sumikaが最新アルバム「Vermillion’s」を携えて、3月より全33公演行ったこのツアー。「同じ色に染まりたい」という思いを込めたアルバムの通り、彼らはこのツアーでオーディエンスと音楽を通してコミュニーケーションを交わし、さまざまな感情を共有し合った。
満員のさいたまスーパーアリーナに立てる喜び
ライブのオープニングを飾ったのは、最新アルバムの1曲目「Vermillion」。「ドキドキすることをしていたいよ」と告げる片岡健太(Vo, G)の歌声と小川貴之(Key, Cho)のきらめくような鍵盤の音色が鳴り響くと、そこに荒井智之(Dr, Cho)の高揚感に満ちたドラムサウンドが重なった。sumikaの3人だけの音でライブは鮮やかに開幕。それからsumikaはサポートメンバーが奏でる華やかなアンサンブルとオーディエンスの歌声をどんどん巻き込んでいき、すさまじいエネルギーで会場を満たした。
sumikaは勢いを加速させていくように「運命」「ふっかつのじゅもん」をプレイ。「ふっかつのじゅもん」では熱のこもったギターソロと鍵盤ソロが続けて繰り広げられた。さらに彼らは100回嘔吐とともに制作したアッパーチューン「リビドー」で自由な空気をまとったsumikaの新たなサウンドを提示する。片岡は「俺たちにとってさいたまスーパーアリーナは、ちょっといわくつきというか、不思議な縁があって。2020年のアリーナツアーでさいたまスーパーアリーナでライブをやる予定だったんだけど、コロナがきちゃって、配信ライブをやった。誰もいないさいたまスーパーアリーナでカメラに向かってライブをやったんだよ」と話を切り出し、「次は『花鳥風月』というツアーで来て。キャパシティ半分という条件の中でライブをやらせてもらった。今回は3度目の正直ということで、フルキャパでやれています!」と観客で埋め尽くされた会場でライブができる喜びを語った。
その後sumikaは最新アルバムから片岡が作詞、小川が作曲を手がけた楽曲「Love Later」をゆったりと届け、リラックスした空気で会場を満たした。静寂の中で小川が感傷的な音色を奏でたのは、彼が自らボーカルを取るバラードナンバー「シリウス」。宇宙に輝く無数の星をバックに、小川は自分の心をさらけ出すようにむき出しの歌声を響かせる。そして彼らは大切なラブバラード曲「透明」で「愛している」というストレートなメッセージを観客に贈った。
3人だけで届けた、まっさらな音楽
ここで一度サポートメンバーがステージから去り、sumikaの3人のみでパフォーマンスを展開。まずはアーバンな雰囲気のあるサマーソング「Summer Vacation」を小川が切なく歌い上げた。ここで荒井がマイクを手に取り、「『Vermilion’s』という新しいアルバムをリリースしまして、自分たちでもすごくいい作品ができたなと。これからのsumikaの新しい一歩になるんじゃないかなと思っています。その作品のリリースツアーということもあって、その中で今一度3人でのsumikaを見ていただいて、3人がどういう顔でどういう音楽をやっているかというのを改めて共有したいなと思って、こういう時間を設けさせていただいております」と3人だけでの演奏のパートを設けた意図を説明。彼は「sumikaはここまでいろんなことがあって、メンバーだけではなかなか思うように活動できなくて、いろんな人に助けてもらったりしてここまで来れました。特に近年はいろいろあって、みんなに心配をおかけしたこともあったんですけど、ようやくこのツアーで3人で元気な姿でファイナルまでたどり着けました。きっとこれからもいろいろあると思うんですけど、我々はこんな感じで楽しく健康にバンドをやっていきたいなと思っています。こんなバンドですけど、これからも一緒に歩いて行ってくれたらうれしいなと思います。いつも一緒にsumikaを作ってくれてありがとうございます!」と感謝の思いをファンに伝えた。「この3人で、すっぴんの生まれたばかりのsumikaのような、まっさらな音楽をお届けしたいと思います」という荒井の言葉を経て、sumikaが演奏したのは「雨天決行」。3人はアコースティックギター、鍵盤、ドラムのみの飾り気のないアンサンブルを楽しげに紡ぎ上げ、客席から大きな拍手を浴びた。
サポートメンバーを加えたsumikaは、未来に向かって進んでいく決意を込めた「Starting Over」をオーディエンスとともに高らかに歌唱。WOWOW欧州サッカーテーマソング「VINCENT」では熱をはらんだシンガロングが轟くように響き渡った。「やりたい曲がいっぱいありすぎるので、いろんな曲をちょっとずつやってもいいでしょうか?」と片岡が告げると、彼らは「Amber」を皮切りにメドレー形式で次々と楽曲を投下。「カルチャーショッカー」で片岡が客席に下り、会場の真ん中にたどり着くと「Babel」を歌唱。目まぐるしい展開の中で「ペルソナ・プロムナード」「グライダースライダー」をパフォーマンスし、メドレーの最後には「いいのに」を軽やかに届けた。
あなたはあなたの“好き”を守り通してください
