このライブは「はつかいち音楽祭 嚴島神社奉納コンサート」という副題のとおり、世界文化遺産に登録されている嚴島神社の高舞台にて実施。当日は降雨も懸念されていたが、“晴れ男”の異名を持つ民生らしく、天候は晴れとなりライブも無事に行われた。
開演時間が近づくと、弱い風が辺りを吹き抜ける中、照明が海に面した高舞台を照らし出し、神秘的な空気を後押しする。観客も、いつもの民生のライブとは異なり、息をひそめ席で静かに座っている。そして潮位が満潮を過ぎ、高舞台の下から水が徐々に引き始めた頃に、本殿の東廻廊から民生が登場。本殿に二礼二拍一礼を捧げると、拝殿、祓殿をまっすぐ歩いて高舞台に姿を現した。
高舞台を囲む左右および前方の平舞台に設置された客席をぐるりと見渡して、やわらかい笑顔を浮かべる民生。観客から自然と拍手が沸き起こるのを聴きながら、舞台中央に準備された椅子に座りアコースティックギターを抱えた。そのまま何も言わずに、キュンとギターの弦を鳴らし、軽くチューニングを確認する。そして1曲目として「HIROSHIMA」(井上陽水奥田民生)を歌い始めた。さらに、正面の海を見やりながら「トリッパー」を力強く歌う。
歌い終わったあとで「ありがとうございます!」と初めて言葉を発する。ステージ左右に顔を向けながら「ようこそお越しいただきました」と歓待の言葉を告げつつも、「なぜかこういうことになってしまって、非常になんていうか、申し訳ない気持ちっていうか、どうしたらよいかわからなくなる」と神妙な面持ちで吐露。「今日は神様の前なので、めったなことはできません(笑)」と少し笑いを浮かべ、「ただ、雨は降らなかったですね。……そういうふうになってるんです」と口にして、次の曲へと観客を誘った。
ピリッとした空気をまとい、「愛のボート」を歌ったあとに、「……静か、ですね」と語った民生。客席の設置された平舞台のロケーションをネタに、「ちょっと怖いんじゃないですか? (海に)落ちそうで。いつもはこうして(ふんぞり返ったポーズ)るのに、妙に姿勢が良くて」と観客をおちょくるも、「その君たちの姿勢が、俺を緊張させるんだよ(笑)」と、やはりほかのライブよりも緊張していることを告白した。ここでオーディエンスからどっと笑いが起こり、会場の空気は若干和やかなムードに。それに後押しされるように、民生はギターのアルペジオのイントロから「人間」を力強く披露した。
続いて「今年はユニコーンというコミックバンドのツアーをやっていて(笑)、その直後に嚴島神社で演らせてもらえることになって心の準備がいまいち……コミカルなまんまなんですけど」と照れたような口調でMCをする。「(2004年には)今ではバックスクリーンもなくなってしまった広島市民球場で演らせていただいて、あのときは30代だったんですよね。それで、また広島で、しかもこんなところで演らせていただくことに……すみません本当に!」と恐縮しつつも、「この弾き語りスタイルは、カバーとかもやってるんですけど、今日は厳選したカバーをお送りします」と口にし、観客の期待を煽った。
そして演奏されたのはTHE YELLOW MONKEYの「バラ色の日々」。さらに「広島の大先輩の曲を」という前振りからハープを持ち出し、吉田拓郎「今日までそして明日から」、Perfume「レーザービーム」を立て続けに披露。意外な選曲の「レーザービーム」では、民生が渋いボーカルと胸を突くハープソロを決め、誰もが驚く展開となった。
ざわめく客席を目にして民生は満足げに「ありがとう! これで俺終わったようなもんだから! これさえ乗り切れば(笑)」とホッとしたような笑顔を浮かべる。さらに「このあいだ大阪で弾き語りしたんだけど(10月11日に急遽行われた「ひとりOTODAMA ~清水音泉救済公演~」のこと)、これは演らずにとっといたんだよ」とうれしそうに告白。「神様も祝福してはるよ」と会心の出来だったことを伺わせるコメントを口にしていた。
「この弾き語りっつーのは、そのときそのときでなんとなくやりたい自分の曲をやるんですけど、常に『やりたい』って曲があって。それは盛り上がる曲ってわけじゃないんだけど、個人的には結構好きな曲で」というMCに続き奏でられたのは「家に帰れば」。さらに「The STANDARD」を艶っぽい声で朗々と歌い、客席を圧倒する。
