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「黒蜥蜴 全美版」緑郎&雪之丞が手応え語る「これからの新派の突破口に」

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「黒蜥蜴―全美版―」稽古の様子。手前から喜多村緑郎、河合雪之丞。

「黒蜥蜴―全美版―」稽古の様子。手前から喜多村緑郎、河合雪之丞。

6月2日に東京・三越劇場で開幕する、新派130年 六月花形新派公演「黒蜥蜴―全美版―」。ステージナタリーでは、5月23日に東京都内で行われた稽古の様子をレポートする。

昨年2017年6月に初演された劇団新派版「黒蜥蜴」は、早替りや立廻り、だんまりといった歌舞伎の手法を取り入れて話題を呼んだ作品。改訂を加え「全美版」として再演される今回は、初演に続き、探偵・明智小五郎役を喜多村緑郎、女盗賊・黒蜥蜴役を河合雪之丞、令嬢・岩瀬早苗役を春本由香、女中・春役を伊藤みどり、黒蜥蜴の手下である雨宮潤一役を劇団EXILEの秋山真太郎が演じ、警部・波多野十三郎役を新キャストの今井清隆が務める。

開始前は和やかなムードが漂っていた稽古場だが、稽古が始まるとキャストたちの表情は一変、真剣な面持ちで集中力を高めていく。この日の稽古では2幕が通して披露され、明智と黒蜥蜴、そして雨宮や波多野が入り乱れての立廻りが繰り広げられた。緑郎と雪之丞をはじめとするキャスト陣は、息の合った演技を見せつつ、芝居を深めるため模索する姿勢を崩さない。また演者がときおりアドリブを挟むと、脚色・演出の齋藤雅文から笑い声が上がる場面も見られた。

緑郎と雪之丞は、明智と黒蜥蜴という好敵手同士が騙し騙されながら次第に惹かれあっていく様を熱演。また今井演じる波多野がその美声を響かせるシーンや、春本演じる早苗、伊藤演じる春、秋山演じる雨宮が登場する緊迫した場面では、それぞれが三者三様の鬼気迫る演技を見せた。

稽古前には緑郎と雪之丞が取材に応じた。「全美版」と題した今回の再演について緑郎は「初演は幕が開いてしまってから、なかなか修正できなかった。そこを再演で改訂することができたので『完全版』に近付けるという意味でも『全美版』と銘打ちました」と語る。

雪之丞は再演にあたって「同じものを同じようにやるより、さらに風通しよく、まとまりよく、なおかつエンタテインメント性も持たせて進化させたい。『全美版』にふさわしい『黒蜥蜴』に仕上がっています」と手応え十分な様子。

初演との大きな違いについて緑郎は「警部役に、ミュージカル界から今井清隆さんをお招きしています。(初演で永島敏行が演じた)前回の刑事と役名もキャラクターも違うので、登場人物の関係性も変わってくる。あとはミュージカル好きのお客様にも楽しんでいただけるはず……ズバリ言うと歌なんですが(笑)。今井さんの歌舞伎チックな場面があったり、『完全版』にしようと言いつつも、遊び心が散りばめられています」と明かした。

そんな今井の印象について雪之丞は「とても穏やかで、紳士でいらっしゃいます。役どころもダンディでイタリア帰りという設定ですが、今井さんの見た目そのままですよね(笑)」と笑いを誘う。これに対して緑郎は「かたや明智は英国帰り。明智と警部のライバル関係は初演よりも火花バチバチで、でも友情もあり、より深いところまでいってます。もちろん明智と黒蜥蜴や、それ以外のキャラクターも初演より深いところまで描けています」と自信をのぞかせる。

緑郎は初演を振り返り「僕がわがままを言って『黒蜥蜴』という狂言をやってくれないかと頼んだんです。お客様が入らなかったらどうしようかと心配でしたが、好評をいただき、千秋楽には客席が満員になっていました。今回は再演の安心感はあるものの、力が抜けてはいけないので、よりよい作品にしようという心意気で、みんなが1つの方向に向かってお稽古しています」と力強く話した。

また3月から4月にかけて上演された自主公演「怪人二十面相 ~黒蜥蜴二の替わり~」にも触れ「『黒蜥蜴』でストップするんじゃなく、続けて乱歩作品をやったというのは、また意味深いですよね。新派としては秋に横溝正史の『犬神家の一族』をやらせていただきますし、『黒蜥蜴』再演を経て『犬神家』にどう入っていくかも楽しみです。それが、もしかしたらこれからの新派の突破口になるのかなと。古典の『婦系図(おんなけいず)』や『日本橋』をやっていることで出せる新派のパワーと言いますか、この時代の感覚は新作にも生かせるんじゃないかな」と展望を語った。

“コンビとしての信頼関係”について尋ねると、雪之丞は「歌舞伎のときから30年一緒にいますからね」と切り出し、緑郎が「(歌舞伎時代に)修業しているときから、夫婦役や恋人役と、同世代の立役と女形として、相手役が多かったので……」と続けると、雪之丞はすかさず「新鮮味もなけりゃね(笑)」と阿吽の呼吸で返す。さらに緑郎は「かと言って不安もない……空気みたいな存在でもあるし、お互いに『こうしたほうがいいんじゃないか』というのを自由闊達に話し合える仲だから、遠慮がないのは利点じゃないですかね」と答えた。

雪之丞は「舞台上で『この人(緑郎)こうしたいんだろうな……』とか、『こっちに行きたいんだろうな……』とか、会話しなくてもできてくるんです」と明かし、緑郎は「相手の出方がわかったり、円滑にいき過ぎると、お互いのセリフを聞いてないように見えたりするので、気を付けなきゃいけない。そういうふうに陥りやすいところを俯瞰して見る。漫才でも芝居でもコンビっていうのはそういう目を持ってなきゃいけないというのは常に思ってます」と語った。

最後に緑郎は本作について「ドラマチックでスピード感があり、1分1秒も飽きさせることがない。100パーセント楽しんでいただけると思ってやっていますので、ぜひ劇場に足を運んで、楽しんでいただければ!」と観客にメッセージを送る。そして雪之丞は「老若男女どなたでも、わかりやすく楽しんでいただけて、なおかつ濃い作品に仕上がっています。ぜひお越しください」と挨拶し、取材を締めくくった。公演は6月2日から23日まで三越劇場にて。

新派130年 六月花形新派公演「黒蜥蜴―全美版―」

2018年6月2日(土)~23日(土)
東京都 三越劇場

原作:江戸川乱歩
脚色・演出:齋藤雅文

キャスト

名探偵・明智小五郎:喜多村緑郎
女盗賊・黒蜥蜴:河合雪之丞

岩瀬家一人娘・岩瀬早苗:春本由香
岩瀬家女中・春:伊藤みどり
黒蜥蜴の手下・雨宮潤一:秋山真太郎

警部・波多野十三郎:今井清隆

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