代々木に舞い降りた“7人の天使”
2023年、2024年と、秋に神奈川・ぴあアリーナMMでアリーナワンマンを行ってきたゲンジブ。舞台を国立代々木競技場第一体育館に移して2DAYSの日程で実施した今回のアリーナ公演は、7月7日に結成6周年を迎えた彼らにとって史上最大規模のライブとなった。そんなライブに冠された「序破急」とは、雅楽の舞楽から出た概念であり、芸道論に使用される言葉。代々木の晴れ舞台に立つ7人がどのような姿を見せてくれるのか。会場には、開演前から観測者(原因は自分にある。ファンの呼称)たちの大きな期待感が充満していた。
開演前BGMとして流れていた「『誰も知らない歌』」のインストが消え、暗闇に包まれた代々木第一体育館。ステージ上の大きなビジョンに映し出されたのは、純白の天使に姿を変えたメンバーだった。その背に大きな翼を生やした彼らがローブのフードを被ると、メインステージ上部に設置されたビジョンは“7人の天使”のシルエットが浮かび上がり、次の瞬間にはゴンドラに乗った7人が上空から降下。ゆっくりとその姿を聴衆の前に現した。観衆の想像を超える登場に驚き混じりの歓声が上がる中、鳴り響いたオープニングナンバーは「無限シニシズム」。大きなフードに顔を隠したままで曲を歌いつなぐ7人は、その声のニュアンスにみなぎる気迫をにじませ、単独で初めて臨む代々木第一体育館の舞台に降り立った。
「Welcome back, Museum:0!」。声を合わせた7人がローブを一気に脱ぎ去ると、観測者たちは一斉に悲鳴のような声を上げる。燃えるような瞳で客席を見据える7人の表情がビジョンの額縁の中に映し出された「Museum:0」。彼らがまとうモノトーンのドレッシーなジャケットには天使の羽があしらわれ、それらは吹き荒ぶ風を受けて7人とともに激しく舞い踊った。ラウドなロックサウンドが疾走するこの曲で「壮絶なる最高傑作」の創造を誓ったのち、初披露となった「in the Fate」では大倉空人が「We are GNJB Brrrra!」と威勢よく名乗りを上げる。スパークラーとファイヤーボールの演出が熱狂を加速させたこの曲では、大倉、吉澤要人による“ラップ組”以外のメンバーもラップリレーを繰り広げ、アッパーなサウンドを乗りこなして会場全体の勢いをぐんぐんとドライブさせていく。
「What's up 代々木ー!一緒に楽しんでいこう!」。長野凌大が上げた声に会場中から大歓声が返ってきた「0to1の幻想」でも、強烈な四つ打ちのダンスビートに体を弾ませオーディエンスをヒートアップさせた7人。桜木雅哉の「代々木、ブチかまそうぜ!」という号令で花道を駆け抜けると、その鬼気迫るほどの勢いに観測者も声を上げて呼応する。センターステージで届けられた「嘘から始まる自称系」では四方から熱視線を向けられた7人の流れるようなフォーメーションダンスを無数のムービーングライトがドラマチックに彩った。天使たちの鮮烈な"降臨”を観る者の目に焼き付けるように展開されたソロダンスセクションでは、ダンスリーダー・長野がセンターステージで見せた鮮やかなダンスステップを皮切りに、小泉光咲がしなやかなタットダンス、大倉がダイナミックなアクロバットと、7人がそれぞれの個性を投影した振りで軽やかにステージ上を舞い踊る。そして、7人がメインステージにそろいドロップされたのは「LLL」。グルーヴィに体を揺らす彼らが「愛してる」のフレーズに熱を込める中、武藤潤は伸びやかなロングトーンを代々木の大空間へ気持ちよさそうに放っていた。
距離を超えて観測者の元へ
メンバーがステージから姿を消し、再び映し出されたVTRの中で、7人の天使たちは街のあちこちにその姿を現す。ビジネスマンがひしめくオフィスの机上に降り立った桜木、若者たちが集まるクラブに佇む武藤、公園の真ん中でシャボン玉浮かぶ風に吹かれる小泉。立派な白い翼を背に、周囲の光景に少し戸惑ったり瞳を輝かせたりする純白な彼らの姿は、市井の人々の中で異質な存在感を放っていた。
そこから「フィナーレ」でパフォーマンスが再開し、観測者の目に飛び込んできたのはカジュアルダウンした装いに着替えた7人の姿。宇宙空間を思わせる映像をバックに移動式の7つのクリアボックスに閉じ込められた彼らは、少し悩ましげなトーンの声色で“甘い記憶”への未練を歌いつないでゆく。「最後のChewing gum 味が無くなったって」と歌いながら噛んでいたガムを伸ばすような手振りもキャッチーで、その官能的な気だるさでオーディエンスを惹きつけていった。曲を終えクリアボックスから出た彼らはチルなサウンドに甘やかなムードを香らせる「蝋燭」、苦い三角関係を歌う「夏の二等辺大三角形」とラブソングを続け、「蝋燭」では深く温かみのある歌声、「夏の二等辺大三角形」では切なさをはらんだ歌声と、豊かな表現力をもってさまざまな恋愛風景を描き出す。