ここで民生は「弾き語りのときにはいつも休憩を入れてるんですけど、だいじょうぶですか? 今日はみんながトイレに行くときに(海に)落ちるんじゃないかと心配で(笑)」と話し、張りつめた会場の空気を和らげる。また、「僕、(作務衣の)中にヒートテック着てて。(作務衣を)新調したんですよ。そしたら昔のより素材が良くて。メッシュ的な。それで逆に寒い(笑)」と意外な事実を告白しつつ、さらなるカバー「歌うたいのバラッド」(斉藤和義)を演奏。「短いから 聞いておくれ 『愛してる』」という熱のこもった歌詞が、民生の力強い歌声で客席に染み渡っていった。
後半戦は、「ふふふっ」という民生の含み笑いから、「野ばら」の演奏でスタート。そして「コミックバンドの曲を」「多分みんなが期待してる曲じゃないけど、僕、結構好きなんですよ」というコメントから、ユニコーンの「あやかりたい'65」を、「わりと新しい曲を演ってないな」というコメントから、最新アルバム収録の「ひとりカンタビレのテーマ」をゆったりと演奏する。
さらに、「これは一応練習(笑)」とギターをつま弾く振りを見せつつ、「MANY」とユニコーンの「すばらしい日々」を披露する。民生の圧倒的な声量と表現力にすっかり魅了された観客は、ただ惜しみない拍手を贈るばかり。
「……風も止んできましたね、いい感じですね」とぽつりとつぶやき、民生が演奏し始めたのは「CUSTOM」。バースの力強さも感じられるささやきからサビの叫びにも近い歌声、さらにアウトロで鳴らされたギターの長いカッティングまで、すべてに情熱を感じられるプレイで、嚴島神社に集まった人々を圧倒する。
最後に、観客に向け「このたびはこういう特殊な状況に付き合っていただきありがとうございます。なかなか経験できないことなのでよかったです」「(旧広島市民)球場と、この宮島でやれたら、もういいね!」と満足そうに笑顔を見せ、「寒い中ありがとうございます、ありがとうございます」と、この場に集まった人たちに、そして全国の映画館でライブの模様を見届けたファンに何度も感謝を述べた。
そして民生が本編最後の曲として選んだのは、名曲「さすらい」だ。眼前に広がる深い闇に叩きつけるように、強く太い声でまっすぐに歌う民生。またアウトロでは、ひときわ大きな声で「ありがとーーーーう!!!」と叫び、この特別なライブへの、そしてスタッフやファンへの感謝の気持ちを伝えていた。
鳴り止まないアンコールの拍手に答え、民生は再び高舞台へと姿を見せる。若干はにかみながら「ありがとうございます」と応え、風も凪いだ海を眺めやる。「多分、降りますねこのあと」と茶化しつつも、「いやホントありがとうございました!」と感極まっている様子。「何を演ればいいですかね」と話したのを機に、観客からさまざまなリクエストが飛び交うも、「皆さんに歌ってもらえる(曲)ってことで」と、ラストの曲に「イージュー☆ライダー」をセレクトした。
民生がアコースティックギターをかき鳴らすのを機に、客席のあちこちから歌声が響く。「僕らの自由を 僕らの青春を 大げさに言うのならば きっとそういう事なんだろう」と歌うユニゾンの声が夜の海にこだまし、民生が「広島ー!!」と叫ぶ。そんな限りなくピースフルな空気の中、2時間の嚴島神社奉納ライブは幕を下ろした。
はつかいち音楽祭 嚴島神社奉納コンサート 奥田民生ひとり股旅スペシャル@嚴島神社
2011年10月22日@広島・嚴島神社
01. HIROSHIMA(オリジナル:井上陽水奥田民生)
02. トリッパー
03. 愛のボート
04. 人間
05. バラ色の日々(オリジナル:THE YELLOW MONKEY)
06. 今日までそして明日から(オリジナル:吉田拓郎)
07. レーザービーム(オリジナル:Perfume)
08. 家に帰れば
09. The STANDARD
10. 歌うたいのバラッド(オリジナル:斉藤和義)
11. 野ばら
12. あやかりたい'65(オリジナル:ユニコーン)
13. ひとりカンタビレのテーマ
14. MANY
15. すばらしい日々(オリジナル:ユニコーン)
16. CUSTOM
17. さすらい
<ENCORE>
18. イージュー☆ライダー
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- 人と神々が共に生きる島~宮島 嚴島神社
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真綾厳島神社ライブも、民生さんみたいにこんな感じかね。
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