のっちさんと新宿の街並み。

のっちはゲームがしたい! 第8回 [バックナンバー]

ついにヨコオタロウさんと対面!「ニーア」シリーズ開発の裏側をたっぷり聞いてきました

キャラクターを3D化する難しさから、ゲームにおける音楽演出、周回プレイにこだわる理由まで

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皆さんはなんでゲームを作る人になったんですか?

ヨコオタロウ 「のっちさんがニーアのファンらしい」って話はずいぶん前に伺っていたので、この連載が始まったときに「ウチに来るかな?」と思ったら全然来ないから、「もう僕たちの時代は終わったんだ」って思ってました(笑)。

左から齊藤陽介さん、伊藤佐樹さん、ヨコオタロウさん、のっちさん。

左から齊藤陽介さん、伊藤佐樹さん、ヨコオタロウさん、のっちさん。

のっち いや違うんですよ。連載の企画会議のときに「ニーアが好き」って話をしすぎて、ニーアチームに会いに行くと連載が終わっちゃうくらいの大ボス感が出てしまったので(笑)。でも今回「レプリカント」のバージョンアップ版が発売されたから、いいタイミングだったのでお伺いさせていただきました。ヨコオさんは今回のバージョンアップにどんなふうに関わってるんですか?

ヨコオ 全然関わってないです。

齊藤陽介 めちゃくちゃ関わってたから(笑)。もっとお気楽なバージョンアップの予定だったのに、蓋を開けてみたら当初の予定よりめっちゃリッチになってて恐ろしいことに……。

ヨコオ 例えば伊藤さんはディレクターなので、現場でプログラマーさんやデザイナーさんに細かく指示するんですけど、僕はクリエイティブ・ディレクターと言いまして、スタジオに入らず会議とかで伊藤さんにああしてこうしてと言うのが仕事なんです。あとはいろんな座組……例えばゲームの移植をトイロジックさんにやってもらったり、音楽を前のシリーズに引き続きMONACAの岡部啓一さんにお願いしたり、細かいシナリオを追加するためにスクエニの中にニーアシナリオ班を作ったりというのを決めて。その3つのチームを糊付けするような役割をしてました。うわ、こんな真面目に仕事の話をしたのは初めて(笑)。

のっち ははは(笑)。まずそこから気になっていました。

齊藤 スクエニはスクウェアとエニックスという2社が合併してできた会社なんですが、エニックス側って昔から開発部が社内にないプロデューサーチーム的な会社で、いろんなデベロッパーさんと一緒にゲームを作ってきたんです。例えば「ドラクエ」に関わっている堀井雄二さん、鳥山明先生、すぎやまこういち先生も、誰もエニックス社員ではなかったし。

のっち あー、なるほど。

ヨコオ ゲーム業界のことはのっちさんはご存じないかもしれないですけど、昔のエニックスは開発会社を叩いて安くする地獄の会社で……。

齊藤 そんなことないよ!(笑)

ヨコオ 会社というかほとんどバイキングですね。目の前に現れた奴は殺す、みたいな(笑)。そんな中でも齊藤さんはわりとまともなほうだったんですよ。マイルドバイキング。

齊藤 バイキングではあるんだ(笑)。

のっち (笑)。皆さんはなんでゲームを作る人になったんですか?

齊藤 もともとオモチャを作りたくて、新入社員の頃は「ドラゴンクエスト バトルえんぴつ」という鉛筆の生産部門にいたんです。そして当時のゲーム開発の部長に「ゲームを作らないか?」って誘われて。ゲーム開発はグッズ生産よりも花形部門だったので断るわけにもいかず。ゲームも好きだったけど、好きなものの中で一番じゃなかったんですよ。だってオモチャとかぬいぐるみのほうがかわいいし。

のっち オモチャを作る仕事ぶりを認められたんですかね。今やこんな名プロデューサーになられて……。

伊藤佐樹 僕はもともと話を作るのが好きで、小説とかを書いてたんです。でも「ゲームなら文章だけに留まらず、いろんな手段を使ってお話を語ることができる」と気付いて。

のっち 確かに文字で読むのと自分でプレイするのとでは違いますもんね。そっか、物語を作る人だったんだ。

伊藤 作りたい人、ですね。ゲーム開発ではまだ物語作りに深く携わったことはないので。もちろん小説は小説でいいところはあるんですが、物語の世界について想像を巡らせてもらうときに、アクションや音楽が加わると感じ方が変わってきますよね。

のっち 伊藤さんはゲーム業界に入って、やりたかった物語作りを最初からできてたんですか?

