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酒豪エピソードと名演続出!息子・漣大活躍の高田渡トリビュートライブ

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「高田渡トリビュートライブ“Just Folks”」第1部「高田渡を語る」の様子。

「高田渡トリビュートライブ“Just Folks”」第1部「高田渡を語る」の様子。

高田渡の没後10年を記念したトリビュート企画「高田渡トリビュートライブ“Just Folks”」の特別編が、4月18日に東京・東京グローブ座で行われた。

3時間半にわたったイベントは、高田渡の息子である漣と井上陽水が故人について語る「高田渡を語る」、桃月庵白酒が落語を披露する「高田渡を噺す」、漣が父の名曲をカバーする「高田渡を歌う」の3部構成で展開。グローブ座に集まった観客は、トーク、噺、音楽という3つの形で伝えられる高田渡の魅力をじっくりと堪能した。

第1部は漣と陽水による、今だから明かせるエピソードが満載のトークセッション。司会は高田渡のファンというアナウンサーの清野茂樹が務め、明朗なトークで場を盛り上げた。倍賞美津子「いつも一緒に」をバックに登場した漣が、「(ゲストのせいか)緊張感がありますよね。控え室がピリピリしてます(笑)」と口にすると客席からドッと笑いが起きる。そんな一幕を経て、陽水は自身の大ヒット曲「氷の世界」を流しながら壇上へ。開口一番まったりした口調で「皆さんご機嫌いかがでしょうか?」と観客に呼びかけ、自分のペースに会場を巻き込んでいく。その後着席した漣と陽水は、高田渡にまつわる思い出話を惜しみなく披露。漣は、高田渡が北海道で亡くなり羽田空港に遺体が搬送された際に、陽水が迎えに来たエピソードを語り、改めて陽水に感謝の思いを伝える。陽水はかつてアンドレ・カンドレとして、高田渡、三上寛、友部正人、加川良とともにツアーを回った過去を語ったほか、「笑っていいとも!」のテレフォンショッキングのコーナーで高田渡を紹介した逸話をトーク。そして「いいとも!」の司会を務めていたタモリとともに銀座の店を訪れた際、酔っ払った高田渡が店の和式トイレで寝込み、タモリに「なかなかな男だね」と気に入られたことなどを語った。

そこからは、高田渡の豪快な生き方と飲ん兵衛ぶりをうかがわせるエピソードが続出。漣が泥酔した父を介抱しているときに、「どこのどなたか存じませんが、若い方ありがとうございます。せめてお名前を……」と懇願されたことを明かすと、陽水は「僕らから見ると、なかなかあいつやるなって思ってたんです。逸脱ぶりがなかなかできないなって。でも漣くんは『これが一緒に暮らすと大変なんですよ』って言ってたね」と笑う。また陽水はいつでも堂々としていて、飄々とした佇まいの“生意気な”高田渡を懲らしめようと、遠藤賢司とともにツアー先で高田を布団で“す巻き”にした過去を告白。「そしたら渡が『何するんだ!』って怒ってね」と意外な一面を垣間見たことを懐かしそうに語った。その後も、次々と飛び出す高田渡の豪快なエピソードに観客は大笑い。トークの終盤では、高田渡と陽水によるライブが予定されていたが、高田が北海道で客死したためそれが叶わなかったことが明かされ、観客は残念そうにため息を漏らす。すると陽水は「でも僕は彼と一緒に音楽をやるって意識はなくて。僕はどちらかと言うとチャラチャラした音楽が好きで、彼はブルースとか民衆の叫びとか“渋系”でしたからね。だから一緒にステージで『やろうか?』『やろうやろう!』とはならなかったと思います。でも彼は面白いですし、僕もその面白さに反応するタイプなんで、相当な掛け合い漫才ができたんじゃないかと」とユーモアたっぷりに述べ、観客を笑わせて「高田渡を語る」を締めくくった。

「高田渡を噺す」ではステージに高座が設けられ、演芸場のような雰囲気に。桃月庵白酒は「こういうライブでは落語は必要ないと思うんですが……」とエクスキューズしながらも、高田渡と同じ酒飲みでもあった古今亭志ん生との共通項を挙げながら快活な語り口で観客を惹き付ける。程よく場が和んだところで、大酒のみの父子が登場する古典落語「親子酒」を軽快に噺し出した。白酒は噺の中に絶妙に高田渡と漣の親子ネタを盛り込み、父親が息子との約束を破ってお酒に手を出すシーンでは、盃の代わりに高田渡の名曲「コーヒーブルース」にちなんでコーヒーカップを登場させ、息子に酒を無理やり飲ませる旦那役として細野晴臣の名前を挙げるなど、マニアックな小ネタで観客を感嘆させる。第2部は高田渡のトリビュートライブにふさわしいネタによって、笑いの絶えない時間となった。

