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宮城聰「演劇祭から、世界には本当にいろいろな状況の人がいることを感じて」

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「ふじのくに→せかい演劇祭2020」プレス発表会の様子。左から若林康人、ホナガヨウコ、宮城聰、奥野晃士、たきいみき。

「ふじのくに→せかい演劇祭2020」プレス発表会の様子。左から若林康人、ホナガヨウコ、宮城聰、奥野晃士、たきいみき。

昨日2月26日に静岡・静岡県コンベンションアーツセンター・グランシップにて「ふじのくに→せかい演劇祭2020」のプレス発表会が行われ、SPAC芸術総監督の宮城聰が登壇した。

今年の「ふじのくに→せかい演劇祭」の巻頭言は、「寛容」。その言葉に込めた思いについて宮城は「早くもオリンピック以降が心配になっています。というのも、世界の中間層と言われるような過半数の人たちが“不遇感”、つまり、自分たちは割りを食っているのではないかという思いを膨らませているのではないかと思います。日本では現在、オリンピック・パラリンピックに向けて多様性という言葉が流行語になってはいますが、逆に多様性ということに対して異議を唱えにくい空気がある。そのことが、自分より大変な立場の人たちが手厚くもてなされていることへの不遇感を、より膨らませているのではないかと思います」と指摘する。そのうえで「公立劇場のディレクターとしては、世界には本当にいろいろな状況の人がいるということ、自分たちが感じている不遇感や不満はコップの中の嵐に過ぎないのだということを、『せかい演劇祭』を通じて感じてもらえたらと思っています」と語った。

続けて各作品の紹介が行われた。宮城は「空を飛べたなら」の作・演出を手がけるワジディ・ムアワッドについて「ムアワッドさんの美点は、お話を作ることに長けていること。『炎 アンサンディ』などをご覧になった方はご存知だと思いますが、彼の強みというかコツは、誰もが知っている物語のひな形を使うことなんです。という点で、『空を飛べたなら』は『ロミオとジュリエット』がモチーフ。ユダヤ系ドイツ人青年とアラブ系アメリカ人女性の恋愛をベースに、人は簡単に所属が切り分けられるものではないということを、ハラハラドキドキなストーリーの中で描いています。これだけの芝居は今、滅多にないと思います」と自信を見せる。

また「終わらない旅~われわれのオデッセイ~」のステージング・演出・ドラマツルギーを担当するクリスティアヌ・ジャタヒーについては、「彼女はいろいろなものの間にある敷居、境界を超えた人を描こうとしている。この作品では、亡命など、境界を超えていかねばならなかった人たちを、映画と演劇の境界を超える手法で描こうとしています。ジャタヒーさんの出身地であるブラジルは、ユダヤ人をはじめ多くの亡命者、越境者がいた国ですが、この作品では彼らの存在を、データとしてではなく、生身の肉体として感じられます。演劇が持つある特性を、見事に生かした作品だと思います」と述べた。

オリヴィエ・ピィが作・演出・音楽を手がける「オリヴィエ・ピィのグリム童話『愛が勝つおはなし~マレーヌ姫~』」は、SPACでもたびたび上演されている“グリム童話シリーズ”の最新作。宮城は「ピィさんの芝居の本質は、演劇に恋をしてしまった人の、演劇に対する永遠のラブレターだと思います。だからピィさんの芝居を観ると、『ああ、自分もかつて演劇に恋をして今に至るな』と感じます(笑)。この作品は、非常にシンプルな作りで、ファンタジーが生まれる瞬間を見せてくれる。演劇の核にあるものを感じさせてくれる芝居だと思います」と紹介した。

「OUTSIDE ーレン・ハンの詩に基づく」は、ロシア政府により軟禁状態に置かれている、演出家・映画監督のキリル・セレブレンニコフの最新作だ。宮城は昨年のアビニョン演劇祭で本作を観た衝撃を「1人のアーティストにとって、一生に1回しか作れないような作品」と説明。「ワンルームマンションのような空間が舞台で、そこにレン・ハンという中国の写真家・詩人の亡霊のようなものが現れるんです。その亡霊がメフィストフェレスのような形で、主人公の男をイマジネーションの世界に連れ出すのですが、レン・ハンの写真から引用したようなさまざまな美しいシーンがあって……。『これほどの作品を紹介できなくて、演劇祭をやっているの価値があるのか』と思うほどすごい作品でした」と言葉に力を込めた。

またSPACでたびたび作品を発表しているオマール・ポラスは、自伝的作品「私のコロンビーヌ」を披露する。宮城は「演劇は今、ある程度恵まれた人の文化的な娯楽と言われるようになっています。でもオマールの両親は字が読めない人だったそうで、本作で彼のお母さんが、『私は字が読めない。だから世界の半分は意味がわからない」と話すんですね。で、『お前は勉強しなさい』と言われたそうなんですけど、オマールにとっては演劇が世界を知るための窓だったんですよね。そのことをもう一度、僕らも思い出さないといけないと思っています」と話した。

