「ストレンジシード静岡2019」ウォーリー木下インタビュー|きっかけはフジロック!気になる今年の見どころは?

ゴールデンウィークの静岡を、今年も多数のパフォーマンスが彩る。ストリートパフォーマンス・フェス「ストレンジシード静岡」は、同時期に開催される「ふじのくに⇄せかい演劇祭」(参照:SPAC2019「ふじのくに⇄せかい演劇祭」から「メナム河の日本人」まで 宮城聰×今井朋彦対談)のフリンジ企画として2016年にスタート。4年目の今年は、ままごと×康本雅子、梅棒、黒田育世(BATIK)、範宙遊泳、ロロ、山田うんなど国内外26団体が出演し、会期も伸びるなど勢いを増している。気になる今年の見どころや、今後の展開は? 立ち上げ以来、プログラムディレクターを務めるウォーリー木下が、「ストレンジシード静岡」の現在について語る。さらに参加団体による意気込みも掲載。今年のゴールデンウィークに、ぜひ静岡を訪れてみては。

取材・文 / 熊井玲 撮影 / 興野汐里

ウォーリー木下インタビュー

フジロックのような演劇フェスを目指して

ウォーリー木下
おたねちゃん
おたねちゃん

静岡県出身のマンガ家・しりあがり寿が手がけた「ストレンジシード静岡」のシンボルキャラクター。なお、しりあがりは「ふじのくに⇄せかい演劇祭」の関連企画「しりあがり寿 presents ずらナイト」でホストを務める。

今年で立ち上げから4年になりますが、自分としてはまだあまり手応えがなくて。いわゆる劇場でやっている演目ではないので、一般的な興行のように完売して追加公演が出たとか、そういうことでは測れない部分があります。ただ、静岡市の「まちは劇場 ON STAGE SHIZUOKA」プロジェクトのコア事業にストレンジシードが選ばれたこともあり、参加団体数がこれまでの1.5倍以上に増えて、日数も3日から4日になったりと徐々に規模は拡大していますし、静岡での認知度は確実に高まっていて、例えば“おたねちゃんカード”を持って歩いていると「あ、またやるんだ!」と言ってもらうことはよくあります(笑)。

僕が20年前に「演劇のフェスがやりたい」と思ったきっかけは、フジロックでした。ああいうフェスのいいところは、いっぺんに有名な人がたくさん観られるうえに、あれこれ“つまみ食い”できて、好きな団体が増えていくところだと思うんですよね。これを入り口に、洋楽やさまざまなジャンルの音楽に興味を持った人って多いと思うんです。さらに野外! ビールを飲みながら楽しめる! そういう意味でストレンジシードは、これまで僕がやってきたいろいろなフェスの中で最も理想に近いというか、やりたいことができているかなと。静岡以外の人がわざわざ静岡に出かけてきてくれるような、より能動的なものになっていけたらいいなと思います。

第2の維新派のような団体を

「ストレンジシード静岡」過去公演より。(撮影:山口真由子)

参加団体を選ぶときに意識していることは、まずポップさ。一般の人にとっては、街中で何かが行われるという時点でちょっと怖いし、「邪魔だな。うるさいな」とかって、ネガティブな感情で受け止める人が多いと思うんです。それは大前提として、でも2・3秒観ていたら「ちょっとカッコいいな」「この音は気持ちいいかも」と思われるようなキャッチーさがある人を選ぼうと思っています。それと、大阪には維新派というすごくいい劇団がありました(編集注:1970年に創設。大阪の街中や奈良の山奥、島などサイトスペシフィックな作品作りを得意とした劇団。主宰の松本雄吉が死去したことにより2017年に解散)。「ストレンジシード静岡」に対する僕の目的の1つには、第2の維新派を作るというか、野外でも作品が作れるような力のある団体を作っていきたいし、出会っていきたいという思いがあります。「野外で作品を上演しませんか?」ってオファーすると、「機会がなかっただけで、野外でやってみたかった」って興味を持ってくれる人は意外と多いんですよ。そう言って参加してくださる方の作品は実際面白いです。野外だと雨が降ったり風が吹いたり、いろいろなことがありますが、劇場でそれをやろうとするとものすごくお金がかかりますから(笑)、「それが無料でできるなんて!」って一緒に面白がってもらいたいですね。

