角銅真実ときりんちゃん。(Photo by Kei Murata)

猫と音楽家の二重唱 第8回 [バックナンバー]

角銅真実の人生を変えた愛の伝道猫・きりん

「保護をしているとか世話しているというよりも、二匹の群れとして一緒に暮らしている」

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きりんはもう自分の一部

京都在住のピアニスト、yatchiのアルバム「Night Cultivation」には、角銅ときりんをフィーチャーした楽曲「will」が収録されている(クレジットは角銅真実、角銅きりん)。角銅は静かに奏でられるyatchiのピアノの上で詩を読み、きりんはウキャキャとかわいらしい鳴き声を聴かせている。

yatchi「will」

こうした楽曲はあくまでも氷山の一角。角銅は「宅録した曲には当然きりんの声が入ってくるし、アルバムにもいっぱい収録されています。きりんはもう自分の一部だから、そんなことを言ったらすべての曲になんらかの影響があるとは思いますね」と話し、こう続ける。

「一緒に暮らしているから、きりんの感覚はたぶん私にも乗り移っていると思うんですよ。自分に移った猫の感覚が、自分の作る音楽に何か影響は与えてるんじゃないかな。例えば、音に対するある種の敏感さとか」

きりんとともに“二匹の群れ”として生きる

角銅は「あと、きりんは楽器も弾けるんですよ」と言い、いくつかの動画を見せてくれた。そこには歯でギターを弾き、同じ音で「ニャー」と鳴くきりんの姿が収められていた。

ギターを弾くきりんちゃん

「朝、ごはんを食べたいときにきりんは鳴くんですけど、私が起きれないとギターを弾くんですよ。ギタースタンドに立てかけてあるギターを歯でテーン、テーンって弾くんです。『これを弾けばあいつは起きるぞ』ということがわかっているようで」

また、きりんは角銅と一緒に音楽を聴くこともある。角銅によると、きりんは嫌いな音楽、好きな音楽もはっきりしているらしい。

「きりんはタンゴのバンドネオンが大嫌いなんです。聴いていたら怒るんです。やめてー!って。なのでバンドネオンの入っている曲や鋭いタッチの曲はきりんがいないところで聴きます。その反面、ヴィブラフォンやローズみたいな曲線的で柔らかい音は好きみたい。ああいう音は落ち着いて聴いていますね」

お気に入りのおもちゃで遊ぶきりんちゃん。

お気に入りのおもちゃで遊ぶきりんちゃん。 [高画質で見る]

そんな話を聞き、ふと妄想を広げてみる。いつの日か技術が進み、猫と本当に会話が成立するようになり、リアルにコラボレーションできる時代がやってきたとしたら、角銅はきりんとどんな音楽を作るのだろうか?

「(しばしの沈黙のあと)……まず、きりんの音の捉え方を知りたいですね。私とは違って図形的に捉えているかもしれないし、時間や音楽の捉え方自体が違うと思うんですよ。リズムやメロディに対する前提も違うかもしれないし……前提のないもの、本当に知らないもの、今は想像できないものを作る気がします」

人間は体という入れ物が決まっていて、その不自由さを常に感じながら生きている。コミュニケーションを取るにしても基本的には言葉に頼らないといけないわけで、それもある意味不自由なことと言えるだろう。その一方で、猫たちは言葉を使わなくてもコミュニケーションが取れるし、身体は伸び縮みし、人間に比べれば変幻自在である。角銅の表現活動を見ていると、猫のように自由になるために音楽をやっているような気もしてくる。

「それはすごくあると思います。可能性を見たいというか。不自由だけど、こういうこともできるの?みたいな」

人間たちは不自由だからこそ、自由な表現を目指す。だが、猫はどこまでも自由で、今という時間を生きている。

「猫って大きくも小さくもなれるなと思うんです。大きくなりたければ何かに登れば大きくなれるし、小さくなりたければ縮こまればいい。私もそういう身体感覚が欲しい。その意味でいうと、きりんは愛の先生でもあるけど、生き方とか音楽についてもきりんから学んでいるんだと思います。きりんは全部知っていると思う」

少しアンニュイな表情も……。

少しアンニュイな表情も……。 [高画質で見る]

角銅にとってきりんとは、人生そのもののパートナーでもあるのだろう。彼女は最後にこう言葉を続けた。

「きりんと生きるということは『二匹の群れになる』感覚があります。保護をしているとか世話しているというよりも、二匹の群れとして一緒に暮らしている。そもそも動物って群れで暮らすものでもありますよね。今日みたいに別のところにいたとしても、同じところに戻って、最終的にはきりんと一緒に眠るわけで」

猫と音楽家という二匹の群れは、今日もともに生きている。まさに「猫と音楽家の二重唱」を奏でているのである。

角銅がライブで使う楽器のパッキング中にキャリーに入るきりんちゃん。

角銅がライブで使う楽器のパッキング中にキャリーに入るきりんちゃん。 [高画質で見る]

角銅真実が猫と一緒に聴きたい曲

プロフィール

角銅真実(カクドウマナミ)

音楽家、打楽器奏者。マリンバをはじめとする打楽器、自身の声、言葉、身の回りのものを用いた自由な表現活動を展開している。自身のソロ以外にさまざまなアーティストのライブサポート、レコーディングに携わるほか、映画や舞台、ダンスやインスタレーション作品への楽曲提供・音楽制作も行っている。2026年4月から放送のテレビアニメ「クジマ歌えば家ほろろ」の劇伴を担当中。

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大石始

地域と風土と音楽をテーマとする文筆家。主な著書・編著書に「異界にふれる」「南洋のソングライン」「盆踊りの戦後史」「奥東京人に会いに行く」「ニッポンのマツリズム」「大韓ロック探訪記」「GLOCAL BEATS」など。NHK-FM「エイジアン・ミュージック・ニュー・ヴァイブズ」出演中。2匹の保護猫と東京都下で生活中。

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大石始 @OISHIHAJIME

音楽ナタリーの連載「猫と音楽家の二重唱」の最新回が公開。今回登場するのは角銅真実さん。黒猫のきりんちゃんとの生活のことや、猫と音楽を奏でるということ、猫と生きることについて深く語っていただきました。猫の身体性や時間感覚に関する話はもっと聞いていたかったな。https://t.co/vHQGajAh2a https://t.co/z4ZOKJtwN8

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