NHK Eテレ「シャキーン!」ロゴ(写真提供:NHK)

番組終了を迎えるEテレ「シャキーン!」の音楽面を掘り下げる (後編) [バックナンバー]

参加者のラインナップはまるで音楽フェス、月替りの歌コーナーから生まれた名曲たちの誕生秘話

各楽曲の制作エピソード、中村佳穂や馬喰町バンドとの出会いなど

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番組から生まれたロックバンド、ザ・ぶどうかんズ

「シャキーン!ミュージック」からは、ロックバンド「ザ・ぶどうかんズ」も誕生した。当初6人組として結成されたこのバンドには、ドクター・ジョンばりのピアノロックである2曲目「いいわけ!?」からは中村佳穂、4曲目「WAKE-AI-TAI」からはファンファン(ex. くるり)もメンバーとして加入。2019年には野外フェス「朝霧JAM」での初ライブも予定されていた(※台風により中止)。

「僕と岩見十夢は、2016年当時に元気のなかった“ロック”を再構築し『現代の子供たちにそのカッコよさを伝えたい』『子供番組からフェスに出られる本物のロックバンドを生み出したい』という2つの目的を持ってザ・ぶどうかんズを結成することにしました。命名はバンドのボーカリストの1人であるやついいちろうさんで、高校生の頃にやついさんが友達と組んでいたフォークデュオの名前をそのままもらいました。デビュー曲である『おぼえてわすれて』はロックの初期衝動をテーマに、RamonesやTHE BLUE HEARTS、The Smithsなんかを彷彿とさせる演出を各所にちりばめています。その頃の『シャキーン!』は親子で観られる番組内容にシフトしていたので、寝起きの子供たちの後ろでテレビを観ているお父さんやお母さんに反応してもらえるようサウンドやビジュアルにもこだわりました。朝の食卓で親子の会話のきっかけになればいいなと、毎回“わかればニヤリとできるロックネタ”も入れ込みました」

店や施設などが閉まる瞬間を馬喰町バンドの歌とともに紹介する「終わる瞬間」や、漢字を飛ばして平仮名だけを歌ってしまうシンガー・とばしかんじが登場する「かんじない歌」など、番組内のミニコーナーから「シャキーン!ミュージック」の楽曲に発展したケースもあった。これについて村井氏が語る。

「馬喰町バンドは中村佳穂ちゃんの紹介で知り合いました。佳穂ちゃんから『絶対好きだと思うんで観に来てください』と渋谷7th FLOORでのツーマンに招待してもらったのが2016年頃だったと思います。彼らの無国籍なリズムや手作り楽器のサウンド、童歌の言葉遊びのようなリリックに一瞬で魅せられてしまいました。その日のうちにメンバーと『一緒に何かやりましょう』と意気投合したのを覚えています。すぐさま『シャキーン!』では珍しいミニドキュメンタリー『終わる瞬間』というコーナーのテーマソングに彼らの名曲『わたしたち』を使わせてもらい、次はオリジナル曲を作りましょうと、しばらく温めていた企画を武徹太郎さんに話しました。『終わる瞬間』の新しいテーマソングを作りたいというのは表向きのお願いで、本当に作りたいのは“死”をテーマにした楽曲です。周りから『朝の子供向け番組でなんて歌を作るんだ』って言われるかもしれませんが、人間いつかは終わります。でもそれに向かって生きている自覚を持てれば、自分の命の可能性や、日々の生活の尊さに気付けるんじゃないか? そんな歌を一緒に作りたいんです――みたいなことを熱く語った記憶があります。作詞作業では武さんとやり取りを繰り返し、今ある形に収まりました。そしてこの歌のもう1つの心臓であるMVは中山うりさんの紹介で、土屋萌児くんにお願いすることにしました。彼の切り絵アニメーションは一発撮りであとから編集したり、撮り直したりできません。その、後戻りできない手法がこの曲のテーマにハマらないわけない、と通常の倍のスケジュールを確保して制作しました。これまで多くの楽曲を制作してきましたが、この曲はとても思い入れの強い1曲となりました」

「馬喰町バンドはこのほかに、『普段参加しているお祭りって何を祝ってるのかよく知らないよね』という疑問から『まつりばなし』という企画も提案してくれました。視聴者である子供たちに、自分の地元のお祭りが何を祝っているのかを調べ、理解するきっかけを作りましょうというコーナーです。民俗学にも通ずる馬喰町バンドが、リサーチから作詞作曲、レコーディング、アニメーション制作まで手がけた、彼らの集大成のようなコーナーです」

2018年に放送された、とばしかんじとミックスナッツハウス「かんじない歌~旅立ちの朝~」MVのワンシーン。(写真提供:NHK)

