一番話しづらいのはYMO世代
──ちなみに皆さん最近のヒット曲をチェックしたりしますか?
ハマ 細野さんが何を聴いていらっしゃるのかは気になります。
細野 いやいやいや。なんにも知らない(笑)。
ハマ ラジオとかでたまに聴くことはあるけどって感じですか?
細野 そうだね。流行りものにそんなに興味がない。信用してないっていうか。
ハマ 一応週1でチェックしてるよ、みたいなことも全然ないですか?
細野 定期的にチェックはしないね、そんなに。何が流行ろうと関係ねえやって(笑)。
一同 はははは(笑)。
細野 例えばBTS、今すごいウケてるでしょ。知らないもん。
ハマ BTSの曲自体は?
細野 1回聴いたよ。
ハマ 細野さん、どの曲を聴いたんですか? 「Dynamite」かな。
細野 いや、わからない。
ハマ BTSはもともとヒップホップ方面の音楽性の方が強かったんですけど、ちょっと前に「Dynamite」っていう思いっきり80年代ディスコミュージックみたいな曲を出したんですよ。それがグラミーにノミネートされたりして世界的に認知が広まったんです。
細野 なんでウケるかはわかるけどね。みんなきれいな顔して、踊りもうまいし。音もいいんだろうね。韓国のほうが音楽はグローバルだね。
ハマ 今すごいですね。
細野 その一方で日本の歌謡曲やポップスも最近海外で聴かれるようになってきたみたいだね。
──そうですよね。
細野 だから海外も07世代と同じなんだろうね。
安部 あー、なるほど。
細野 耳っていうか、感覚が楽しいんだろうね。
ハマ 例えば若い頃の細野さんがラジオとかを通して洋楽をこまめにチェックしていたように、日本人って国外の音楽をキャッチしようとする姿勢がけっこうあったように思うんです。でもその逆って、あんまりなかった気がするんですよね。今は海外の人が日本の音楽をチェックするようになっていて。すごく新鮮なんでしょうね。
安部 今、海外の人がめちゃくちゃ日本の音楽について調べてるし。
──海外の07世代が(笑)。
ハマ それが海外でのシティポップの評価につながっているんでしょうね。吉田美奈子さんや山下達郎さんのアルバムが人気だとか。
安部 07世代、ちょっと気になる(笑)。
ハマ 面白いよね。僕ら、フェスで一緒になるようなバンドマンより07世代のほうが話が合うかもしれない(笑)。
安部 細野さんも言ってましたよね。ちょっと下の世代とは全然話が合わなかったけど、逆に離れたら話が合うって。
細野 そう。
ハマ 我々もそういう意味では、近い感覚かもしれない。
安部 世代が1周して感覚が合うみたいなのってあるんですかね。
細野 今、一番話しづらいのはYMO世代だね。
一同 はははは(笑)。
最近のヒット曲はマイナーなメロディで進行していく
──ハマさん、安部さんは国内のヒット曲をチェックしたりはしますか?
ハマ 僕はラジオ番組をやらせてもらってるので、けっこう聴く機会はありますね。最近の傾向としては、ちょっと童謡的というか、マイナーなメロディで進行していくような曲が多いのかなと思います。米津玄師くんがハネるきっかけになった「パプリカ」とかまさにそうですよね、童謡的という意味でも。
──「パプリカ」は「NHKみんなのうた」でも使用されていますしね。
細野 確かにあの曲、「みんなのうた」っぽいよね。
ハマ みんなが好きになるエッセンスがめっちゃあるんだなって思います。でも、先ほど細野さんがおっしゃったような07世代が好きな、抑揚の魅力を感じさせるような曲があるかといえば、今は正直それほどないような気がして。「なんだかすごい歌詞だな」と思うようなことはありますけど(笑)。
安部 歌詞すごいよね(笑)。
ハマ 例えばラブソングの歌詞でも、歌謡曲の時代は「これって、もしかして好きってこと?」って聴き手に想像させるような余地があったけど、今は「あのときに見つめ合って、だんだん気になるようになって、偶然近所に住んでたこともわかって、だから好きです」とか(笑)。行間から何かを想像するような歌詞が今はあまり求められていないのかなとは思います。
安部 (はっぴいえんど「暗闇坂むささび変化」を口ずさんで)「♪ところは東京麻布十番」って始まった瞬間に、「え? なんだこの曲?」って思っちゃうような感じがないよね。「しかも、サビで『モモンガ』って言ってるぞ!?」みたいな(笑)。
細野 ははは(笑)。
安部 ユーモアとか温かみみたいなものが、今のヒット曲にはあまり感じられなくて。世代的な感覚もあるのかもしれませんけど。
細野 ポップスの用語で「フック」ってあるでしょ? いかに聴き手の心に引っかかる要素を設けるかっていう。今の「フック」ってどういうものなんだろうね? にぎやかさとかなのかな。女の子がいっぱい集まって歌ってる感じとか。
安部 本当、今いっぱいいますもんね(笑)。
変化を迎えている音楽の世界
安部 ところでハマくん、「ポケットからきゅんです!」って知ってる?
