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佐々木敦&南波一海の「聴くなら聞かねば!」 8回目 後編 [バックナンバー]

AKB48向井地美音とアイドルの再ブレイクを考える

もう一度トップに立ちたいと思うのは無茶?

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佐々木敦南波一海によるアイドルをテーマにしたインタビュー連載「聴くなら聞かねば!」。前回に引き続きAKB48グループ3代目総監督・向井地美音をゲストに迎え、かつて恒例イベントだった「選抜総選挙」がなくなったことでグループに訪れた変化や、自身が抱くグループおよびアイドルへの愛情について熱く語ってもらった。

構成 / 瀬下裕理 撮影 / 朝岡英輔 イラスト / ナカG

AKB48の歴史がエモを作った

南波一海 取り巻く環境が変わっていく中で、AKB48の意識がパフォーマンスそのものに向かっていったというのは、すごく興味深い変化ですよね。やっぱりメディアでの露出云々という前に、ライブに来るファンの人たちにいいパフォーマンスを見せることって、アイドルにとってすごく大事なことだと思うんです。今のAKB48はそういうシンプルかつ大切なことに立ち返っていて、その流れに合致した曲が「根も葉もRumor」だったんだなと。

向井地美音(AKB48) こんなに世間の方からパフォーマンスを話題にしてもらえるのは初めてかもしれないです。TikTokやYouTubeでの反響も感じていますし、オンラインでのお話し会に来てくださる方の層も変わったんです。センターの岡田奈々ちゃんが、男性だけじゃなく女性ファンも引き込めるタイプの子なので、「奈々ちゃんきっかけで知って来ました」という女性のファンの方もすごく増えて。それに「10年前にAKB48が好きだったんですけど、『根も葉もRumor』で戻ってきました」とか「今回初めてAKB48に興味を持ちました」という方もすごく多いですね。

佐々木敦 メンバーの皆さんがネットに上げていたそれぞれの「踊ってみた」動画も観ました。あの流れもブームになった一因かと思いますが、そもそも10年前と違って今はSNSが限りなく発達している時代だというのも大きいかもしれないですね。

向井地 そうですね。そして私たちAKB48には人数の多さという大きな武器があるので(笑)、みんなで積極的にSNSに投稿していこうと。あと「根も葉もRumor」はとにかくダンスが難しい曲なので、皆さんの挑戦心をくすぐったのかもしれないです。

南波 お話を聞いていると、やっぱり今のAKB48こそすごく時代にマッチしている感じがします。岡田さんもジェンダーレスな魅力がありますし、本田仁美さんもそうですけど、女性が共感しやすいキャラクターを持っている方がいる。やっぱり女性アイドルだからといって男性に迎合しすぎないのも大事じゃないですか(笑)。

向井地 世間の風潮としてもそういう流れを感じますね。大きいと思います。

佐々木 AKB48がおそらくもともと持っていた“グループとしての個性”って、逆説的ですがステージに並ぶメンバーの見た目がバラバラであることだと思うんです。ルックスや髪型やキャラクターがそれぞれ違っていることのよさを認識できる。ほかのアイドルグループだと、イメージを統一するためにビジュアルをそろえることもあると思うんですが、特に現在のAKB48はメンバーの見た目が本当にバラバラで、どこに視点を定めたらいいかわからないくらい(笑)。そこに今の時代にもっとも重要な多様性のようなものを感じるんです。

向井地 たまにインタビューで「女性グループのアイドルさんってたくさんいますけど、今のAKB48の武器ってなんですか?」と聞かれることがあって。ひと言で表現するのは難しいんですけど、よく考えてみたら多様性かなと。AKB48という大きな母体がどーんとあって、その中でメンバーたちが自分の個性を生かして活動している。何も気にしないで、自由にいられるのがこのグループのよさだなと思いました。

向井地美音(AKB48)

向井地美音(AKB48)

佐々木 AKB48って、この十数年におけるアイドル像の最初の雛形を作ったグループだと思っていて。そこからある要素に特化したアイドルがどんどん生まれていきましたが、十数年経った今でも、AKB48がその雛形として在り続けているのがすごいなと。焦点が絞り切れないグループと思われたこともあったかもしれないですが、そのバラバラ感こそが今の時代にマッチしていると思うんです。

南波 「根も葉もRumor」では時間の移り変わりや、昔と今の違いも歌われていますよね。「だってあの頃はまだ ポニーテールにシュシュ」や「僕が知ってる君は 前髪ぱっつんで」という歌詞にも、そういう時代も確かにあったけど、今は変わったんだなと、アイドルシーンの時の流れや変化みたいなものを感じます。

向井地 そうなんですよ。この曲ではAKB48のことを歌っているつもりで、いつもパフォーマンスしています。長く続いているグループだからこそ、そういう歌詞も説得力を持って歌えるんじゃないかなと思いますし、AKB48の歴史がエモを作ってくれているなと。結成時から今までグループの歴史を作ってきてくださった先輩たちには本当に感謝ですし、私たちの歌にはそういう重みもあるんだということを、いろんな人に知ってもらいたいですね。

AKB48はエターナルズ説

佐々木 今後のAKB48がどうなっていくのか、とても気になるところです。コロナ禍も収束するかわからないですけど、「根も葉もRumor」で新たな扉を開いたAKB48は、これからどんなふうになっていくと思いますか?

