恋愛していることも、もっと公にできるといい
南波 少し話が逸れますが、先日NegiccoのKaedeさんが入籍されて、これでメンバー3人とも結婚されたという。
和田 えっ、3人とも! わー、すごいなあ。
南波 グループももちろんそのまま継続ということなんだけど、これってホント画期的なことじゃないですか。ファンの人も祝福していて、とてもいい。
佐々木 そうだね。
南波 ただ「
佐々木 俺もそう思うよ。
南波 祝福するしないはその人の自由だけど、何年続けたから結婚の権利を得られる、みたいな話はさすがにおかしいなと思います。
佐々木 そうだね。今のアイドル業界にはいわゆる恋愛禁止問題がいまだにある。不文律なのかなんなのかわからないですけどね。これもファンとの関係性の話になってきますけど、和田さんはアイドルの恋愛問題についてはどう思いますか?
和田 この話は難しいですね。アイドルグループとして考えると、グループ全体の見え方もあるし、自分1人の好き勝手にはできないというのが当然あると思います。だけど本当に究極を言えば、好き勝手しててもそのグループにいられるというのが一番素敵ですけどね。
佐々木 一番はそうですよね。
和田 特に10代のメンバーとかは年齢的にも恋愛に興味ありまくりな時期だと思うし。だから恋愛してたら仕事と両立できないなんて論理はおかしいですけど、仕事やグループとしての活動に影響が出てしまうのはよろしくない。でもそれは、そもそも「アイドルは恋愛しちゃダメ」という価値観が前提にあるからそういう構造になっているわけで。私はソロになったから、たぶん恋愛や結婚についても話せるけど、グループだとまだまだ……。
佐々木 そう考えるとNegiccoはすごいアイドルグループだよね。前例を作ってますから。
南波 そうなんですよ。メンバー全員あんなにふんわりした印象なのに、めちゃめちゃパイオニア。
和田 結婚もそうだけど、恋愛しているということも、もっと公にできるといいですよね。
南波 本当にそうなんですよね。
和田 だって、いきなり結婚ってなったらその前に恋愛があるのに……。
佐々木 どういうことだよってなるよね(笑)。ウエディングドレス問題と同じで、個人の自由意志が最優先で尊重されていない。
南波 そういう部分がちょっとずつ変わっていったら、もう少し楽になるのになと思うんですよ。それこそ恋愛スキャンダルでアイドルを辞めたりしなくてよくなるじゃないですか。
和田 そうですよね。
佐々木 でも、男性が女性のアイドルのファンになるときの一番典型的な在り方は、おそらく疑似恋愛的な感覚なんじゃないかな、やっぱり。その中でもすごく純粋で無垢な思いを持っている人ほど、自分の推しが恋愛してるとわかったときの崩壊感覚って相当なものだと思うし。だからファン側の意識が変わっていくような何かがあれば、アイドル業界の在り方や構造もいいほうに変化できるんじゃないかと思うけど……すごく難しいよね。
和田 あと思うのが、恋愛経験もまったくなしに結婚したいとなってしまうと、すごく危ないというか。結婚までにはいろんな段階があるのに、いきなりそういう世界に放り出されたアイドルの子はどうなるんだろうって。私はたまに「変な人につかまりそうで危ない」って言われるけど、でももうさんざん変な人に関わったから(笑)、もうそこの区別はつくんですよ。だからそういうふうに見られるのもショックです。
南波 でも和田さんは革新的な姿勢を持ちながら、旧来の……と言っていいのかな。アイドルらしいアイドル像をまっとうしている人たちのこともちゃんと肯定しているから、そこもいいなと思うんですよね。
佐々木 アイドル1人ひとりに、それぞれの価値観があって然るべきですもんね。
和田 それはやっぱりそう思います。
あのとき反抗期だったのに
佐々木 そろそろ時間ということで。和田さんの卒業後、
和田 全然、特にないです(笑)。
南波 あはは(笑)。なんとも思わない?
