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細野ゼミ 5コマ目(後編) [バックナンバー]

細野晴臣と歌謡曲

“細野流”歌謡曲の作り方と現代のヒットソングについて安部勇磨&ハマ・オカモトと一緒に考える

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活動50周年を経た今なお、日本のみならず海外でも熱烈な支持を集め、改めてその音楽が注目されている細野晴臣。音楽ナタリーでは、彼が生み出してきた作品やリスナー遍歴を通じてそのキャリアを改めて掘り下げるべく、さまざまなジャンルについて探求する連載企画「細野ゼミ」を展開中だ。

ゼミ生として参加しているのは、氏を敬愛してやまない安部勇磨(never young beach)とハマ・オカモト(OKAMOTO'S)という同世代アーティスト2人。第5回では細野とも関わりが深い歌謡曲をピックアップする。前編(細野晴臣と歌謡曲|歌謡曲とは何か? 細野晴臣が触れ、作ってきた楽曲から安部勇磨&ハマ・オカモトとともに探る)では細野にとっての歌謡曲の定義を探ったが、後編では彼がこれまで手がけた楽曲にまつわるエピソードについて聞いた。

取材 / 加藤一陽 / 望月哲 題字 / 細野晴臣 イラスト / 死後くん

坂本龍一が「いいね」と言った「ハイスクールララバイ」

ハマ・オカモト 前回の松田聖子さんもそうですけど、細野さんはすごい量の歌謡曲を手がけていますよね。

細野晴臣 もっとやってる人はいっぱいいるけど。

──歌謡曲の仕事だけでボックスセットが作れるぐらいですからね(参照:細野晴臣の提供した114曲で20世紀の歌謡史を紐解く)。

ハマ 確かに。ご自身のアーティスト活動と平行して、メインストリームの歌謡仕事もたくさんやられていて。ちなみにイモ欽トリオの「ハイスクールララバイ」とかはどういう感じでオファーが来たんですか?

細野 あれはどこから来た話だったんだろう。ポニーキャニオンかな?

──「ハイスクールララバイ」は萩本欽一さんの番組「欽ドン!良い子悪い子普通の子」から生まれた楽曲ですね。オリコンのシングルチャートで7週連続1位という大ヒットを記録しています。

ハマ 細野さんは楽曲提供する前から番組をご覧になっていたんですか?

細野 そうだね、観てた。

ハマ それがああいう形で大ヒットして。当時どういう気持ちだったんですか?

細野 どういう気持ちで観てたかなあ(笑)。

ハマ 「ヒットしてよかったなあ」って感じだったんですか?

細野 いや、「えっ? こんなんでいいんだ」って。

一同 はははは(笑)。

ハマ とはいえ、決して手を抜いて作ってるわけではないでしょうからね。

細野 作ってる途中で締め切りが来ちゃったんだけど、できてるフリをして、30分くらいで一気にオケを仕上げた(笑)。で、思いのほかヒットしたわけだ。そしたら坂本龍一くんが「あの曲はいいね」とか言ってくれるんだよ(笑)。

ハマ 教授が。

細野 「ええ!?」とか言って(笑)。

ハマ 「ほかにもいろんな曲を作ってるんだけどな」って(笑)。

細野 みんなのどこをくすぐったんだろう? 自分ではあんなにヒットするなんて考えてもなかったね。で、あるとき新聞を見たら今度はユーミンが評論してるんだよ。「あの曲は転調がすごい」とか。

ハマ きちんと理論的な感じで。

細野 そういう鋭い指摘があって「なるほど!」って(笑)。

安部勇磨 30分でなんとか仕上げたら、図らずもそういうメロディになっていたっていう感じですか?

細野 そうそう。まあ先に歌詞があったんだよね。やっぱりこれも松本だよ。歌詞から音階が見えたっていうか。

ハマ ヒントになったんですね。詞が先にあることで。

安部 けっこう細野さんって、そういうことが多いんですか? はっぴいえんどの「風をあつめて」もギリギリまで曲ができなかったという有名なエピソードがあったり。誰かに楽曲提供する場合も同じですか?