最後に、唐十郎の戯曲を宮城が演出するSPACの新作「おちょこの傘持つメリー・ポピンズ」が紹介され、キャストを代表して、たきいみきと奥野晃士が登場した。2人は2018年に初演されたSPAC版「寿歌」にも出演しており、「SPAC演技部アングラ班です(笑)」と自己紹介。そして唐戯曲のセリフの魅力や、宮城が稽古場で見せる“アングラスピリット”について笑顔で語った。

さらに、演劇祭期間中には、ストリートシアターフェス「ストレンジシード静岡2020」も開催される。フェスティバルディレクターのウォーリー木下に代わり、プログラムディレクターの若林康人が登壇し、今年は国内15組、海外2組と、後日発表となる公募団体8組が出演することを発表した。また常盤公園など、会場エリアが広がるほか、観客参加型演目も準備していることを明かした。

その参加型作品の1つとして、オープニングパレードが行われる。パレードの演出・振付を手がけるホナガヨウコが会場に姿を現し、「昨年『ストレンジシード』に参加し、とても温かく受け入れてもらいました。市の協力体制が整っているし、観る人の体制も整っているのが印象的だったなと。ですので、今年も非常に楽しみです」と挨拶。さらにパレードではイラストレーターの安斉将とのコラボレーションを予定していると明かした。

そのほか、東京2020 NIPPONフェスティバル共催プログラムとして、宮城演出「アンティゴネ」が静岡・駿府城公園にて上演される。こちらについて記者から意気込みを問われると、宮城は「以前静岡で上演したときは、アビニョンで上演した時の4分の1くらいのサイズでしかできなかった。今回ようやく静岡のお客さんに実際のサイズ感で観ていただくことができます」と笑顔を見せた。

「ふじのくに→せかい演劇祭2020」は4月25日から5月6日まで静岡・静岡芸術劇場ほかにて。チケットの一般発売は3月8日10:00に開始。また「ストレンジシード静岡2020」は5月2日から5日まで静岡・駿府城公園、静岡市役所・葵区役所、常盤公園などにて。予約不要で参加無料。

「ふじのくに→せかい演劇祭2020」

2020年4月25日(土)~5月6日(水・振休)
静岡県 静岡芸術劇場、舞台芸術公園 ほか

「空を飛べたなら」

2020年4月25日(土)・26日(日)
静岡県 静岡芸術劇場

作・演出:ワジディ・ムアワッド

「おちょこの傘持つメリー・ポピンズ」

2020年4月25日(土)・26日(日)・29日(水・祝)
静岡県 舞台芸術公園 野外劇場「有度」

作:唐十郎
演出:宮城聰

「私のコロンビーヌ」

2020年4月25日(土)・28日(火)・29日(水・祝)
静岡県 舞台芸術公園 稽古場棟「BOXシアター」

演出・通訳・舞台美術・衣装:オマール・ポラス

「終わらない旅~われわれのオデッセイ~」

2020年4月28日(火)・29日(水・祝)
静岡県 静岡芸術劇場

ステージング・演出・ドラマツルギー・クリスティアヌ・ジャタヒー

「オリヴィエ・ピィのグリム童話『愛が勝つおはなし~マレーヌ姫~』」

2020年5月2日(土)・3日(日・祝)
静岡県 静岡芸術劇場

作・演出・音楽:オリヴィエ・ピィ

レクチャー&パフォーマンス「OUTSIDE ーレン・ハンの詩に基づく」

2020年5月5日(火・祝)・6日(水・振休)
静岡県 静岡芸術劇場

演出・美術:キリル・セレブレンニコフ

東京2020 NIPPONフェスティバル共催プログラム ふじのくに野外芸術フェスタ2020静岡 宮城聰演出SPAC公演「アンティゴネ」

2020年5月2日(土)~5日(火・祝)
静岡県 駿府城公園

作:ソポクレス
訳:柳沼重剛
構成・演出:宮城聰
出演:SPAC

「ストレンジシード静岡2020」

2020年5月2日(土)~5日(火・祝)
静岡県 駿府城公園、静岡市役所・葵区役所、常盤公園ほか静岡市内

フェスティバルディレクター:ウォーリー木下
出演予定アーティスト:東京デスロック柿喰う客白井剛×森川祐護(Polygon Head)、ホナガヨウコ渡邉尚頭と口)×kajii、劇団子供鉅人劇団 短距離男道ミサイル鳥公園ワワフラミンゴ劇団壱劇屋コトリ会議、太めパフォーマンス、不思議少年、Mt.Fuji、吉光清隆 ほか / Collectif Protocole、I moment

※「ふじのくに→せかい演劇祭2020」の「→」は相互矢印が正式表記。

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