小川郁先生と小森雅仁さん。

イヤフォンとヘッドフォン、どっちが耳に優しい?~難聴にならないために~

音のスペシャリストも目からウロコ!聴覚障害の新事実

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入浴、睡眠が大切な理由

小森 汗をたくさんかくために運動するのはもちろんいいことだし、お風呂でかくのもいいんですよね?

小川 お風呂で汗をかくのもいいことですね。水分をよく摂って、汗をかいて水分を出す。そうすると内耳の中にある利尿ホルモン──体の中のいろんな水分を調節するホルモンが活性化し、リンパ液の代謝がよくなります。リンパ液は有毛細胞を守ると同時に有毛細胞が正常に働くためのバッテリーの役目をしていますから、そこが機能することが音をしっかりと認識するためには必要になりますね。

小森 僕はお風呂に入るメリットは血行がよくなることだと思っていたんですが、そういうわけではないんですね。

小川 血行の問題もあるんですよ。血行が悪くなることによって何が起こるかと言うと、やはり先ほどから言っているリンパの代謝が悪くなるので、結局はつながっているということですね。

小森 体調不良で病院に行っても原因がよくわからず、「自律神経が乱れているかもしれませんね」と言われることがあるんですが、不摂生による自律神経の乱れもリンパ液の代謝に悪影響を及ぼしますか?

小川 もちろん。利尿ホルモンのほかに、自律神経が働いてリンパ液の代謝を調整しています。代謝というのは古いリンパ液が吸収されて新しいリンパ液が作られること。その量がイコールであれば代謝がきちんと働いているんですが、新しいリンパ液ができるのに古いリンパ液の吸収が悪くなっていると、内耳のむくみにつながり聴覚機能が悪くなる。自律神経は体の中の無意識的な調節にすべて働いていますから、自律神経が乱れると体のさまざまな組織の機能が悪くなることにつながります。

小森 耳に限らず、普通に健康維持するために運動や睡眠は大事なんですね。

小川 そうですね。自律神経には交感神経と副交感神経の2種類があります。交感神経は日中活動するときに主に働いていて、副交感神経は体を休めるときに体の物質の調節をするために働いています。その昼夜のリズムが合ってちゃんと整っていれば、基本的には自律神経の乱れは起きませんが、睡眠不足が続いたり、疲れが溜まったり、あるいは昼と夜のリズムがアンバランスになりがちな方には、自律神経の乱れによってさまざまな不調が起こる。メニエール病という病気をお聞きになったことがあるかもしれませんが、これはリンパ液の代謝が悪くなって起こる病気の代表的なもので、そういう方々がなりやすいという特徴もあります。

小森 同業の大先輩から、若い頃にすごく無理して徹夜ばかりしていたらメニエール病になってしまった話を聞いたことがあります。音楽制作に携わる人間は不規則になりがちでして。仕事を終える時間を自分で決められない場合もあるので、より一層気を付けようと思います。

小川 やはり音楽関係の方、あるいは私はテレビ局に行って診療もしていますけれども、放送関係の方や、若い看護師の方の生活も不規則ですね。そういう方々に耳の障害が比較的多く出る傾向はあると思います。

小川郁先生

小川郁先生

ビタミンB12の効果

小森 耳鳴りがしたり、耳に違和感があるときに耳鼻科に行くと、よくビタミンB12を処方されるんですが、あれはなぜなんでしょう?

小川 ビタミンB12は向神経ビタミンと呼ばれていて、神経組織が何かで傷付いた、あるいは神経組織に負荷がかかって疲れたというときに、その神経組織を修復するために必要なビタミンなんですね。傷付いた細胞がそのまま死んでいくのか、あるいは復活していくのか。その復活に必要なビタミンと考えるとわかりやすいと思います。ですので耳だけではなく、例えば手足の神経のシビれなどの障害にもよく使われますね。

小森 そうすると違和感があるときに限らず不足しないほうがいい?

