大森靖子が初めて弾き語りで「そのかわいいに用はない」披露
先陣を切ったのは大森靖子。ステージに現れるとおもむろにアコースティックギターを手にし、「ミッドナイト清純異性交遊」を弾き語りで披露し始めた。間奏では観客からコールも沸き起こり、たったギター1本とは思えないほどの多彩なパフォーマンスと迫力あふれる歌声で、序盤から会場を大きく盛り上げる。
歌い終えた大森は「このたびは私の影響を存分に受けたことをちゃんと発信してくださるアーティスト、春ねむりちゃんとのツーマンライブを、いよいよすることができて本当にうれしく思います」と挨拶。続けて、この日の出来事について語り始めた。「さっき歩いてたら、よくTikTokで自分の曲を踊ってるのを見る、トー横の有名な子がいて、TikTok撮ろうよって言われたんですよ。こういうところまで歌が響いてるっていうのはいいことでもあるんだけど、世の中変わらないんだなと思うこともあったり、ちゃんと世の中を歌い続けられてるんだなとか、いろいろ思うところがありました」。その言葉を受けるように、ライブ会場の所在地にちなんだ「新宿」を歌い出す。
その後に彼女が歌ったのは、ZOCXの新曲として前日1月21日に配信リリースされたばかりの「そのかわいいに用はない」だった。弾き語りでは初披露となったこの曲を、大森はときには今にも泣き出しそうなほどに声を震わせ、ときには怒りを吐き出すように絶唱。その気迫に満ちた弾き語りに、観客は息を呑んでじっと耳を傾けた。続く「TOBUTORI」や「VOID」では激しくギターをかき鳴らし、その熱量に呼応するようにフロアからはコールや叫び声が上がる。「VOID」のラストでは「何もないよりマシだから 何もない=なんかしたい」の大合唱が巻き起こり、会場が一体感に包まれた。「TOKYO BLACK HOLE」「東京と今日」「Rude」と切実な思いを歌に託したあと、最後に届けられたのは「呪いは水色」。優しく寄り添うように歌い終えると、大森はギターを置いてステージを後にし、惜しみない拍手が送られた。
春ねむりはステージを降りてフロアの真ん中へ
転換後、ここまでのアコースティックな響きとは対照的な、ハードな四つ打ちのビートが会場に鳴り響く。後攻の春ねむりが威勢よく登場すると、歪んだギターサウンドに乗せて「愛よりたしかなものなんてない」を披露。春にリードされて観客も「愛よりたしかなものなんてない!」と叫び、1曲目にして早くも春はフロアへダイブ。ライブは強烈な幕開けとなった。
曲が終わると春は、この日のツーマンについて「尊敬してるから、軽々しくやりたいって言えなくて。でも最近、対等にいいものが見せられる、かも?という気持ちになったので、お願いしてやらせていただける運びになりました」と胸の内を明かした。そして観客に向け、「おのおの好きなように踊ってください。好きに踊るって意外と難しいから、自分がどう踊りたいのか考えて踊ってみて。それがあなたの生の輪郭を確かめる術の1つだと思います。だから私は振付のない踊りを踊るのが好き」と呼びかける。そしてここから彼女はその言葉を体現するように、全身を使って激情を声にしていく。
「あなたを離さないで」「森が燃えているのは」といったロックチューンを畳み掛け、「ちょっとまだ足りないかもしれないな!?」「メチャクチャになりに来たんだろ!?」と煽る春。「せかいをとりかえしておくれ」ではステージを降りてフロアの真ん中に突入し、観客に囲まれながらシンガロングを求め、会場を一気に興奮の坩堝へと巻き込んだ。曲が終わると彼女は「私は背があまり高くないので、降りるのやめようと思ってたんですけど、つい降りてしまいました。見えなかったでしょ? すみません」と謝り、フロアに温かな笑いが起こった。
大森靖子の音楽が自分に多くのものを与え、それを手がかりに“貫き方”を学んできたと話す春。サウンドや表現手法は違えど、根本の部分で多大な影響を受けたフォロワーであることを確信させるパフォーマンスが続く。
「ミュージシャンがラディカルなことを言えなくなったら、誰が言うんですか?」
ライブ中盤は雰囲気を変え、2025年リリースの最新アルバム「ekkolaptómenos」からの3曲を連投。呪術的で神秘的なサウンドが場を支配する中、春は祈りを捧げるように歌う。そしてそれに呼応するように、「anointment」では「火をくべろ!」という叫び声がフロアから上がり、「terrain vague」では盛大なシンガロングが発生。その後のMCで春は「私がずっと大きく持っている疑問のひとつに、この世があまりにも“国家”を前提にして動きすぎている、ということがあります」と切り出した。
そして「私は、国家って必ずしも幸せに結びつくものじゃないと体感しています。だからそろそろ人間は、“国家じゃない共同体”のあり方を考えるべきなんじゃないかなって思うんです」と持論を展開した春。彼女はフロアに向け、はっきりとした言葉でこう続けた。
「私は、イスラエルによるパレスチナでの虐殺と占領に反対しています。それは、人種差別に基づいて“殺していい人間”と“殺してはいけない人間”を分けるような仕組みの上に、国家というものが成立している、ということを示していると思うからです。殺されることにも、殺すことにも、平気になっちゃいけない。人は、ただ人であるべきだと私は思っています」