風景が見えてくる団体、消えていく団体

今年は海外から2組呼びます。海外のアーティストに来てもらうことで、お客さんにとってはもちろん、参加アーティストにも刺激があるといいなと思っているので、今後もお金が許せば紹介していきたいです。国内団体はパフォーマンス系が多いですね。ままごとは昨年に続いての参加で、今回は康本雅子さんとのコラボレーション。梅棒やBATIKのように、やる場所に関わらず表現に強いものを持っているカンパニーもいれば、作品の設定に合わせて朝の駐輪場で上演するロロのような団体もいたり。作品の傾向としては、どんどん風景が消えていく団体と、どんどん風景が見えてくる団体に分かれるかもしれません。

ウォーリー木下

また、毎年5・6組、東京以外の劇団を意識的に入れてきました。と言うのも、日本中の劇団が下北沢を目指すような感じで、新たに静岡を選んでもらえるとうれしいなと思っていて。フェスティバルって、シンポジウムとかそのあとの打ち上げとか、ネットワークを作る場としての機能もあるので、将来的には例えばSPACを観に来た海外のプロデューサーがストレンジシードにも来て、その場で作品を買うみたいな、演劇のマーケットができるような場になるといいなと思っています。そうなれば、各団体にとってもストレンジシードが、単に公演を打つ場としてではなく、次のステージのことも考える場になるんじゃないかなと。また、過去3回は“もてなし”の側に回っていた静岡の演劇人にも今回は参加してもらいます。

フェスティバルってよその人たちが集まってくる場で、そういう意味では僕もよそ者だから、ちょっと心苦しいところがあって。ゆくゆくは僕が一旦プログラムディレクターを退いて、静岡の人たちにやっていってほしいなと思っています。実際、スタッフに静岡の学生や若い人を巻き込んだり、関わってくれる人の範囲を広げていたりして、トップダウン方式ではなくボトムアップ方式になってきていますし、僕自身もいつかぜひ、ストレンジシードで作品を作りたい。たぶん、一番面白いものが作れると思いますよ!(笑)

Pick up! 海外2組・静岡勢4組

海外

今回来日するのは、ヨーロッパで古くからあるストリートシアターの中で揉まれてきた2組。
大道芸やサーカス、コンテンポラリーダンス、演劇などの要素がボーダレスに交ざり合います。

Magik Fabrik

フランスクラウン
Magik Fabrik

2005年に結成されたAlice WoodとRomain Ozenneによるユニット。無言劇に強くインスパイアされた彼らは、身体表現、音楽、オブジェクトシアター、道化師など、分野のミックスに着目しながら作品を制作している。

HURyCAN

スペインダンス
HURyCAN ©Camille Dudoubs

スペインを拠点とするカンパニー。“限界”と“コミュニケーション”の可能性を感じさせる、ダイナミックなコンテンポラリーダンスが特徴となっている。

静岡

“地産地消”じゃないですけど、静岡の場所と空気を知っている静岡の劇団だからこそ作れるような作品を!

劇団「Z・A」

静岡演劇
劇団「Z・A」

静岡県内各地で活動するユニット。「分かりやすくてカッコいい」をコンセプトに掲げ、マンガのような演劇作りを目指している。

TEAM 劇街ジャンクション

静岡演劇
TEAM 劇街ジャンクション

静岡市街でのパフォーマンスイベント「劇街ジャンクション」を主導する、地元のパフォーマー・アーティストによる特設ユニット。今回は大道芸あまる、炎のギタリスト原大介が“音楽×曲芸パフォーマンス”を披露する。

超歌劇団

静岡演劇
超歌劇団

静岡を中心に活動するお笑い演劇集団。“熱く、クサく、酔いしれる”を基本理念としている。

富士フルモールド劇場

静岡演劇
富士フルモールド劇場

静岡県富士市の劇場とそのシアターカンパニー。インプロの考え方を取り入れながら、芸術監督の長谷川皓大とゲスト俳優たちで作品作りを行う。