伊藤 これまでは「Happy Wars」っていう自社のマルチプレイアクションゲームに携わったり、発表されなかったアクションゲームを作ったりしてたんですけど……。

のっち 発表されない?

ヨコオ なんで発表されなかったの?

齊藤 まずはどこのメーカーだったのか聞こうか。俺の予想では●●●●じゃないかなと思う。

ヨコオ あー、なるほどねえ。

左から齊藤陽介さん、伊藤佐樹さん、ヨコオタロウさん、のっちさん。

左から齊藤陽介さん、伊藤佐樹さん、ヨコオタロウさん、のっちさん。

伊藤 推理やめてください(笑)。そういういろんなプロジェクトで「テキスト書かせてくださいよ」ってお願いして、説明文とかキャラクターのセリフとかを書かせてもらってました。

のっち もともと原作の「レプリカント」がお好きだったんですよね? 自分が開発に関わるって、どういう気持ちだったんですか?

伊藤 最初はうれしかったんですけど、ネタバレなしでプレイしたかった気持ちが強いです(笑)。

のっち その気持ちはわかる(笑)。

ヨコオ のっちさんはもう「レプリカント ver.1.22」をクリアしてるんですか?

のっち ゆっくり遊んでるので、まだAエンドとBエンドまでしかやってなくて。今日のオフィス見学でも、ネタバレ防止でいろんな話を聞けなくて後悔しています(笑)。

齊藤 内容を全部話しましょうか?

のっち 嫌! 絶対やめてください!(笑)

慣れてる人と初心者、両方のお客様に満足していただくのは難易度が高いんですよ

のっち ヨコオさんは何がきっかけだったんですか?

ヨコオ 僕は伊藤さんと真逆で、お話には興味なかったんですけど、中学生くらいのときにゲームセンターで「グラディウス」っていうゲームをやって驚いたんです。「インベーダーゲーム」みたいなそれまでのゲームは、敵が出てきたら倒して次の面に行って、の繰り返しだったんですけど、「グラディウス」は先に進むにつれてステージの要素がどんどん変わる。それが映画みたいだなって思ったんですよね。それで「コンピュータはすごいスピードで進化しているから、すぐに映画に追い付くだろう。ゲームこそが未来のメディアだ」って思って。あれから40年経ちましたが、特にそうなりませんでしたね(笑)。

齊藤 話に興味ないのにシナリオ書いてるんだね(笑)。

ヨコオ ゲームっていろんなことができるから、イコールいろんなものを作らなきゃいけないのが大変で。やらなきゃいけなくなったからシナリオを書いてる感じで、あんまり興味はなかったです。

左から伊藤佐樹さん、ヨコオタロウさん、のっちさん。

左から伊藤佐樹さん、ヨコオタロウさん、のっちさん。

のっち デザインもやられてますよね。

ヨコオ キャラクターデザインそのものではなく、見た目全体のディレクションが多いですね。例えば「背景の空の色味をこうしてほしい」とか、「地面に物があるときに接地面に影がないと浮いて見えるから、もう少し影を落としてほしい」とか。

のっち ニーアチームの配信を観て、初めてUI(ユーザーインターフェイス)というものの大切さを知ったんですよ。ボタンとかもちょっとした色味や大きさの違いで、プレイヤーのわかりやすさが全然変わってくるとか。そこにそんなにこだわってると思ってなかった。

