「ネクスト・ドリーム/ふたりで叶える夢」場面写真(c)2020 Focus Features, LLC. All Rights Reserved.

青野賢一のシネマミュージックガイド Vol.16 [バックナンバー]

ネクスト・ドリーム/ふたりで叶える夢

楽曲に魂を吹き込む歌声

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DJ、選曲家としても活躍するライターの青野賢一が毎回1つの映画をセレクトし、映画音楽の観点から作品の魅力を紹介するこの連載。今回は12月11日より全国で順次公開されている「ネクスト・ドリーム/ふたりで叶える夢」を取り上げる。歌姫とそのアシスタントが共に現状を打破し、新たな夢に挑戦しようとする姿を描いたこの作品の音楽的な魅力とは。

/ 青野賢一

音楽プロデューサーとして成功したい

「ネクスト・ドリーム/ふたりで叶える夢」場面写真(c)2020 Focus Features, LLC. All Rights Reserved.

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「ネクスト・ドリーム/ふたりで叶える夢」は、現代ハリウッドの音楽業界を舞台にした作品である。グレース・デイヴィス(トレイシー・エリス・ロス)は“伝説の歌姫”の称号を欲しいままにするベテランシンガー。コンサートはいつでも大盛況、名実ともに大スターの地位に君臨している大物だ。マギー・シャーウッド(ダコタ・ジョンソン)は、グレースのパーソナルアシスタントで、彼女の仕事現場からプライベートまで幅広くケアしている。ときにはグレースから意見を求められたりして、多忙ながらも充実した毎日を送っているマギーにとって、グレースは素晴らしい音楽を届けてくれる憧れの人。そんな人の近くで働いていることに、マギーは喜びと誇りを感じているが、彼女にはさらなる夢がある。それは、音楽プロデューサーとしてアーティストをプロデュースし、成功したいということだ。その夢に近付こうと、マギーは仕事を終えてから、寝る時間を削ってグレースの音源を自分でミックスダウンし、どうすればその曲が人々により訴えかけるかを研究している。マギーは本気なのだ。

ヒット曲を生み出したシンガーの葛藤

「ネクスト・ドリーム/ふたりで叶える夢」場面写真(c)2020 Focus Features, LLC. All Rights Reserved.

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先に述べたように、グレースのコンサートはどの会場でも大変な盛り上がりなのだが、そこで歌われるのは過去のヒット曲。長いキャリアの中で生まれたヒット曲がステージで披露されることを、多くのファンは当然望んでいるだろうし、それらが演奏されれば盛り上がらないわけがない。しかし、当のグレースはそんな状況に複雑な感情を抱いている。表現者として新しいことに取り組みたい気持ちはあるが、求められるのはこれまでと変わらないこと、観客の持つイメージを壊さないこと。その狭間で、グレースは宙吊り状態である。

ある日、レコード会社の会議で、グレースは「ニューアルバムをレコーディングするときだと思う」と発言する。するとすかさずマネージャーのジャック(アイス・キューブ)は、「つまりそれも1つの案ということだ」と口を挟んだ。音楽ビジネスとはある意味権利ビジネスであり、ヒットした曲の権利を持っている人は、その曲を活用して富を生み出すことができる。グレースは、リスクを冒して新たなチャレンジをするよりも、そうした過去のヒットに頼るほうがリスクなく儲けられるということはよく承知している。40歳を過ぎた女性で全米1位を獲得したシンガーは5人しかおらず、黒人は5人のうちたったの1名だけ。この事実も相まって、アルバムを作りたいと言ってはみたものの、40代の黒人シンガーであるグレースに迷いや葛藤があるのは明らかだ。ともあれ、これまでの自分を捨てて新たなアルバムに取り組みたいというグレースの思いがここで示される。

「ネクスト・ドリーム/ふたりで叶える夢」場面写真(c)2020 Focus Features, LLC. All Rights Reserved.

