「スリーウインターズ」は、クロアチア出身の劇作家であるテーナ・シュティヴィチッチの作品。物語は1945年、1990年、2011年の3度の冬を行き来しながら展開し、クロアチアの首都・ザグレブに建つ蔦の絡まる屋敷を舞台に、時代の波に翻弄されながらも強く生きる女性たちの人間ドラマが描かれる。演出を
松本は本作について、「多くの矛盾を抱えながらも、自分の生きざまに責任を持つ努力を最大限にして、愛する者を守るために葛藤する人間の姿は、如何に生きるべきなのかという永遠のテーマを私たちに考えさせてくれます」とコメントし、「今の日本にこそ、三つの時代の家庭という小さな社会の歴史を見つめて、歴史が現代に何を及ぼしているのかを問いかけるこの作品が必要なのだと思っています」と思いを語っている。
松本祐子コメント
出会いはニューヨークの本屋さんでした。表紙にひかれて購入したこの「スリーウインターズ」を読んで、このような作品がやりたかったんだと強く思いました。女性の目線で世界の在り様を見つめることで現代社会の問題を照射していて、しかしながら決して観念的ではなく、それぞれの時代の女たちが生活感をたっぷり醸し出しながら、それでいて社会の大きなうねりに何とか対抗しようともがきながら生きている姿が生き生きと描かれていて大きな共感を得ました。現代の経済至上主義やナショナリズムへの警鐘もなされていて、その問題意識はクロアチアだけではなくヨーロッパ、アメリカ、日本も変わらないと感じました。
20世紀から21世紀にかけて女性の生き様は大きく変わりました。女には教育など不要と言われた時代から、教育こそが大切と認識された時代を経て、経済至上主義の考えが蔓延る現代において、女性の幸せはいったい何なのか? 個人の幸せを願うことと家庭の幸せを願うことと社会的な正義は両立するのか? 他人よりいい生活をしたいという単純な欲望は時に他者に対する激しい嫉妬を呼び起こします。愛する者を守りたいという欲望は時として他者を排除するという結果を招いてしまうこともあります。
ひとつの家庭の三つの時代の物語はホームドラマでありながらも、ひとつの国家の物語でもあり、地球というひとつの星の物語でもあります。多くの矛盾を抱えながらも、自分の生きざまに責任を持つ努力を最大限にして、愛する者を守るために葛藤する人間の姿は、如何に生きるべきなのかという永遠のテーマを私たちに考えさせてくれます。
歴史修正主義者があったことをなかったことにしようとしている今の日本にこそ、三つの時代の家庭という小さな社会の歴史を見つめて、歴史が現代に何を及ぼしているのかを問いかけるこの作品が必要なのだと思っています。
文学座9月アトリエの会「スリーウインターズ」
2019年9月3日(火)~15日(日)
東京都 文学座アトリエ
作:テーナ・シュティヴィチッチ
訳:常田景子
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