ハマ 知ってますよ(笑)。
安部 あ、知ってるんだ!
ハマ 今はTikTokなどのSNSを発端に曲が流行ったりしていて。
細野 そうなんだね。
ハマ 「ポケットからきゅんです!」はそこから生まれたヒット曲なんです。瑛人の「香水」もそうですけど。
細野 「香水」は僕も知ってる。あそこまで流行ると耳に入ってくるね。
安部 SNS発のシンガーは顔を隠してる人も多いですよね。「ポケットからきゅんです!」のひらめもそうだけど。
ハマ 最近はプライバシー保護のためにみんな顔を隠すんですよね。SNSに曲を上げてるのは高校生だったりしますから。
細野 ああ、なるほど。
ハマ 顔を出しちゃった途端に今の世の中は制御しきれないですから。でも、そういう意味では、さっき話題に上がった歌詞の行間を読むのと同じような目的で顔を隠してるんだったら賢いなとは思う。「この曲、どんな人が歌ってるんだろう?」みたいな。
──それが今の時代の「フック」なのかもしれませんね。
安部 ヒット曲を通して今の世の中が見えますね。歌詞とかも含めて今こういうことにみんな共感するんだなとか。
ハマ そうだよね。世の中を反映しているんだもんね。
安部 ヒット曲のトレンドが移り変わっていくスピードも、以前とは比べ物にならないくらい速いんだろうね。音楽の聴かれ方も日々変わっていて、日本も海外もそうなのかもしれないですけど、YouTubeとか目立つところで勝負みたいな感じになってきてるのかなとか。
ハマ そういう風潮はあるよね。
安部 音も派手になっていて。味の濃いポテチを食べたらおいしいけど、ずっと食べてたら体によくないかもねみたいな感じで(笑)。最近の音楽を聴いてブツブツ文句を言いながら、でも、やっぱり僕はやるしかないかみたいな感じになります(笑)。
細野 わかるよ。
ハマ 細野さんの「何が流行ろうと関係ねえ」っていうのは、まさにおっしゃる通りですよね(笑)。そこに戻ってくるよね、やっぱり。
安部 そう! 「関係ねえ」って。
細野 いや歳取ると関係なくなることが多くなるんだよ(笑)。
安部 ははは(笑)。
ハマ 俺らにはまだわからない「関係ねえ」がいっぱいある(笑)。
細野 でも、僕も毎日コンビニに寄ってお菓子を買ったりするんだけど、確かに今は音楽もコンビニっぽいよね。
ハマ それこそストリーミングで気軽に音楽を聴けるようになってますから。脱線しますけど、細野さんコンビニでどういうお菓子を買うんですか?(笑)
細野 糖質0のやつとか(笑)。
ハマ ごめんなさい。完全な余談でした(笑)。でも確かに音楽がコンビニ化していますよね。
安部 なんか逆転するんですかね。1回コンビニみたいになって、みんなまたそれに飽きてきて。それこそ07世代みたいな人たちが出てきたり。
細野 今はそういう時期かもしれない。随分長い間コンビニっぽい感じだったから。
安部 コロナ禍とかもあって、音楽の世界も変化の時期なのかもしれませんね。
細野晴臣
1947年生まれ、東京出身の音楽家。エイプリル・フールのベーシストとしてデビューし、1970年に大瀧詠一、松本隆、鈴木茂とはっぴいえんどを結成する。1973年よりソロ活動を開始。同時に林立夫、松任谷正隆らとティン・パン・アレーを始動させ、荒井由実などさまざまなアーティストのプロデュースも行う。1978年に高橋幸宏、坂本龍一とYellow Magic Orchestra(YMO)を結成した一方、松田聖子、山下久美子らへの楽曲提供も数多く、プロデューサー / レーベル主宰者としても活躍する。YMO“散開”後は、ワールドミュージック、アンビエントミュージックを探求しつつ、作曲・プロデュースなど多岐にわたり活動。2018年には是枝裕和監督の映画「万引き家族」の劇伴を手がけ、同作で「第42回日本アカデミー賞」最優秀音楽賞を受賞した。2019年3月に1stソロアルバム「HOSONO HOUSE」を自ら再構築したアルバム「HOCHONO HOUSE」を発表。この年、音楽活動50周年を迎えた。2020年11月3日の「レコードの日」には過去6タイトルのアナログ盤がリリースされた。
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安部勇磨
1990年東京生まれ。2014年に結成された
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ハマ・オカモト
1991年東京生まれ。ロックバンド
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