細野 そうだね。

安部 そういうときは、やっぱりできてるフリするんですか? 「大丈夫だよ」みたいな。

細野 そう。人を不安にさせないようにしないと(笑)。

ハマ 優しさですよね(笑)。逆の人もいるじゃん。「そんなのできないよ!」みたいに怒っちゃったり。

安部 笑いにしちゃったりする人もいるけど。

ハマ 細野さんは逆なんですね。「あっ、もうできてるよ」って。

細野 本当にできない場合もあるからな。

安部 できなかった場合、締め切りを延ばしてもらったりしたことはあったんですか?

細野 それはないんだよ。

ハマ なんとか締め切りには間に合わせて?

細野 妙な自信がついちゃってね。

安部 今までギリギリでもなんとかなってきたっていう自信が(笑)。

細野 ギリギリが自分には合ってる。

ハマ それはもう制作のスタイルですよね(笑)。

細野 そうそう。怠け者だから追い込まれないとやらないっていう。

ハマ でも、「ハイスクールララバイ」はそういう感触だったんですね。曲を書くにあたって、ちょっと肩の力を抜くような感じに捉えられたんですかね?

細野 それが「練りに練ったような曲」だと捉えられて。

ハマ でも作った本人は「みんな、これをいいと言うんだ!」って(笑)。

安部 逆に思いが強ければ強いほど、なぜかあんまり世の中には広まらないみたいなこともありますよね(笑)。確かに意外とパパッとやったほうがいいってこともあるかも。

ハマ あるよね。

細野 当時は自分のソロなんて誰も聴いてくれないから(笑)。ほかのアーティストに提供する曲とギャップがあったよね。受け入れられ方が全然違った。

お蔵入りになったジャニーズ提供曲

細野 そういえばYMOをやっている頃にジャニーズ事務所から楽曲の依頼があったね。少年隊だったかな? それでオケを作ったのね。YMOっぽいやつ。

ハマ・安部 ええ!

細野 でもボツになった。当時まだ、ああいう人たちはビッグバンドをバックに歌ってたから。テクノは市民権がなかった。

ハマ ジャニーズ事務所は早いですね。YMO時代の細野さんに声をかけるっていうのが。

安部 その音源はどこにも出ていないんですか?

細野 出てない。あれ、どこにいっちゃったんだろう? どういう曲を作ったのかも全然覚えてない。

ハマ それ、聴きたいですね!

細野 誰か持ってないかな。聴きたいんだよ、僕も。

安部 ちなみに提供した曲がボツになったとき、細野さんは「そんなの納得できないよ!」ってなったりするんですか(笑)。

細野 ないない。

ハマ はははは(笑)。しょうがないかっていう。

細野 深追いしない。

ハマ そこで深追いしてもいいこと起きなそうですしね、あんまり。

細野 そうそう。

安部 執着がない感じも細野さんらしいですね。

細野 ジャニーズに提供した曲のことは今話していて思い出した。

ハマ ホントですか。すごい話だな……。

安部 細野さん関連の本とかけっこう読んでますけど、この話は1回も出てきてないと思います。

細野 あんまり自分の中で問題視してなかったんで忘れてたね。今思い出した(笑)。

“07世代”が魅了される歌謡曲

細野 そういえば、この間テレビを観ていたら“07世代”っていう女の子たちが出ていて。2007年生まれの中学生なんだけど、彼女たちが好きなのが80年代のヒット曲なんだって。

ハマ アイドルとかですか?

細野 一番好きなのが「木綿のハンカチーフ」だって言ってた。曲が起伏に富んでるのがいいんだって。

ハマ 時代が1周回って改めて評価されるみたいな。でも、それぐらいの世代の子たちが、歌謡曲を新鮮な感覚でいいと思えているというのはうれしい話ですよね。

細野 そうだね。

ハマ それこそ松本隆さんの歌詞なんて、想像力と行間を読む能力をすごく問われる世界じゃないですか。それが今の中学生たちにも伝わってるというのは、すごくうれしいことですよね。

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一番話しづらいのはYMO世代

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細野晴臣 Haruomi Hosono _information @hosonoharuomi_

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