「SHIZUOKAせかい演劇祭2025」「ふじのくに野外芸術フェスタ2025」「
既報の通り、これまで「ふじのくに⇄せかい演劇祭」の名称でゴールデンウィークに開催されてきた演劇祭は、2025年から「SHIZUOKAせかい演劇祭」に改称される。
「SHIZUOKAせかい演劇祭2025」開催に向けて宮城は「昨年の『ふじのくに⇄せかい演劇祭』では、『日本人が20年後のことをもうちょっと考えるようになったほうが良いのではないか』という思いから、“20年後にも身体に残っているような作品はどんなものか”という観点で演劇祭を考えました。というのも、今日本が抱えている“子供の人口が増えない”という問題は、自分自身がこの先もっと良くなっていく、更新されていくという期待を持たない人が増えていることに関係しているのではないか、今の自分を維持することにきゅうきゅうとしてしまっているのではないか、そのため排外的な空気になっているのではないかと感じたからです。ただこれは日本だけの問題ではなく、世界的にも共通していることだと言え、どうして人が未来に希望が持てないかというと、それは自分の仕事を奪われるのではないかという不安があるからではないか。その対象は国や状況によって異なりますが、例えば外国人労働者に、AIに、子供に……という風に、今自分が持っているものを誰かに奪われるのではないかという恐怖があるのではないでしょうか」と話す。
「しかしそういった問題の突破口として、僕は演劇が役立つ気がしていて。感動……というと泣いたり笑ったりということに感じるかもしれませんが、のどに引っかかった小骨のように20年後もインパクトが残るような作品に出会うこと、『面白かった』と単に消費されるのではなく身体の中に消費されず残っているようなものが、人の栄養になることもある、と僕は考えます。そんな演劇の効能を、どうしたら今劇場に来ていない人にも広げることができるのか? そのためにも、劇場の中だけでなく社会のいろいろなチャンネルに演劇の効能が染み出していくようなやり方を考えたい、その点で演劇祭は有効ではないかと思います」と語った。
「SHIZUOKAせかい演劇祭2025」では、ポルトガル出身のティアゴ・ロドリゲス作・演出「
赤十字国際委員会や国境なき医師団のメンバーらとの対話をもとに創作された「〈不可能〉の限りで」について、宮城は「ティアゴさんの作品が日本で上演されるのは初めてです。この作品は、紛争地域で医師団が医療活動を行う際にぶつかる、さまざまな“綺麗ごとではない困難”を描いた作品で、『演劇で表現すること自体が不可能ではないか』と思えるような領域に踏み込んだ作品です」と紹介した。
「ラクリマ、涙 ~オートクチュールの燦めき~」は、英国王妃のウェディングドレス製作を任された、パリの名門メゾン・ベリアナのアトリエ主任マリオンを軸とした物語。宮城は「カロリーヌの作品にはたいてい、アマチュアの俳優たちが数人出演しています。映画であれば、1回の演技なのでアマチュアの俳優が活躍するということはよくあるんですけれども、カロリーヌの演劇ではアマチュアの俳優たちが何度上演を重ねても“演技ではない演技”をしており、そのことが一種のドキュメンタリー性を生み出しています。また戯曲のドラマ性、フィクションの力を活用することによって、ドキュメンタリー性がさらに高められるのも特徴的です。最先端の演劇をぜひご覧いただきたいと思います」と話した。
昨年に続いての上演となるメルラン・ニヤカムのソロ「マミ・ワタと大きな瓢箪」、小島がエドヴァルド・ムンクの「叫び」からインスピレーションを得たソロ「叫び」については、「僕自身、人間として深く敬愛する方をお招きし、踊っていただく、そういう2本です」と紹介。「ニヤカムさんはカメルーン出身で、経済的にはさほど恵まれていない環境で育ちますが、踊りの才を見いだされ、現在はパリを拠点にダンサー・振付家として活躍しています。と、それだけ聞くと、ある種のサクセスストーリーに思えるんだけれども、実は彼の踊りの魅力は、彼の孤独にあるのではないかと僕は思っています。世界への渇きが内包された踊り……だから彼の踊りを観ると僕は、人間というものへの信頼が呼び起こされるというか、『人間、捨てたものではない』という気持ちになるのだと思います」とその魅力を語る。
一方の小島については、「小島さんの最近の公演チラシに書かれていたことなんですけれども、『今世界のことを考えるとおちおち寝ていられない』と。今の世界をどうしたらいいのか、今自分に何ができるのかを四六時中考えてしまう、とそこには書かれていました。その中で、小島さんは踊るということ、フラメンコに改めて希望を見出されたわけですが、僕自身、小島さんの踊りを観ると舞台芸術を信じられるような気持ちになります。本作では、世界が発信している叫びが、小島さんの中の空洞にこだまする……そういった踊りになるのではないかと思います」と期待を語った。