2018年に放送された、とばしかんじとミックスナッツハウス「かんじない歌~旅立ちの朝~」MVのワンシーン。(写真提供:NHK)

「『かんじない歌』については、漢字がなくても送り仮名だけで成立する歌詞をフルサイズで書かなければならないので、作詞を担当してくれた岩見十夢くんは本当に大変だったと思います。やっと歌詞ができた! 次はレコーディングだ!といざスタジオに入ると、ボーカル録りという最大の難所にぶち当たりました。歌ってみるとわかるんですが、この曲はめちゃくちゃ歌うのが難しいんです。メインボーカルは大堀こういちさんが送り仮名だけを歌い、2番からは漢字部分だけを歌うミックスナッツハウスの林漁太くんが掛け合いのように入ってきます。2人とも何度もトライしてくれて、最後まで歌い切れたときは思わず拍手がでました。たぶんレコーディング後にボーカルエディットすれば、あんな苦労をしなくても簡単に編集できたんですが、子供番組で嘘をつきたくないという愚直なメンバーたちの本気に感心させられた1曲です」

三度笠をかぶった旅人が、Y字路で傘の倒れた方向に行き先を委ねるというショートアニメ「Y字郎」にはT字路sが出演。このコーナーも村井氏が企画したものだった。

「Y字郎」のコーナーに登場したT字路s。(写真提供:NHK)

「Y字郎」のコーナーに登場したT字路s。(写真提供:NHK)

「『小学生の頃、自分の行き先を傘を倒して決めたことあるよね?』というすごくバカっぽい思い出から生まれた企画です。横尾忠則の『Y字路』シリーズが着想の種だった気がします。担当のディレクターから『歌に乗せてアニメーションを作りたい』と相談を受けたので、当時聴いていたT字路sの「Tの讃歌」をシャレで貸したのがきっかけで主題歌をお願いすることになりました。T字路sの伊東妙子さんと篠田智仁さんを交えて打ち合わせをし、キャラクターのデザインやロケハンで撮ってきた写真など見ながら世界観を共有した末に、あのドープなテーマソングが生まれました」

なお、最終回を前にした3月21日(月・祝)から24日(木)にかけて、番組では「シャキーン!ザ・ライブ」と題した音楽企画が4日連続で放送される。これらの日には番組の歴代MCが集結し、八代亜紀、中村佳穂、ハンバート ハンバート、馬喰町バンドなどのゆかりのあるアーティストたちがゲストとして出演。「るるるの歌」「シャキーン!ザ・クロック」「なんどく列車ツアーズ」「WAKE-AI-TAI」「やわらか~いください」「サイコロソングス」といった「シャキーン!ミュージック」から生まれた楽曲をスタジオでパフォーマンスする。

「シャキーン!ザ・ライブ」より、ハンバート ハンバート。(写真提供:NHK)

「シャキーン!ザ・ライブ」より、ハンバート ハンバート。(写真提供:NHK)

「シャキーン!ザ・ライブ」より、中村佳穂。(写真提供:NHK)

「シャキーン!ザ・ライブ」より、中村佳穂。(写真提供:NHK)

「シャキーン!ザ・ライブ」より、馬喰町バンド。(写真提供:NHK)

「シャキーン!ザ・ライブ」より、馬喰町バンド。(写真提供:NHK)

「シャキーン!ザ・ライブ」より、八代亜紀。(写真提供:NHK)

「シャキーン!ザ・ライブ」より、八代亜紀。(写真提供:NHK)

今回の取材において、ディレクターの和賀氏、音楽制作のサキタ氏、そして「シャキーン!ミュージック」担当・村井氏の3人にこれまでの番組制作を振り返ってもらうと、それぞれ一様に「ただただ面白がって作っていただけで、意図して変なことをしようとは誰一人思っていなかった。でも、今までに誰も見たことがない面白いものを作りたかった」という趣旨のことを語っていた。番組は終わってしまうが、この15年間で「シャキーン!」に心と体を目覚めさせられた子供たちの中で、こういった姿勢は引き継がれていくことになるのだろう。

NHK Eテレ「シャキーン!」

シャキーン!ザ・ライブ

2022年3月21日(月)06:40~06:55
2022年3月22日(火)06:40~06:55
2022年3月23日(水)06:40~06:55
2022年3月24日(木)06:40~06:55

バックナンバー

この記事の画像・音声(全26件)

読者の反応

中村佳穂 @KIKI_526

【TV📺】
番組終了してしまう(残念)
Eテレ シャキーン!最後みんな大集合して、放送していた数々の名曲を演奏します。記事は出会いのことを話してくれてる🚃

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シャキーン!ザ・ライブ

3/21〜3/24
AM 6:40〜7:00ごろ
私もバンドやらソロやら出ています。よろしくお願いします

_________ https://t.co/iZ160JjdzU

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