維新派「アマハラ」松本ノート手がかりに、平城宮跡に“廃船”浮かべる

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昨日8月19日に大阪にて、維新派の最終公演「アマハラ」の記者会見が行われた。

維新派「アマハラ」記者会見の様子。

維新派「アマハラ」記者会見の様子。

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内橋和久

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会見には、作曲・演奏の内橋和久、演出を担当し出演もする劇団員の平野舞と金子仁司、制作の山崎加奈子が登壇し、司会進行を編集者の小堀純が務めた。

去る6月18日に主宰の松本雄吉が逝去し、今回が最終公演となる維新派。奈良・平城京跡での公演を4ヶ月後に控えたタイミングでの突然の訃報に、劇団でも公演をそのままやるか否か、さまざまな議論が重ねられたという。しかし、制作の山崎は「70年の立ち上げ以来46年、維新派が関わってきた人はたくさんいます。ですので、松本が亡くなったから自然に維新派が終わるということではなく、けじめと言いますか、私たちの手で終わらせるという、そういう形で今回の公演をしよう、ということになりました」と挨拶した。

山崎加奈子

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「アマハラ」は、2010年に初演した「台湾の、灰色の牛が背のびをしたとき」を再構成した作品で、日本・中国・韓国の3カ国が行う文化交流プロジェクト「東アジア文化都市」の一環として上演される。常に新作を作り続けてきた維新派にとって再演は珍しいことだが、松本はその「東アジア文化都市」の事業趣旨と、平城宮跡という場所が、「台湾の、~」が内包する作品的テーマに繋がると考えたのだという。

「アマハラ」の開演時間は、毎日17時15分。奈良を愛し、平城宮跡での上演を強く望んでいた松本が、生駒山に夕日が落ちる時間を計算して決めた。山崎は、「松本は20年ほど前に知人に連れて行ってもらったようなのですが、奈良の、特にこの平城宮跡にとても思い入れがあって、いつかはここで公演したいとずっと思っていたようです」と語る。

平野舞

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登壇者たちの前の机には、“廃船”というアイデアから生まれた、今回の美術模型が置かれていた。「奈良はシルクロードの終着点と言われ、大陸に開けていた場所。海のない奈良に船があるのは、歴史的にも面白いのではないかと、松本は話していました」と山崎は振り返る。

今回、演出は俳優5名とスタッフ1名で構成された“演出部”が担当する。その1員である平野は「私達が松本ノートと呼んでいる、全体の進行表というかネタ帳のようなものがあるんです」とコピーの束を取り出した。「病室で書かれたものなのですが、これを見ると『台湾の~』を引き継ぎつつもシーンが入れ替わっていたり、まったく新しいシーンが追加されていたりして。ただあらたな台本はまだ1行も書かれていなかったので、このノートと、病室の松本といろいろメールでやりとりしたことを元に、演出部のメンバーが1人1シーンずつ担当して、新たに台本を作っている状況です」と説明。さらに「松本ノートの中にはいろいろなワードが散りばめられていて、一見なんのことかわからないものもあるんです。ただ、特にたくさん繰り返し出てきたのが“旅”と“ここはどこですか”という言葉。それは松本さんがずっと持っていたテーマなので、今回もやはりそれがキーワードなんだろうなと再確認しました」と語った。

金子仁司

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同じく演出を担当する金子は、松本に倣って現在Excelで台本を書いていると話す。「Excelを使ったことがなかったんですけど、Excelで台本を書いているとすごく理にかなったことをやってるなって感じます。空間をどう観るかがわかってきたというか。維新派の台本は“連”で構成されるんですけど、それがきっちり整然と並べられるし、そこに図面が差し込まめる。さらにそれが、どう変化していくのかがわかるんです」と実感を込めて語る。さらに「台本を書きながら、松本さんの台本はイメージを伝えるものではなくて、説明書なんだなって発見がありました。人に対してもだけど、自分に対しての説明書というか、自分がどういうことをやろうとしているのかが見えてくる。しかも説明書は読んだだけではよくわからないから、実際にちょっとやってみると、また新たな発見がある。台本て、そういう意味ですごく大事だなと思いました」と述べた。

