20年後も身体に残っていくものを、「せかい演劇祭2024」に宮城聰が意気込み

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ふじのくに→せかい演劇祭2024」のプレス発表会が昨日3月15日に静岡・静岡芸術劇場にて行われた。

「ふじのくに→せかい演劇祭2024」プレス発表会より。左から宮城聰、中島諒人、石神夏希、三浦直之。(撮影:牧田奈津美 / F4.5 )

「ふじのくに→せかい演劇祭2024」プレス発表会より。左から宮城聰、中島諒人、石神夏希、三浦直之。(撮影:牧田奈津美 / F4.5 )

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「ふじのくに→せかい演劇祭」は、“ふじのくに(静岡県)と世界は演劇を通じてダイレクトに繋がっている”というコンセプトのもと、毎年行われている演劇祭。会見冒頭で、今年の演劇祭開催に向けての思いを問われたSPAC芸術総監督の宮城聰は「最近気になっていることは、日本の人たちが自己完結型になっていて、他者との関係に興味を持たない、期待をしない傾向が強いことです。人はどうせ変わらない、会社は変わらない、というような……」と切り出す。

「ふじのくに→せかい演劇祭2024」プレス発表会より、宮城聰。(撮影:牧田奈津美 / F4.5 )

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続けて「そういう状況ではそれぞれみんな、自分が持っているものを大事にしてこの範囲で楽しもうとか、周りはいいので自分自身を磨こうという発想になっていく。でも舞台芸術はそういった風潮の中で、『それでもなお人は変わり得るんだ、成長し得るんだ』と夢のようなことを実感させてくれる。舞台を観て人生が変わったと思える、非常に残り少ない機会だと思っています」と思いを語った。

また「今は目の前の、せいぜい5年先くらいの得を考えがちですが、そういった物差しだけではなく20年後の自分、地域、国を考えた選択の仕方、そういったもう1つのものさしをポケットに入れるということを提唱させていただきたい。例えば今20歳くらいまでの人にとって、5年後を考えて選択する国と、20年後まで考えて選択する国だったら、20年後を考えて選択している国に行きたいじゃないですか。今回の演劇祭のラインナップは、観るのにエネルギーが必要だったり、“苦い”作品もあるかもしれませんが、そんな中にも人間の可能性と言いますか、人間は意外と信用できると感じられるような作品が並びました。そんな、現状の苦さと本気で向き合っているアーティストが、創作の中で希望を見出そうとしていることに励まされるのではないかと思います」と思いを述べた。

「ふじのくに→せかい演劇祭2024」プレス発表会より。左から宮城聰、中島諒人、石神夏希。(撮影:牧田奈津美 / F4.5 )

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続けて、「友達」の演出を手がける、鳥の劇場・中島諒人があいさつ。中島は現在静岡に滞在し、SPACの俳優5人と鳥の劇場の俳優5人で稽古を行っている。「『友達』はあまり楽しい話でありませんが、安部公房が本作で何をしようと思っていたのかを考えると、集団と人間の関係性を考えようとしていたのではないかなと。本作に出てくる“家族”はまとまりのある集団ではなくデコボコというか、ともすると崩壊しかねない集団なんですけど、そういった集団の内部から見たときの側面と、その“家族”によって飲み込まれていく若者の目線で見たときの集団のグロテスクさ、この2つの角度から考えることができるかなと。また本作の現代性という点では、今の日本の“集団の息苦しさ”を芝居の世界に照らすことで、“現在”を考えることができるんじゃないかと思っています」と話す。

「ふじのくに→せかい演劇祭2024」プレス発表会より、石神夏希。(撮影:牧田奈津美 / F4.5 )

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さらに中島は本作のポイントに“エネルギー”があると言い、「この“家族”には何があっても生きていくというエネルギーがある。それは、ややもすると生きるエネルギーを失いそうになってしまう現代人の弱さを超えていく感じがあり、それは満州を体験している安部公房さんが培ったものなのかなと」と分析。そのうえで「演劇は、人間を素敵に、素晴らしく見せたいという思いによっても動いていくもの。今回の『友達』は、そんなエネルギーが感じられる作品じゃないかと思っています」と自信をのぞかせた。

