ナタリー15周年記念インタビュー 第1回 [バックナンバー]
ヒャダイン×児玉雨子が語るカルチャーの変遷
スマホ、ニコ動、アイドル、テレビ……15年で変化したネットカルチャーとみんなの価値観
2022年3月8日 12:00 93
本当の意味でのアップデート
──世代的な話で言うと、お笑いのシーンでずっと言われていた「上が動かないから世代交代が起きない」という問題は、最近変化しつつあるように感じます。昔からのテレビ的な価値観に変化が起きているというか。
児玉 確かに。
児玉 その一方で「アメトーーク!」を観ていたら、
ヒャダイン 時代のつかみ方、付き合い方がうまいよね。前に
児玉 そういえば、時代の変化について、個人的にものすごくショックだった出来事がちょっと前にありました。TikTokにはBookTokerという人たちが、短い動画の中で本のあらすじやポイントを紹介するジャンルがあるんです。まあ、ユーザーが若いし動画の尺が短いので「これがめっちゃエモいんですよ」くらいのざっくりした紹介なんですね。ある日、若いBookTokerに対して有名な書評家の方が批判的なコメントを出してしまい、そのBookTokerが一時活動休止してしまったんです。今は再開されているみたいですが、こういう出来事はきっとあらゆる業界に大なり小なり起こっているよなあ……って。
ヒャダイン 何をやってくれたんだっていう。
児玉 出版業界は苦境も苦境なのに、いまだに「TikTokなんて……」みたいな考えを持っている人がいるのか、と驚きました。音楽業界だと作曲家の方々は「TikTokでバズるような曲を作ってください」みたいな発注が増えていると聞いたことがあります。てか、私自身もありました。それに慣れていたのもあり、このギャップはちょっと衝撃的で、書評家でもないのに考え込んでしまいました。
ヒャダイン 本当の意味でアップデートできる人か、それともアップデートしているつもりで変わらない人なのか、そのあたりも過渡期だよね。まあ、なかなか変われなくてもアップデートしようと意識しているだけマシで、向き合うこともせずに若い芽を摘むような人たちは老害と言われても仕方ないと思う。
15年で細分化したそれぞれの巣
──ここまで15年間の変化について語っていただきましたけど、今この瞬間にもとてつもないスピードでさまざまなことが変化している感じもしますよね。
児玉 15年前と今は、変化の感じがすごく似ているような気がしますね。
ヒャダイン 両方ともカオスな雰囲気があるよね。2022年はコロナ禍も介在しているから、さらにカオス味が増してる感じがする。
──すごいスピードで動いている一方で、すごく停滞もしているというか。
児玉 そうそう、その両方が同居してますよね。
──TikTokなどが盛り上がっていて「今はみんなテレビを観ない」と言いますけど、ナタリーの記事で年間で一番アクセスがあるのは大型特番のタイムテーブルだったりする。テレビに関連した記事が圧倒的に読まれているんですよ。だから「みんな結局はテレビが好きなのかな?」と思うことが多くて。
児玉 へえ!
ヒャダイン それ不思議ですよね。しばらく前から「テレビ離れ」と言われますけど、テレビに出演することのバリューはまだまだある。例えば僕が、すごく厭世的で「テレビに出ない」みたいなスタンスのアーティストを音楽番組で紹介すると、ファンの方から「ありがとうございます!」というコメントが来たり、Twitterのトレンドに入ったりするんですよ。だから「関ジャム」や「Mステ」「うたコン」「FNS歌謡祭」「紅白歌合戦」に出演することへのブランディングって全然健在なんだなって。
──ネット発のアーティストの勢いがすごいけど、それもテレビでのひと押しで状況が変わっていく感じもしますよね。
ヒャダイン そうそう。だから結局、我々はネット強者なんだと思いますよ。こういう業界にいると見失いがちですけど、人口の9割は実はレイトマジョリティで、情報源はネットかもしれないけど、テレビが集合知であり絶対正義なのかもしれない。だから「テレビは観ない」なんていうのは結局都会のデータなのかも。
児玉 えー、そっかあ……。もうすっかりネットの時代だと思っていたけど、みんなが私みたいに絵チャしてたわけじゃないもんなあ……(笑)。
ヒャダイン ホントそうだよ(笑)。
──とは言いつつ、TikTokをはじめとしたネット発のカルチャーがものすごい勢いで進んでいるのは間違いなくて。そのせめぎ合いは、15年前のネットカルチャー以上にすごいエネルギーを発しているように感じます。
児玉 それこそ昔はニコ動やYouTubeくらいしかなかったですもんね。TikTokも初期は音楽がほぼほぼ無断転載だったけど、最近はJASRACと包括契約してるからオープンでクリーンになっていて。そういう流れがどこのプラットフォームでも起きるんだなって思いました。
ヒャダイン そうだね。バーッと盛り上がったら、プラットフォームの土が均されて整備されるみたいな。
児玉 そういう場所が増えてきたから、ネットに対して嫌悪感を持たない若い子が増えてきたのかなって。
ヒャダイン でもネット界隈で人気の人たちがテレビに出ても数字が伴わないことも多くて、だいたいが大滑りして自分の巣に帰って行くんだよね。「巣でよくない?」というのもあるし、テレビ特有のお作法があるのかもしれない。どちらかが歩み寄れないのかわからないけど、組み合わせはあまりよくないんだよね。
児玉 確かに、考えてみるとテレビとYouTubeはプロレスとボクシングくらい違う感じがしますね。
ヒャダイン うん。そもそもの競技が違うわけだから、どっちが上とかそういう話じゃない。そういう巣の細分化も、この15年の変化なのかもしれないですね。
ヒャダイン
1980年、大阪生まれの音楽クリエイター。本名は前山田健一。3歳でピアノを始め、作詞・作曲・編曲を独学で身に付ける。京都大学を卒業後、2007年に本格的な音楽活動を開始。動画投稿サイトへヒャダイン名義でアップした楽曲が話題になる。一方、本名での作家活動で提供曲が2作連続でオリコンチャート1位を獲得するなどの実績を残し、2010年にヒャダイン=前山田健一であることを公表。アイドルソングやJ-POPからアニメソング、ゲーム音楽など多方面への楽曲提供を精力的に行い、自身もアーティスト、タレントとして活動する。2021年9月には、サウナへの熱い思いを綴った「ヒャダインによるサウナの記録2018-2021―良い施設に白髪は宿る―」を発売した。
ヒャダインオフィシャルサイト
ヒャダイン (@HyadainMaeyamad) | Twitter
ヒャダインの記事まとめ
児玉雨子(コダマアメコ)
1993年生まれの作詞家、小説家。モーニング娘。'20、℃-ute、アンジュルム、Juice=Juice、近田春夫、フィロソフィーのダンス、CUBERS、
児玉雨子 (@kodamameko) | Twitter
児玉雨子 | A-Sketch Official Site
関連記事
ヒャダイン こと 前山田健一 @HyadainMaeyamad
児玉雨子センセとなんか喋ってます。
ただの友達雑談ですがナタリーさんがまとめてくださってます。いつもおおきに。
https://t.co/sgNJZIUshk