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ナタリー15周年記念インタビュー 第1回 [バックナンバー]

ヒャダイン×児玉雨子が語るカルチャーの変遷

スマホ、ニコ動、アイドル、テレビ……15年で変化したネットカルチャーとみんなの価値観

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でんぱ組.incが払拭したオタクのネガティブイメージ

──そして2008年には、AKB48がシングル「桜の花びらたち2008」に付属する特典ポスター全44種類をコンプリートしたファンを対象にしたリリース記念イベント「春の祭典」の開催をアナウンスしましたが、その参加資格を達成するための施策が「『独占禁止法』上の『不公正な取引』に抵触する恐れがある」という意見が集まって中止になりました(参照:AKB48話題のイベント「春の祭典」が急遽中止に)。あれは今思うとイベント炎上の走りだったのかなと。

ヒャダイン なるほど!(笑)

──でも、そのあとCDに握手券を付けるのが当たり前になりましたよね。2008年の時点では、音楽ファンが複数購入を促す商法に対して拒否感を示していた。

ヒャダイン 教育していったんですね。そこからアイドルブームが起きて、アイドルと接触できる握手券とCDをセットで売る流れになった。そしてヒットチャートが崩壊していくという。

児玉 言いますね(笑)。

ヒャダイン

ヒャダイン

ヒャダイン まあ、昔の話だから(笑)。でも、そう考えるとこの15年でいろんな価値観が変わってますよね。アニメだと「涼宮ハルヒの憂鬱」が2006年で、「らき☆すた」が2007年だって。

児玉 うわー、懐かしすぎてゾッとした(笑)。

──アニメのファンが堂々と“アニメオタク”と言えるようになっていった時代でもありますよね。「オタク」という言葉が市民権を得て、言葉の意味自体が変わったというか。

児玉 まだ偏見を持っている人も多いけど、世の中がそういうカルチャーに対して寛容になってきた雰囲気はあると思います。

ヒャダイン でんぱ組.incの登場も大きいよね。オタク=気持ち悪いというネガティブな固定観念があった中で、でんぱ組の活躍でオタクとファッション、オタクとサブカルの結び付きが強くなったような気がする。オタク趣味を持っているファッショニスタみたいな人も出始めたし。

児玉雨子

児玉雨子

児玉 本当にでんぱ組の影響は大きく、時代にすごく合ってましたよね。話は変わりますけど、今はTikTokでみんな踊るじゃないですか。でも昔ニコ動に投稿されていた“踊ってみた”動画はコスプレしたオタクが踊るというものだったから、踊りのシーンも15年で変化したということですかね。

ヒャダイン 確かに、踊りに対する世の中の抵抗みたいなのはなくなったよね。

──この時期の出来事で忘れられないのが、EXILEの増員ですね。2009年にEXILEが突然ダンサーを増やして、7人から14人体制になるという(参照:EXILEにJ Soul Brothers合流!14人体制で新たな出発)。ダンスに対する見方も当時と今ではずいぶん変わったように思います。

ヒャダイン あのときの世間とファンの反発がすごかったのは覚えてます。というか自分の中で「この出来事は歴史の一幕として覚えておこう」と思ったんですよ(笑)。あの頃は世間の9割9分が否定的で「そんなにメンバーを増やしてどうする?」「14人も覚えられない」「今のEXILEでまとまっているのに」みたいな意見があったけど、人間という生き物は慣れるんですよね。そして結果的に今の時代に合っていたという。

児玉 本当にそう思います。

ヒャダイン EXILEは僕にとってこの15年でかなり興味深い案件なんです。もともとはどことなく「ヤンキーが聴く曲」というイメージがあったけど、グループが増えたり、VERBALm-flo)さんが参加するPKCZの活動がスタートしたり、音楽的な感度が高くなってきて。実際そこに惹かれて好きになったという人もいる……本当に不思議な進化をしている。非常に興味深いです。

児玉雨子はシーンに新しい風を入れる存在

──ちなみに、お二人はどういう活動が今の仕事に結び付いていったんですか?