そして第3部は高田渡の遺した楽曲を、漣が入れ替わり立ち替わり登場する多彩なゲストとともに演奏する「高田渡を歌う」。「改めまして……」と言いながら現れた漣は「父がライブでよく1曲目に披露していた曲」という紹介から、「仕事さがし」をギターを爪弾きながらじっくりと歌い上げた。その後は、伊賀航(B)と伊藤大地(Dr)というおなじみのメンバーに武川雅寛(Violin, Tp, Mandolin)も加わって演奏された「自転車にのって」、関島岳郎(栗コーダーカルテット / Tuba)のチューバが陽気に響いた「ヴァーボン・ストリート・ブルース」と続いていく。観客は息を詰め、ステージ上で紡がれるアンサンブルや、漣の深い味わいのある歌声に耳を傾ける。

漣は曲と曲の合間にMCも行い、イノダコーヒをモチーフにした「コーヒーブルース」を歌う前には「年に7~8回京都に行くんですけど、毎回行くたびにイノダコーヒに行って、ボルセナとコーヒーを頼むんですよ。で毎回領収書をもらうんですけど、覚えられちゃいまして……恥ずかしいもんです」と語り観客の笑いを誘う。また「ひまわり」では父が使っていた8弦のウクレレを登場させ、かつて自分がそのウクレレに落書きをしてしまったエピソードを披露。父との思い出話を随所に織り交ぜながら丁寧に曲を奏でていった。

第3部の後半戦を彩ったのは、ドレスコーズの志磨遼平。「光栄です」と恐縮しながら登場した志磨は、歌詞を噛み締めながら「夕暮れ」を丁寧に歌唱する。さらに漣の「この曲すごい好きなんだけど、なかなか僕は歌えなくて……。だから選んでくれてうれしかった」という紹介から、「私は私よ」を浪々と歌い上げる。武川の奏でるトランペットの音色や、漣の弾くバンジョーが、志磨の歌と曲のユーモラスな雰囲気を引き立てた。

「子供の頃、この曲(の歌詞)は父が書いたものと思ってたんですが、実は違う方の作品でした」という紹介から続いた「系図」、「ずーっと高田渡の曲を歌ってきたんですが、ほかの歌を歌ってもいいですか?」という言葉から演奏された高田渡の詩に漣が曲を付けた「オール・ナイト」と少々毛色の違うナンバーを経て、イベントはいよいよ終盤へ。「父が教会から出棺されるときに流れてた曲です。明るくお別れしたいと思います」という曲紹介から「私の青空」につなげる。ステージに志磨を含むゲストが勢ぞろいし演奏を始めると、観客の手拍子が自然と沸き、朗らかな空気がグローブ座に漂った。

アンコールの1曲目は、漣の祖父である高田豊が詩を書き、父の渡が曲を付けた「火吹竹」。哀切をにじませた漣の深い歌声が静寂の中で響き、再び観客を高田渡の音世界へと誘っていく。そして「もっとやっていたいんですが、今日はここでお別れしたいと思います。父がよくライブの最後にやっていた曲です」という漣の挨拶のあとに、「くつが一足あったなら」がラストナンバーとして届けられた。全22曲を歌い終えた漣は、共演者たちを送り出したあと、最後までステージ上でお辞儀を繰り返していた。

高田渡トリビュートライブ“Just Folks” 第3部「高田渡を歌う」
2015年4月18日 東京グローブ座 セットリスト

01. 仕事さがし
02. 自転車にのって
03. ヴァーボン・ストリート・ブルース
04. アイスクリーム
05. 鮪に鰯
06. 鉱夫の祈り
07. ブラザー軒
08. フィッシング・オン・サンデー
09. コーヒーブルース
10. おなじみの短い手紙
11. ホントはみんな
12. ひまわり
13. 夕暮れ
14. 私は私よ
15. 銭がなけりゃ
16. 生活の柄
17. 系図
18. 雨の日
19. オール・ナイト
20. 私の青空
<アンコール>
21. 火吹竹
22. くつが一足あったなら

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