左から徳永京子、乗越たかお。

[ステージナタリー10周年記念]演劇ジャーナリストと舞踊評論家が見る10年──徳永京子×乗越たかお特別対談 [バックナンバー]

(後編)作り手と読み手の心に届く言葉を紡ぎ続けるために

閉館・休館、新たなフェーズに入った芸術監督制度、共有知

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書き続けてきた2人が感じる、媒体の変化

──最後に、さまざまな媒体で活動されているお二人が、この10年の媒体の変化については、どのようにお感じになっているか伺いたいです。

乗越 評論に関していうと、紙媒体しかなかった時代は、書ける人も書ける量も決まっていて、その閉じたサークルの中に入らないとそもそも書くことができなかった。かつ、入ったら入ったで、上の人の顔色を伺わないと書けないみたいなことがありましたが(笑)、その時代に比べれば、今はWeb上で自由に書けるんだから全然いいと思います。ただそれが仕事として成り立つのか、という問題はあって。よく「書く場がなくなって嘆かわしい」という人がいますよね。しかしある才能が花開くために必要な環境があるのなら、その環境を得るところから才能は始まっている。得られなければ「才能がなかった」と言われてもしょうがない。そういう意味では、媒体の変化に書き手も対応していかなくては生き残っていけないでしょう。さらにWebがバトルフィールドになっている今、そこをサバイブする知恵も必要です。ただWeb媒体であるナタリーさんが、これだけ多くの人に届いていることには意味がある。信頼は継続していくことでしか生まれないし、書き手にとって発信し続けることが大事なことに変わりはないでしょう。

また書き手にとって一番理想的なことは、先ほど徳永さんもおっしゃったように、作り手や読み手の胸の中で何かに変わるものがあることだと僕も思うし、そのように何か“次の行動”に変わるような言葉を届けたいと思っています。

というのも、僕はそもそもコンテンポラリーダンス黎明期の1980年代のダンサーたちがあまりにも恵まれない環境で活動しているのを見て、「俺が1人でも多く観客を運んでやるわ!」という思いで書き始めたので(笑)、自分が上手いことを言えるかどうかではなく、作り手や読み手に届くことが大事だと思うんです。実際、地方などで僕の著書を「読みました!」と声をかけてくれる人の中には、気に入ったフレーズを暗記していて、そこそこ長めの文章でも見事にそらんじてくれる人が少なくありません。「ああこの人の中に入ってるんだな」ということを感じる。言葉はそうやって本来相手の中に入って何かを変えるものだと思うので、これからも読者の胸の奥に届く評論を書いていきたいですね。

徳永 先日、7度という劇団が「東京ノート」を上演するにあたり、戯曲が書かれた1990年代に何をしていたかをいろいろな人に聞くインタビュー集(「無名なる『わたし』の文化史」)を出版されたんですが、その時も同じような質問を受けたんです。「媒体が変わって書き方の変化はありましたか?」と。結論から言うと、Web媒体が出てきたときには紙媒体との違いについて考えたし悩んだ気がするんですけど、最近は同じだな、と思っていて。そのとき例に出させていただいたのがステージナタリーさんの連載「眼鏡とコンパス」と、朝日新聞の劇評でした。朝日の劇評は紙面に掲載されたものが同日にWebでも公開されますが、決まった文字数の中にどうしても入れなければいけないこと──たとえばタイトルとかあらすじとか出演者といったスペックがあり、かつ週末に観劇した作品の劇評を週明けには提出しなければいけないので、これはあくまでも私の場合ですけど、紙とWebのどちらにも対応する文体で、ということはまでは考えられないです。ナタリーさんの連載でも、書きたいこと、読んでくれるであろう人、読んでほしい人、それらにフィットする文体やリズムを考えていくと、紙であっても同じ文章になったんじゃないかなと、最近思ったところだったんです。つまり媒体の変化によって書き手として何が変わったかというより、むしろフィットしてきたのがこの数年という感覚です。SNSはまた違いますし、そのうちまた意識が変わるかもしれませんけど。

左から徳永京子、乗越たかお。

左から徳永京子、乗越たかお。 [高画質で見る]

