bar bonoboの店内。

小箱クラブの現状 第3回 [バックナンバー]

警察の立ち入りを経て、bar bonoboのオーナーは思う

クラブカルチャーから改正風営法まで

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東京・神宮前で異彩を放つミュージックバーbar bonoboのオーナーである成浩一に、“小箱カルチャー”の現状や問題点、今後の展望などを聞いていく本連載。今回は成が思うクラブの魅力と、日本のクラブ文化へ抱く危機感についてを聞いた。

取材・文・構成 / 加藤一陽(音楽ナタリー編集部) 撮影 / 小原啓樹

bar bonoboのオーナーである成浩一。

bar bonoboのオーナーである成浩一。

bar bonoboがあるリカリスイビル。

bar bonoboがあるリカリスイビル。

盛り上がっているとは言い難い

bar bonoboを拠点に約15年にわたって東京のクラブカルチャーに寄り添ってきた成は、昨今の東京のクラブシーンについて感じることがある。東京は世界的なナイトライフ先進都市ではあるが、現場に立ち続ける成の目から見れば「盛り上がっているとは言い難い」という印象があるそうだ。

「東京をはじめ、日本はDJやバンド、つまり“音を出す側”のレベルは世界的に見ても非常に高いと思うんです。しかしその一方で、お客さんの成熟度が高まっていないように感じます。特に最近は、以前に比べて二十代の子たちがクラブで遊んでいることも少ない気がしますし……それと以前は海外のDJたちがアジアにプレイしに来るときは、東京のみをツアーに組み込むことも少なくありませんでした。でも最近はシンガポールなどに行ってしまう傾向にある。東京よりもお客さんがたくさん入りますから」

クラブには“若者が遊ぶ場所”というイメージが付いているかもしれないが、クラブ客も高年齢化が進んでいる現状があるそうだ。bar bonoboにも、四十代以上の客は多い。そしてクラブから若者の姿が少なくなった背景には、もちろんクラブ側の若者に訴求する魅力が低下したことや、一部の店によって印象付けられた“クラブ=薬物、騒音”というネガティブなイメージによる部分も大いにあるだろう。そんな状況に成も「音楽って本能的なものだから、それほど廃れるものではないと思うんですけど……若者たちは今、夜に何をしているのか(笑)」と戸惑いを見せる。改めて成にクラブやミュージックバーの魅力を尋ねれば、こんな答えが返ってきた。

「ウチのような小箱に限定した話では、出演者のネームバリューなどを考えずに、ブッキングでいろいろ音楽的な実験ができることが1つ。これは個人的な意見です。それと毎日営業していると店の中でいろいろなコミュニティが生まれるんですけど、それがいい。狭い店だから、隣に座った人に『よく来るの?』なんて話しかけて、それから友達になっていく。店が広いと逆に、ほかのお客さんと話すきっかけがないこともありますよね。それが小箱のいいところだと思います。知らない人と出会える場所って、重要じゃないですか」

bar bonoboのメインフロア。

bar bonoboのメインフロア。

bar bonoboのDJブース。

bar bonoboのDJブース。

日本は地味すぎる

確かにbar bonoboでは、バーカウンターで客同士が談笑する風景がよく見られる。バーテンダーのスタッフも気さくに客に話しかけ、店内に漂う雰囲気はアットホームそのものだ。成にさらに聞けば、「現代において、抑圧から解放される場所があることも重要」と続けてくれた。

「人間には大声を出したい、音楽で踊りたい、自由な服装をしたい……などさまざま欲求がありますよね。日常生活では、そういった欲求を満たすことができないこともあるでしょう。歩きながら急に大声を出したら変に思われますから。でもクラブやミュージックバーは、人に迷惑をかけることでなければそういったものを許容してきました。自由に着飾って、自由に音楽を楽しむ。自由に叫んで、騒く。そういった欲求がある人たちが集まるんです。その点ではクラブは社会的な抑圧から解放される……つまりハメを外すことができる場所ですよね。もちろん酔っ払いすぎて女性に失礼なことをしたりするようなことはダメですけど、現代においてもハメを外すことができる場所は必要だと思うんです。“ハメを外さずに地味に生きましょう”なんて、つまらないじゃないですか? でも今はそういった場所が取り締まられ、少なくなっている。そんな意味で、日本は地味すぎる。僕からしたら、日本はずいぶん抑圧されているように映ります。街を歩いていても、みんな同じような格好をしているし」

そして成は、“抑圧から解放されて遊ぶ場所”から若者が少なくなっていることにこそ危機感を抱いているそうだ。

「ハメを外せる遊び場や自由に遊べる権利が奪われているという事実に、若者にこそもっと危機感を感じてほしい。もちろんクラブに行かない人が、『俺、クラブに行かないからどうなっても知らない』と思うのもわかるんです。だって、原発や沖縄の問題、医療の問題などは僕からしても関心の高い話題ですけど、当事者でなければ身近な問題としてコミットすることが難しいのも理解できますからね。でも若者たちにとって“遊び場が奪われている”ということは身近な政治的な問題だと思うし、だからこそ意識的になってほしい。そしてクラブの問題が、そういったことを考えるきっかけの1つになればいいな、と。そうすれば、自分たちが『おかしい』と声を上げることで物事がいいほうに動いていく……政治にコミットできる可能性があるということを実感できるかもしれない」

bar bonoboの入り口にあるバーカウンター。

bar bonoboの入り口にあるバーカウンター。

bar bonoboの店内。

bar bonoboの店内。

国がクラブ文化をどう捉えるか

DJとしても活躍する成は、アメリカ、ヨーロッパをはじめ海外のパーティでプレイすることもしばしばだ。この取材の直前にも、アメリカのとある大企業が主催するパーティでプレイしてきた。そこで成は、アメリカの大企業に務めるエリート層たちのクラブの楽しみ方が印象的に映った。

「みんなとにかくハメを外しまくっていましたね(笑)。でももちろん、誰かが捕まったりすることはない。ああいうところから、国がクラブやクラブカルチャーをどう捉えているかということが表現されると思うんです。例えばロンドンで、もともとクラブがある街に移住してきた人は、クラブに対して騒音のクレームを出せないということが決まったらしくて。それまでロンドンでは、騒音のクレームが多くてたくさんのクラブが潰されたそうなんです。でもイギリスは、国自体がクラブカルチャーを大切に思い、『それはまずい』ということで政策を打ったわけです。もしくはドイツのベルリンは、クラブへ防音の予算を出しています。だからと言って『海外に比べて日本は遅れている』という話をしたいわけではないんですけど、住民とクラブの関係など、そういったことをもっとみんなで議論して、考えていける土壌を作りたいんですよね」

bar bonoboの店内。

bar bonoboの店内。

次回も現在の小箱カルチャーに抱く成の問題意識や、bar bonoboの今後の展望などについて触れていく。

<つづく>

成浩一

1963年、山形県生まれ。1990年代をアメリカで過ごし、バンド・のいづんずりのニューヨーク版のギタリストとして活躍した。帰国後の2003年12月に東京・神宮前2丁目にミュージックバー・bar bonoboをオープン。オーナーとして店の経営を担いながら、自らDJも行っている。

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読者の反応

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愛アム迷電 @iammeiden

bar bonoboこそが東京なんじゃ?って思うよ
いまの東京はリーマンが喰うために東京を壊している

東京を文化財に!

ビル建てたって有効活用できる活力がねーんだったら野良をフィーチャーしない?

警察の立ち入りを経てbar bonoboのオーナーは思う | 小箱クラブの現状 第3回 https://t.co/WrN34PIaUl

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