやったのって第1回?

──決勝戦で「Impeach The President」に乗せて「自画~自賛~」と替え歌してますね。

KREVA 我ながら、よく出たな(笑)。たぶん、サイファーとかフリースタイルで遊んでたんだと思うし、そこで言ってたことが生きた感じじゃないかな。いきなりそんなの出せないでしょ。

KEN 積み重ねから出てくる部分は大きいですよね。

B-BOYたちの姿勢に撃ち抜かれた

KREVA その意味でも、俺が完全に編み出したものというのは、そんなにないと思うんだよ。それこそ「亜熱帯雨林」(ヒップホップユニット・雷が中心となって開催した伝説的イベント)とか雷のイベントに行ってもみんなフリースタイルしてたし、俺も含めてマイク握りたいやつはそこに参加して、いろんな影響をみんなで受け合ってたり、積み重ねたと思うんだ。例えばステージングもそう。

KEN バトルだからこそのステージングですか?

KREVA “相手を睨む”とか、普段のステージではあり得ないでしょ。

──確かに“ステージ上に敵がいる”という状況はよく考えたら特殊ですよね(笑)。

KREVA だから“睨む”みたいな行動をあえてやったりした。それはさっきも話したように「バトルを見せる」という部分でね。(当時の雑誌記事、中でもBBPのダンスパートに目を通しながら)今、鮮明に思い出したけど、B-BOYのダンスバトルは参考にした。六本木のR?HALLでやってたROCK STEADY CREWのイベント「B-BOY NIGHT」に呼んでもらえるようになって、そこでB-BOYたちの姿勢にめちゃくちゃ撃ち抜かれたんだよね。大技を決めるときだけじゃなくて、相手をダンスでアップロック(挑発)したり、顔でキメたり、相手のダンス中にも動きで煽ったり、相手にもオーディエンスにもアピールするでしょ。そういう“バトルだけど、単に1対1で戦うだけじゃなくて、オーディエンスも意識しながらパフォーマンスすること”には、すごく影響を受けたと思う。

KEN 確かにBBPのMCバトルの映像を観直しても、バトルでのアティチュードや煽り方、キメのポーズとか、B-BOY的ですね。

──その意味でも、ヒップホップのエレメンツがつながっていたんですね。

KREVA 「やられたあ! これだよ!」と思った。それこそ、RHYMESTERが「ヒップホップ5番目の要素:顔」とか言ってたけど、B-BOYのダンスのときのフェイシングを見て、このことか! 間違いないな!って(笑)。それから、レゲエの影響も大きかった。

KEN サウンドクラッシュ(※2)ですか?

KREVA そう。LITTLEがTAXI HI-FIとつながりがあったりしたから、レゲエの情報も当然入ってきてたし、MIGHTY CROWNやTOKIWAのクラッシュの熱さとかバイブスは、MCバトルでもすごく参考になった。クラッシュはかける曲ももちろんだけど、マイク捌きも重要だから。「この現場でそんな曲かけんじゃねえ!」みたいな荒々しさとか、ときにはまっすぐすぎるぐらいのメッセージの熱量みたいな部分は、MCバトルのスタイルとしても影響を受けたよね。それにクラッシュも「サウンド対サウンドの戦い」ではあるけど、お客さんを向いてるし、お客さんをどっちが盛り上げるかという勝負じゃん。その見せ方やアプローチ、表現方法も、自分にとって大きかったよね。だから、仲間内で楽しくフリースタイルしていたものが「MCバトル」という形式になったときに、アティチュードとしてB-BOYやサウンドマンからいろんなものを学んで、それを取り入れていたと思う。

KEN なるほど。これは聞かなきゃ絶対にわからなかったな。

KREVA 「この現場でそんな曲かけんじゃねえ!」という煽りだって、単にディスってるわけじゃなくて、「ダサい曲、ダサいダブをかけて、俺が信じているものを汚すんじゃねえ」という信念に基づいてるからこそ、説得力があるんだよね。それはすげえカッコいいと思ったし、俺はフリースタイルにおいてトップオブザヘッドを信条にしてたから、バトルではそれをテーマにしたんだよね。

KEN クレさんは当時からトップオブザヘッドにこだわってたと思うし、相手を攻撃する材料としても“仕込んできたネタか、即興でのトップオブザヘッドなのか”をテーマにすることが多かったと思うんです。

KREVA なるほど。確かにそういうところはあったかもしれないね。

(※2)セレクター(ヒップホップでいうDJ)とDeejayのサウンド(チーム)が、曲とMCで戦うスタイル。

後編に続く

左からKREVA、KEN THE 390。

左からKREVA、KEN THE 390。

KREVA(クレバ)

BY PHAR THE DOPEST、KICK THE CAN CREWでの活動を経て2004年にシングル「音色」でソロデビューを果たす。2006年2月リリースの2ndアルバム「愛・自分博」はヒップホップソロアーティストとしては初のオリコンアルバム週間ランキング初登場1位を記録し、2008年にはアジア人のヒップホップアーティストとして初めて「MTV Unplugged」に出演した。2012年9月08日に主催フェス「908 FESTIVAL」を初開催。“9月08日”は“クレバの日”と日本記念日協会に正式認定されている。さまざまなアーティストへの楽曲提供やプロデュース、映画出演、ブロードウェイミュージカル「IN THE HEIGHTS」、「ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル」の日本語歌詞を担当するなど幅広い分野で活躍しており、2011年には初の著書「KREAM ルールなき世界のルールブック」(幻冬舎)を刊行。本書は2021年6月に電子書籍化された。2023年9月8日に新曲「Expert」を配信リリース。同年9月14日に主催ライブイベント「908 FESTIVAL 2023」を、翌9月15日には「KREVA CONCERT TOUR 2023『NO REASON』」を東京・日本武道館で開催する。

衣装協力 / IM MEN、Ray-Ban

KREVA OFFICIAL SITE

KEN THE 390(ケンザサンキューマル)

ラッパー、音楽レーベル・DREAM BOY主宰。フリースタイルバトルで実績を重ねたのち、2006年、アルバム「プロローグ」にてデビュー。これまでに11枚のオリジナルアルバムを発表している。全国でのライブツアーから、タイ、ベトナム、ペルーなど、海外でのライブも精力的に行う。テレビ朝日で放送されたMCバトル番組「フリースタイルダンジョン」に審査員として出演。その的確な審査コメントが話題を呼んだ。近年は、テレビ番組やCMなどのへ出演、さまざまなアーティストへの楽曲提供、舞台の音楽監督、映像作品でのラップ監修、ボーイズグループのプロデュースなど、活動の幅を広げている。10月28日にはKEN THE 390が立ち上げたヒップホップフェスティバル「CITY GARDEN 2023」が東京・豊洲PITで行われる。

KEN THE 390 Official

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KEN THE 390 @KENTHE390

音楽ナタリーにて連載中の【ジャパニーズMCバトル:PAST<FUTURE】

第1回ゲストにKREVAさんが来てくれました!

とても貴重かつ、今聞いても新鮮な発見がたくさんあるお話ばかりです。
ぜひ読んでみていただければ!

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