「楢山節考」より。

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昨年、富山・利賀芸術公園「利賀山房」で創作初演された「楢山節考」は、瀬戸山美咲が上演台本・演出を手がける作品。「う蝕」ツアー中の瀬戸山は上演に向けたメッセージを寄せた。本作について宮城は「関心したのは、瀬戸山さんが俳優の防具となるようなものをすべて排除し、生の肉体とテキストだけであの利賀山房にぶつかり合うという、最もプリミティブなことをされていたこと。その姿が今日の観客を励ますのではないかと思いました。ただ利賀山房のような空間あってこその上演だったとも思い、ほかの場所で上演できるのだろうかと瀬戸山さんに質問したところ、数日経ってから『楕円堂はどうでしょう?』と返答があり、『なるほど!』と思いました(笑)」と話した。

異色なのは、舞台芸術公園ほかで行われる回遊型演劇「間食付きツアーパフォーマンス『かちかち山の台所』」。演出を手がける石神夏希は「静岡に引っ越してきて4年。演劇祭で作品を作らせていただく機会をいただき感謝申し上げます」と笑顔を見せる。石神はリサーチで訪れた舞台芸術公園の美しい風景写真を見せながら「10名前後でグループになりガイドについて歩いていただくのですが、歩いている途中や訪れた先々にいろいろな演劇的な仕掛けがちりばめられていています。また、間食をご用意しているので作品にちなんだ美味しいものを楽しんでいただきながら、体験していただけたら」と作品の見どころを話す。また「かちかち山」のストーリーに触れて「畑を荒らしたり、悪さをしたタヌキは最後に懲らしめられるというストーリーですが、そもそも畑になる前、そこにはタヌキが住んでいたんじゃないかな、とか、どうしたら共存できるんだろうとか、いろいろなことを考えさせられます。今、異なる正義、異なる正しさの対立が激しくなっていますが、こういう話を聞いて胸がザワザワしちゃう人たちと、ぜひ美味しいものを考えながら考える時間が作れたらと思います」と話した。

「かもめ」より。(c)Gianmarco Bresadola

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続けて、昨年3月に初演されたトーマス・オスターマイアー演出「かもめ」が紹介された。ベルリンでは、象徴的な大木が配されたが、今回は大木の代わりに景色が目の前で描かれるスペシャル版となる。宮城は「『かもめ』の招聘が実現したことがびっくりで。まさか難しいだろうと思いながら交渉してみたら、乗り気になってくださって、オスターマイアーさんの側が、なんとか日本公演が実現するように考えてくれました。演劇にちょっとでも興味がある方にはぜひ見逃さないでいただきたい歴史的な上演です」と話す。さらに宮城は「三十代はじめの頃に演劇界の頂点に立ったオスターマイアーさんは僕にとって目標といいますか、ずっと背中を追いかけてきた存在だったんですね。若くしてドイツを代表する劇場、シャウビューネの芸術監督に就任し、当初はショッキングな演出が多かった彼が、芸術監督として25年の総決算に『かもめ』を取り上げたわけですが、『かもめ』は人を驚かすようなことは一切ない演出で、彼のシャウビューネでの四半世紀のまとめのようになっている。オスターマイアーさんはひとまず25年を総括したんだなと思いました。とにかく見逃さないでいただきたい」と言葉に力を込めた。

「マミ・ワタと大きな瓢箪」より。

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さらにカメルーン生まれのダンサー・振付家メルラン・ニヤカムが演出・振付・出演する「マミ・ワタと大きな瓢箪」が紹介された。宮城はニヤカムの温かな人柄に触れつつ、「今回はグランシップ『こどものくに』連携事業のフレームの中で、本作を上演することになりました。『こどものくに』にいらっしゃる方々は劇場にあまりなじみがない方も多いかもしれませんが、親子で自分が知っているものではなく、よく知らないもの一緒に観ていただくことで、その体験が身体の中に宝物として残って、『こどものくに』の体験の中の、ダイヤモンドのように輝いてくれたらいいなと思っています」と紹介した。