「ラーマーヤナ物語」は、「マハーバーラタ」と並ぶインドの古代叙事詩で、さらわれたシーター姫を奪還すべく、王子ラーマが10の顔を持つ魔王ラーヴァナに挑む冒険譚。本作について宮城は、冒頭で語った“自分の成長に期待を持たない人”が増えているのではないか、という点に再び言及しつつ、「自分が成長し、変わっていく感覚を人がなかなか持てなくなっていることの要因の1つに、集団や組織に対して期待ができなくなっていることが関係しているのではないでしょうか。集団や組織が自分を育ててくれる感覚がないから、それぞれ自己投資することで、自身の能力やバリュー、つまり商品価値を上げることに終始している。でももう一度集団に対する期待が持てるようになれれば良いなと思い、今、『ラーマーヤナ物語』の稽古を進めています」と話した。なお今回の上演では、客席とアクティングエリアを明瞭に分けるのではなく、駿府城公園に集まった観客の中に、俳優が突如乗り込んでくるような演出を考えていると話した。
このほか、「広場トーク」「PLAY! de お茶摘み体験&ストーリー・テリング・ウォーク in舞台芸術公園」「フェスティバルcafe & bar」「ガストロノミ―広場」「<PLAY!PLAY!PLAY!ガーデン>企画 グリーンスローモビリティ体験」といった関連企画も発表された。また「SHIZUOKAせかい演劇祭2025」「ふじのくに野外芸術フェスタ2025」「ストレンジシード静岡2025」の開催期間であるゴールデンウィークを「PLAY!ウィーク」と称し、「PLAY!」を合言葉に静岡を盛り上げていく構想が語られた。
会見後半は、「ストレンジシード静岡2025」の発表も行われた。今年10周年を迎える「ストレンジシード静岡」では、「なんだ?なんだ?なんだ?」をテーマに、静岡のまちから世界へ10の“なんだ?”を発信する。フェスティバルディレクターの
続けて「ストレンジシード静岡2025」コアプログラムに参加する、中間と大熊があいさつ。駿府城公園 駿府城跡天守台発掘調査現場にて「グルーヴィ・グレイヴ」を発表する中間は「本作は、私たちの身体が最期を迎える空間に対する理想を、形にするダンスです。『身体がどのように扱われるべきか』という問いに対して、今貂子さん、山田航大さんと共に、駿府城跡天守台発掘調査現場という場所のインスピレーションも得ながら創作を行っていきます」と話した。なお本作では現在、ダンスアンサンブルを募集中だ。
一方の大熊は“没入型オールスタンディング演劇”「末待奉祭(まつまつたてまつりまつり)」を披露する予定。大熊は「今回のテーマはお祭りです。観に来てくださった方が作品に参加していただくのも良いですし、この作品に関わったことで皆さんが幸せな気持ちになってもらえるような、そんな作品にしたいと思っています。また祭りには娯楽的な側面もありますが儀式的な側面もあって、儀式には『なんだ?』が詰まっています。そんな、娯楽性と儀式の面白さが組み合わさった、誰もがハッピーになれるような作品を作りたいと思っています」と構想を語った。
なおオフィシャルプログラムには鈴木ユキオプロジェクト、Co.SCOoPP、ゼロコ、オープンコールプログラムにはジャグリング・ユニット・フラトレス、LINDA×金光佑実×naraka、
「SHIZUOKAせかい演劇祭2025」「ふじのくに野外芸術フェスタ2025」のチケット一般前売りは3月22日10:00にスタート。「ストレンジシード静岡2025」は観覧無料(一部予約制・有料の場合あり)。詳細は今後の発表を待とう。
〈不可能〉の限りで
2025年4月26日(土)〜29日(火・祝)
静岡県 静岡芸術劇場
スタッフ
作・演出:ティアゴ・ロドリゲス
ラクリマ、涙 ~オートクチュールの燦めき~
2025年5月4日(日・祝)〜6日(火・振休)
静岡県 静岡芸術劇場
スタッフ
作・演出:カロリーヌ・ギエラ・グェン
マミ・ワタと大きな瓢箪
2025年4月26日(土)・27日(日)
静岡県 舞台芸術公園 野外劇場「有度」
スタッフ
演出・振付:メルラン・ニヤカム
出演
メルラン・ニヤカム
叫び
2025年5月2日(金)
静岡県 グランシップ 中ホール・大地
スタッフ
作・構成・演出:小島章司
出演
小島章司
SPAC「ラーマーヤナ物語」
2025年4月29日(火・祝)〜5月6日(火・振休)
静岡県 駿府城公園 紅葉山庭園前広場 特設会場
スタッフ
原作:ヴァールミーキ
構成・演出:
ストレンジシード静岡2025
2025年5月3日(土・祝)~5日(月・祝)
静岡県 駿府城公園、青葉シンボルロード、静岡市役所・葵区役所など静岡市内
ステージナタリー @stage_natalie
【会見レポート】「SHIZUOKAせかい演劇祭」開催に向け、宮城聰「演劇の効能が社会に染み出すきっかけに」
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