ヨコオ UIにこだわってるのには理由があって。最初に「ドラッグ オン ドラグーン」というゲームを作ったときに、ゲームさえできればいいだろうと思ってたら、テストプレイで誰もメニュー画面を操作できなかったんです。「ゲームが面白いとか面白くないとか以前に遊べないって……これはなんとかしないと」と反省して、そこから努力してUIを学んでいった感じです。UIの良し悪しは受け手によって異なるっていう問題があって、「慣れてる人はこっちのほうが使いやすいけど、初心者の人はこっちのほうがわかりやすい」みたいなことがあるので、両方のお客様に満足していただくのはけっこう難易度が高いんですよ。

齊藤 UIデザイナーってちゃんとしたジョブとして存在するんですけど、なかなかなり手がいないし、優秀な人も少ないイメージがあるので、今からゲーム業界を目指す人はそこを狙うと入りやすいかもしれない。

のっち へー! めちゃくちゃ大事なことなのに。

ヨコオ 学校にUI学科みたいなのはないですしね。普通のデザイン学科を卒業した人とか、DTPやWebデザインをしてた人がやることが多い仕事です。

伝えたのは子豚みたいなイメージだったんだけど、上がってきたイラストは恐ろしい化物で

のっち 先ほどオフィス見学でキャラクターの3Dデータとかをいろいろ見せていただいたんですけど、2Dのイラストで描かれたキャラクターデザインが、どういう過程を経て3Dになるのかが気になりました。

ヨコオ 「レプリカント ver.1.22」はだいぶ迷走しましたね。

のっち えっ、なんで迷走するんですか?

齊藤 ヨコオさんの強いこだわりゆえですね(笑)。

ヨコオ キャラクターの3D化ってけっこう難しいんです。この連載で前に訪問してた「龍が如く」のスタジオみたいに、実際の人物を3Dスキャンしてモデリングするというのも、リアルなキャラクターを作るには1つの方法なんですが、すべてのゲームのキャラクターがリアルになればいいかっていうとそういうわけではなくて、プロポーションを強調したり目を大きくしたりというアニメ的な要約が必要で。でも例えばマンガで、同じページ内に違う作家さんの絵が並んでたらおかしいじゃないですか。ゲームも同じで、その微妙な違いが目立つんですよね。

伊藤 できあがった3Dを見て「なんか変だな」って違和感を覚えることはあるんですが、その微妙な差を言語化するのは難しくて。熟練の専門家が見てようやく「ここの構造がおかしい」みたいなことがわかったりします。

のっち イラストレーターさんにキャラクターデザインを発注するときは、どんなふうにお願いしてるんですか? 例えばエミールの実験兵器7号とか。

齊藤 今回の「レプリカント」でキャラクターデザインを担当してもらったのは吉田明彦さんですが、11年前はD.Kっていう韓国のイラストレーターにお願いしてて、7号を描いたのはD.Kですね。

実験兵器7号(エミール)

実験兵器7号(エミール)

ヨコオ 最初に伝えたのは子豚みたいなイメージだったんですけど、上がってきたイラストは不気味な化石みたいな、恐ろしい化物になってて。

齊藤 でも俺たち2人とも一発OKだったよね。これいいじゃん!って。

のっち かわいい子豚でお願いしたのに(笑)。そういうことってよくあるんですか?

ヨコオ イラストレーターさんに「こういう感じで」ってお願いしても、自分のイメージ通りのものはほとんど上がってこないんです。でも、それを直してもらう時間があったら新しい絵を描いてもらいたいので、基本的に僕はリテイクを出さず、それを使ってなんとかしています。

のっち 「この服のこの部分、もうちょっとこうして」みたいに細かく指示してるのかと思ってました。

ヨコオ そうやってこだわっていると間に合わなくなるので(笑)。安く早くあげないと、そんなことやってたらバイキングにぶっ飛ばされる(笑)。

伊藤 今回は青年期の主人公で苦戦してましたね。

「NieR Replicant ver.1.22474487139」主人公の青年期。

「NieR Replicant ver.1.22474487139」主人公の青年期。

ヨコオ ああ、確かに時間かかったな。

伊藤 カイネとエミールは「オートマタ」に2Bと9Sというリファレンスが一応あるんですが、青年期の主人公は「オートマタ」には近しいキャラがいないので「何が正解なの?」って感じでした。

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「どれからやったらいいんだろう?」という質問は、どれでも不正解です

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@kaya_magnolia

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