「白狐伝」ビジュアル

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また「ふじのくに野外芸術フェスタ 2024 静岡」では、岡倉天心「THE WHITE FOX」を宮城の台本・演出で立ち上げるSPAC新作「白狐伝」が披露される。宮城は「岡倉天心のことは実はあまり知らなかったんです」と切り出し、「日本の美術の正統性を確立した人物という感じで、横山大観と並んでメインストリームの人物というイメージを持っていました。ただ興味を持って調べてみたら、全然ど真ん中の人ではなかったんですね。そんな“弾き出された人”である天心が、アメリカで英語で『茶の本』を書き、日本文化の紹介者として認知されるようになった。そしてそんな彼が、死ぬ半年前に書いたのがこの『THE WHITE FOX』という戯曲でした。本作には天心の近代化に対する絶望がこれでもかと描かれていますが、でも本当に失望をしていたらあのような作品は描かないんじゃないかと。死後の世界の人に、手渡すような希望が描かれています」とその魅力を語った。

続けて、「ストレンジシード静岡 2024」の紹介も行われた。プログラムディレクターのウォーリー木下はビデオメッセージを寄せ、「今年のテーマは『なんだ?なんだ?なんだ?』です。ストリートシアターは、ただ劇場でやっている作品を野外で観るというだけでなく、外だからこその表現がたくさんあります。ぜひ新しい表現に触れてみてください」とメッセージを送る。また「ストレンジシード静岡」がスタートして9年目になることについて「静岡の皆さんにはだいぶ知れ渡っていて、県外各地からもお客さんがたくさん来てくれるようになりました。応募プログラムにも例年以上の申込があり、しかもただの演劇やダンスにとどまらない作品が多数集まりました。皆さんにとって『ストレンジシード静岡』が1つの実験の場として捉えていただけているようになったのではないかと思います」と笑顔を見せた。

「ふじのくに→せかい演劇祭2024」プレス発表会より、左から宮城聰、三浦直之。(撮影:牧田奈津美 / F4.5 )

「ふじのくに→せかい演劇祭2024」プレス発表会より、左から宮城聰、三浦直之。(撮影:牧田奈津美 / F4.5 )[拡大]

また「ストレンジシード静岡 2024」コアプログラムでオムニバス・ストーリーズ・プロジェクト「パレードとレモネード」を手がける三浦直之も登場。三浦は「(出演者募集には)本当にたくさんの方が応募してくださって、年齢も住んでいる場所もバラバラな方が集まりました。そんな中で生まれてくる関係性を作品にしていきたいと思いますし、本当にすごく短い瞬間が積み重ねられていく作品なので、作品を見終わったあとで、単なる町の景色や人を見るときの解像度が上がるようになったら良いなと思っています」と意気込みをのぞかせた。

「ふじのくに→せかい演劇祭2024」プレス発表会の様子。(撮影:牧田奈津美 / F4.5 )

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記者から「改めて今年の演劇祭のテーマは?」と問われると、宮城は「テーマという言い方に合うかわかりませんが……オスターマイアーさんや僕のような、自分の今までの仕事を省みるような作品と、これから演劇を新しくしていく人たちの作品が並び、世代のバトンが手渡されていくような印象に目を向けていただけると良いかなと。演劇は形が残らないので、どのように“継承”が行われているかわかりにくいところがありますが、心の中でバトンが受け渡されていくことを感じていただけるのではないかと思います。もう1つは、その場で楽しかったと消費されるようなものではなく、20年後まで自分の身体に残っていくものを集めたいという感覚が僕にはありまして。舞台芸術をやっている者として、自分の栄養になったり、20年後に『あれを観ておいてよかったな』と思えるような体験を、『せかい演劇祭』のような場では提供したいと思っています」と意気込みを述べた。

