でんぱ組.inc「なんと!世界公認 引きこもり!」MVより。

でんぱ組.incはいかにして自宅にいながら8日間で楽曲を完パケたのか?

リモートワークから生まれる新たなクリエイション

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コロナ禍によって、エンタテインメント業界も大きなダメージを受けている。リスナーとダイレクトなコミュニケーションを取れる場としてはもちろん、アーティストにとって大きな収益源となるライブを行うことができないという危機的な状況だ。そうした中でも、SNSやYouTubeなどのネットメディアを通じて人々に音楽を届けるアーティストも少なくない。ここ最近大きな話題となったのは、星野源がInstagramで公開した「うちで踊ろう」の弾き語り動画だ。動画が公開されるやいなや多くの人がコラボ動画を作り社会現象化するほどの大反響となった。佐野元春も、バンドメンバーとインターネットを介したマルチレコーディングを行い新曲「この道」を2週間で制作しYouTubeで公開。ベテランながらも、このフットワークの軽さはさすがである。

そしてアイドルたちも、各種SNSを通じて自宅からアカペラや弾き語りによる歌唱などを発信し、前向きに音楽を届け続けている。そんな中大きな話題を呼んだのが、でんぱ組.incの完全リモートワーク制作による新曲「なんと!世界公認 引きこもり!」。発案からわずか8日間で曲作りやレコーディングなどを行い、ミュージックビデオまで完成させてしまったのだ。制作過程をTwitterで随時報告するリアルタイムのドキュメント感は、実にスリリングなものがあった。リモートワークによる画期的な楽曲制作やこれからのエンタメの在り方について話を聞くべく、でんぱ組.incプロデューサーのもふくちゃんこと福嶋麻衣子、ディレクターのYGQにオンライン取材を行った。

取材・/ 土屋恵介

「うちで踊ろう」を観て「先を越された!」と思った

──リモートワークで作り上げた、でんぱ組.incの新曲「なんと!世界公認 引きこもり!」が大きな話題を呼んでいます。そもそも今回のプロジェクトはどのような形でスタートしたんですか?

もふくちゃん 星野源さんの「うちで踊ろう」がネットにアップされたのを観て、「先を越された!」と思ったんですよ。それで、急いでYGQさんに電話して、ああいうことは今後SNS上でみんながやっていくだろうから、それをでんぱ組.incでも、すごいスピード感で先陣切ってやらなきゃダメだって話したところから制作がスタートしたんです。

YGQ 「うちで踊ろう」は、星野源さんの動画を元にみんなが2次創作をするというコンテンツだったので、でんぱ組は、みんなで一緒に何かを作り上げるものがいいんじゃないかと思って。そこから、オンラインで曲を作って、メンバーもミュージシャンも自宅でレコーディングして、さらにお客さんのコーラスも取り入れるなどして、みんなで1つの作品を作り上げたら面白いんじゃないかという構想が思い浮かんだんです。

もふくちゃん あと普段は表に出さない工程、例えばエンジニアさんや振付師さんといった方々が、どのように楽曲に携わっているのかを見せたいという思いもありました。

──それはどうしてですか?

もふくちゃん 普段から振り付けのYumiko先生と、アイドルが表で表現してるものって氷山の一角だし、彼女たちを支えているクリエイターたちを“裏方”と呼ぶような考え方はもう古いよねっていう話していて。コロナ禍の前からそういう話はみんなでしていたんですよ。チームで1つのものを作っているということを、この機にうまく見せたいなという思いもありました。

YGQ 1つの楽曲が完成するまでには、いろんなクリエイターが関わって、それぞれが細かいことにこだわりながら、すごいエネルギーを注ぎ込んでいるわけで。そういうことをリスナーの皆さんに知ってもらえるきっかけみたいなものを作りたかったんです。

──プロジェクト全体の動きがわかることで、リスナーの作品に対する捉え方も変わりますしね。では、今回のリモートワーク制作でこだわったところは?

