八丈島出身・玉置周啓の上京物語~東京ウブストーリー~

東京ウブストーリー 第4回 [バックナンバー]

八丈島出身・玉置周啓(MONO NO AWARE)の上京物語

新大学生が東京で生き残る方法をお教えしたい

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来たる新生活に向けて住み慣れた街を離れ、期待と不安を胸に東京での暮らしを始める人も多いこの季節。本連載では地方出身のアーティストに「上京」をテーマにエッセイを依頼し、東京に“ウブ”だった頃の思い出をつづってもらいます。第4回は、東京都ではあるものの、フェリーだと片道10時間以上かかる八丈島出身の玉置周啓(MONO NO AWARE)さんが登場。自身の経験から、東京に限らず新しい環境で生き残る方法を教えてくれました。

東京に限らず、大阪でも福岡でも、ニューヨークでも月でも使えるデビューの本懐

こんにちは。

今日は、八丈島から出てきた新大学生が東京で生き残る方法をお教えしたい。具体的には「あの頃はよかった」という過去の呪縛から逃れる方法である。

田舎から出てきた若者の多くは、出身地と新天地のノリの違いに直面し、困惑する。ようやく仕上がったはずの自分の精神や身体を、もう一度組み替える必要性に迫られるので、今にも叫びたくなる。

まず、叫びましょう。成人もしてないのに一人暮らしとか始めてる時点で、ヤバすぎるので。そして親戚や同郷の友はできるだけ頼って欲しい。

さて、味方なき世界でどう生き残るか。その具体的な方法について、俺の実体験に基づき、3つの段階に分けて説明する。

①恐竜がいたことにする。

完成までの工程をご想像いただきたい。

完成までの工程をご想像いただきたい。

大学一年の冬。東京は数年ぶりの大雪に見舞われ、もれなく俺の借りていたマンションの前も積雪した。それを報告できるような学友もいなかった俺は、段ボールを用いて恐竜の足跡型を作り、それを真っ新な雪の上に押し当てた。スマホでそのさまを撮影し、「何かがいたっぽい」と画像ツイートすると、何となくフォローしてくれていた先輩や同級生がファボ(いいね)をしてくれた。

これは言うまでもなく、SNS活用による友達づくりである。

自己紹介で「八丈島出身です」と言えば天下を取れると思っていた俺は、「信号あんの?」と聞かれて「意外とあります」と返すと話題が終わる、という予想外の展開に驚愕していた。それ以上人と仲良くなる術も知らない俺にとって、積雪はこれ以上ない自己紹介のチャンスだったわけである。

そもそもの問題として、幼い頃から知り合いばかりの環境で育った田舎者が、頼る相手もいない世界に身を投じるなど、生存戦略として分が悪すぎる。だから、新天地にやって来た俺は、まず自分を知ってもらう必要があった。かまってくれた友人や先輩方には、今も感謝しかない。

しかし、自分を知ってもらうことはゴールではない。新たなコミュニティの入り口に立った今、眼前にあるのは、個人では覆しようのないサークルや学部のノリ、いわば気風との闘いであった。強要されないにしろ酒や煙草などのコミュニケーションは根強く、年齢的にも信念的にも飲めない俺は、その対応力を問われた。

②顔を白く塗る。

人生のコピーをやる先輩から借りたドーラン。

人生のコピーをやる先輩から借りたドーラン。

サークルでザ・ダムドというバンドのコピーをやることになり、画像検索すると顔が白塗りだったので、顔を白く塗った。俺は酒が飲めない代わりに、こういうことを平気でやれた。シラフの状態で、変わり者であれることは幸福なことである。俺は変人、個性がある!

カッコつけてる間に人生が終わってしまうので、心のほんとうの核の部分が傷つかない限りは、何でもやる。やってみて、楽しければいいし、楽しくなかったら次はやらない。酒が飲めるようになってからは、コンビニがあるたびにチューハイを買って北へ向かうとか、公園の草でタバコを作るとか、つまらないことほど楽しかった。

いま楽しい。あの頃より、今の方がいい。そうなってきたら、ほとんど東京デビュー成功である。

ところが、これは劇薬。こんどは今この幸福を手放したくないばかりに、代わりに学業を放り出したり、何より過去を否定するという反動が起きる。それを人は、黒歴史と呼ぶ。

そこで最後に、過去を乗り越えた反動による「俺の地元はクソだ」ムーブさえも乗り越えることを目指す。

③東京より東京のところに行く。

イスタンブールの踊り場でチュニジア人とダンスバトル。

イスタンブールの踊り場でチュニジア人とダンスバトル。

八丈島と東京だと、両者の対比のみで人生の価値観を決めてしまいがちである。東京がこの世界の最上位だと感じてしまい、それが故郷への忌避感を生んだり、かえってホームシックを育んでしまうこともある。

故郷に帰るか東京で踏ん張るか。そういう二極化した思想に囚われたら、海外へ行く。

東京よりさらに広い世界を知り、憧れの東京をただの一都市に成り下げる。言葉の通じない世界に身を置き、自分がいかに日本語に縛られ、日本的なコミュニケーションに慣れ切っていたかを知る。

そうすることで、故郷も東京も関係なくなっていく。

大切なのは、心を許せる人が、今どこにいるか。それをずっと探していたことに気づく。それこそが、東京デビューの本懐であり、ウブからの卒業である。

これは東京に限らず、大阪でも福岡でも、ニューヨークでも月でも使える。自分には東京関係ないなーと思った人は、ぜひ置き換えて活用いただきたい。

玉置周啓

1993年生まれ、東京都八丈島出身。2013年結成のバンド・MONO NO AWAREでボーカルとギターを担当。2016年に野外フェス「FUJI ROCK FESTIVAL」のROOKIE A GO-GOステージに登場し、翌年にはメインステージに出演する。2017年3月に1stアルバム「人生、山おり谷おり」をリリースし、2024年6月に5thアルバム「ザ・ビュッフェ」を発表した。バンドメンバーで同じく八丈島出身の加藤成順とアコースティックユニット・MIZとして活動しているほか、TBSラジオ「脳盗」、Podcast番組「奇奇怪怪」のパーソナリティとしても人気を集める。

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東京出てきてウブだった頃のことについて書いたということです。 https://t.co/RwpuSby2W1

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