6人の年上メンバーたちの注目を一身に浴び「方程式は恋模様」の歌い出しを担った桜木が「今から皆さんのところに行きまーす!」と宣言すると、メンバーはトロッコに乗り込んで7色の光の海が広がるアリーナの客席へと進んでいく。初披露となったこの曲で、7人はここまでの曲では封印してきた愛嬌を爆発させながら観測者たちに手を振り、桜木は「隣にいてくれないかな?」というセリフでもファンの心を撃ち抜いてみせた。12日には「炭酸水!」というコールが響き渡った「ギミギミラブ」、13日には軽やかなクラップがこだました「シェイクスピアに学ぶ恋愛定理」と日替わりで人気曲が届けられたところで、7人がドロップしたのはキュートなエレクトロポップ「推論的に宇宙人」。杢代和人は「観測者、会いたかったよー! みんなこの曲知ってるよね?」と呼びかけ、メンバーはファニーな歌声を響かせながら観測者たちの熱いコールに笑顔を浮かべていた。
誕生日の2人、猫になって22歳の抱負
12曲を終えたところで設けられたMCタイム。12日のMCでは、この日に22歳の誕生日を迎えた吉澤への祝福がサプライズで行われ、代々木第一体育館に幸せなムードをもたらした。メンバーが「Happy Birthday to You」を歌いながらケーキをステージに運び入れると、観測者はペンライトを吉澤のメンバーカラーである紫一色に光らせて彼を祝福。「非常に驚いてます。メンバーのMCリハが雑だった理由がわかりました……(笑)」と目を丸くした吉澤は、紫の光に吸い込まれるように花道を進み、同い年・長野の「22歳、ニャンニャンの歳だから猫になって抱負言いなよ」という無茶振りを受けて「観測者のみんなと幸せな未来を築いていきたいニャン」と照れ混じりに思いを語った。すると、13日のMCでは3日後の16日に誕生日を迎える長野を祝う流れになり、吉澤が「凌大……猫になって抱負言って、面白いことも言って」と彼に仕返し。真っ青に染まった客席を見渡しながらセンターステージへと進んだ長野は「22歳は優しく生きる。優しき人間になり、自分に厳しい、そんな人間になりたいニャン」と片手で猫耳ポーズを作り、「あ、こんなところに6Pチーズが」と、三角にしたままの手を“食べて”みせた。
パフォーマンスでは楽曲のテーマや世界観に没入した表現で観る者を圧倒するが、ひとたび楽曲を離れれば仲のよさが伺える小気味よいボケとツッコミの応酬に笑いが絶えない7人。彼らの飾らない魅力が観測者を笑顔にしたMCを経て「マルチバース・アドベンチャー」へと展開すると、メンバーはスタンド席目がけて階段を駆け上がる。今度はスタンド通路をトロッコで進み、上層階の観測者のすぐそばで歌声と笑顔を届けた。武藤が観測者を熱く鼓舞した「Go to the Moon」でメンバーがタオル回しの波を発生させ、7つのトロッコに向けられる大きなシンガロングを受け止めると、続く「多分、僕のソネット」でもハッピーなムードは加速。メインステージ戻った7人は、弾むような歌声を響かせながらお互いに肩を組んだり、マイクを握るメンバーの後ろに映り込んでピースしたり。13日公演では歌う長野の頬に杢代がキスを贈るサプライズも悲鳴を誘い、そんな無邪気な7人の姿が客席に笑顔の輪を広げていった。
「観測者がそんなもんじゃないって知ってるよ。まだまだ声聞かせてください!」。リーダーの吉澤がそう告げて始まった「原因は君にもある。」で、会場に渦巻く晴れやかな高揚感は最高潮に。観測者たちのクラップと「ららら」のシンガロングを聞いたメンバーがそれぞれに顔をほころばせ、ハイテンションに歌い踊る中、桜木は「凌大、要人おめでとう!」と歌詞を特別にアレンジ。そして決めゼリフを担う杢代は「明らかに観測者、愛してるよ」と観測者への愛を表明して歓声を一身に集めた。すると、7人はここで4月にリリースした最新アルバム「核心触発イノベーション」のラストを飾る「貴方らしく」を披露する。この曲について、長野はインタビューで「『僕らが歌うこと』が一番の意味。僕らの声が乗ることで原因は自分にある。になる」と思いを語っていた。7人の“あるがまま”を優しく肯定するようなこの曲のサビは大倉&桜木&長野、武藤&吉澤、小泉&杢代という、彼らのルーツを感じさせるような意義深いトリオ、ペアで歌い継がれ、観測者の心をエモーショナルに揺さぶる。そして落ちメロで舞台の真ん中に集まると、自身のパートを歌う桜木の瞳はみるみるうちに潤んでいく。最年少の涙を察した6人が「雅哉!」と彼を囲むと、桜木は「みんな最高だぜ!」と顔をくしゃくしゃにしながら思いを叫んだ。