南波 きっとみんな次の作品にも期待していますよね。

向井地 どうしましょう……もっと激しいダンスをするしかないかな(笑)。

佐々木 AKB48は一時代を築いた国民的アイドルグループじゃないですか。みんなが名前を知っている。AKB48という存在そのものの人気があるから、正直なんとなくできちゃう時期もあったと思うんですよ。それが時代の移り変わりとともに状況も変わってきて。言葉を選ばずに言うと、今のAKB48からは大座から転げ落ちた人たちがもう1回天下を取りにいくような、ものすごい闘志を感じていて、そういう部分にとても心を動かされたんです。応援したいなって。だから2022年、AKB48はどうするんだろうと。

向井地 そうですね。AKB48が国民的アイドルと言われていた時代を私自身も見てきたし、そんなグループに入ったからこそ、これまでAKB48であることにプライドを持ってやってきました。でもここからは、いい意味でそのプライドを捨てられる気がします。「自分たちはもう1回、いちからやって行きます」という。ただがむしゃらに、一致団結してやっていかないと上には上がれないとわかっているし、そう思ったから「根も葉もRumor」でもすごくがんばれたんですよね。

佐々木 皆さんが切磋琢磨している雰囲気も伝わってきます。

向井地 この取材の直前もレッスンを受けてきて、みんなで「根も葉もRumor」を合わせたんですけど、その合わせ作業が本当に細かくて。特に本田仁美ちゃんが、練習の様子を動画に撮って、それを細かく確認しながら「誰と誰、ちょっと手の振りが速い」みたいな指摘をしてくれたり。とにかくみんなそれぞれの経験を生かして、厳しく練習に打ち込んでいます。だからきっと変わっていけると思うんですけど……具体的にはどうしましょう……(笑)。

南波 今ちょうど映画館で上映している「エターナルズ」という、マーベルのヒーローチームを描いた映画があるんですが、物語の主人公であるチームのリーダーが、自分にまったく自信のない女性なんですよ。

佐々木 能力はすごくあるんだけどね。

南波 で、仲間のドキュメンタリー作品を作ろうとしているキャラクターに「君の得意技はなんだい?」と聞かれて、「えっと……」とすぐに答えられないんです。でも、その人は「私でいいのか?」と苦悩しながらも、がんばっていろんな危機から世界を救うというお話なんです。今の向井地さんは、まんまそれみたいだなって(笑)。

向井地 本当ですか!? その映画観よう(笑)。

佐々木 AKB48=エターナルズ説!

向井地 マーベルのヒーローになれた。すごい(笑)。

総選挙がなくなって変わったこと

南波 ここ数年、AKB48は総選挙をやっていないんですよね(※2009~2018年まで毎年開催されていたが、2019年以降は開催見送りとなっている。参照:「AKB48選抜総選挙」今年は開催見送りに)。そのことによってグループにどのような変化がありましたか?

向井地 総選挙を開催していないことはめっちゃ大きいと思います。メンバー1人ひとりの個人戦じゃなくなったなという感覚がありますし、実際に箱推しのファンの方が増えましたね。総選挙の開催が見送りになってから3年が経った今、メンバー同士も1対1という意識がなくなってきて、みんなでグループをどうにかしようという気持ちでまとまれていると思います。

佐々木 それはとても大きな変化ですよね。

向井地 総選挙も刺激的で楽しかったんですけどね(笑)。

南波 毎年恒例になっていた総選挙やじゃんけん大会を開催しないとなると、グループの話題性みたいなものは弱くなるのかもしれないけど、それらがなくなったことによって、メンバー本人たちにとってよい変化があったというのは、すごくいい話だなと。

佐々木 総選挙を行わない年がくるなんて、昔は思ってもみなかったわけじゃないですか。今までまったく想像できなかったことが起きているけど、例えば今後また総選挙が開催されるようになっても、皆さんの中で変わった意識は、きっともう元には戻らないですよね。

向井地 そうですね。そしてそれが今のAKB48らしさになっているのかなと思います。自分たちらしさは「こうです」とはっきり言えるわけじゃないですけど、10年前のAKB48とは確実に変わってきてるし、今の私たちにしかないよさがあるなと、漠然とした自信があります。

南波 そしてコロナ禍、「根も葉もRumor」のヒットがあって、皆さんの変化を後押しするような出来事が続いた。

向井地 今になって思うのは、コロナ禍の影響で思うように活動できなかったりすごくピンチだったけど、私たちはいろんな面で変わることができた。本当にありきたりですけど、やっぱりピンチはチャンスだったんだなと思います。

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ずっとみんなを惑わせていたい

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佐々木敦 @sasakiatsushi

南波一海氏との音楽ナタリー連載、AKB48向井地美音さんの巻、早くも後半が公開されました!
https://t.co/nXSzc497UE

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