児玉 私は高校生の頃、基本的にずっと学校に行きたくないと思っていて。そんなとき、東日本大震災で塾の春期講習が全部なくなったんですよ。やることないし、勉強もしたくないからpixivに上げるマンガでも描こうかとストーリーを文章にしてみたら、「これ小説でもいけるんじゃない?」と思って、ある出版社の文学賞に出してみたんです。賞を獲ることはできなかったんですけど、テレビ局のプロデューサーさんに作詞の仕事をいただいて。当時は「女子高生〇〇」みたいな肩書きを世間が持てはやしていたから、長続きはしないだろうと思っていましたが、その後も声をかけてもらえるようになったんです。

──なるほど。

ヒャダイン 僕の場合、ニコ動でウケたのがめちゃくちゃ展開が多くて短い曲だったので、そこで実験したことを音楽シーンに持ち込んだらうまくいったという。それよりも前に作った東方神起や倖田來未さんの曲は、そういう展開の多い曲ではなかった。2010年に「らき☆すた」の曲で展開が10個くらいある曲を作って、そのあとに麻生夏子さんが歌う「バカとテストと召喚獣」というアニメのオープニングテーマ(「Perfect-area complete!」)を担当したんです。それで「自分とアニメソングは相性がいいのかもしれない」と思って。

児玉 それ以前は相性はよくないと思っていたんですか?

ヒャダイン うん、全然適性はないと思ってた。でも自分と電波ソングが意外に相性がいいと気付いて、これならアイデアがボンボン出るぞって。

左からヒャダイン、児玉雨子。

左からヒャダイン、児玉雨子。

児玉 へー。それがアイドルシーンの盛り上がりと重なったわけですね。

ヒャダイン そうなんだよ。アイドルがめちゃくちゃ増えたタイミングだったし、いろんなグループの立ち上げに関わることができて。ももいろクローバーZ、でんぱ組.inc、私立恵比寿中学たこやきレインボーなんかと活動初期からご一緒できたのはありがたかったですね。

──ヒャダインさんが立ち上げから関わっているエビ中に、今は児玉さんが歌詞を書いているという。

児玉 お世話になっております(笑)。私はアイドルグループの立ち上げに関わったことがあまりなくて、むしろ引き継ぐことが多いかもしれません。ハロプロもエビ中も歴史がある中で「この後どうしましょう?」という形でお話をいただいて。

──アーティストに新しい風を入れるならこの人、という役どころになっていますよね。

ヒャダイン これから立ち上げの役割が回ってくるんじゃない? ハロプロの新グループとかさ。僕の場合、2010年代の音楽と自分が作るハチャメチャな展開がリンクしたのはよかったなと思いますね。ネットが普及してスマホで音楽を聴くようになった時代の変化と、僕が作る展開の多い曲の相性がよかったのかも。チャチャッとササッとみたいな感じが(笑)。

児玉 メディアやSNSの発達と音楽って依存関係じゃないですか。ラジオ全盛の頃はラジオで映える音楽が流行って、テレビだったらAメロBメロがあってサビが来る音楽とか、今のサブスクならイントロと歌い出しが大事とか、メディアの特性が音楽に何かしらの部分で影響してくる。2010年代はSNSの影響が大きいから、飽きさせない音楽が多くて、曲の展開自体がガラッと変わるものが流行った印象がある。

ヒャダイン 変調だね。自分がその一翼を担ってしまった感じはある(笑)。

「私は私でいいじゃん」の時代が歌詞のオーダーを変えた

──音楽以外の分野で変化を感じることはありますか?

児玉 この15年はマンガでも小説でも百合ジャンルがとても豊かで、素晴らしい作品が増えて本当にうれしいです……(笑)。あとアイドルでも、グループだけでなくメンバーのキャラの差別化をがんばるようになってきていますよね。みんな同じ、じゃない。それはいい変化だなって。

ヒャダイン そうだね。アイドル文化の発展に合わせて、女の子のキャラ分けというのが色濃くなってきた感じはする。でもその一方で、初めてお会いするアイドルグループの子たちに「どういうグループなんですか?」という質問をすると、ほぼ100%の確率で「メンバー全員、個性がバラバラなんです!」と返ってくるんですよ(笑)。個性がバラバラなのは当たり前だし、セールスポイントにはならないから、その考え方は捨てたほうがいいってアドバイスするんだけど。

児玉 それは大人サイドの意見すぎる(笑)。

児玉雨子

児玉雨子

ヒャダイン 拡大解釈かもしれないですけど、世の中が全体的に個別教育に向いた結果なのかなと思っていて。「1人ひとりの個性が重要」みたいなことを言われ始めたことで、それぞれのキャラが立ってきたのかな。あとアイドル文脈じゃなくて、少女時代KARAみたいなところからつながるガールズグループ文脈で、カッコいい女の子、踊れる女の子の人気が出てきたのもこの15年の特徴ですよね。もちろんそれ以前から日本にもSPEEDなどがいましたけど、それがもっと色濃くなってきた気がする。