和田 私と一緒に活動していた頃は10代だったメンバーが、少しずついろいろなことを考え始めている中で、20歳になったときどんなふうに成長しているんだろうと考えるとワクワクします。ましてや大きくなったメンバーたちの下に、さらに後輩たちがいるかもしれない。5年後とか、今よりも少し先の未来のほうが、「自分が残したのはこれで、自分が残せなかったのはこれだな」と見えてくると思うんですよ。だから、今というより、みんなのもう少し先の未来が楽しみですよね。
佐々木 なるほど。
南波 面白い。
和田 グループにどんなものが受け継がれていくのか、それを見るのが楽しみです。
佐々木 長く続いていくグループだからこその観点ですよね。しかも5年後って和田さん自身も今とは別のことをやっているかもしれないですしね。もっと広い世界にいるかも。
和田 そういうとき、私が自分の通ってきた道や人を後輩たちにつなげてあげたいと思ってます。だからそのためにがんばります。
佐々木 すごくいい話ですね。
南波 竹内さん(竹内朱莉 / 現アンジュルムリーダー)もめっちゃ変わりましたもんね。あんなにしっかりしたリーダーになるなんて。
和田 らしいですね。ついさっき、私も後輩からその話を聞きました。私がグループにいたときはずっと反抗期だったんだけどな(笑)。
佐々木 和田さんの卒業公演で、竹内さんがすごく泣いてたじゃないですか。俺も映像で観てもらい泣きしましたけど(笑)。竹内さんが「和田さん辞めないでくださいよ」って泣く、あれが本音だけど、でももう決まってることだからどうしようもない。だからあそこから自分を変えていったんだと思うんですよ。
南波 きっと相当なプレッシャーを感じながら変わったんだと思いますよ。
佐々木 そりゃそうだよ! だってこの人のあとのリーダーですよ?(笑)
和田 あはは(笑)。でもそれもいいですよね。あのとき反抗期だったのにって言いながら、今はしっかりしたお姉さんになっているって。
佐々木 本当に。これからもそうやって代替わりしていって、後輩たちが新しいアンジュルムを作っていく。和田さん自身もどんどん変化してゆく。これからもストーリーはずっと続いていく。美しいよね!
<前回はこちら>
和田彩花
1994年8月1日生まれのアイドル。2009年にスマイレージ(現アンジュルム)の初代メンバーに選出されリーダーを務める。2010年に1stシングル「夢見る 15歳」でメジャーデビュー。2019年にアンジュルムおよびハロー!プロジェクトを卒業し、以降は音楽活動の傍らトークイベントや執筆活動などを行う。趣味は美術に触れること。特に好きな画家はエドゥアール・マネで、好きな作品は「すみれの花束をつけたベルト・モリゾ」。2月28日に東京・新代田FEVERにて単独公演「かなでめぐる Playing around Shindaita」を開催する。
佐々木敦
1964年生まれの作家 / 音楽レーベル・HEADZ主宰。文学、音楽、演劇、映画ほか、さまざまなジャンルについて批評活動を行う。「ニッポンの音楽」「未知との遭遇」「アートートロジー」「私は小説である」「この映画を視ているのは誰か?」など著書多数。2020年4月に創刊された文学ムック「ことばと」の編集長を務める。2020年3月に「新潮 2020年4月号」にて初の小説「半睡」を発表。8月に78編の批評文を収録した「批評王 終わりなき思考のレッスン」(工作舎)、11月に文芸誌「群像」での連載を書籍化した「それを小説と呼ぶ」(講談社)が刊行された。
南波一海
1978年生まれの音楽ライター。アイドル専門音楽レーベル・PENGUIN DISC主宰。近年はアイドルをはじめとするアーティストへのインタビューを多く行い、その数は年間100本を越える。タワーレコードのストリーミングメディア「タワレコTV」のアイドル紹介番組「
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水道橋博士 @s_hakase
和田彩花とアイドルの自由意思を考える | 佐々木敦&南波一海の「聴くなら聞かねば!」 2回目 後編 https://t.co/qrOLVaJkZM