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マギーの夢とグレースの夢、2人の夢への道のりの中で、重要な役割を果たすのが、マギーがひょんなことで出会ったデヴィッド・クリフ(ケルヴィン・ハリソン・Jr.)だ。音楽の才能がありながら、レコード会社と契約せずにマイペースに音楽活動をするデヴィッド。彼が駐車場でサム・クックの名曲「You Send Me」を歌うのを耳にしたマギーは、そのポテンシャルを見抜き、自分は経験豊富な音楽プロデューサーだと偽って、手を組もうと提案する。曲を作り、デモ録音、スタジオでのレコーディングと、制作を進める中で親交を深める2人だったが、マギーは急に出かけてしまうこともしばしば。これは言うまでもなくグレースからの呼び出し、つまり本来のマギーの仕事のためである。こうしてマギーの世界にデヴィッドが入り込んできたことで、物語は思いがけない展開を見せる──。

ロドニー・ジャーキンスのプロデュース

冒頭に記したように、本作の舞台はハリウッドの音楽業界ということで、音楽に満ちあふれた作品である。ステージでのパフォーマンスやレコーディングのシーンがふんだんにある本作は、監督であるニーシャ・ガナトラによれば「まずアルバムを作ってから、そのアルバムの曲が使われる映画を撮らなきゃいけなくて大変だった」(プロダクションノートより)。あらかじめ曲が仕上がっていなければ撮影もできない、ということである。作中、グレースが歌う「Love Myself (The High Note)」や「Stop For A Minute」は、トレイシー・エリス・ロスが実際に歌っている。ダイアナ・ロスを母に持つトレイシーがレコーディングスタジオに入ったのはこれが初めてだそうだが、実に素晴らしい歌声で楽曲に魂を吹き込んだ。同様にデヴィッドのパフォーマンスはケルヴィン・ハリソン・Jr.が、デヴィッドのレコーディングでマギーがバックコーラスをやるパートはダコタ・ジョンソンがそれぞれ歌っている。

コリーヌ・ベイリー・レイやサラ・アーロンズといった、そうそうたる作家陣が名を連ねる本作の楽曲をまとめ上げた音楽プロデューサーはロドニー・ジャーキンス。マイケル・ジャクソン、マライア・キャリー、ビヨンセ、ジャスティン・ビーバー、レディー・ガガらの作品を手がけてきた、グラミー賞受賞歴もあるプロデューサーだ。スーパースターのグレースが歌う曲はリッチなサウンドプロダクション、デヴィッドの曲はより親密でシンプルな楽器編成と、歌い手のキャラクターが曲からしっかりと感じられるのはお見事である。登場人物たちの曲のほか、作中ではアレサ・フランクリンやダニー・ハサウェイの曲も使われており、全編を通じてソウルミュージック色が濃いのもこの作品の特徴の1つ。心に訴えかけてくるオリジナル曲、既存曲は、本作のもう1人の主役といっていいだろう。

「ネクスト・ドリーム ふたりで叶える夢」

「ネクスト・ドリーム/ふたりで叶える夢」ポスタービジュアル (c)2020 UNIVERSAL STUDIOS

「ネクスト・ドリーム/ふたりで叶える夢」ポスタービジュアル (c)2020 UNIVERSAL STUDIOS

日本公開:2020年12月11日
監督:ニーシャ・ガナトラ
脚本:フローラ・グリーソン
出演: ダコタ・ジョンソン / トレイシー・エリス・ロス / ケルヴィン・ハリソン・Jr. / ビル・プルマン / ゾーイ・チャオ / ジューン・ダイアン・ラファエル / アイス・キューブ ほか
配給:東宝東和

青野賢一

東京都出身、1968年生まれのライター。1987年よりDJ、選曲家としても活動している。1991年に株式会社ビームスに入社。「ディレクターズルームのクリエイティブディレクター兼<BEAMS RECORDS>ディレクターを務めている。現在雑誌「ミセス」「CREA」などでコラムやエッセイを執筆している。

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音楽ナタリー @natalie_mu

【青野賢一のシネマミュージックガイド Vol.16】「ネクスト・ドリーム/ふたりで叶える夢」
本作の音楽的な魅力とは? ストーリーやトレイシー・エリス・ロスの歌声、音楽プロデューサーのロドニー・ジャーキンスによる楽曲について紹介
https://t.co/a2glyI2iM9

#映画ネクストドリーム #青野賢一

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