音楽ナタリーでは“読書の秋”に合わせて秋の特別連載「アーティストの推薦図書」を展開。さまざまなジャンルの5組のアーティストにオススメの3冊を紹介してもらう。第2回目となる今回は
「セッちゃん」(小学館)
大島智子(著)
テン年代サブカルのカリスマ。大島智子
岡崎京子、魚喃キリコからの影響を彷彿とさせる幸薄いキャラクター。儚く淡くて消えそう。どこか寂しそうな死んだ魚のような目。東京都町田市のアパートでアメスピのメンソールライトをくわえてキャミソールを着てダウナーで色白で細い低体温な体。エキストラなサブカル女子に焦点を当てたテーマ。積鬱感。閉塞感。虚無感。喪失感。絶望感。陶酔感。ニヒリズムを感じる厭世的空気感と言葉選び。学生の頃に東京・渋谷のGALLERY X BY PARCOでの個展「パルコでもロイホでもラブホでもいいよ」や、ヴィレッジヴァンガード下北沢店でのサイン会などのイベントによく足を運び大島さんとお話しさせていただきました。テン年代の野方、上石神井、阿佐谷、小田急線沿いを思い出します。
2017年に発売されたLINEクリエイターズ着せかえ「がーる 不安定で退屈そうな女の子。」の額装ポストカードが1名に当たるプレゼント企画では、長文のメッセージを書き大島さんに送りました。その結果見事に当選して、一生大切にしようと思いました。カルチャーマガジン・She is、ギフトでのコラボや、不動産会社・サンズハウスの公式サイトに掲載された読み切りマンガ、アートファクトリーとのコラボ、禁断の多数決や泉まくら、宇宙ネコ子などミュージシャンとのコラボも相性がよくサブカル感満載な活動も魅力的でした。多感な時期に触れた大島智子さんの作品を特に現代の女子高生、10代、20代の皆さんに触れていただきたいです。映画、音楽、文学、詩集に関してコア層が高い音楽好きなナタリーの読者さんにも相性がいい作品かと思います。たくさんの方々にぜひ読んでいただけたら幸いです。
「夜空はいつでも最高密度の青色だ」(リトルモア)
最果タヒ(著)
ゼロ年代サブカルのカリスマ。最果タヒ
サブカル女子詩人のカリスマ。最果さんの言葉選びは、秀逸で発明的で感性が鋭いです。最果さんの詩集、エッセイ集、小説単行本、絵本、対談集などは全種類本棚にそろえています。自分は大森靖子さんが大好きでファンクラブにも入っていて、大森さんと最果さんの共著「かけがえのないマグマ 大森靖子激白」は今でも愛読しています。「死んでしまう系のぼくらに」の線路の詩は、特に影響を受けています。小田急線沿いで読むのが相性いいです。新宿ピカデリーの最高階で「夜空はいつでも最高密度の青色だ」を観ました。タイトルの長さの視覚的サブカル感性に惹かれます。排他的な都会での暮らしの中で感じる孤独感と虚無感。生きづらさを感じながらも懸命に生きる姿が魅力的で何度も見返してしまう作品。閉店してしまった新宿TSUTAYAでレンタルしたり、DVDを買ったり、詩集を読んで何度も作品に触れました。最果さんのさまざまな詩からは、ゼロ年代のミュージシャン、テン年代のTwitter、下記のワードを連想します。相対性理論、HASAMI group、NUMBER GIRL、eastern youth、bloodthirsty butchers、縷縷夢兎、kill remote、keisuke kanda、BALMUNG、chloma、HATRA。そして園子温や岩井俊二の詩的な映画に触れたときの初期衝動。古谷実、岩明均、奥浩哉、浅野いにお、花沢健吾、古屋兎丸、押見修造、ゴトウユキコの本に触れたときの初期衝動。中沢けいの「海を感じる時」を読んだときの静寂でダウナーな空虚感。「夜空はいつでも最高密度の青色だ」の映画では、航空障害灯が明滅する映像が秀逸でした。映画と詩集を合わせて、たくさんの方々にぜひ触れていただけたら幸いです。
「痛々しいラヴ」(マガジンハウス)
魚喃キリコ(著)
90年代サブカルのカリスマ。魚喃キリコ
中央線沿いのアパートに住んでるサブカル女子の本棚には大抵、魚喃キリコさんの本が並んでいる。魚喃さんの作品に関連する風景は、下北沢や和泉多摩川、小田急線沿いの情景が非常に多い。都心で働く事務職OLの心情。自由人な男と情緒不安定な女。儚く陰鬱な女子高生。過食症のイラストレーター。魚喃さんの作品に出てくるさまざまなキャラクターは、影があって魅力的。登場人物が不意に放つ言葉はアクチュアルで生々しく惹かれます。「痛々しいラヴ」「南瓜とマヨネーズ」「Water.」「blue」は、特に影響を受けていて何度も読み返しています。「東京の男の子」「15」「キャンディーの色は赤。」「ちいさなスージー」「strawberry shortcakes」「ハルチン」「魚喃キリコ短編集」はもちろん、「フィール・ヤング」9月号の特別付録、「Feel Love Vol.1」、「ユリイカ2002年7月号」「キネマ旬報 2016年4月上旬号」、「B-Quest 1」、「コミック・キュー(Vol.1[1995])」、「『鳩よ!』 No.197」、「広告批評 vol.271」、「たのしい中央線〈4〉」など魚喃さん関連の書籍も本棚にそろえています。「立原道造詩集 僕はひとりで 夜がひろがる」の挿絵も哀愁漂うイラストがいいです。「彼女のこんだて帖」の装画も魅力的。「痛々しいラヴ」に登場するナツヲの見た目は目隠しマッシュでバンドマンの風貌を連想させます。安いシャンプーの匂いやナツヲの独特な匂いに惹かれてしまう女の子の感性が印象的。匂いというのは文学の領域だと感じます。感性が強い人は、魚喃さんの細かい言葉選び、格好、場所、仕草などがより深く共有できるかと思います。ぜひ、多感な時期を過ごす女子高生の方々に触れていただきたいです。たくさんの方々に読んでいただけたら幸いです。
フクダヒロア
オルタナティブロックバンド・羊文学のドラマー。2020年8月にソニー・ミュージックレーベルズ内のレーベル・F.C.L.S.からメジャーデビューを果たし、同年12月にメジャー1stアルバム「POWERS」、2022年4月にメジャー2ndアルバム「our hope」をリリースした。2023年9月にアニメ「『呪術廻戦』第2期」のエンディングテーマを収録したシングル「more than words」をリリース。12月には東京、大阪でクリスマスライブ「まほうがつかえる2023」の開催とニューアルバム「12 hugs (like butterflies)」のリリース、2024年4月には自身最大規模となる神奈川・横浜アリーナでのワンマンライブ「羊文学 LIVE 2024 “III”」の開催を控えている。
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