今夏、佐藤健が主演を務めるNetflixシリーズ「グラスハート」が音楽シーンを熱く沸かせる。
「グラスハート」は若木未生による同名小説を原作とした“青春音楽ラブストーリー”。主演の佐藤自身が映像化を念願して企画を立ち上げた渾身の1作で、彼は本作の共同エグゼクティブプロデューサーも務めている。
物語は所属バンドを理不尽な理由でクビになったドラマー・西条朱音が、佐藤演じる孤高の天才ミュージシャン藤谷直季率いる4人組の新バンド・TENBLANK(テンブランク)にスカウトされるところからスタート。藤谷が生み出す唯一無二の楽曲とメンバーの熱い演奏により、TENBLANKは瞬く間に世の中を席巻していくが、その前に数々の壁が立ちはだかる。朱音役を務めるのは、オーディションを経て選ばれた注目の若手俳優・宮﨑優。TENBLANKのメンバーである努力家のカリスマギタリスト・高岡尚を町田啓太、音楽マニアの孤独なピアニスト・坂本一至を志尊淳が演じる。
劇中でTENBLANKが演奏する楽曲は、野田洋次郎(RADWIMPS)、Yaffleが作詞作曲、川上洋平([Alexandros])、清竜人が作詞を担当するなど、豪華ミュージシャンが制作に参加。キャスト陣はハードな楽器練習を重ねてライブシーンに挑み、熱のこもったパフォーマンスを披露している。また菅田将暉演じるカリスマボーカリスト真崎桐哉のユニット・OVER CHROMEの楽曲をTeddyLoidが手がけ、ドラマを彩る劇中歌の制作をTaka(ONE OK ROCK)が担当。隅々まで音楽にこだわり尽くした本作は、日本ドラマ史上最大スケールの音楽ドラマ作品と言ってもいいだろう。
さらに、ドラマの配信に合わせて、TENBLANKのアルバム「Glass Heart」がリリースされた。アルバムには野田が作詞作曲を手がけたタイトル曲「Glass Heart」をはじめ、物語を彩る10曲が収録されている。
音楽ナタリーではTENBLANKのメンバーを演じる佐藤健、宮﨑優、町田啓太、志尊淳にインタビュー。息ぴったりの掛け合いで撮影を振り返る4人の姿は、まさにバンドそのものだった。
取材・文 / 中川麻梨花撮影 / YURIE PEPE
僕の美学と理想をそのまま体現してる人
──佐藤さんは10年以上前から「グラスハート」の原作小説がお好きだったそうですね。今回は主演と同時にエグゼクティブプロデューサーも兼ねていますが、「グラスハート」という作品のどういったところに心を惹かれたのでしょうか?
佐藤健 ずばり、キャラクターです。登場人物たち全員が魅力的なんですよね。特に僕は、TENBLANKを率いる藤谷直季がずっと大好きで。いつも一生懸命で、音楽に対して本気で……「こういうふうに生きていきたい」という僕の美学と理想を、そのまま体現してるような人です。
──「グラスハート」制作にあたって、佐藤さんがご自身でTENBLANKを演じるメンバーを決めたそうですが、それってまさにバンドのフロントマンがメンバーを集める過程と同じですよね。佐藤さんの中でメンバー集めのポイントはどういうところだったんですか?
佐藤 顔です。それ以外のことはあまり知らないし。
町田啓太 待って。ショックを受けてる子がいるから……!(志尊を見ながら)
志尊淳 顔かあ……。
──バンドをテーマにした作品を作る場合、例えば楽器の経験の有無を重視するという方向性もありますよね。でも、佐藤さんは……。
佐藤 しませんでした。
志尊 僕は過去にもバンドものの作品でギターに挑戦したことはありましたが、本格的な楽器経験はありませんでした。
町田 僕も楽器をやったことはなかったです。
佐藤 まあ、結局は「この人と一緒にやりたい」という気持ちが大切ですよね。それで、まずは志尊、マッチー(町田)、ライバルバンドOVER CHROMEのボーカリスト役で菅田将暉に声をかけました。
──どういうふうにお声がけしたんですか?
佐藤 LINEです。
志尊 いやいや、直接会って気持ちを伝えてくれたじゃん(笑)。そもそも僕と健は知り合いで、会うといろんな相談をする間柄だったんです。それで4、5年前のある日、「ごはんに行こう」と誘われて、お酒を飲みながら2人で話してたら「俺はこういう作品を作りたいと思ってるんだよ」と健が突然よくわからない話をし始めて。たぶんそのときは「グラスハート」の企画がまだ通ってない段階で、詳しいことは言えなかったんですよね。その話だけでは全貌がわからなかったので、「健がプロデューサー! それはすごいね!」で終わったんです。それからしばらく経って、また健に誘われてお店に行ったら、そこにNetflixのプロデューサーさんがいらっしゃって。「何のごはん会なんだろう?」と思ったら、「『グラスハート』というドラマをやります。よろしくお願いします」と言われて「えっ!」みたいな。
──町田さんも同じような流れだったんですか?