YGQ ほかのミュージシャンの方たちもいろいろやられていますが、自宅からアカペラや弾き語りを発信するっていうラフなものが多いと思うんです。でも、僕らはこの状況だけどいつものでんぱ組クオリティをキープできるように注力したんです。逆に言えば、でんぱ組が家で「ラララー」とかアカペラで歌ったりするのって、あまりイメージが湧かないじゃないですか(笑)。

──確かにそうですね(笑)。

もふくちゃん そもそも音源に入っているでんぱ組のボーカルって、普段はエンジニアさんがめちゃくちゃ加工しているんですよ。だから星野源さんみたいにはいかないんです(笑)。それなら「エンジニアさんも演奏者もマジ神!」っていう部分もあえて見せちゃったほうが面白いのかなって。

上から、もふくちゃん、YGQ。今回のインタビューもZoomを利用したリモートワークで行われた。

上から、もふくちゃん、YGQ。今回のインタビューもZoomを利用したリモートワークで行われた。

すべての作業がリアルタイムで同時進行

──今回の楽曲は、前山田健一さんが作詞、浅野尚志さんが作曲、釣俊輔さんが編曲をそれぞれ手がけられています。楽曲の方向性や作家陣のオファーはどのように進めたんですか。

もふくちゃん 浅野くんとYGQさんと私の3人で話してスタートしたプロジェクトだったので、浅野くんが作曲っていうのは最初に決まっていたんです。それで、「こういう企画、ヒャダインさんだったら面白がってくれそうだよね」って、すぐにマネージャーさんに相談したらオッケーをいただけて。その瞬間に「ヒャダインさんに作詞お願いしたいです」ってツイートをしたら、ヒャダインさんも「ぜひぜひ」って反応してくれたんです。釣さんも、同じくらいのタイミングでお願いしたら、すぐにオッケーしてくれました。なので作家陣は数時間で決まりました。

もふくちゃん で、その数日後に、ミュージックビデオを監督してくださった森本敬大さんに私がTwitter上で急に絡んでMVの制作がスタートしたんです(笑)。

YGQ メンバーの家にグリーンバックがあればとりあえずMVの素材は撮れるぞと思って、先にAmazonでグリーンバックを購入しておいたんです。ポチった次くらいの日に、森本さんが「#でんぱ新曲作るんさ」のツイートに「いいね」を押してるのに気付いて、「もしかして興味持ってる?」と思って、もふくちゃんがTwitterで絡んだっていう(笑)。

──リモートワーク作品にもかかわらず、ちゃんと振りまで付いているのも新鮮でした。

もふくちゃん 振り付けはいつものYumiko先生なんですけど、前述したように前々からこういう過程を見せていきたいって話をしていたので、もう仮歌の時点で作ってくれたんです。

YGQ Zoomでメンバーに振り付け指導してたよね。

もふくちゃん そうそう。「そこ違うよ、手は右、これは魚に見えるようにちゃんとやって!」って画面越しに教えてました。

──ドキュメント感満載の制作でしたね。

YGQ はい。楽曲も、お客さんに「BPMはどれくらいがいいですか?」とか、意見を聞きながらゼロの状態から作っていって。作業をしながら変えていったところもあります。

もふくちゃん ほんとに、すべての作業がリアルタイムで同時進行していました。

ボーカルレコーディングはiPhoneで

──普段とはまったく違う作業環境ではあるので、難しい場面もあったと思うのですが。

YGQ 実際に会わない弊害はありました。それが如実に出たのがボーカルディレクションですね。いつもはスタジオで細かいディレクションをしながら歌を録っていくんですけど、今回は各自が自宅で歌を録ったので、送られてきた音声ファイルを開いたら、「この人めちゃ音悪いな」とか「歌のニュアンスが全然違う」みたいなことが、やっぱりあったんですよ。なので、やり直しの作業には、いつもより時間がかかりました。

──ボーカル録りの機材は?

YGQ iPhoneです。

もふくちゃん みんな家で布団かぶったりして録ったんですよ。

YGQ いつもの歌録りは、ヘッドフォンにクリックとか仮歌を流して歌ってもらうんですけど、今回はそれができない。なので、仮歌デカめ、ガイドデカめ、クリックデカめとか、歌録り用の音を何パターンか作ったんです。メンバーには「自分の歌いやすいものをパソコンから流してイヤフォンで聞いてください」「iPhoneをレコーダーとして使って録ってください」「レコーダーはこのアプリで、この設定で録ってください」って指定してレコーディングしてもらったんです。

──条件の違うボーカル素材を合わせていく作業は大変ですよね。

YGQ はい。録り直しても「これ以上無理です」って子もいたので、あとはこっちで補正して。歌に関して言えば、リアルとバーチャルでは同じようにはいかないところがありましたね。ただ、iPhoneでどうやっていいボーカルを録るかというスキルに関しては、今回の作業でかなり精度が上がったと思います(笑)。

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お客さんの意見を参考に歌割りを調整

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