堕天、そしてクライマックスへ
ゲンジブの7人のあるがままの魅力が発揮され、“距離”を超えて観測者と温かくつながったひとときを締めくくったのは、“1000年後の未来”にも響かせたい思いを歌う壮大なナンバー「『誰も知らない歌』」。スタンドマイクの前に立ち、まっすぐな歌声で悠久の祈りを歌に込めた7人が再びステージから姿を消すと、舞台上のビジョンには街に降り立った天使たちの“その後”が映し出された。好奇の目にさらされ、人間の怒りや醜さに触れた7人が自らの羽をむしったり折ったりする衝撃的な姿が観測者のざわめきを誘った映像を経て「序破急」は“急”展開し、クライマックスへ向けて怒涛のごとく突き進んでいく。聴衆がセンターステージへと目を向けると、そこには床に倒れ込む7人の姿。彼らがまとうスーツの背中には、血塗られたような真紅の翼があしらわれていた。“堕天”を想起させるような演出にその場の誰もが息を呑む中、鳴り響いたのは「Mania」。映像の中で少年に自らの羽を差し出し穏やかな交流をしていた長野は、それとは裏腹な苦悶を表情に浮かべ、鬼気迫るオーラを放つソロダンスでステージを駆け抜ける。すると曲の終盤、彼らの頭上からは7人を囲う檻を表したシースルービジョンが降下。真っ白な羽が無数に降り注ぐ中、「Mania」を象徴するモチーフとなっている“青い蝶”と共に、メンバーを檻の中に閉じ込めた。
続く「Operation Ego」では、このシースルービジョンに歌詞が映し出され、7人は自らのパフォーマンスと映像演出で観測者の視覚を強烈に刺激する。BPM200で疾走するこの曲は支配、抑圧からの解放を歌うハイエナジーなナンバー。7人の周囲をめまぐるしく駆け抜ける言葉の嵐と煽情的なマイクリレーが展開されたこの曲では、ボーカルの核を担う武藤が放つシャープな歌声が、“支配からの解放”を聴く者に力強く訴えかけた。
迫真の歌とダンスで7人が“檻”から解放されたその瞬間、大倉は「おい代々木! 一生後悔しないようにまばたきすんじゃねえぞ!」と叫び声を上げる。「遊戯的反逆ノススメ」のドライブするロックサウンドに乗せ、魂の乗った歌とダンスでボルテージを最高潮まで引き上げていく中、大倉が心のままに放った「おい待ってろよ東京ドーム!」という咆哮には会場中から悲鳴が上がった。そして杢代が「ずっと一緒にいようよ」と約束し「Paradox Re:Write」へと展開すると、7人は何度も吹き上がる炎と火花の演出の中で挑発的に、力強く観測者たちの熱狂をリードしてみせた。
ここで突如映し出された映像は、これまで投影された物語を急速に巻き戻していくもの。VTRが最初のシーンに到達すると、ローブのフードを被る直前の吉澤は大きな“舌打ち”をしていた。この舌打ちを合図になだれ込んだラストナンバーは「因果応報アンチノミー」。“二律背反(アンチノミー)”な態度を舌打ちで嘲笑するこの曲は、メンバーが「原点回帰にして(現時点での)集大成」と語る、今のゲンジブにとって大きな意味を持つ楽曲だ。そんなラストナンバーに7人が注ぎ込む気迫は凄まじく、桜木はありったけの力を込めて「JUDGE!」の決めポーズ。彼らの思いを受け取る観測者もまた大きくペンライトを振って7人に呼応し、会場は大きな一体感に包まれた。「おかえりエンジョイ 自業自得ですALL 地獄のROCK’N’ROLL 天国の階段でライブして」。そう高らかに歌い上げる武藤が感極まり、少しだけ声を詰まらせた最終盤。「因果応報JUDGE!」のラストフレーズを担う桜木が「大好きだぜ!」と歌い替えた瞬間、メンバーは“7枚の羽”に姿を変えて「序破急」のステージに幕を下ろした。
セットリスト
原因は自分にある。「ARENA LIVE 2025 序破急」2025年7月12、13日 国立代々木競技場第一体育館
01. 無限シニシズム
02. Museum:0
03. in the Fate
04. 0to1の幻想
05. 嘘から始まる自称系
06. LLL
07. フィナーレ
08. 蝋燭
09. 夏の二等辺大三角形
10. 方程式は恋模様
11. ギミギミラブ(12日) / シェイクスピアに学ぶ恋愛定理(13日)
12. 推論的に宇宙人
13. マルチバース・アドベンチャー
14. Go to the Moon
15. 多分、僕のソネット
16. 原因は君にもある。
17. 貴方らしく
18. 『誰も知らない歌』
19. Mania
20. Operation Ego
21. 遊戯的反逆ノススメ
22. Paradox Re:Write
23. 因果応報アンチノミー
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