音楽ナタリーでは“読書の秋”に合わせて秋の特別連載「アーティストの推薦図書」を展開。さまざまなジャンルの5組のアーティストにオススメの3冊を紹介してもらう。第1回となる今回は
「ホワイトノイズ」(水声社)
ドン・デリーロ(著) / 都甲幸治・日吉信貴(訳)
奇妙なほどに冗長でギクシャクした会話がクセになる
永らく絶版で高値になっていたドン・デリーロ「ホワイトノイズ」が映画化に伴って新訳で水声社から刊行。物語は額縁のようなもので、その中を言語が自由に、偏執的に遊び回っている。特に、奇妙なほどに冗長でギクシャクした会話が可笑しく、クセになってしまう。読み手はいつの間にか、物語を追う観点を離れて、言葉のアクロバットを純粋に楽しむ境地へと誘導させられている。この感覚は文学でしか得ることのできないものだと思う。個人的には、スティーブ・エリクソンがオルタナティブロック、リチャード・パワーズがエレクトロニカ、ドン・デリーロがポストロック(というかTortoise)というイメージ。
「ダブリナーズ」(新潮文庫)
ジェイムズ・ジョイス(著) / 柳瀬尚紀(訳)
行間から感じるアイルランドの冷たい風
信仰が力を失った20世紀初頭のアイルランド、ダブリンの人々。その歴史の暗がりと灯りが、なぜ100年後の読者の心を揺らすのか。この夏に読んで、行間からアイルランドの冷たい風が吹き込んでくるようで心地よかった。ジョイスといえば、韻とメタファーに満ちた文体で有名だが、そのへんは、より訳註と解説が豊富な「ダブリンの人々」(米本義孝訳 / ちくま文庫)を副読本にするのがオススメ。パーティのちまちました出来事をめぐるミクロな描写と、人々の生死を俯瞰するマクロな描写が唐突に接続される「死せるものたち」が忘れられない。
「渡り鳥たちが語る科学夜話」(朝日出版社)
全卓樹(著)
あまりにも文章が面白くSF小説と見紛うほど
現役物理学者による科学読み物の第2集。あまりにも文章が面白く、SF小説と見紛うほどだが、すべて科学と歴史が織りなす事実によるもの。土星の環の下に毎日降っている霧雨の話とか、国家興亡のダイナミクスを方程式化する研究の話とか、目にするあらゆる生き物を口に含まずにはいられなかった19世紀初頭の司祭の話とか、まるでテッド・チャンのよう。というか、テッド・チャンはこういった実際の科学をパラフレーズして物語を創出するのだろうけども。この世界を取り囲む奇跡の数々は、たとえ科学のフィルターを通そうとも、その神秘性を失うことがない。そんなメッセージを、全卓樹さんのポエジーあふれる言葉が伝えてくれる。
高城晶平(cero)
バンドceroのボーカル / ギター / フルート担当。2011年にカクバリズムより1stアルバム「WORLD RECORD」を発表した。最新作は2023年5月リリースの5thアルバム「e o」。また2020年4月にはソロプロジェクト、Shohei Takagi Parallela Botanicaの1stアルバム「Triptych」をリリースしている。音楽ライター・松永良平とともに、本にまつわるトークイベント「ビブリオ・ロジ」を開催するなど無類の読書好きとしても知られる。
※高城晶平の「高」ははしご高が正式表記。
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高城晶平(cero)が選ぶ2023年秋の3冊
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