小川 もちろん不足しないほうがいいですが、日本人の標準的な食生活をしていれば不足することはないでしょう。ただ、多くの細胞が修復のためにビタミンB12を必要とするような事態になった場合には、外から与えてあげる必要があるということですね。

小森 病院で処方されるビタミンB12と薬局で売っているサプリでは、内容が違うものなんでしょうか?

小川 内容はおそらくほとんど変わらないと思います。ビタミンは体が必要とする物質の総称みたいなもので、体内で自分の力で合成できません。ビタミンB12にいろいろな基質がくっついて薬として販売されているということで、その基質が、市販薬と病院で処方される薬とで違うことはあると思いますが、ビタミンB12にそのものに関してはそんなに大きな違いはありません。

もしも難聴の症状が出たら

小森 今まで難聴にならないための対策や生活習慣について伺いましたが、もしも耳鳴りがする、片耳が詰まって聞こえるなどの症状が出てしまった場合の対処法を教えていただけますか?

小川 まずしなければいけないのは、もしその時点で非常に大きな音を聴いているのであれば、一旦静かなところに移動して休むということですね。有毛細胞のように物理的に動く細胞は、ある一定の動きにさらされるとそれだけ疲れます。疲れが溜まっていくと今度は細胞が壊されていきますので。

小森 それは騒音性難聴はもちろんですし、突発性難聴も含めてとにかく一旦静かなところで安静にするという認識で合っていますか?

小川 突発性難聴の場合もまず一番は安静なんです。ストレスが原因によるリンパ液の異常なのか、有毛細胞の異常なのかはわかりませんけれども、いずれにしても耳の組織に負担がかかっているので、まずは体を休めるということが一番大切ですね。

ライブハウスでの飲酒は難聴リスクが増加

小森 僕はもちろん仕事で大きな音を聴く機会も多いですが、ライブを観に行くときは、着けるかどうかは現場で判断するとして、遮音具合が調整できる耳栓を持ち歩いています。子供にイヤーマフを装着させる方もいますし、ライブ会場ではそういう対策も有用ですよね?

小川 皆さんライブ会場ではやはり生で臨場感のある音楽を聴きたい欲求があると思うんですね。一方でそういう大きい音が鳴り続ける空間にいると、個人差は非常に大きいものの、音に対する耐性が弱い方は難聴になってしまうかもしれない。これが昔からコンサート難聴とかロック難聴と呼ばれ、音楽を楽しむことによって起こる音響性難聴のリスクとしてありました。特に小さなお子さんや若い方の場合は有毛細胞が傷付いてないフレッシュの状態でして、逆に言うとそれだけ大きな音に対して障害されやすいということでもあるので、しっかりとイヤーマフで守ってあげることは重要だと思いますね。

小森 場合によってはスピーカーの近くで鑑賞することになる場合もあるでしょうし。

小川 スピーカーの近くはより危険度が上がりますね。あとはお酒を飲むと体の防御機構が弱くなってしまいます。ライブハウスのような場所で飲酒をしながら大音量の音楽を楽しむということは、それなりにリスクが増えることでもあると認識しておいたほうがいいと思います。

小森 それは知りませんでした! お酒を飲みながら大音量で音楽を聴くのってとても気持ちよくて、ライブ鑑賞の醍醐味の1つと言っても過言ではないと思っていましたが、そのリスクについて知っておくことで、当日の環境や体調に合わせて適切な判断ができますよね。

小川 例えばThe Whoのギタリストのピート・タウンゼント氏は、重度の難聴を抱えていることでも有名ですね。ご自分の大音量のロック音楽で耳が聞こえなくなったので、「H.E.A.R.(Hearing Education and Awareness for Rockers)」という難聴予防を目的とした非営利団体の創設にあたり資金を提供しています。今ではイヤモニを使って耳を守るのはある程度常識になっていますが、彼らの時代は大音量で音楽を聴きながら演奏していたわけで、そうすると難聴になるリスクは高くなりますね。

小川郁先生と小森雅仁さん。

小川郁先生と小森雅仁さん。

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不調を感じたらすぐに病院へ行くべき?

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