ナタリー15周年記念インタビュー 第3回 ビジュアル

ナタリー15周年記念インタビュー 第3回 [バックナンバー]

山口一郎(サカナクション)×カンタ(水溜りボンド)が見つめるインターネットシーンの未来

音楽家が一番YouTubeを使えていない? ミュージシャンとYouTuberが新たなコラボの可能性探る

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2007年2月1日に音楽ニュースメディアとしてスタートしたナタリー。現在ではマンガ・アニメ、お笑い、映画、舞台・演劇と計5ジャンルの最新ニュースや特集記事を日々配信し続けている。そんなナタリーも今年で誕生15周年を迎えた。これに合わせて、ナタリーでは日頃ナタリーを盛り上げてくれている著名人たちを迎え、インタビュー企画を展開。第1回にはヒャダインと児玉雨子、第2回には藤井隆と西山宏太朗に登場してもらった。

そして最終回となる今回は、ナタリーと同じく2007年にメジャーデビューしたサカナクションのフロントマン・山口一郎と、インターネットシーンが劇的に変化する中、YouTuberシーンを切り拓いてきた水溜りボンド・カンタの対談をお届け。ミュージシャンとYouTuberそれぞれの立場からみたシーンの変化や未来について語ってもらった。

取材 / 臼杵成晃 / 下原研二 撮影 / 須田卓馬

YouTubeの美学

──先にお声がけした山口さんから「カンタさんとお話がしたい」という指名があり今回の対談をセッティングしたのですが、対談相手にカンタさんを希望されたのはどういう理由なんですか?

山口一郎(サカナクション) YouTubeというミュージシャンがもっと有効に使うべきメディアで活躍してるカンタくんに、インターネット上での戦略について聞きたかったんです。

カンタ(水溜りボンド) よろしくお願いします。僕に答えられることがあればなんでも答えます(笑)。

山口 少し前から活動している僕らのようなミュージシャンからするとYouTubeはプロモーションツールで、ビジネスをしていくという感覚がなくて。ミュージックビデオをアップしたり、いち早くYouTubeと関わってきたはずなのにね。現状、僕らミュージシャンがYouTubeでビジネスをしていこうと思うと、YouTuberが作ってきたコンテンツをなぞることにしかなっていないというか。

カンタ なるほど。そう言われると確かにミュージシャンの方がYouTubeをうまく使いこなしているケースってあまりないかもしれないですね。

山口 そうなんだよね。スペースシャワーTVでやっていた「NFパンチ」という僕らの番組をYouTubeに持っていこうとしていた時期もあったんだけど、あまりうまくいかなかったんだよね。

左から山口一郎、カンタ。

左から山口一郎、カンタ。

カンタ そこのバランスが難しいんですよね。「上質」という言い方が正しいかはわからないですけど、YouTubeの場合、クオリティの高い動画だからといって再生数が伸びるわけではないというか。手ブレしていても、そのYouTuberとの距離を身近に感じられるような動画のほうが共感を得られるんです。

山口 クオリティというより情報の質の差だよね。

カンタ そうですね。HIKAKINさんは以前100万円するカメラを買ったんですけど、結局今はiPhoneでも撮影していたりするんです。そういうところにもヒントが転がっているのかなと。

山口 YouTubeのコンテンツの美学ってあるじゃない。僕はYouTubeをはじめとしたSNSをクローズドメディア、テレビやラジオをオープンメディアと呼んで区分しているんだけど、水溜りボンドはラジオもやっているよね。YouTubeというホームと、ラジオという新しいフィールドでは何か違いはあった?

カンタ 僕の中でテレビとYouTubeは全然違うものなんですけど、ラジオとYouTubeは似ている気がするんです。

山口 それはどういうところが?

カンタ ラジオの場合、リスナーから届いたメールを読むじゃないですか。一緒に番組を作っていく感じというか、身内感みたいなものは共通している。例えばYouTubeの「面白い」と芸人さんのそれとはベクトルが違いますよね。トークの技術は芸人さんのほうが優れていたとしても、YouTuberが仲間内で爆笑しているときのほうがファンの方は楽しく感じるときもあるというか。

左から山口一郎、カンタ。

左から山口一郎、カンタ。

山口一郎が見つめる音楽シーンの変化と課題

山口 僕らの話をすると、音楽業界にはインターネットシーンを目の敵にしていた歴史があって。YouTubeも音源を違法ダウンロードする人がいるもんだから扱いが難しかったんです。そのために音質をあえて下げてアップするレーベルと、そのままアップするレーベルに分かれていたりして。

