「歌舞伎名作入門」は歌舞伎の名作を解説付きで上演する、国立劇場による企画。今回は、義太夫狂言の三代名作の一つ「仮名手本忠臣蔵」より、上演機会の少ない二段目「桃井館力弥使者の場」「松切りの場」と、九段目「山科閑居の場」が披露される。二段目と九段目は、塩冶判官と共に儀式運営の任に就いた桃井若狭之助の家老・加古川本蔵の一家と、大星由良之助の一家に焦点を当てた物語。人間国宝の梅玉は本蔵役、鴈治郎は若狭之助と由良之助の2役、扇雀は本蔵の妻・戸無瀬役を、3人とも初役で勤める。
梅玉は「私が『仮名手本忠臣蔵』に初めて出たのは50年以上前になりますけれども(1969年)、九段目の大星力弥でした。二段目の若狭之助、九段目の由良之助を含め、十何役を経験してきて、主な役で演じたことがないのは本蔵と高師直だけ。師直はもう生涯できないのではと思いますが(笑)、いよいよ本蔵に挑戦させていただけることを楽しみにしております」と喜びを語る。
本蔵を演じるにあたり大切にしたいことを記者に問われると、梅玉は「本蔵という人物は、若狭之助が短慮を起こさないように師直に金品を渡し、三段目では判官が師直を切り付けようとするのを止める人物なので、本蔵の性根は九段目をやらないとなかなか出てこない。『忠臣蔵』という題名は大石内蔵助の“蔵”に“忠臣”を合わせたものですが、私は本蔵のことも、若狭之助のお家のためにいろいろと計らったという点で“忠臣”だと思っています。その“忠臣”の部分を大切に演じたい」と語った。
鴈治郎は「今回は九段目は冒頭の『雪転し』からの完全版が上演されますので、本蔵家と由良之助家の関係がわかりやすく伝わるのではないかと思います。由良之助の討入りにつながる重要な場面をやらせていただけるのは意義がありますし、由良之助が自分にこういう形で回ってくるんだという実感があり大変楽しみです」と語る。また若狭之助については「梅玉のお兄さんがおっしゃったように、本蔵のおかげで若狭之助は助けられているにもかかわらず、二段目の若狭之助はブチギレている(笑)。その心情を皆さんに理解していただけるように演じたいと思っております」と述べた。
扇雀は「『忠臣蔵』は九段目だけでも本蔵娘小浪で5回、力弥で3回参加しており、『碁盤太平記』では由良之助もやらせていただきました。父(坂田藤十郎)が上方に伝わる『忠臣蔵』の七役早替わり公演をやっていて、私も何度か出演しましたが、『私もやりたい』と伝えたときに『九段目の戸無瀬を本役で一度は経験しないとできないよ』と言われました。ですから今回は待ちに待った戸無瀬であると同時に、その先に七役早替わりが見えてきたなと密かに感じています」と展望を明かした。
取材会では、扇雀が「今年の鑑賞教室で中高生に『忠臣蔵を知っていますか?』と尋ねたら、知っている学生が1割未満だった」とショックを受けたエピソードを話したところ、梅玉が「『忠臣蔵』が題材のオンラインゲームはないのかな?」と問いかけ、会場に笑いが起きる場面も。扇雀は「『刀剣乱舞』や『信長の野望』は知っていますがどうなんでしょう」と応じつつ、「『忠臣蔵』を後世に残しておくことも歌舞伎役者としての勤めだと思っています。戸無瀬の場面は、親から子への無償の愛が描かれるドラマ性の高い場面ですので、その魅力がお客様にきちっと伝わるように勤めたい」と言葉に力を込めた。
本作にはそのほか大星力弥役の中村虎之介、一力亭主寿助役の中村寿治郎、本蔵娘小浪役の中村玉太郎、由良之助妻お石役の市川門之助らが出演する。公演は9月5日から27日まで東京・新国立劇場 中劇場にて。チケットの一般販売は8月13日10:00にスタートする。
令和7年9月歌舞伎公演「《歌舞伎名作入門》仮名手本忠臣蔵」
2025年9月5日(金)〜27日(土)
東京都 新国立劇場 中劇場
スタッフ
作:竹田出雲 / 三好松洛 / 並木千柳
出演
加古川本蔵:
本蔵妻戸無瀬:
大星力弥:中村虎之介
一力亭主寿助:中村寿治郎
本蔵娘小浪:中村玉太郎
由良之助妻お石:市川門之助
桃井若狭之助 / 大星由良之助:
konacherry✳︎パンダ隊 @konacherry11
ユーモラスな梅玉様の表現!!好きすぎる😍💕 https://t.co/Yds6BIDYp7