明確な言葉で意思を表明した彼女は、さらに訴える。
「たとえ理想論だと笑われたとしても、その理想を語ることをやめるわけにはいかない。ミュージシャンがラディカルなことを言えなくなったら、じゃあ誰がそれを言うんですか? どれだけ“お花畑”な考え方だとしても、そのお花畑な考え方をミュージシャンが言えなくなったら、この世は終わりだと思っています」
その強い意思を称える拍手が会場に響く中、植民地主義や人種主義について考えて書いたという「angelus novus」を、春は力強く鼓舞するように熱唱。曲が終わると、彼女は再び目の前の観客に語りかけた。
「なぜ私が社会についての話をよくするのかというと、自分の中に、誰にも触れられたくない部分があるから。でも、その誰にも触れられたくない『死ね』という気持ちを、私は曲にしたいんです。その気持ちがあるからこそ、人を殺してはいけないとわかる。その気持ちを認めたうえで、人が殺し合わずに生きていける世界がある」
その後、「私の魂の、一番暗い部分に触れても、それでも人を殺さないでいてくれる、あなたでいてくれてありがとう。これから、私の一番触れられたくない場所へ、皆さんをご案内します」と告げて歌われた「ゆめをみよう」は、今にも泣き出しそうなほどに強い感情が込められていた。続く「春火燎原」ではマイクを落とすほどの激しさでステージを舞い、「死にたいと思うのはなぜ 生きたいと思うのはなぜ」と怒りに満ちた声で絶唱。「Riot」をオーディエンスとともに歌い、一体感をさらに高めたあとで、春は「人生は美しいと思える瞬間がある。私にとっては今日がそう。こんなときのことを、消えたいと思った夜に思い出して生きてる」と語った。
「人生が美しいと思えたときに書いた曲をやりたいと思います」と前置きし、最後の曲に選ばれたのは「生きる」。「How beautiful life is!」という歌詞を一緒に歌ってほしいと呼びかけ、「今そう思えない人ほど、一緒に歌ってみてほしい。それを口に出すことがもしかしたら、本当に死んでしまうときの助けになるかもしれないから」と言葉にするうちに、止めどない感情が抑えられなくなり、春はボロボロと涙を流す。それでも彼女と観客はともに「生きる」を歌い上げ、ライブ本編は高揚感に満ちたポジティブな空気の中で締めくくられた。
感極まって涙、2人の「マジックミラー」コラボ
アンコールでは大森と春が2人で登場。大森がステージに上がるなり、先ほど春が歌っていた「生きる」をカバーし始め、それに合わせて春がコーラスを入れた。思わぬ展開に観客が沸く中、曲が終わると大森は春に「コラボ曲のリクエスト、来るの遅くない? 言ったよね、LINEしてって。今日来るって、さすがに……」と詰め寄る。春は「すみません、勇気が出なくて……」と恐縮しきりで、そのやり取りに観客の笑いが起こる。すると大森は「今から何をやっても、別になんでも歌えるんだよね?」と不敵に笑い、「Over The Party」と「ハンドメイドホーム」を次々にギターで弾き始める。春は「いや、死んじゃいます、死んじゃいます……」とつぶやきながらも即座に反応して一緒に歌唱。「いたずらしすぎてすいません」と笑う大森に対し、春は「弄ばれた……。明日マジでベッドから起き上がれないと思います」と苦笑していた。
そしてラストに2人で披露したのは、春がリクエストしたという「マジックミラー」だった。曲の中盤で、大森がギターを弾く手を止め、春の方を向いてアカペラで熱唱し始めると、その光景に春はまたも感極まって落涙。涙で声を詰まらせながらも、憧れの大森と一緒に最後まで歌い切り、会場は温かな感動に包まれてこの特別な一夜は幕を閉じた。
セットリスト
「春ねむり presents 『生存の技法』春ねむり×大森靖子」2026年1月22日 新宿LOFT
大森靖子
01. ミッドナイト清純異性交遊
02. 新宿
03. そのかわいいに用はない
04. ひらいて
05. hayatochiri
06. TOBUTORI
07. VOID
08. TOKYO BLACK HOLE
09. 東京と今日
10. Rude
11. 呪いは水色
春ねむり
01. 愛よりたしかなものなんてない
02. あなたを離さないで
03. 森が燃えているのは
04. せかいをとりかえしておくれ
05. anointment
06. terrain vague
07. angelus novus
08. ゆめをみよう
09. haven
10. 春火燎原
11. Riot
12. 生きる
アンコール(春ねむり×大森靖子)
13. 生きる
14. Over The Party
15. ハンドメイドホーム
16. マジックミラー
春ねむり HARU NEMURI (She/Her) @haru_nemuri
大森靖子さんをお迎えしたツーマンライブ、ナタリーでレポートがあがってます🫀🪽
写真もたくさんあるので見てみてね! https://t.co/R2bxoXdHFu