──15年くらい前だとアーティストが公式にMVをYouTubeにアップロードするケースもあまりなくて、今とは扱いが全然違いましたよね。

山口 そうそう。サカナクションがメジャーデビューした2007年は過渡期だったというか、僕らはリアルのライブと音源というもののバランスや質が大きく変容し始めた時代にデビューしたんです。音楽フェスの動員が増え出した時期にデビューして、作品のリリース形態がCDからダウンロード、ダウンロードからサブスクリプションになっていく流れを見てきた。だからインターネットの存在が音楽シーンにとってどういう作用を与えるのか、今もまだ途中だとは思うんだけど、その過程を見てきた分、本当に今の音楽シーンのシステムに対してまどろっこしいなと思う部分があるんです。カンタくんはコピーコントロールCDって知ってる?

カンタ コピーができないってことですか?

山口 そうそう。

山口一郎

山口一郎

──パソコンでデジタルデータが一般でも扱えるようになったとき、ネット上にMP3などの音源が違法にアップされる事例が多発したのを受けて、音源を取り込めないようにする信号を埋め込んだCDが出たんです。これが音質に悪影響を与えたり、プレーヤーに負荷が発生したりという問題があって、アーティストの間でも波紋を呼びました。

山口 iTunesの登場でダウンロードが主流になってきた頃に、「ダウンロードじゃなくてCDを買いましょう」みたいな運動もありましたよね。僕もその片棒を担がされたわけだけど(笑)。

カンタ そうなんですか(笑)。 

山口 CDは圧縮されていないから音がいいとされていたんだけど、今はCDと同等か、さらに上のマスターと呼ばれるものと同等のデータをそのままサブスクで配信することもできる。だからCDというアイテムは今どういう意味を持つのかと考えると、単にコレクション意欲を高めるためのマーチャンダイジングになっていると僕は思っているけど、まだCDという文化に縛られたり、サブスクリプションというものをどこか認めきれてない感じがあるというか。

カンタ なるほど。

山口 サカナクションはコロナ禍になってオンラインライブに力を入れているんだけど、それはただライブを映像で配信するのではなくて、オンライン上だからこその音楽表現があるんじゃないかと模索しているんです。「オンラインライブ」という言葉の響きだけで少し距離を感じてしまう方もいるみたいですが、僕はこの先オンラインライブというものが絶対主流になっていくと思っていて。でもどうも業界全体としてそういう雰囲気はないんだよね。YouTuberはたぶん今が第1世代だと思うから、そのシーンを開拓してきたカンタくんに音楽をどう捉えているかを聞きたかったんです。

カンタ 確かにYouTuberのシーンの中では次の世代が出てきている雰囲気があって。昔は周りのYouTuberで登録者数が100万人とか200万人に達すると「あいつのチャンネルが盛り上がってるらしいよ」みたいに話題になっていたんですよ。でも今は僕らも知らないところで登録者数100万人を超えている人がざらにいて、そのほとんどがTikTokでバズっているんです。こんなにネットを見ていた気でいた自分ですら、TikTokが今のホットスポットになっているんだというのに気付かなかったんですよ。

山口 なるほどね。

カンタ 若い世代の子たちは音楽もTikTokで聴いていて、TikTokで流行った音楽はYouTubeでの再生数が何千万回までいったりする。僕はその世代ではないので気持ちはわからないけど、事実として「音楽を聴く」という行為をネット上で完結させている印象はありますね。

カンタ

カンタ

山口 僕らの感覚として、音楽はインディーズかメジャーかという2つの括りしかなかったんです。でも今は「すぐに愛されるもの」と「ずっと愛されるもの」の2つに変わってきてるのかなと思う。TikTokのように今の若者たちの間で流行っているツールの中で“バズる”音楽はすぐに愛されるイメージ。そういう音楽はどの時代にもあって、ツールの進化に合わせて生まれていると思うんだよね。

──カラオケで愛されるもの、着うたで愛されるもの……と時代によって「その時代の愛され方」がありますよね。

山口 SNSの発展によって、そのサイクルはより加速している気がするけども。今は音楽性やミュージシャンの種類みたいなものが、また少し違う細分化をされ始めた時代が来ているような気がしていて。昔はデイリーランキングとウイークリーランキングが重要視されていたけど、サブスクリプションの登場で状況が大きく変わったんだよね。