余談になるかもですが、紙媒体について個人的にすごく危機を感じているのが、公演パンフレットです。演劇の書き手、ライターにとって大事な媒体の一つが公演パンフレットだったと思うのですが、予算が削られているんでしょうね、これまで複数のライターが関わっていたものが、近年は1人が取材・編集まで担っていて、出演者のインタビューもアンケート数問で済ませるものが増えていますよね。また、作品の背景を深く知るための専門家によるコラムも減ってきている。実際に物価が上がっているので仕方がないことではあるんですけれども、演劇雑誌が減って、作り手が何を考えてクリエーションしているか知る機会が失われているので、その代わりになっていたパンフレットも簡素になっていくのは残念です。というのは、それなりの時間を取ったインタビューを受けなければ考えなかったこと、浮かばなかった言葉は確実にあって、それは作り手自身の道しるべになるはずなんですね。書き手と、劇場や興行サイド、プロデューサーたちと関わる場が減りますしね。そういう機会が減るのは、いずれ緩やかな地盤沈下を生むのではないかと危惧しています。

乗越 そして今後AIがね、さらに拍車をかけると思いますよ。

徳永 そうですね。AIの問題もありますね。

乗越 実は「舞踊評論家[養成→派遣]プログラム講座」に応募してきた課題評論の中にも、明らかにAIで作ったようなものがあって、でも3年ぐらいしたら「AIで書いて何が悪いんですか?」というふうになりかねないなと思っています。だから僕は受講者たちに「おそらくただ何かを紹介するだけのライターは、もう3年ぐらいでAIに取って代わられるだろうから、君らが生き残るためにはAIが参照しにくるようなオリジナルを書ける人になることだ」と伝えています。

ところで、今、PFF(ぴあフィルムフェスティバル)って中学生や高校生が大活躍していて、バンバン賞をとっているそうなんです。中高生を含む十代を出品料無料にしたことも影響していると思います。ただ昔は映画を撮るのはとにかく金のかかる道楽で、映画を撮りたいけれどできない人が演劇に行く、という話がよくあった。でも今は手軽に映像が撮れ、彼らは編集も劇伴の作曲もできてしまう。今やネットの創作サイトやSNSなどではSS(ショートストーリー)という短編作品が大人気で、世界にも容易に発信できる。でも今、逆に演劇をやろうとしたら、劇場を借りて舞台技術者を呼んで……とかなりお金がかかる。となると、若い子はみんな映像に行っちゃうんじゃないか、という声も聞くのですが、専門の徳永さんから見るといかがですか。

徳永 信憑性があり過ぎる……(笑)。その対抗措置になるかはわからないのですが、そして冒頭お話ししたことにつながるのですが、コロナ禍以降、集まったり、自分たちが考えていることや作品として形を成す前の情報もどんどん外に出していこうという流れが生まれていて、そこにはnoteというメディアの登場も大きかったと思いますが、お金を取らずにどんどん情報を開いていき、みんなの共有知を増やしていこうという、いわば公共的な意識が、若い人たちの中では高まっているように感じます。映像は手軽でお金も時間もかからない、でも流れていく、という特徴に対して、もしかしたら今後それが演劇の強みになっていくんじゃないかな、という希望を託します。

左から徳永京子、乗越たかお。

左から徳永京子、乗越たかお。 [高画質で見る]

徳永京子(トクナガキョウコ)

演劇ジャーナリスト。東京芸術劇場企画運営委員。せんがわ劇場演劇アドバイザー。読売演劇大賞選考委員。緊急事態舞台芸術ネットワーク理事。朝日新聞に劇評執筆。著書に「『演劇の街』をつくった男─本多一夫と下北沢」「我らに光を─さいたまゴールド・シアター 蜷川幸雄と高齢者俳優41人の挑戦」、「演劇最強論」(藤原ちからと共著)。

乗越たかお(ノリコシタカオ)

作家・ヤサぐれ舞踊評論家。株式会社ジャパン・ダンス・プラグ代表。2006年にNYジャパン・ソサエティの招聘で滞米研究。現在は国内外の劇場・財団・フェスティバルのアドバイザー、審査員などを務める。エルスール財団新人賞選考委員。著書に「舞台の見方がまるごとわかる 実例解説!コンテンポラリー・ダンス入門」(新書館)、「コンテンポラリー・ダンス徹底ガイドHYPER」(作品社)、「どうせダンスなんか観ないんだろ!?」(NTT出版)、「ダンス・バイブル」(河出書房新社)、「ダンシング・オールライフ 中川三郎物語」(集英社)、「アリス ~ブロードウェイを魅了した天才ダンサー 川畑文子物語」(講談社)など。

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乗越たかお @NorikoshiTakao

【(後編)[ステージナタリー10周年記念]演劇ジャーナリストと舞踊評論家が見る10年──徳永京子×乗越たかお特別対談】

大きな反響のあった前半に続き、後半が早くも公開。

舞台芸術をとりまく「創造環境の変化」、「次世代の舞台芸術と媒体」など、目の前の危機意識と希望を語る。 https://t.co/tu5rzZAQqJ

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