チケット一般前売りは3月23日10:00にスタートする。

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ふじのくに→せかい演劇祭2024

2024年4月27日(土)~2024年5月6日(月)
静岡県 静岡芸術劇場、舞台芸術公園、駿府城公園 ほか

※「ふじのくに→せかい演劇祭」の「→」は相互矢印が正式表記。

友達

2024年4月27日(土)~2024年4月28日(日)
静岡県 舞台芸術公園 野外劇場「有度」

スタッフ

作:安部公房
演出:中島諒人

出演

阿部一徳 / 大道無門優也 / たきいみき / 武石守正 / 三島景太 / 中川玲奈 / 高橋等 / 小菅紘史 / 安田茉耶 / 後藤詩織

※英語のポータブル字幕機貸出サービスあり。

楢山節考

2024年4月27日(土)~2024年4月29日(月)
静岡県 舞台芸術公園 屋内ホール「楕円堂」

スタッフ

原作:深沢七郎
上演台本・演出:瀬戸山美咲

出演

森尾舞 / 西尾友樹 / 浜野まどか
音楽・演奏:五十嵐あさか

※英語のポータブル字幕機貸出サービスあり。

間食付きツアーパフォーマンス「かちかち山の台所」

2024年4月27日(土)~2024年4月29日(月)
静岡県 舞台芸術公園 ほか

スタッフ

演出:石神夏希

出演

石井萠水 / 大内智美 / 小長谷勝彦 / 山崎皓司 / 吉見亮

かもめ

2024年5月3日(金)~2024年5月6日(月)
静岡県 静岡芸術劇場

スタッフ

作:アントン・チェーホフ
演出:トーマス・オスターマイアー

出演

トーマス・バーディンク / イルクヌル・バハドゥル / ステファニー・アイトラウレンツ・ラウフェンベルク / ヨアヒム・マイヤーホフ / ダーヴィト・ルーラント / レナート・シュッフ / ヴィンバイ・シュトレーラー / エヴァン・テキン / アクセル・ヴァントケ

マミ・ワタと大きな瓢箪

2024年5月5日(日)
静岡県 グランシップ 交流ホール

スタッフ

演出・振付・出演:メルラン・ニヤカム
製作:ラ・カルバス・カンパニー

ふじのくに野外芸術フェスタ2024 静岡 SPAC「白狐伝」

2024年5月3日(金)~2024年5月6日(月)
静岡県 駿府城公園 紅葉山庭園前広場 特設会場

スタッフ

演出・台本:宮城聰
音楽:棚川寛子

出演

美加理 / 葉山陽代 / 池田真紀子 / 内山怜菜 / 大内米治 / 大高浩一 / 加藤幸夫 / 河村若菜 / 貴島豪 / 榊原有美 / 桜内結う / 鈴木真理子 / 舘野百代 / 寺内亜矢子 / 藤見花 / 布施安寿香 / 本多麻紀 / 森山冬子 / 吉植荘一郎 / 若菜大輔 / 渡辺敬彦

ストレンジシード静岡2024

2024年5月4日(土)~2024年5月6日(月)
静岡県 駿府城公園、⻘葉シンボルロード、 静岡市役所・葵区役所など静岡市内

ストレンジシード静岡2024 / コアプログラム オムニバス・ストーリーズ・プロジェクト「パレードとレモネード」

2024年5月4日(土)~2024年5月6日(月)
静岡県 青葉シンボルロード B3

スタッフ

テキスト・演出:三浦直之

ストレンジシード静岡2024 / コアプログラム「The Road to Heaven」

2024年5月4日(土)~2024年5月6日(月)
静岡県 静岡県庁本館前から二の丸広場への移動型パフォーマンス

スタッフ

製作:ボン エン ジュール

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読者の反応

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瀬戸山美咲 @minamoza

私は残念ながら参加できませんでしたが、「ふじのくに⇄せかい演劇祭2024」のプレス発表会がありました!宮城總さんによる『楢山節考』へのコメントも。SPACの『白狐伝』、トーマス・オスターマイアーの『かもめ』など気になる演目がたくさん。『楢山節考』は4月27日から29日まで楕円堂で上演します。 https://t.co/41P1jD2eXF

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