佐藤 いや、マッチーとは面識がなくて。
町田 共演したことがなかったもんね。
佐藤 マッチーが出てる作品を観て、すごくいい役者だなと思っていたんです。でも、ガッツリ一緒に仕事をするとなると、人柄も大事になってくる。だから志尊や菅田に「町田啓太くんってどういう人?」と聞いて、リサーチの結果いい人っぽかったから、じゃあ大丈夫かなと思って声をかけました。
志尊 じゃあ俺たちは顔もよくて、人柄もいいってことでいい?(満面の笑みで)
佐藤 ……まあ、そうなんです。真面目な話、志尊は頭もいい。これは非常に大事なこと。俺、ひさびさに俳優でこんなに賢い人に出会ったなと思って。そこがすごく信頼できると感じた。一緒に高みを目指していけるというか。やっぱり、作品を作るうえで共演者とは同じ目線でいたいし、そういう点で最初に志尊の顔が思い浮かびましたね。
志尊 最初に話を聞いたときから、健の熱量がすごかったんですよ。まだ何も始まってなかったけど、間違いなく健には壮大な景色が見えていて。「絶対に俺はこれをやるんだ」という、そのまっすぐな熱量を受け取って、僕はとにかく健についていってみたいなと思いました。撮影中も、自分なりの役作りはしつつ「健はどうしてほしい? 今の芝居を見てどう思った?」と意見を聞くことが多かったです。
“本気”って絵に映る
──最後に宮﨑さんがオーディションで加入されましたが、そのオーディションの現場には佐藤さんもいらっしゃったんですよね?
佐藤 はい。オーディションの後半から参加しました。
──宮﨑さんの印象は、佐藤さんの目にどういうふうに映っていたんですか?
佐藤 色白だなあと思っていました。
宮﨑優 そうなんですね(笑)。それ以外にありますか?
佐藤 なんかピカピカしてた。物理的に。
宮﨑 どういうことですか(笑)。
──宮﨑さんはドラムの経験はあったんですか?
宮﨑 なかったです。
佐藤 TENBLANKはドラムがキーになっているバンドなので、ドラム経験者から選ぶべきなのかどうかは、めちゃくちゃ迷ったんですよ。でも、総合的に考えたうえで、彼女に懸けるのがこのプロジェクトにとって一番メリットになるだろうと判断しました。
──メリットになると思ったのは、やる気や根性といった気持ち的な部分ですか?
佐藤 そうですね。やっぱり“本気”って絵に映ると思っていて。もしかしたらドラム経験5年、10年という子をキャスティングしたほうがプレイはカッコいいものが撮れるのかもしれないけど、初めての人が死ぬ気で食らい付いてやったプレイのほうが胸を打つことがある。彼女だったらそういう感動を巻き起こしてくれるんじゃないかという期待が持てました。
健のお願いだからやってやるか
──ドラマの撮影にあたってどれくらいの期間、楽器を練習したんですか?
志尊 1年ほどですかね。
佐藤 そもそも撮影に8カ月かかっていて。撮影の前からみんな練習してるから、それくらいにはなるかな。特に君(宮﨑)はずいぶん前からやってたよね?
宮﨑 そうですね。クランクインの半年前くらいから練習しました。なので、1年半くらいですかね。
──町田さんの日々に密着した「情熱大陸」を年明けに拝見したんですが、実際に映像に映るのはワンフレーズだとしても、1曲まるっと練習していましたよね。曲数も10曲以上あるのに。
町田 そうなんですよ。僕以外のみんなも1曲通して弾けるように練習していました。実際に映像でどこのフレーズの演奏が使われるのかわからないし。そもそも、全部弾けるようにならないと、やっていて面白くない。がんばったらがんばった分だけ絵に映るだろうなとも思っていました。
──しかも、TENBLANKの曲って、初心者向けの単純なフレーズばかりというわけでは決してないですよね。むしろ手数が多い。ソロパートもありますし。
町田 はい。でも、悲しいことにソロを弾いてるところってだいたい映らないんですよ(笑)。ソロがある間奏は、ほかのメンバーの表情やステージの外の人たちの芝居が映ってることが多いんです。
志尊 あー、それはあるよね。
宮﨑 めっちゃがんばってるのに(笑)。
町田 でも、みんなちゃんと練習したよね。
志尊 うん。僕も本気でピアノの練習をして、「できるようになった!」と思ったら、急に健から電話がきたんですよ。「もしもし? 志尊、この曲はベースでいこう」って。
──志尊さん演じる坂本一至はキーボーディストでありながらベースを弾く曲もけっこうありますが、最初は鍵盤だけの予定だったんですね。
志尊 そうなんです。「えっ!」ってびっくりして。「ベースを弾いてる志尊はカッコいい。以上」って言われて電話が終わりました。神のお告げです。
佐藤 でも、志尊のファンの人たちは、きっとベースを弾く志尊を見たいと思うよ? 俺はファン代表として言っただけ。
志尊 「しょうがねえな。健のお願いだからやってやるか」って、ベースも楽しくやりました(笑)。
──佐藤さん自身もボーカルをやりながら、鍵盤、ベース、ギターを弾いてますよね。練習しなければいけないことが人一倍多かったのでは?
佐藤 僕も楽器の経験はほとんどないので、小さい頃にやっとけばよかったなと思いました。ボーカルトレーニングもがんばりましたね。
志尊 でも、この人は「練習してない」って言うんです。健の癖なんですけど、裏でめっちゃ練習してるのに、なんにもやってないみたいなテンションで現場に来る。
宮﨑 「まだ歌詞覚えてない」とか言いますよね。
佐藤 いや、楽器も歌も練習してるよ(笑)。みんなに「裏でやってるでしょ」って言われて、本当にやってないのは筋トレだけ。
町田 でも、その腕の筋肉は、筋トレしてなきゃおかしいよ。
志尊 健は「勉強してない」って言うのに成績がいいタイプなんだよね。努力を隠したがる(笑)。
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朱音のプレイができあがったきっかけ