児玉 2次元と3次元の境目がなくなったのもこの15年ですよね。昔は2次元というだけで「萌え系」にくくられて批判されていましたけど、最近はそこまでじゃないような。アニメタッチに対する心理的な抵抗が以前より減ったな、と感じています。

ヒャダイン なくなったね。というか「萌え」という言葉が死んだ気がする。

児玉 TikTokとか画像アプリもあって人間自体がアニメーションみたいになってきたし、アニメもリアルになってきたというか。

ヒャダイン すとぷり浦島坂田船みたいに、2次元のビジュアルで活動する人が増えてきて。中の人補正というか、受け手のほうの“翻訳”がすごくスムーズにいくようになりましたよね。

児玉 そうそう。次元の壁が感覚的になくなってきてる。整形とか美容系も少しアニメに寄ってきていて、例えば目を大きくして鼻は小さくみたいな。

ヒャダイン 確かに! 整形に対して世の中が寛容になってきたよね。整形は韓国文化の影響もあるかもしれないですけど、例えば顔を変えることで自己実現できるならいいじゃないかという考え方になってきてるのかな。

ヒャダイン

ヒャダイン

児玉 整形と呼ぶかわかんないけど、私、歯列矯正して世界が変わりました(笑)。あと、男性の美容事情も過渡期ですよね。今の時代、10~20代の男性はバンバン脱毛するし、メンズメイクとかスキンケアが当たり前になってきてる。

ヒャダイン 俺もヒゲ脱毛してるしね。

児玉 だから性差なくアニメに寄っていってるような気がします。私はそれに大して抵抗がない、むしろきれいになりたいと思っているけれど、「整形なんて」「男が美容なんて」「アニメなんて」などの感覚の人からすると、異常な光景なんだろうなと思います。

ヒャダイン それを揶揄したらカウンターパンチが返ってくる時代だから、「よそはよそ、うちはうち」的な考え方が強くなった15年でもあるよね。

児玉 そういう意味では、個人的には生きやすい時代になったなと思います。もうわざわざ“変なやつ”の鎧を着なくてもいい、「私は私でいいじゃん」みたいな。

ヒャダイン そう言えば、ここ3年くらいでそういう歌詞のオーダーが増えたんだよね。

児玉 本当に増えた! その中でも最初は強い女性像を私自身にも求められたし、書く歌詞にも「女性の強さを表現してほしい」というオーダーがあって。ただ、最近は「“女性の強さ”や“女性”ってわざわざ言うのも女性蔑視では?」という意見もちらほら見聞きしますね。個人的にも、「“女”として生まれたんじゃなくて、ただ“私”でありたいだけなのに……」って疲れてしまうときがあります。

ヒャダイン 世間も“女性の強さ”というコンテンツを求めてない気がするよね。

児玉 K-POPの影響は必ずあるんですが、先行曲のガールクラッシュやフェミニズムの上澄みだけすくって、わかった気になったものが増えてしまった。当事者からすると「違う、そうじゃない」ってものが多いんだと思います。

ヒャダイン なるほどね。変わってきた部分をワーッと話しましたけど、MAMAMOOとかカーディ・Bくらいゴリゴリに強い女性像だと日本では敬遠してしまう人もまだいるから、そのあたりの価値観が大きくは変わってないのも面白いですね。

児玉 男の子も女の子も、若い世代にとって強い女像やジェンダーフリー的な言葉遣いは、もはや「新しいもの」ではないんじゃないかなと勝手に推察しています。でも日本は少子化で、若い人はあまりお金を使えない。やっぱりお金を持っている上の層の人たちが古い価値観のままだと、大きく変化するのには時間がかかるかもしれません。まあ、もうそろそろ変わらないと本当に行き詰まると思うけどね。

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本当の意味でのアップデート

読者の反応

ヒャダイン こと 前山田健一 @HyadainMaeyamad

児玉雨子センセとなんか喋ってます。
ただの友達雑談ですがナタリーさんがまとめてくださってます。いつもおおきに。

https://t.co/sgNJZIUshk

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