カンタ あー、確かに昔は好きなアーティストのランキングが気になって見てました。

山口 なんでランキングが重要だったかと言うと、単純に10位以内に入ると音楽番組で曲が流れるし、音楽番組で流れるとCDが売れるという一連の流れがあったから。でも今は、サブスクリプションでどれだけ長く聴かれるかが大事になってきている。だからプロモーション戦略も変わってるんだよね。アーティストの人間性を愛してもらって、「この曲はどういう人が歌っているんだろう?」と想像してもらったり、どんな人生を送っているかを掘ってもらえたりするような音楽と、背景を知る間もなくその瞬間に楽しむ音楽の二分化が起きていると思うんです。

カンタ TikTokだと「聴いたことはあるけど、誰が歌っているかはわからない」と、オリジナルのアーティストが誰なのかわからないまま曲だけが流行ることも増えてきましたよね。

──“詠み人知らず”で句だけが残る、みたいな状態ですよね。

カンタ 僕らも昔は消費される動画を作っていた時期があるんです。人気を出そうと思えば、わかりやすい「この爆発を見てください!」みたいな3分尺の実験動画なんかがウケがいいんですよ。今の水溜りボンドは10分を超える動画が当たり前になっているんですけど、昔は僕とトミーのトークは求められてなかった。視聴者も「お前らのリアクションを見に来てるわけじゃない。実験を見に来てるんだ」みたいな反応で。4年くらい経ったときにYouTuberの中でも二極化が起きて、そういうキャッチーな動画を作り続けないと数字が取れない人と、そのYouTuber自体が愛されていて視聴者がついて来る人に分かれてきたんですよ。僕らは前者になっていたけど「急いであっち側に行かなきゃ」と思ったのを覚えています。それからは、今までだったらカットしていたような“自分たちらしさ”だったり、数字は取れないかもしれないけど自分たちが本当に面白いと思っていることを混ぜるように工夫していって。そうしていくうちにファンの方が増えていったんです。

山口 なるほど。自分たちがクリエイトしたものの中に“自分らしさ“を入れ込められるのはYouTuberのいいところだよね。僕らミュージシャンはアウトプットが音楽だから、人柄を出そうと思うと歌詞に反映させるしかなかったから。だから僕らにとってSNSの登場はいい武器になった。つまり、それまでは自分たちのことを語って、それを誰かにインタビューとして発信してもらわなきゃいけなかったことを、自分たちの口から作品のコンセプトやアイデアをすぐに発信できるようになって。

左から山口一郎、カンタ。

左から山口一郎、カンタ。

カンタ 音楽はいろんな受け取り方ができるのがいいところだと思うんですけど、作り手の人間性が表に出れば出るほど“正解”が明確になってしまうのは良し悪しですよね。例えば映画は本来、監督の人間性と作品の評価がかけ離れていてもいいはずだったものが、今は「あの監督の作品だから観に行こう」という人も多い。作り手と作品の距離がすごく近くなったことは、アーティストの立場からするとやりづらい部分もあるんじゃないんですか?

山口 僕らが小さい頃はアーティストのプライベートがどういうものなのかは想像することしかできなくて、想像するからこそ、アーティスト側もそれに応えていくみたいなことはあったような気がする。でも今の時代に僕らのようなバンドスタイルで音楽をやるミュージシャンが音楽を届けようと思うと、リアリティショーを見てもらったうえで抽象性のある音楽をどう捉えてもらうかが大事というか。常にバンドのドキュメンタリー映画を観てもらいながら、ときに新しい楽曲を提供するというスタイルが今の時代に合っていると思うんだよね。

カンタ なるほど。

山口 音楽シーンにそういった新時代が来ている気がして。そういう意味では僕らはその第1世代だと思う。レコーディングしてリリースして、テレビでプロモーションしてツアーを回るというお決まりのメジャーなやり方ではなく、ファンとSNSでコミュニケーションを取って、話し合ったりケンカしたり、株主総会みたいなことをしてチケットの価格を一緒に決めたりとか。そのサイクルに新しいファンが入ってきて、バンドの血がより濃くなっていくというか。それはある種、YouTuberに近い動きをしていると思っています。

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読者の反応

カンタ(水溜りボンド) @kantamizutamari

本当に最高すぎる時間でした!!!!
新しいアルバムの最高でした。。! https://t.co/cz2WXgmn4n

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