「ここ最近のsumikaは、体を壊したり台風が来たりいろいろな事情があって、なかなかツアーをきれいに回ることができなかったんですけど、ひさしぶりに3人そろって楽しくツアーファイナルを迎えられたのがすごくうれしいです」と笑顔を見せた片岡。彼は「2年半ぶりのアルバム……この2年半の中で、人生で一番しんどいことがありました。4人でやってたバンドが、3人になりました。バンドの歴史とか関係なく、人生で一番しんどい瞬間でした。このタイミングでバンドを辞めたって多分誰も怒らないだろうなと思いました。本当に辞めようかなとも思いました。それぐらい毎日何していてもしんどいし、暗いことばっかり考えちゃうし、前を向きたいのに後ろばっかり向いちゃうし、もう限界かなと正直思いました」と当時を振り返る。そして片岡は「だけど、そうやって暗いことばっかり考えて生きてる自分のことが好きなのかって思ったときに、俺はそういう自分のことを全然好きになれませんでした。せっかく生きられるんだったら楽しいことしたいだろ。うれしいことが多いほうがいいに決まってるだろ。悲しいことは十二分に承知したうえで、それでも俺は楽しいなと言える人生を送りたい。だから、自分の意思で音楽を続けたいなと思いました。いろんなことをやってきた中で、俺にとっては音楽をやるのが何よりも幸せだからです。そうやって自分で答えを出した。俺は自分の好きな自分でいるということを決めました」と音楽を続けることを決めた率直な思いを述べ、「誰かに依存することなく、自分の“好き”をそれぞれ自分で決めて、『じゃあ俺たち肩組めるよな』と肩を組んでもう1回始まったから、今のsumikaが今までのいつよりも強いんです。好きなことを好きな人とやる。こんなに強いことはないよ」とまっすぐに語った。
さらに片岡は「あなたにも好きなものはありますか? 好きな人はいますか? 想像したものは、もしかしたらあなたの適正に合ってないかもしれない。誰かに止められるかもしれない。だけど、そんなことは気にしないでください。誰かに嫌なことを言われるかもしれないけど、絶望してるときに自分を救ってくれるのは、自分が決めた”好き”だけです。自分以外の誰かが教えてくれるのは、ただの“正解”でしかなくて、それは“本当”ではありません。あなたが選んだ答えだけが”本当”なんだ。そしてその“本当”はあなたのことを絶対に守ってくれます」ときっぱりと話す。「2年前、人生で一番しんどい瞬間を味わって、その中からもう1回立ち上がってきて、今あなたに一番伝えたいことです。あなたはあなたの“好き”を守り通してください」と彼は客席を見渡したあと、「“好き”と“好き”を掛け合わせて、『また会っちゃいましたね』って言いながら、最高に楽しい瞬間を何度も味わいながら、長生きしていきましょう。絶対に最後の最後、人生を終えるときまで本当のことをやり切って、『ああ、いい人生だな』と言って、お互い死にましょう」という言葉を観客に送った。「つらいときに暗い顔してるよりも笑ってる自分のほうが好きだから、俺はやっぱり明るい歌を歌う!」と片岡は声を弾ませ、自分自身を肯定するナンバー「Dang Ding Dong」を晴れやかに歌い上げる。澄み渡るような明るい空気の中、ラストナンバーとして披露されたのは、最新アルバムの最後を飾る楽曲「’s -エス-」。彼らは「同じ気持ちでいたい」という願いを込めたこの曲をじっくりと届け、ドラム、ピアノ、ギターの3人の音で演奏を締めくくった。
アンコールで再び姿を現したsumikaは、常夏の空気にあふれる楽曲「マイリッチサマーブルース」をジェットスモークガンを用いながらにぎやかにプレイ。「Lovers」では片岡が客席を練り歩き、会場後方まで歌を届けに行った。最後に小川は「一緒に記憶を作ってくれてありがとう。生きがいをくれてありがとう。今日も一緒に音楽をやらせてくれてありがとう。sumikaを好きになってくれてありがとう。これからもよろしく!」とストレートに思いを伝える。荒井は「各地でたくさんの人と一緒に時間を過ごせて楽しかった。sumikaはいろいろあるバンドですけど、常に今が一番いいなと思ってやれてきてる。これからもそれは変わらず、みんなで楽しいことをいっぱいしていきたいなと思います」と朗らかに話した。片岡が「ここまでのセットリストは、今のこと、今日のことを歌った曲だけです。だけど最後の1曲だけは、明日の俺たちのこと、あなたのことを歌って帰れたらと思います。俺たち何度も始まろう!」と告げると、彼らは新たなスタートラインを引く楽曲「10時の方角」を演奏。未来に胸を高鳴らせる気持ちをオーディエンスと共有し合い、3人は晴れやかな笑顔でツアーを締めくくった。
本公演の模様は、8月9日にWOWOWで放送・配信される。
セットリスト
sumika「sumika Live Tour 2025『Vermilion’s』」2025年6月29日 さいたまスーパーアリーナ
01. Vermillion
02. 運命
03. ふっかつのじゅもん
04. リビドー
05. 1.2.3..4.5.6
06. 「伝言歌」
07. 惰星のマーチ
08. Love Later
09. シリウス
10. 透明
11. Summer Vacation
12. 雨天決行
13. Starting Over
14. VINCENT
15. チェスターコパーポット
16. Amber~カルチャーショッカー~Babel~ペルソナ・プロムナード~グライダースライダー~いいのに
17. Dang Ding Dong
18. ’s -エス-
<アンコール>
19. マイリッチサマーブルース
20. Lovers
21. 10時の方角
放送情報
WOWOWプライム / WOWOWオンデマンド「sumika Live Tour 2025『Vermillion's』」
2025年8月9日(土)20:30~
あみ @Ra23smk
フロア片岡も、スモークをバロンに浴びせる瞬間も、シリウス歌唱おがりんも、記事に載ってる写真全部良すぎる https://t.co/8n54k6Sk42