記者から平野と金子に「実際に演出を担当して松本の存在の大きさを感じたことは?」という質問が投げかけられると、平野は「私は箱入り娘というか(笑)純粋培養で、維新派しか知らないというような人生を送ってきました。もちろんいろいろ素晴らしいものを外で観てはいますが、自分の判断基準になるものは、維新派で松本さんと喋ったことがすべてといっても過言ではありません」と答え、「だから今演出に携わりながら、松本さんはこのシーンをどう観せようと思っていたのだろうとか、松本さんだったらどういうひらめきがあったんだろうと、これまでとは全然違う頭で考えるようになって。松本ノートに書かれた言葉を見返したりしながら探っているんですけど、探れば探るほどそこには広大な土地が広がっている、という感じですね」と続けた。

松本ノートのコピーを見せる平野舞。

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また、長年維新派の音楽を担当してきた内橋は、今年の春、最後に松本と会ったときのことを振り返り、「すごい元気だったんですよ。みんなもそうだと思うけど、まさかこんなことになると思ってなかったし、元気になる前提でみんなことを進めていた。だから……意外。『こんなことする(亡くなる)なんて意地悪ねぇ』という気持ち」とつとめて明るく発言。その言葉に、登壇者全員がうなずいてみせる。記者から松本の思い出を問われると「とにかくすごい優しくて、すごく厳しい人でした。劇団員は一度やめた人は戻れないんです。それと中途半端な、いい加減な仕事をする人も一発で切られました。その一方で、人の話はよく聞く人だったし、公演中に劇団員全員と美味しいご飯を食べるとかってことをすごく大事にしていた。それと、みんながどやどやっと部屋に入った後の散らかった靴を、全部1人で揃えたりしてね。人にやらせる前に自分がやる人でした」と感慨深げに語った。すると金子も、「昨年の『トワイライト』は会場が運動場だったので、毎日トンボで地面をならしていたんですけど、松本さんが率先してやっていましたね(笑)。でもそれが楽しかった」と語り、会見場は温かな笑いに包まれた。

「アマハラ」の舞台美術模型。

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さらに会見の終盤、内橋は「これだけは言っておきたいんですけど」と前置きして、「松本さんは僕がつくる音を、いつも楽しみにしてくれていた。台本をもとに僕が作った曲を、『はあ、なるほど。意外やな、そう来たか』って、楽しんでくれた。(音楽に)具体的なアイデアを持った演出家だったら僕はすごく困ったと思う。でも松本さんはいつもただ、何が来るかを楽しみにしてくれていた。だからこそこちらも、『ちょっと無理かもしれないけど、松本さんの反応を見てやろう』と思って、冒険的なことを盛り込むことができたんです。だから今回はそれができなくてちょっとさびしいな」と熱く語り、松本との信頼関係の深さを感じさせた。

「具体的な劇団解散の時期は?」という質問には、「来年、この作品を海外公演しないかというお話があって、それをお受けすれば来年11月、お断りすれば年度内に解散になるかなと思います」と山崎。また、6月に訃報が報道された時点では、松本を偲ぶ会をやる考えもあったがそれはなくなり、代わりに「アマハラ」公演時に、維新派恒例の屋台村の中に松本雄吉追悼コーナーをつくる予定だという。

公演は10月14日から24日までの11日間。チケットは8月28日に発売開始。

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維新派「アマハラ」

2016年10月14日(金)~24日(月)
奈良県 平城宮跡

脚本・構成:松本雄吉
音楽・演奏:内橋和久
出演:森正吏、金子仁司、井上和也、福田雄一、うっぽ / 石本由美、平野舞、吉本博子、今井美帆、奈良郁 / 松本幸恵、石原菜々子、伊吹佑紀子、坂井遥香 / 松永理央、衣川茉李、平山ゆず子、室谷智子、山辻晴奈 / 下村唯、大石英史松井壮大、風速純、久世直樹 / 瀬戸沙門、日下七海、阿山侑里、岩坪成美、飯島麻穂 / 佐竹真知子、五月女侑希、手代木花野、中田好美 / 増田咲紀、南愛美

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